第3話自己紹介

「……俺はたかや。法儀族でメイン:守護戦士のサブ:アンデッドハンター。メイン装備は不死殺しのバスタードソードに毒回避のカイトシールド……。」

「課金してるのに装備が弱いな。」

「……ヘルプ専門で考えていたからな。それほどいい装備は持ってない。」

そう言いながらも、たかやはやや説明を続ける。

「ちなみにこれに入っている施療神官の『ひーらー』サブ職業は<鍛冶屋>。」

たかやはそう言いながら『支援者召喚の指輪』を周りに見せる。

「お前、ネーミングセンスねえな。」

「ちなみに装備は、太陽の盾に聖者のマント……。」

「お前より装備が良いじゃねえか!!」

「こちらは色々と装備を変えていくスタイルだからな……。それに財布が色々ときついんだよ。二人分秘宝級で揃えると。」

「だったら自分の分だけ集めとけよ!」

「こいつは簡単に落ちるんだよ! NPCだし、頭そんなに良くないから!!」

ツッコミを返しつつもたかやは説明を続けていく。

「次は私かな?」

説明が終わった貴也に続けて杖を持った男が説明する。

「おなじく法儀族の『とんすとん店主』だ。付与術師で料理人。」

「なんだってこんな変なクエストに?」

「金が無い。だいたい料理もできない料理人に何の価値がある?」

ややぶっきらぼうにそう言うと、ため息をはく。

「コマンドでつくりゃなんだってできるだろ?」

「誰でもコマンドでポンポンとできることにどれだけの価値がある?

 この世界に存在しない物は作れない。コマンド以外で作れば全ては破壊される。そんな場所で働くにはこういう仕事しかないのさ。」

「次は俺か。エルフの妖術師の『えんたー☆ていなー』。サブは<アスリート>

 戦闘は期待しないでくれ。ネタビルドだ。」

「人間の武闘家、『ドラゴンナックル』! サブを<裁縫師>にしてる。装備は<神速のブーツ>に<火炎の小手>! たかやとはリアルでも幼稚園の時から知り合い。」

「へー。幼馴染って奴ですか。」

その説明を聞きながらえんたー☆ていなーが茶化す。

「最後は僕ですね。狐尾族の<メディスンマン>で<薬剤師>の<ウェルカム>と言います。」

「<メディスンマン>?」

「世界基準のメイン職業です。日本だと神祇官が代わりに入っていますからその大元と思ってください。」

「しかし何でまたそんな職業に?」

「世界を回る時、独自職業よりも汎用職業の方が便利かなって思ったんです!!

 笑わないで下さいよ。まさか素材アイテムとコマンド1つで修理できるって思わなかったんですから。」

ウェルカムがそう言って苦笑する。

「海外サーバじゃ神祇官の装備手に入らないんじゃしょうがないよな。」

「ハワイのイズモ大社だと手に入るんだけどな。」

えんたー☆ていなーの言葉にたかやがフォローを入れる。

「入るの!!??」

「というかハワイの出雲大社ってありえねえだろう!(作者注:あります)」

ツッコミを無視しつつ、たかやは会話を続ける。

「あの辺りは日本サーバの武器も手に入るぞ。まあ刀は暗殺者も装備できるし、札とかもあそこで売っているからな……。」

「話を戻していいか? 今回の依頼の件についてだ。」

やや脱線し始めている状況をとんすとん店主が納める。

「……馬車や食料、あと金属関係や植物関連も色々と盗まれているらしい。」

「犯人の顔は誰も見ていない。犯行は全て小さい建物か部屋の中で行われている……。」

「……時間的には十分から十五分か……盗まれたものはすぐに売られていると思われるか……。」

「でもさ、そんな盗品って簡単に売れるの? なんか変なタグとかがつきそうだけど。」

「NPCはそんな事は気にしないだろうからさ。それか小分けにして売っているかだ。」

ドラゴンナックルの問いにたかやが正直に答える。

「……NPCか。」

たかやの言葉にとんすとん店主が答える。

「どうしましたか?」

「何でもないさ。きっと私の勘違いだ。」

「トリック的には一つ考えられるんですけどね………。」

「なんだ?」

「それだったらNPCが依頼してくることは無い……と思いたいんですけどどうでしょう?

 黒の頭の件もありますし、設定的にやってくる可能性もなくなないです……ってところの意見なんですが……。

 どうやって盗んだと判定する? クエストとかで渡されたものとの区別はどうやってつける……。」

たかやはそう言いながら考え始めた。

「とりあえず、思いついたトリックを聞こうじゃないか。」


アキバの一角

「これだけミカンがあればしばらくは十分しのげるな。」

「ふん、ああ、そりゃそうだ。NPCからいくら盗んでも衛兵からのおとがめは無い。こんなにぼろい仕事は無いよ。」

そういってそのメンバーたちはぎゃははと下品に笑う。

「………そうだな。気がついても阻止する手段なんてない。」

その女達のうちの一人が急に手を耳に当てる。

「そうかいそうかい、ミナミの方も上手くいってるのかい。そりゃ良かった。

 あ? 何? 邪魔しようとしてる女がいる? バッカだなぁ……衛兵も見逃すこの仕事に対抗する手段なんてあるわけないじゃん。」

そこで一回口を閉じる。

「そいつが邪魔して来たらぶっ飛ばせよ。 え? なんかキョウの方に行っちゃった?

 なんかアイテムのあてでもあるのかしらね。まあ良いや。それでとりあえずその女の名前は?

 濡羽?」

そう言いながらその女は下品に笑いあげた。どうせ世界は自分達の物になると判断して。


アキバ……銀行。

レベル90の冒険者達がいきかい、しっかりとして制服を着た職員達が働いているその中で深くフードを被った男がいた。

魔法が使えそうにもない肉体的にもそれほど発達していないその中年の男としか言いようがない人間だ。

その男は職員の一人に近づくと声をかける。

「……ミズハラ=リョウマの使いの物だ。」

その男は鏡を職員へと渡す。

「……確かに受け取りました。」

そう言いながら職員は鏡を奥の方へと持っていく。


銀行の奥

ある男が持ってきた鏡を受け取ると近くに置いてあった紙を見ながら鏡のふちをなぞる。

『仕事中すまない。いやここは初めましてというべきかな? 私がミズハラ=リョウマだ。』

鏡から1人の男の姿が浮かび上がる。

『遠見の鏡』1対のアイテムで片方を操作するともう片方の鏡に姿が映るというマジックアイテムだ。

何故か冒険者は持っていないが、大地人の中ではポピュラーな連絡装置の一つだ。

「……そうですね。はじめまして。菫星と申します。

 何やらご子息が冒険者に依頼をされたようですが?」

『通常の依頼の延長だ。問題は無い。

 そちらは今のアキバにどれだけの問題が発生していると思っている?』

「24件。うち23件は我々が出るまでもなく終わった案件です。」

リョウマの質問に菫星は淡々と答える。

『残りの1件はセタ・ソウジロウの案件か?』

「はい。今年の5月ごろに<西風の旅団>のセタ・ソウジロウのアキバ内で攻撃スキルの使用を確認し、それに対処しました。

 現在では彼は大人しくしているようですが。」

菫星は淡々と続ける。

『正直に言おう。現在アキバ・ミナミ内で謎の盗賊が発生してる。私は息子を通じてこの件を冒険者に依頼をした。』

「アキバもミナミもナカスもススキノも大きな問題は起きていません。」

菫星は興味が無いように言葉を紡ぐ。

『……それは冒険者達が派手な問題を犯していないからだ。』

「それでした問題は無いはずです。」

『はっ? 先祖代々からの決め事って奴か?』

「はい。その方法で我々はこの街を守ります。」

『……つまり今、俺達が街中で盗みが横行している事実は無視するというわけか?』

「問題は起きていません。」

『…………わかった。後でどれだけの事が起きていたか、まとめて報告するつもりだ。

 その時、問題は起きていませんと言えば、俺はお前達を見捨てるぞ。』

その言葉と共に鏡に映っていた姿が消える。

「……彼は一体何を戦ってるんでしょう。」

不思議そうな顔で菫星は呟いた。

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