第2話 

 毎日の始まりは「放課後」からと言っても過言ではないかもしれない。


 学校での勉強は退屈なものでしかない。

 つまらない、つまらない&つまらない。


 教科書をなぞるだけの授業に、抑揚のない先生のお言葉。一部を覗いで誰も聞いてなんかいない。

 すごい奴は板書すらしない。ケータイで黒板を写メって終わり。

 後はまったりとケータイポチポチしたり、寝てみたりして無限に感じるこの45分を過ごす。

 黒板の内容だって教科書に書いてあることだし?ほんと学校って何しに行くところなんだろう?って思っていた。

 それは、今でも変わらない。

 自分的に考えると、おそらく学校は放課後を待つためにある場所なんだと思う。

ううん、訂正。学校は「反社会的でない未成年が己を反社会的ではない普通の一般人であると証明するために通うところ」なのだろうだ。

 とある天才少女がそう言うのだ。間違いではないのだろう。


「璃央子、ミチルとカナエとカラオケ行こうって話なんだけど来るー?」

 鞄を持ってさて帰ろう!って時に隣のクラスの杏奈から声が掛かった。


「あー?カラオケー??んーごめーん今日はちょっと予定アリなんだよねぇ~。」

「えー!?なんか先週もそんな事いってパスしたじゃん。最近付き合い悪いってー。何してるのさー。」

 おっと。危ない。変に詮索されるのは禁物、禁物。

「ちがうよー、杏奈のタイミングが悪いのー。来週なら遊べるからぁ~?そん時カラオケいこーよ。今週はちょっと予定入りまくりなんだよねぇ~。」

「なにさー。もしかして男―?男ならちゃんと紹介してくれなきゃオコなんだからね!」

「あはは、男じゃないよ~。つーか彼氏できたら報告するって約束したっしょー?だから違うからー。今週はちょっと家関係の事で忙しいのーそれだけー。あ~もう行かなきゃ、ごめんね?」

 家関係の事って…やばいな。来週までに何の用事でバタついてたか言い訳考えておこう。

「んー。わかったぁ。。じゃあ来週ねー!」

 むくれる杏奈をその場に残し、私は教室を後にした。


 人が溢れかえる某繁華街。

 大小様々な店から流れるBGM。道行く若い未成年に働き盛りの大人たち。

 そんな人々の群れとガヤガヤとした雑音にもまれながらひたすらに目的地へと急いで歩いた。突如大声で笑い出す女子高生、横目でそれを見る中高年。疲れた顔をしながら歩く仕事帰りのサラリーマン。人、人人。

 そんな雑多な場所を進むと現れるビルとビルに挟まれた何の変哲もない、古びた細長いビル。

 8階建てのそのビルは1階はエントランスで、如何わしい内容が楽しめるお店が2~5階に、6階はちょっぴりダークでハートフルな消費者金融で、7階はレトロで重苦しい雰囲気の入りにくいBAR。

 私はそのビルに躊躇なく足を進め、8階を目指しエレベーターに乗った。

 エレベーターは目的の階まではいかない。7階止まりとなっている。私は7階で降りると外付けの非常階段を上り8階まで行った。

 以前、なんでこの建物はエレベーターで最上階まで行けないんだと所有主に問い詰めたところ「いざって時に時間を稼ぐため」と言われた。


 いざって時ねぇ…そんな時が来ない事を願うのみだ。


 下から吹き上がる風で短いスカートをバタバタとはためかせながら、8階まで登るとパッと見では簡単に破壊できそうなシルバーフレームのプレハブ小屋についてそうな扉があり、そこには番号入力で開閉する電子ロックがノブの下についていた。この扉、一見強烈に蹴れば壊れそうな見た目ではあるが、防弾使用の強化扉であり、この電子ロックも中々破れない代物である。この扉も主いわく「いざって時の為」だそーだ。


 私は電子ロックの解除キーを打ち込み、部屋の中へと入っていく。

 8階は黒い箱が大量に規則正しく並び、ブーンと無機質な音を立てるだけの部屋。私の背丈よりもデカい黒い箱の正体はサーバーであり、このビルの所有者であり、防犯の鬼である人物のお仕事道具だ。この部屋では飲食禁止であり万が一そんな事をしようもんなら問答無用で日本海溝に裸で投機されることだろう。…恐ろしい限りだ。


 8階の縦長いサーバールームの右奥に屋上へと続くタラップがある。これを上り屋上へと出ると、プレハブ小屋…に見せかけた防弾ルームが建ててあり、その小屋の扉にも電子ロック…あぁメンドクサイ。それを解除して、ようやく目的地へとたどり着く。あぁ…ホント大変。


 薄暗い小屋の中は少しひんやりしている。これは大量にあるパソコンが熱を放つためエアコンをフル活用して室温を一定にしているためだ。この部屋はいつも23度に保たれている。

 パソコンやらその冷却機器やらで機械的な音にまみれるこの小屋の奥にある大きいベットに鎮座しているのがこの建物の主である少女と、その御付きの者1と2だ。


「遅い。10分と26秒遅刻だ。時間は厳守しろといつも言っているだろう?」

御付きの者…1号こと、雨音密が私へと牙をむく。

「って見てたっしょー?3組の杏奈に絡まれてたんだってー。しかたなくない?電車に1本乗り遅れたんだもんさー。」

「しょうがなくない!あんなもんふりほどいてこい。」

「えー。いつも通りに振る舞えって言ったのはひーちゃんじゃんさー」

「ひーちゃんって言うなっ!」


「まぁまぁ、それくらいにしてー?皆がそろった事ですしー?そろそろミーティング開始したいんだけどもいいかしらー?」

おっとりと疑問符をつけながら話すのは御付き2号の―蓮見椎花。


『そう、じゃれるのはそれくらいにしておいて、打ち合わせ始めるわよ』


鳴り響くのは機械音。デジタル音声。

このビルのオーナーであり私たちの主でもある――氷室アリス。


私達はアリスの僕。

私―遊佐璃央子はアリスが率いる少数組織ANCANNYのメンバー。

横文字使って、カッコつけてスカしてるけど、ざっくりいうところの――非合法集団である。

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