5 謁見

 娘は、迷ったような素振りを見せた。喋ろうかどうしようか思案しているようだった。

 娘はしばらく俯いていたが意を決したように顔を上げておれの眼を見つめた。おれが視線を逸らさないのを見てから、口を開いた。

「これは、お話するようなことではないのですけれども」

 口を閉ざした。相槌を入れてほしいように思えたのでおれは相槌を入れた。

「このようなお話は身内の恥になるのでお話ししたくはないのですが」

 口を閉ざした。おれは相槌を入れた。

「あなたさまがわたくしの事情を知ってどうするわけでもないのでしょうけど」

 口を閉ざした。おれは相槌を入れた。

「わたくしにとってもお話しすることで何らかの益になるわけではないと承知してはおりますが」

 口を閉ざした。おれは相槌を入れようとしたが、やめた。代わりにこう言った。

「お話しなさることで不利益になると思われるのなら、聞きますまい」

 娘は安堵の表情を浮べた。しゃべらないかと思っていたら、口を開いた。

「いえ、心を決めました。お話しいたしたく存じます」

 さっきからおれはこの娘の表情を読み違えているな。

 娘は滔々と話を始めた。

「あれはかれこれ三年ほど前のことになりましょうか、わたくしは両親と弟の四人で暮らしておったのでございます。わたくしどもの家は金物屋を営んでおりまして、ちいさな店ではございますが、日々の暮らしには困らぬくらいの稼ぎになっておりました。ただ、日々の暮らしに困らぬ以上の稼ぎにはならず、ええとつまり、平たい言葉でもうしますと、その日暮らしをしておったのです。あ、いえ、その日暮らしと言い切ってしまいますと、その日暮らしをしている方々からは文句が出るかもしれません。その日暮らしより少しはましな生活を送っておりました。わたくしや母は店を切り盛りし、父は金物の修繕をして暮らしておりました。小さな村のこと、お客さんは箍の外れた鎌や錆びた鉈を持ち込んで修繕を頼み、日用品でございますから食べていくのに必要なだけのお代金をちょうだいいたしていたのでございます。もちろん修繕だけでなく物品を商うこともございました。鍋や釜が売れましたら一家そろって大喜びでございました。お恥ずかしい話でございます。わたくしには弟がおりまして、弟がまだ幼いころはこのように何事もなく暮らしておりました。わたくしも読み書き算盤くらいは習わせてもらっておりましたので、帳簿をつけるのを手伝ったり、正札を確認したりしておりました。つまり、平穏無事に暮らしておったのでございます、あの事件が起きるまでは」


***


  娘は少し間をおいた。おれは目で続けるよう合図した。

「わたくしどもの住んでおりました村は、漁を生業にしているものが多くございました。海の近くでございまして、朝日が上る前に漁火を灯して船を漕ぎだし沖に出でて漁を行い、日の出とともに港に戻って参るのです。船頭夜歌という謡が残っておりまして、こんな歌でございます。草木は眠る、魚は眠らぬ、漁火灯せ、船漕ぎ出でて、魚の真魚、われらが歌と、沖に揚げれば、お気に召すまま、朝飯前の、ひと仕事、ほいさほいさ。わたくしは謡は吟じませんが、このような文句だったと記憶しております。漁師ばかりの村ですから、寺子屋なんてものはなく、お寺方に読み書きを習っておりました。村には商いをする家は数軒しかございませんでしたが、夏には行商人がやってきて干物や燻製や魚醤を買い上げてゆきました。村全体としては割と潤っておりましたように存じます。何やらわたくしどもの村では希少価値の高い魚が獲れるようでございました。わたくしどもの家としても、金盥や庖丁を買い付けたりもいたしました。時には鋼や黒鉄を買い付け、父が加工して店に出すこともございました。ですので、父は職人、母とわたくしは商人といったところでございましょう。村の中ではありがたいことに重宝していただいておりまして、なかなか忙しうさせていただいておりました。父もよく言っていたものでございました。銛を研いでくれっていう依頼はいいが、庖丁を研いでくれって依頼も来る。そりゃもちろんやらせてもらうが、米研いでくれ、やら、猫の爪研いでくれ、やら、どうすりゃええんかのう、と。いま思えばあれは父の冗談だったのでございましょうね、いくらなんでもお米の研ぎと金物は関係ございますまい。ましてや猫の爪など。たしかにヤスリは商っておりましたが。猫。猫で思い出しましたが、わたくしどもの村には猫が多うございました。魚が豊富だからでございましょうか。近隣の村からも集まって来るのでございます。と申しますのも、ある晩猫が集会を行っておったかと思うと、新しい猫が増えておるのでございます。猫の集会の頃合はちょうど漁師のかたがたが用意を始める少し前ですから、集会を目撃する村人もおるのでございますが、なんでも隣村から猫の集団が駆けつけてくるのを見たというものもございました。ごくたまに化け猫に取り憑かれるかわいそうな子、たいてい子どもなのです、猫憑きの子は、横島と呼ばれる島に連れていかれました。横島は、潮がひいておるときには陸続きなのですが、潮が満ちると島になる、半ば陸で半ば島のようなところでございまして、与孤島神社という小さな祠がございました」


***


「猫が憑いた子は与孤島神社にございます竜堂という御堂で猫憑きを落とす儀式を行ったのでございました。神社の祭事ではございますが、小さな村の小さな祠のことでございます。神主はおりませぬ。神仏衆合ですので仏門の方が祭事を執行しておりました。何名かの坊さまが錫杖や銅鑼を独特の調子でしゃんしゃんかきならしながら、経文と言うて良いのかどうか存じませぬが、決まり決まった文句を唱え、最後は列席した者皆で唱和するのでございます。列席者は多ければ多いほどよいとされ、わたくしもよく出させていただきました。竜堂に猫憑きの子を入れ、御堂の周りを列席者が取り囲み、お坊さまが経文を唱えます。経文はこのようなものでございました。少し前ならお見かけしたが、ちかごろとんとご無沙汰じゃ、お急ぎならば、他を当るがよいなよいな、御仁はこの子のなんなのさ。ここで列席のものが唱和するのです。港の横、横島、寄越すか。経文と唱和を延々、潮が満ちるまで繰り返すのでございます。そうそう、経文を唱える役のお坊さまは、代々、兎入道と呼ばれておりました。おそらくお役目の名でございましょう。どういう意味があるのかは存じませぬ。兎と猫の間に何やらいわくがあるのでしょうか。ともかく、半日の間ずっと独特の同じ調子で歌い続けますので、もう耳の奥に鳴り響いておりますれば、わたくしどもの村の出のものは生涯忘れることのできぬものでございます」

 娘は目をつぶり、遠い故郷に思いを馳せた。遠いかどうか知らぬが、近くては興醒めなので、遠いことにしておこう。おそらく娘の脳裡には港の横横島寄越すかの唱和が流れ続けており、おれが口を出すとリズムを崩す。語りの中で娘が少し抑揚をつけただけなのに、おれの脳裡にもこびりついて離れなくなった。本ものを半日以上間近で見ていたのみならず、一緒に唱和した者には、その影響は抜群であろう。港の横、横島、寄越すか。おれにも伝染ってしまったらしい。

 やがて娘は目を開け、もの語りを再開した。

「猫憑きになった子どもはこうして憑き物落としをするのですが、なぜか憑かれる子は幾たびか憑かれることが多く、憑かれない子は全く憑かれないのでございました。わたくしも、憑かれたこともあるそうでございます。憑かれた子は憑かれている間のことを薄ぼんやりとしか覚えていないことが多くてなかにはまったく覚えていない子もございます。猫が好きな子に憑きやすいとかそういったことはなく、あまり関係ないようでございますね。猫ぎらいは村の中におりませんでした。というのも、猫が嫌いだと暮らしてゆくのが難しいほど、猫がおりましたので。わたくしどもの村は人より猫が多いかもしれなかったのでございます、猫の集会の前後に限って申しますれば」


***


「猫は錨に通ずるので、船の守り神だったのかもしれません。そのようなお話を聞いた覚えがございます。思えば与孤島神社も猫を祀った末社がありました。村の山の手のほうでは、わずかですが、米を作っている家もあって、彼らも猫の祭には積極的でしたから、猫は苗にも通じていたのでしょうね。わたくしども商売人ももちろん猫をお祀りしておりました。猫は客を招きますから。つまり、村に住むものは例外なく猫を祀っておったのです。それほどまでに猫を祀っておりながら猫が憑くのはなぜでしょうか、わかりませぬが、わたくしどもの村では猫と並々ならぬ縁がございました。三月に一度、一歳に四度、ミャオミャオ祭という祭を村人総出で行いました。正式な名称はもっとものものしいなまえがあったように存じますが、村人たちはミャオミャオ祭りと呼んでおりました。季節ごとにございますので、春のミャオミャオ祭りとか冬のミャオミャオ祭りとかいうのでございます。村の長が、ああ、村長は網元なのでございますが、選りすぐりの船乗を三人集めて、日の出とともに海原に乗り出し、猫神様をお迎えして与孤島神社にお連れするのです。村長が祝詞を唱えて三日三晩のあいだ火の周りを踊るのです。夏の猫祭りでは夜を徹して踊り続けます。さすがに夜通し踊るのは夏だけでございます。縁日の出店、太鼓や鉦や笛の音、皆の歌声、酒くみかわし騒ぐもの、眠ろうとしても眠れたものではございません。とはいえ昼間はうとうとするのですけれども。そんな調子でございますから、祭りの準備は村をあげての大ごとでございました。なにしろ三日のあいだ働きませんから、いろいろ備えが必要なのです。そんな中、その日暮らしのわたくしどもに、その日がやって参りました」

 娘は遠くを見た。おれも付き合って娘の視線の先を見た。壁があるばかりであった。娘はおれには見えないものを見ているのだった。おれには見えないものがこの娘には見えているのだ。それは遠い故郷の風景であったり、そこからここまでの道程であったり、もしかしたらここに来ることなくその村で過ごしていたとしたらどうなっていたかを精緻に示す幻影であるかもしれない。

 やがて娘はゆっくりと目を閉じた。娘が見ているものを壁に投影できなくなったのだろう。おれは娘を観察した。よく見るとなかなか可愛い娘である。丸い顔に大き目の目、額は狭く鼻は少し上向きだがそれがこの娘の雰囲気に非常によく似合っている。口は小さくはないのでそれが少し評価を下げることがあるかもしれない。だがじゅうぶん可愛いと言える造作だった。長い話で疲れたのだろう、娘の額からは玉の汗が出ていた。額の両側、髪を後ろに結っているはずのところ、顳顬のあたりになにか膨らみがある。かんざしはあんなところに刺さないし、なんであろうか。人の、それも若い娘の顔を見つめてあーだこだ批評するのはお行儀がよくないとわかってはいたが、やめられなかった。それほど魅力的な顔だったのだ。


***


 眺めているうちに、心なしか娘の顳顬の上にある突起が大きくなったような気がしてきた。気になりだすと気になるものだ。

 娘は目を開けた。おれはあわてて目をそらせた。

「ご無礼いたしました。わたくしといたしましてもあの日のことをお話しするのには思い切りが必要なのでございます。春でございました。わたくしどもの村に陸路で他所者が来ることは珍しいのでございますが、何やら怪しい三人組が街道からやってきて村に逗留しておりました。一人は、頭巾をかぶってあごひげを生やし、杖を片手にしている老人でございました。齢六十から七十でしょうか。他の二人は若く町人の格好をしており、老人の配下のものたちのようでした。わたくしどもの村に宿場を生業にしている家はございませんが、出すものを出せばお部屋をお貸しする家も幾軒かございます。ただしそれは同業の漁師向けのもので、他の漁村のものが漁に出たはよいものの、急に時化て最寄りの漁港にやってきた、というようなときの互助的なものでございまして、宿賃で儲けようなどと考えておるものはございません。ですので必要最低限な給仕しかいたしませんし、同じ漁師相手の商売のこと、晩は早く寝んで朝は早く出立する、という暗黙の決まりごとがございます。泊める方も朝が早いのです。そんなような宿のひとつに、陸からきた三人組が泊まることになったのでございます。噂によれば、その三人組は商家の者で、小魚を商っているとか。小魚だけで商いが成り立つのかどうだかわたくしには判じかねますが、かの者どもはそのように申したようでございます。聞くところによると、三人組は日の入り間近に村にやってきて、この村に草鞋を脱ぐところはございますか、とはじめは丁重に尋ねたそうです。尋ねられた者はたまたま先ほど申したような宿まがいの商売をしておりまして、よかったら使ってくれ、と答えたそうで、老人は、ではご厄介になりますかな、このような問答を交わしたようです。老人と従者は三人で二部屋を使いました。荷物を降ろすと、一行はしばらくはおとなしくしておりました。いや、そうではありませんね、一行のうち老人はおとなしくしておりました。若い従者ふたりは何やら忙しく動いており、おそらく荷解きや膳の準備、もしかしたら商いの話もしていたのかもしれません。老人は従者ふたりのはたらきを部屋から見ながら何が可笑しいのかひげを撫でながら呵々大笑しておりました。比喩としての呵々大笑ではございません。ほんとうにかっかっかと大笑いしておりました。わたくしが、かっかっかと笑う人物に出会ったのは初めてのことでございました。くつくつ、げたげたと笑う草履屋が出てくる芝居は見たことがありますが、芝居のことでございますから、本当におるとは限りますまい」

 娘は何かを思い出したように声を殺してくつくつと笑った。


***


「失礼いたしました。これまでも、そして、これからも、笑うような話ではございませんでした。お話を戻しますと、三人組の一行は部屋を取ってしばらくはおとなしくしておりましたが、夕食のあとに本性を顕したのでございます。わたくしは、その宿の家人と親しうしておりまして、人手が足りないときには手伝いにあがっておったのでございます。その日も、手伝いに行きました。手伝いといっても、膳の給仕をするくらいのことでございます。女将さんからご膳を受け取り、客人にお出しするお役目でございます。膳と申しましても大したものが出るはずもなく、漁村のことでございますから海のものを椀に盛って漁丼とかそういった名前で出しておりまして、その日もわたくしが一汁一丼香の物をお持ちいたしましたら、老人が、丼飯など食せぬと言われましたのです。ならばいかがいたしましょうと尋ねたところ、若い従者のうち月代を剃りあげているほうが、飯の上に菜を盛る、これ下賤の食物なり、と言われました。とは言えわたくしにどうしようこともございません。わたくしは、この村のものはみな船の上が長うございますゆえ、陸に上がれば下船の食をお求めになるのですと答えました。すると、老人はかかかと笑いまして、そなたなかなか面白いことを申すな、だが、わしがかようなものを食すわけには参らぬゆえ、飯の上のものを皿に盛り付け直して出すよう申しつけよ、と言われました。それから、この土地の酒を出してもらいたい、燗はいらぬ、と申しつかりました。わたくしがそのように女将さんに伝えたところ、女将さんはちょっと機嫌を損ねたようでしたが、先ほどお出しした丼を下げまして、刺身を持っている中でいちばん大きな皿に盛り、わたくしに持って行くように言いました。わたくしが部屋に入ると、従者のうち月代ではないほうが、酒はまだか、と言いました。ご存知かどうかわかりませんが、酒というもこは穀物や果物から作るものでございまして、魚をもとには酒は醸せぬものにございます。村でも穀物を作る家はありましたが、酒などにするより日々の糧食にしたほうがみなが幸せになります。したがってこの土地の酒というものはございませんので、近くの村の濁り酒をお出しすることになりました。近くと申しましても海路で半日ほどかかるところでございまして、わたくしどもにとっては稀覯なものにございます。一般の村人なら、年に四度、祭のときくらいにしか口にできぬようなものでございました。わたくしはいただいたことがないのでございますが、飲んだことのある者の話によると、すすすすーっとしてくいーっという味わいなのだそうでございます。そして翌朝きゅーっとくるのだそうな。なにがなんやらわかりませぬが、みなそのように申しておりまして、おそらく飲んだことのある者にだけわかるようなそのような飲み口なのでございましょう」


***


「わたくしはご膳をお出しすると、女将さんに酒を所望されていることをお伝えしました。女将さんはちょうど冷や酒の準備を終えたところで、わたくしに持って行くよう申しつけたので、持って行きました。ご老人一行はわたくしに酌をせいと言いました。お客人の言うことですので、しかたなく、わたくしは酌をして差し上げました。月代ではないほうは、濁っておるな、とひと言申しました。そこから考えると、この方々は清酒ばかり召し上がる結構なご身分のかたがたなのでしょうか。月代のほうが、まあよいではないかと宥めてからぐいと猪口をいただいて、まずまずである 、と感想を述べてから、ご老人に向って、毒は入っておらぬようです、と申しました。このご老人は毒見役を召し抱えるようなご身分のかたなのでしょうか。月代はわたくしにぐいと猪口を差し出しました。もう一杯注げとのことと思いましたので、注いで差し上げました。が、月代のかたの飲むのが早いこと早いこと、あっと言う間にお銚子が空いてしまいました。ご老人は月代のかたが飲むのを楽しそうに見ながら、ちびちびと飲んでいらっしゃいました。もう一本くんな、と月代が申しましたので、わたくしは炊屋に戻りました」

 娘は息を継いだ。暇つぶしのために聞き始めた娘の身上話であるが、この娘なかなか話がうまいのか、おれの感覚が娘の世界にフィットしているのか、おれは話に惹きこまれていた。しかし耳の奥で、港の横、横島、寄越すか、と流れているのはどうやって止めればよいのだろうか。兎入道が竜堂で唸っている情景まで目に浮かぶ。これがマントラ、真の言の威力か。

「銚子を持ちて部屋に戻りましたらば、ご一行は次の段階になっておりました。先ほどは酔っている素振りを見せていなかったはずであるのに、いま一度見ると、明らかに酔っている風体でございまして。いや、明らかにではございませんでしたね、よく見ると、が正しうございます。よく見ると酔っている風体でございました。月代のかたはわたくしの顔を見ると、待っておったはよう注げと申す始末。ご老人は短冊と筆を取り出して、俳諧を捻っておるようにございました。わたくしに評を求められたのでございますが、わたくし、俳諧にたしなみがなく判じかねまして、あなたさまにはおわかりになりますでしょうか。このような俳諧にございます。祭囃子にこりともせすのむにこり」

 おれもたしなみがないからよくわからんが、季語に囃子、にこりと濁りをかけているのだと思う、それ以上は評価のしようがない。そう言った。


***


「ああ、あなたさまにもわかりませぬか。わたくしももちろん正直に、俳諧のたしなみはございませんので判じかねますと申しました。すると、たしなむかたしなまぬかは特に問わぬ、どう思うかを聞いておると言われました。老人は呵々大笑していないときには表情の読めぬかたでございまして、呵々大笑しているときも笑っているのではないのではないかとも思われまするが、機嫌がよいのか悪いのか、はたまたななめのご機嫌か、わたくしに測ることはできなかったのでございますが、わたくしはなんだか怒られておるような気になって参りまして、こう見えてわたくしは鼻っ柱の強いところがございますから、俳句を論じてほしくば俳句をご存知のかたにお頼みになるとようございますと答えましたところ、技巧の優拙ではない、感想を聞かせて欲しいのだと申されました。はっきり申しましてわたくしには先ほどの俳句がよいものだとは思えませんでしたので、にこやかに召し上がっていただきとうございますとお答えいたしました。老人はそうかと一言いいますと、わざとらしくにこりと笑ってお酒を召し上がりました。そうこうしているうちに、月代のかたが出来上がって参りまして、なにやらぐだぐだとくだを巻き始め、月代ではないほうはむっつりと飲んでおられ、老人はにこりとした表情を気味悪く張り付けたままでございました。わたくしは居場所を見失いまして、部屋を出て行こうといたしますと、あいや待たれいそこな娘、と妙に芝居がかった調子で月代が呼び止めたのでございます。待てと言われて待つものは松の木ばかりにございましょう、とわたくしも芝居調で返しました。でも。でも、それがいけなかったのです」

 娘は、顔に掌を当てた。泣いているのか笑っているのか、それとも怒っているのか。いや、先ほど笑うような話じゃないと言っていたな。しかしそう言った手前表情を隠して笑っているのかもしれぬ。そもそも話の流れを考えてみても、感情を昂らせる要素は見当たらない。

 ということを考えていると、娘が顔を晒した。つまり、掌を顔から外した。そして、

「みゃお」

と言った。さらに、

「みゃー」

と鳴いた。泣いたのではなく、鳴いた。顳顬の突起が耳を著していることに気づいた。いつの間にか猫のような髭が生えていた。

 ぴょんと後ろ向きに飛びずさり、両手を床につけ、稲荷神社に鎮座する狛犬のような体勢をとった。眼が儖と怪しい光を発していた。

「なんだ、どうした」

 おれは娘に声をかけた。

「みゃうー」

 娘は応えて啼いた。唇を使わずに発声する、人間ではない声だ。だからみゃうーともにゃうーともぎゃうーとも聞こえる。

 娘は猫憑きになっていた。


***


 おれは猫憑きを相手にしたことはない。猫憑きに限らず狐憑きも鶏憑きも相手にしたことはない。トリッキーなやつなら相手にしたことがあるが、あくまで人間の行動の範疇にあるトリッキーである。トロツキストは相手にしたことがあったかどうか。いや、言葉遊びをしている状況ではない。

 おれは兎入道ではないから竜堂に籠ってマントラを唱え、憑き物を落とすなんてことはできない。だが、手順は先ほどこの娘に聞いたのではなかったか。

「あおーう」

 猫の声には根源的な畏れが含まれている。猫の声は人の声に似ている。人の声であるようでその実ケモノの声であり、意味や意図の含まれているはずのその声を探せど捜せど意味をみつけることはできない、それゆえに恐怖が生じるのだ、そう思う。

 だから猫の声は赤児の泣き声に似ている。

 聞けば聞くほどそっくりだ。

 化け猫が昔から怖がられてきたのは、水子供養をしたはずの、生き長らえることのできなかった我が子の声を聞くからか。

 水子供養の必須アイテムであるこけしは本来は子消しと書くのだし、子をねと読んで鼠と取れば、鼠を退治するとされてきた猫の本質とオーバラップし、鼠を退治て胎児に対峙し、大地の題辞は一大事である。とりあえず先ほどの真言を唱えよう。

「港の横、横島、寄越すか」

 だが、本職の入道と大勢の村人が半日がかりで落とすべき猫を、ことの顛末をたまたま聞きかじったばかりの通りすがりの部外者が落とせる道理もないことはわかっている。わかっているとはいえ努力は成功へと続く奇跡の扉を開くかもしれない。

「港の横、横島、寄越すか」

「にゃあお」

 猫娘はあくびをした。お、何か変化があるのか。

「港の横、横島、寄越すか」

「それ、聞き飽きたにゃ。やめてほしいにゃ」

「のわっ」

 人語を解さぬ憑き猫と思いこんでいたが人語を喋った。

「それにゃ、その呪文はにゃ、にゃんにも効果がにゃいのにゃ」

「にゃんだって?」

「おいらのまねをしにゃくてもいいにゃ。その呪文に効果はにゃいのにゃ」

「じゃあなんだって落とすときに唱えるんだ」

「にゃん」

 憑き猫はそっぽを向いた。うげ。やばい。可愛い。さっきまで畏れを感じていたことを棚にあげて、もともと可愛い娘に猫が憑いて猫語を喋ると強烈に可愛い。

「しーらにゃい」

「知らないって、おい、猫」

「ねこ丸君と呼んでほしいにゃ」

「それがお前の名前なのか」

「うんにゃ。呼んでほしいだけにゃ」

「ねこ丸君って、どこから拾ってきた名前だ」

「光画部を支配する猫の名前にゃ」

 正解だ。。。猫のくせになぜあ〜るを知っている。。。

「にゃー。ねこ丸君を試そうにゃんて百年早いにゃ」

「お前ねこ丸君じゃないんだろう」

「呼ばれた者勝ちにゃ。にゃは体を表すようににゃるのにゃ」


***


「じゃあ、ねこ丸君、そう呼んでやる。お前は何のためにこの娘に憑いてるんだ?」

「そんにゃの知らにゃいにゃ」

「知らないって、じゃあ何しにきたんだ」

「そんにゃの知らにゃいにゃ」

「お前自分の目的を知らないのか?」

「じゃあ、おみゃあは自分の目的を知っているのかにゃ?」

「もちろんだ。おれは人を探している」

「にゃんのために探しているのかにゃ?」

「お前にそれを言わなきゃならないのか」

「別に聞きたいわけじゃにゃいにゃ。でも、おいらに喋るとにゃにか都合が悪いのかにゃ?」

「言いたくないんだ」

 ねこ丸君は儖と黄色く怪しく光る眼を細めた。

「にゃあんだ、わかってにゃいんだろ」

「そんなことはない」

「口だけにゃらにゃんとでも言えるにゃ」

「どう取ってもらっても構わんよ」

「にゃあ。にゃらばおみゃあは自分を見失にゃって自分探しの旅に出ている痛いやつにゃ。そのくせそれを認めることができにゃいアホにゃやつにゃ。しかもそれを誤魔化すために嘘を塗り固めた実のにゃいやつにゃ。実がにゃいくせに身から出たさびに囲まれて錆び付いたやつにゃ。錆び付いているからぽきりと折れて寸足らずにゃやつにゃ。寸足らずの分際で一丁前の口を利くでにゃいにゃー」

「ぐ」

 おれは言葉に詰まった。

「それは言い過ぎだ」

「どう取ってもいいと言ったにゃ」

「おれを非難していいとは言ってない」

「非難じゃにゃいにゃ。おいらがおみゃあをこうとったというだけにゃ」

「少なくともおれは寸足らずじゃない」

「体だけでかくても意味がにゃいにゃ」

「体だけでかいわけじゃない」

「独活の大木、大海を知らずにゃ」

「なんか間違っているぞ」

「おみゃあにはぴったりな言葉にゃ」

「勝手な造語でおれを形容するな」

「おみゃあはちゃきちゃきの独活ッ子にゃ」

「意味がわからん」

「火事と喧嘩は独活のはにゃと言うからにゃー」

「駄洒落を言いたいだけか」

「にゃん」

 ねこ丸君は(腹のたつことに)可愛く鳴いてみせた。それだけで許されると思っているこいつに腹がたつし、許してしまいかけている自分にも腹がたつ。腹立ちを抑えつつ、話題を変えることにした。

「ねこ丸君、お前が憑いている娘の話が途中だったんだ。話の途中でお前が取り憑いたんだ。続きを聞かなければならない。お前、落とされてもらえないだろうか」

「落とされてもちゃんと四つ脚で着地するのにゃ。猫の特製の徳性の特性にゃ」

「とくせいの、何だって?」

「最近ではデフォルトとも言うにゃ」

「徳政と着地と憑き物落としの関連性がさっぱりわからないんだが」


***


「わからにゃいのはおみゃあのおつむの出来が悪いからにゃ」

 にゃにゃ、とねこ丸君は笑い、艶かしく紅い舌をぺろりと出した。

 こいつが可愛い娘の姿を借りた猫の憑き物でなければここまで言わせておかないのだが。いや、違う。こいつが可愛い娘の姿を借りた猫の憑き物であってもここまで言わせておくわけにはいかない。

「言ってくれたな。お前の頭の悪い表現のせいでなぜそこまで言われなければならないんだ」

「にゃぜって、そりゃ、決まってるにゃ。おみゃあのおつむの出来が悪いからにゃ」

「おれの問題じゃない。お前が、突拍子もないことをいい出したんだ」

「そう思うのにゃら、それはおみゃあのおつむの出来が悪いことを示しているのにゃ」

「埒が空かないな。さっきのお前の発言を説明してくれないか」

「ふっふー」

 ねこ丸君は鼻を鳴らした。

「簡単に言うと、こうにゃ。お前にゃんかに落とされてやらにゃいにゃ」

「なあねこ丸君、いくつか聞きたいことがあるんだ。お前が取り憑いている間、取り憑かれている娘はどうなってるんだ」

「どうにゃってもいにゃいにゃ。強いて言えば、おねむの状態に近いかにゃ」

「寝ているのか」

「寝てるわけじゃにゃいけど、意識はにゃいにゃ」

「それじゃあ、お前は娘に取り憑く前はどこにいたんだ」

「どこってわけでもにゃいにゃ」

「とつぜん湧いて出たのか」

「そういうわけでもにゃいにゃ」

「じゃあ、取り憑く前のことを話してみろ」

「にゃ」

 ねこ丸君は困惑した表情を見せた。

「お前はいつ産まれたんだ」

「にゃにゃ」

 ねこ丸君は困惑した表情を強めた。

「お前が覚えているいちばん古い記憶を説明してみろ」

「どこで産まれたのかとんと見当もつかぬが、にゃんでもうす暗いところでニャーニャー鳴いていたことは記憶しているにゃ」

「お前。・・・漱石をどこで知ったんだ」

「こんにゃのは猫のたしにゃみにゃ」

「そういう問題じゃなくて。いつどこで嗜んだんだ」

「知らぬうちに身についているからたしにゃみにゃのにゃ」

「書物の嗜みというものは知らないうちに身につくはずがないんだが」

「猫にとって吾輩は猫であるという読み物は読まずとも身についているものにゃのにゃ」

「つまり、わからないんだな」

「にゃ」

 ねこ丸君はいたずらっぽく笑いを浮べた。

「じゃあ次の質問だが」

 ねこ丸君はいたずらっぽい笑いを引っ込めた。

「お前、猫が憑いているわけじゃないだろう」


***


「にゃにを言い出すのにゃ」

 ねこ丸君は間、髪を入れず切り返したがおれは黙っていた。

「おいらが猫憑きじゃにゃいって?」

 おれは言葉を返さなかった。

「そんにゃの当たり前のことじゃにゃいか」

「何だって?」

「おいらが一度でもおいらのことを憑き猫だと言ったか?」

「・・・言ってないな」

「そうにゃ。おいらは憑き猫ではにゃいからにゃあ」

 そう言ってねこ丸君は前肢を床につけたままぐーっと伸ばした。前肢と言っても娘の腕だが。

「じゃあ、お前は何者だ」

「にゃん」

 ねこ丸君は姿勢を糺した。糺したと言っても、稲荷の狛犬の姿勢を取ったのだが。

「おいらは、ねこ丸君にゃ」

「お前がねこ丸君になったのはついさっきのことだろうが」

「かつてにゃんであったかよりも、いまにゃんであるかのほうが大事だとは思わにゃいか」

「そういうときもあるが、今はそういうときではない」

「にゃぜにゃ?」

「何故って、そりゃあ、今はお前のルーツを探っているときだからだ」

「余計にゃお世話にゃ。おいらがそんにゃことを頼んだか?」

「お前は何も頼んでいない。だがそれこそがお前の出自を調べる理由だ」

「おみゃあの言っていることはさっぱりわからにゃいにゃ」

 ねこ丸君は姿勢を低くした。

「おいらが余計なお世話と言ってるんだから、余計なお世話にゃのにゃ」

「ところが、そういうわけにもいかない」

 おれは断固として反論した。

「おれはお前が取り憑く前の娘に用事があるんだ。お前が取り憑く前に戻して欲しいのだが、お前は憑き猫ではないと言う。ならばお前は何者だ」

「おみゃあは答えを知っているんじゃにゃいのか」

「知らないから聞いている」

「でもおいらのことを猫が憑いてるわけじゃにゃいって言ったにゃ」

「言葉の綾だ。正確には、はったり、と言うか。いや、そうじゃないな。敢えてお前を否定する言葉を選んだ。お前が憑き猫じゃないとは思っていなかった」

「ふっふー」

 ねこ丸君は姿勢を戻した。つまり、狛犬の姿勢を取った。

「それで?にゃんだと言うのにゃ?」

「お前が憑く前におれと話をしていた娘と話をしたい」

「はにゃして、どうするのにゃ?」

「話の続きが気になる」

「どうしてにゃ?」

「どうしてって。気になるものは気になるんだ」

「だからどうしてにゃ?」

「理由なんてない」

「はにゃしを聞いて、どうするのにゃ?」

「聞いてから決める」

「じゃあ聞かにゃくてもおにゃじではにゃいかにゃ?」

「同じではない。途中まで聞いた以上、おれには最後まで話を聞く義務がある」

 おれは毅然と言い放った。


***


「にゃん」

 ねこ丸君はひと声発したかと思うと今までの行動からは予想のつかない敏捷さでおれのもとに忍び寄り、手を(前肢を?)おれの首にかけて引き倒した。あっと驚く間もなくおれは後ろ手に両腕を極められてうつ伏せになっており、ねこ丸君はその上に乗っていた。おれは全く身動きができなくなった。

「ぐ・・何を・・」

 床に押し付けられているので喋るのも一苦労だ。

「おみゃあには、ここにいにゃいやつのはにゃしを聞く義務があるのか?」

「・・放せ・・」

「はにゃしてほしいのか、はにゃしを聞きたいのか、どっちかにゃ?」

 背中から聞こえるねこ丸君の声はものすごく楽しそうだった。

「・・どっちもだ・・放して・・それから・・話を・・」

「無理にゃ注文だにゃ」

 おれの視界に入るのは床だけだが、楽しくてたまらにゃいといった様子のねこ丸君の姿が目に浮かんだ。

「んにゃ、無理ではにゃいかもしれにゃいにゃ」

「・・」

「どうしようかにゃー」

 獲物を追い詰めて弄ぶ。猫の習性と言えばそれまでだが。

「はにゃすべきか、はにゃさぬべきか、それが問題だにゃー」

 いざ弄ばれる立場になってみると。

「はにゃせばわかるとでも言いたげだにゃ」

 そんなことを言おうとは思っていなかったが、言いたくなってきた。

「・・放せば・・わか」

「にゃはは。ねこ丸君さまに向って犬養の言葉とは、洒落が利いてるにゃ」

「・・お前が・・仕向けたん・・だろが」

「でも洒落で生きるには世知辛い世のにゃかにゃからにゃ」

「・・洒落に・・なって・・ない」

「決めたにゃ。はにゃして、それから、はにゃすことにするにゃ」

 ねこ丸君はにゃんと鳴いた。

「これからはにゃすことは、遠い昔のおはにゃしにゃのにゃ。そこんとこ懸案して、ご静聴をお願いするにゃ」

「・・話す・・前に・・放せ」

「ご静聴をお願いするって言ったにゃ!」

 ねこ丸君は力を込めておれの腕を押さえた。おれはぐうの音も出なくなった。ぐう。

「昔々、あるところに、おじいさんとおばかさんが住んでいたのにゃ。おじいさんは山にしばかりに、おばかさんは川に洗濯に行ったのにゃ」

 ツッコミを入れたいがそれもままならない。

「おばかさんが洗濯をしていると川上から大きにゃ桃がどんぶらことにゃがれて来たのにゃ。その桃の大きさたるや、にゃかに赤ん坊が入っているかと見まごうほどであったというにゃ。しかし、おばかさんは洗濯に夢中で、大きにゃ桃がにゃがれていったことに気付かにゃかったのにゃ。おばかさんのおばかさんたるゆえんにゃ」

この話をどう持って行こうというのだろうか。


***


「大きにゃ桃は川をにゃがれていって、ついに海についたのにゃ。大うにゃ原ににゃがれ出た桃は沖合の小さにゃ島にたどりついたにゃ。その島には鬼が棲んでいたにゃ。鬼の棲家だったのでその島は鬼ヶ島というにゃ。鬼は桃を拾い上げて食べてしまったにゃ。桃のにゃかににゃにか特別にゃものがあったのかどうかはわからにゃいが、そんにゃことは気にせず食べてしまったのにゃ」

 ねこ丸君はにゃにゃにゃと笑った。

「一方、おばかさんは一心不乱に洗濯を終えて、家に帰ったにゃ。その次の日はおじいさんもおばかさんも川に洗濯に行ったにゃ。洗濯物は毎日出るからにゃ。するとやっぱりその日も、大きにゃ桃がどんぶらことにゃがれて来たのにゃ。その桃の大きさたるや、にゃかに桃太郎が入っているかと見まごうほどだったにゃ。しかし、その日もおばかさんは洗濯に夢中で、大きにゃ桃がにゃがれていったことに気付かにゃかったのにゃ。おばかさんのおばかさんたるゆえんにゃのだが、その日は前の日とは違いがあったにゃ。さて、その違いとは、にゃんでしょう」

 答えは自明だったし答えようともしたのだが、おれは押さえつけられたままで、ぐうの音も出ないままだった。

「大海を知らにゃい独活の大木のおつむにはこの問題は難しすぎたかにゃ?答えを言うにゃ。答えは、おばかさんには他に連れがいたことにゃ。言うまでもにゃくおじいさんのことにゃ。おじいさんは大きにゃ桃に気づいたのにゃ。気づいただけにゃらまだしも、騒ぎ始めたのにゃ。おじいさんが騒ぐのでさすがのおばかさんも桃に気づいたにゃ。気づいたと同時に、びっくりしたのにゃ。びっくりついでに、洗っていた洗濯物を川ににゃがしてしまったのにゃ。おばかさんのおばかさんたるゆえんにゃ」

 ねこ丸君は楽しそうな嬉しそうな声で語った。

「おじいさんは桃を追いかけたにゃ。おばかさんも一緒ににゃって追いかけたにゃ。どんぶらことにゃがれる大きにゃ桃を追いかけて、川べりを走るおじいさんとおばかさんを思い浮かべてもらうといいにゃ」

 おれはねこ丸君の発言に則り、どんぶらこと流れる大きな桃を追いかけて川べりの道なき未知な道を走るおじいさんとおばかさんを思い浮かべた。川べりはたいてい石がごろごろと転がり走りにくく、走りにくいほどの石がないような川べりには、葦に代表される半水棲の背の高い草が生えているものだ。

「思い浮かべたかにゃ?さてここで問題にゃ。おじいさんとおばかさんは桃に追いつけたか、追いつけにゃかったか、どっちにゃ?」

 おれは追いつけなかっただろうと思ったが、追いつけなかったら話が進まないとも思った。いずれにせよおれは押さえつけられたままでぐうの音も出なかったので、答えなかった。

「ふっふー。独活ッ子ごときにはわからにゃいだろうにゃー。おじいさんは素晴らしい走りを見せたのにゃ。追いついてしまったのにゃ。追いついただけにゃらまだしも、追い越したのにゃ」


***


 ねこ丸君はしばし死走死闘を制したおじいさんに思いを馳せた。

「桃を追い越したおじいさんは、橋を見つけて桃を待ち構えたにゃ。実はそこまで行ったら川に橋がかかっていることを知っていたのにゃ。また、走って追いかけてる最中さにゃかに手頃にゃにゃがさの棒っきれをいつの間にか拾っていたにゃ。その棒っきれで桃の行く手を遮って、川岸に寄せて拾い上げようという魂胆にゃ。さすがはおじいさん、伊達ににゃが生きしてにゃいにゃ。亀の甲より年の功にゃ。おじいさんのおじいさんたるゆえんにゃ」

 なぜかおじいさんを持ち上げ始めた。

「おじいさんは棒っきれを使って大きにゃ桃を川岸に寄せようとしたにゃ。しかし、棒っきれが桃に触れると、棒っきれはじゅぶじゅぶと桃のにゃかに吸い込まれてしまったのにゃ。桃は棒っきれに串刺しににゃってしまったにゃ。実は大きにゃ桃はにゃがいこと水に浸かっていたので、腐ってしまっていたのにゃ。さて、続いての質問にゃ。桃のにゃかに赤ん坊はいたのでしょうかにゃ?」

 おれは腐った桃の中で出番を待ち構えていた桃太郎を思い浮かべた。桃が腐るほど長い間待たされた桃太郎は精神的にも腐っていたに違いない。そして、おじいさんの持つ棒っきれで串刺しにされた桃の中の桃太郎が五体満足無事であるとは想像しにくい。そんなグロい話は聞きたくない。よって、桃太郎はいなかったとする。してくれ。だが、それで話が続くのか?

「その答えはもう少し待つがいいにゃ。桃を串刺した棒っきれを片手に橋の欄干で途方にくれるおじいさんのもとに、おばかさんがやっとのことで追い付いたにゃ。おばかさんは川岸から見える距離にあるにもかかわらず、道を無視して道にゃき道の続く川岸を走ってきたのにゃ。おばかさんのおばかさんたるゆえんにゃ。おばかさんは橋の上におじいさんを見つけたにゃ。おばかさんはおじいさんに向って能天気な声で、にゃにをしているんですかー、と尋ねたにゃ。おじいさんは、桃のにゃかに誰かおるかもしれんのじゃ、と神妙にゃ声で応えたにゃ。そんにゃことあるわけにゃいでしょうと答えたおばかさんに、棒っきれが刺さったときににゃにか妙にゃ手応えがあったんじゃよ、とおじいさんは言ったのにゃ。考えたくにゃいが、いろんにゃことを考えてしまうんじゃ、昔語りのこととかのう、と。おばかさんはそれを聞いて、おじいさんが止める間もにゃく桃の近くに駆け寄って、じゅぶじゅぶぐちゃりと桃を割いたのにゃ。そして、にゃかを覗いてこう言ったのにゃ」

 ねこ丸君は一息ついた。

「やっぱり、嘘だったじゃにゃいですか。にゃかに誰もいませんよ」

 ねこ丸君は続けて、お後がよろしいようにゃ、と言っておれの上から降りた。


***


 おれはしばしぽかんとしていた。やがて我に返った。

「落し話だったのかよ。おれを高座に見立てたのか。しかもなんだそのサゲは」

 自由を手に入れてまずやったことはツッコミだった。

「にゃにゃ。丸君亭さど講釈の高座でしたのにゃ」

「サド公爵とはご挨拶だな」

「サド公爵に呼応して、おみゃあのことはザッハと呼んでやろうかにゃ」

「断る」

「文学史上に燦然と輝く変光星、ザッハ・マゾッホを否定するのかにゃ」

「なんであれ、断る」

「にゃにゃ」

 ねこ丸君は怪しく鳴いておれの顔をじっと見た。

「さあ、はにゃして、それから、はにゃしてやったにゃ」

「おれが聞きたかったのはそんなマニアックなオリジナル落語じゃない」

「そんにゃことはどうでもいいにゃ」

「よくない」

「少にゃくともおいらはおみゃあの言うとおりにしたにゃ」

「お前が取り憑く前の娘と話したいんだ」

「にゃんのはにゃしをしたいのかにゃ」

「何のって」

 おれが口籠もったのをねこ丸君は見逃さなかった。

「ほうら。その娘とやらのはどうでもいいはにゃしだにゃ」

「そんなことはない」

「じゃあ、はにゃしのにゃいようを説明するにゃ」

 おれはしばらく考えた。娘がどういう話をしていたのかを思い出そうとしていたのだ。

「どういう用件でここにいるのか聞いていたんだ」

 そうだ、そういう発端だった。

「よかろう。知ってる範囲で答えてやるにゃ。おみゃあがはにゃしたがっている娘に対する質問をこのねこ丸君さまに遠慮にゃくぶつけてみるがいいにゃ」

 ねこ丸君は驚いたことに、こう言って、続けた。

「さあ、たちどころに問うてこの問答にケリをいれるがいいにゃ」

 おれは娘の話を思い出した。

「まず確認したい。お前は娘が何を話していたのかわかっているのか」

「もちろんだにゃ」

「知っていて、おれに向ってくだらないオチてない落しばなしを聞かせたのか」

「もちろんだにゃ」

「ならばおれとお前との話は時間の浪費だったと言うんだな」

「まさか。このねこ丸君さまが時間を浪費するわけがにゃいにゃ」

「おれにとっての話だ」

「おみゃあの都合は聞いてにゃい。おいらの時間はおいらのためにあるのにゃ。宇宙の真理にゃ」

「べつに宇宙じゃなくても真理は真理だろうよ。だがねこ丸君、それはお前に限った話ではない」

「?」

「誰にとってもそいつの時間はそいつのためにある。このおれの時間を浪費した対価は高くつくぜ」

「にゃぜにゃ?おみゃあは忙しい人でも時給単価が高い人でもあるまい?」

「えらくはっきり言ってくれるな」

「だがこのねこ丸君さまは違うにゃ。お前にゃんか口を利くのも畏れ多い身分のかたにゃのにゃ」

「たかが猫だろうが。おれは人間と話していたんだぞ」

「うんにゃ。おみゃあがはにゃしていた娘はおいらにゃ」


***


 おれが何も答えずにいると、ねこ丸君が先に口を開いた。

「聞こえにゃかったのか?おみゃあがはにゃしていた娘はおいらにゃ。おみゃあはこの部屋に来てからおいらとしかはにゃしていにゃいにゃ」

「だって、お前に化ける前の娘は人間だったぞ」

「だからそれも猫にゃ。だから化けの皮が剥がれておいらに戻ったにゃ」

「じゃ、あの娘はお前なのか!」

「見ればわかるにゃろう?おにゃじ顔ではにゃいか?」

「う、上手く化けたもんだな」

「別に上手くもにゃいにゃ。とうぜんのことにゃ」

「と、すると、あの娘がお前になったのは?」

「おみゃあを騙すのにも飽きたからにゃ」

「じゃ、じゃあ、おれに話していた話は?」

「まあ、口から出任せだにゃ」

「あの話の続きはどうなるんだ?」

「はにゃしにゃがらあれだけにゃがいはにゃしを作るのはにゃかにゃか面倒にゃ。おいらはもうはにゃさにゃいにゃ。うしにゃわれた結末というやつにゃ。お。にゃんか格好いいにゃ」

 おれはしばし脱力して虚脱感にさいなやまされた。今日という日はなぜだか長い一日だなあなんてことを思った。やつを追い始めて一日め、飲まず食わずで一睡もせずに夜更けも近い上にやつに近づいている気が全くしない。ああ、厳密には飲まず食わずじゃないことはわかって言ってるよ。だがほぼ飲まずほぼ食わずほぼ一睡もしてないだろ?しかも、ちょっと微睡んで紅茶一杯飲んだのがもうずいぶん前のこと、ものを食ったのなんてまだ自分の部屋にいたときだ!

 おれはなんとか気力を振り絞って虚脱感から抜け出した。

「さて、おみゃあをからかうのもやめにするにゃ。おみゃあ、にゃにしにここにきたのにゃ?」

 おれはここに来た理由を頭を一生懸命回転させて思い出した。さっきいちど弛緩しきったせいで、緊張感を戻すのは並大抵のことではない。

「あごひげ。あごひげを生やしてにまにま笑ういけ好かない野郎に、ここで待ってるように言われた」

「そのあごひげに、おみゃあはにゃにか頼みごとをしていたのではにゃいかにゃ?」

 おれの頭は回転数を上げた。

「エノケンだ。そうだ、エノケンの間に連れていくよう頼んだのだ」

「それは本当にエノケンの間だったかにゃ?」

「エノケンじゃない?エノケンじゃないとしたら、マツケン?マツケンの間か?」

「そう来たか。でもマツケンでもないにゃ。もっと他にこう、一般名詞があるにゃ」

「あとはもうビリケンくらいしか・・」

「どんどんはにゃれていくにゃ。榎本でも松平でも幸運を呼ぶ神でもにゃいにゃ」

 おれの頭の回転数は上がっても速度は上がっていないようだ。


***


 はい。分かっていて呆けたふりしてただけです。

「謁見の間、というところに連れて行ってもらうことになっていたな」

「ここが、そうにゃ」

「謁見の間では誰と謁見できるのだ」

「おいらにゃ」

「ほう。ねこ丸君、お前とか。ならば用事は済んだ。戻ろう」

「・・おみゃあ、にゃにしにきたにゃ?」

「そうだった」

 おれが謁見の間に来なければならなかったのは、ちび仁王がそう言ったからであり、ちび仁王がそう言ったのはガイジンに渡されたハタシジョーを見たからだ。ガイジンが何を考えておれにハタシジョーを渡したのかはわからないが、あいつはおれの探しているものを知っている。論より証拠、ハタシジョーを渡すときにおれにこう言った。

「アナタノサガシテルモノ、キトミツカル」

 さらに、こうも言った。

「ハトハ、パンノミミニ、イキルニアラズ」

 最後に、こう言った。

「ナンジノ、リンジヲ、アニョハセヨ」

 うーむ。あのガイジン、何を言いたかったのかさっぱりわからない。

「とりあえずのことにゃ、おみゃあがここに来ることににゃった経緯をはにゃしてみるにゃ」

 ねこ丸君の言に従うことにした。とは言ってもどこから話そうか。

「まず、おみゃあの目的はにゃんにゃ?」

 ねこ丸君が助け舟を出してくれたので、乗ってみることにしよう。

「おれは、ある人物を追いかけている。追いかけているうちにここに来た、と言えば聞こえはいいのかもしれないが、途中から道を外れている気がものすごくする。つまり、ここに来たのは本意ではない可能性も充分ある。いや、はっきり言ってしまってもよい。おれは不本意ながらここに来ている、と。その経緯を話そう。おれ自身、何がどうなっているのかわからなくなってしまっていることも充分あり得る。おれの言いたいことが、わかるか?」

「わかるにゃ。続けるにゃ」

「おれがある人物を追いかけていると、さる人物たちが助けようと言ってくれた。そいつらのうちの一人、仮にラオチュウと呼んでおこう、ラオチュウがおれを人気のない場所に連れて行って、ここで待ってろと言った。おれは待っているつもりだったが、小さなふたつの茶運び人形に拉致されて、洞窟の中に放り込まれた。洞窟の中には変なガイジンがいて、実はこいつには洞窟の外でも出会っているんだが、そのガイジンにある紙を渡されて、門の守衛に渡せと言われた。おれは仁王そっくりの守衛にその紙を渡したが、その守衛が謁見の間に行かなければならないと言った。その後はいろんな奴に邪魔をされたが、こうして謁見の間にたどり着いた。ここが謁見の間だということは今さっき知ったんだがな」

「ふうむ」

 ねこ丸君は考え込んだ。かなり長いこと考えこんで、時間だけが過ぎていった。


***


 おもむろに、ねこ丸君が口を開いた。

「その、ラオチュウというやつはどうしたにゃ」

「知らん。別れてから会っていない」

「ラオチュウがにゃにをしようとしていたか、わかるかにゃ?」

「わからんが、占い師か何かの類いの助けを借りようとしていたようだ」

「占にゃい師、とにゃ」

 ねこ丸君は大仰に声をあげた。

「やっぱりか。やっぱりにゃのか!」

「おい、ねこ丸君、何がやっぱりなんだ」

「すまんにゃ。言ってみたかっただけにゃ。心当たりはとんとござらんにゃ」

 そうか、ござらんか。

「だが、占にゃい師と聞いて思い当たるものはあるにゃ」

 一般的にはそれを心当たりというのだ。

「おもいには当たるがこころには当たらぬもの、にゃあんだ?」

 なぞなぞかよ!

「答えはコーヒー占にゃいにゃ」

 謎かけになってないしお前にしかわかんねえよ。

「と、いうわけで、行ってみるかにゃ?」

「どこへだ」

「コーヒー占にゃい」

「そうだな」

 ここでこうしてねこ丸君とうだうだとしゃべっていても何も進展しないだろう。コーヒー占いの場所でラオと会えるかどうかはわからぬが、場合によってはおれ自身を占ってもらうのもよい。

「よし、行こう」

 ねこ丸君はにゃんにゃんにゃにゃんと鳴いた。とたんに外から裃をつけた小柄な男が二人、やってきた。

「はっ。ここに」

「参じまして存じまする」

「コーヒー占にゃいに行くにゃ。支度するにゃ」

 ねこ丸君は過不足なくものを伝えた。

「畏れながら申し上げまする」

 やや白っぽい服のほうが申し上げた。

「畏れてる言葉はいらにゃいにゃ」

「では、畏れずに申し上げまする」

「にゃにか。言うてみるがいいにゃ」

「猊下おん自らがお出でにならずとも、かの占い師を呼びつければよいのではありませぬか」

「占にゃいとはそういうものではにゃいにゃ。占にゃい師にはいろいろと都合をつけにゃければにゃらにゃいものにゃ。それでこそ占にゃいの占にゃいたるゆえん。簡単に言うとにゃ、神社に置いてある神籤は当る気がするにゃ?自分で引き抜くやつじゃにゃくて巫女が渡すものにゃらにゃおさらのこと」

「はっ。仰る通りでございますな。で過ぎたことを申し上げました」

「わかればよろしいにゃ。まず、先方に行くことを伝えるにゃ」

「かしこまりまして存じまする」

「して、今すぐにございましょうか」

 やや青っぽい服のほうが言葉を発した。

「今すぐにゃ」

「まず、先方の返答を聞いてから支度をしてはいかがでございましょうか」

「それもそうにゃ。すぐに占にゃい師のところに使者を送り、都合をつけるよう申しつけるにゃ。その後に返答を聞いたらすぐに出られるよう支度をするにゃ。つまり、支度をする支度をするにゃ」


***


 ねこ丸君の従者たちが支度をする支度をし始めに退去し、謁見の間にはねこ丸君とおれが残された。おれはいくつかの疑問をねこ丸君にぶつけてみることにした。

「ねこ丸君、お前は猊下と呼ばれてるのか?」

「ねこだからにゃ」

「ねこは猊下なのか?」

「ねこに生まれたからには百獣の王を目指すのにゃ」

「おれも猊下と呼んだ方がいいのか?」

「どっちでもいいにゃ。でもできればいまのところはねこ丸君と呼んでほしいにゃ」

「そうか、ならばこれまで通りねこ丸君と呼ぼう」

 ひとつ目の疑問は解消だ。続けた。

「お前、偉いやつなのか?」

「さあ?おいらが決めることではにゃいにゃ」

「お前のことを猊下と呼ぶ従者がいる、居間が謁見の間と呼ばれている、コーヒー占いの占い師を呼びつけようと思えば呼びつけられる。けっこう偉いやつに見える」

「おいらがどんにゃやつかを判断するのはおいらではにゃいにゃ」

「お前、どれだけの権力があるんだ」

「さあ?権力とはにゃんにゃ?」

「他人を自分の意に沿わせる力のことだよ」

「おみゃあはおいらの意には沿わにゃいにゃあ」

「おれのことはいい」

「おみゃあのことがいいのにゃら、おいらの権力がどの程度あろうとおみゃあには関係がにゃいにゃ」

「そんなことではないだろう」

「他人に対する権力の大きさを気にするのは、他人の権力を当てにして群がるうじ虫にゃ。おみゃあもうじ虫にゃのか?」

「うじ虫かと聞かれてうじ虫だと答えるやつはいない」

「それはつまり、おみゃあは自分をうじ虫だとは言わにゃいけれども、実際はうじ虫にゃのだととっていいのか?」

「そ、そんなことは言っていない。おれはうじ虫ではない」

「にゃら、おいらの権力の大きさもおみゃあには関係にゃいにゃ」

 ねこ丸君との話はどうも調子が狂う。だがまあ、こんなのは瑣末なことだ。本当に聞きたいことではない。

「コーヒー占いの店にラオチュウがいると思うか?」

 おれは肝腎かなめの質問をぶつけた。

「おみゃあは答えられない質問ばっかりだにゃ。いてもいにゃくても手がかりがそれしかにゃいのにゃろう?」

「ああ、そうだ。おれはお前を頼るしかない」

「にゃら黙って従うにゃ」

「だが二の矢三の矢を継げるかどうか・・」

「黙って従うにゃ!」

 おれは黙らされた。

「失礼つかまつります」

 ねこ丸君の従者が外で声をあげた。

「入るにゃ」

 従者の青い方が入ってきた。

「ご支度の支度が整いましてございます。あとは占い師の返答を待つばかりに」

「失礼つかまつります」

「入るにゃ」

 従者の白いほうが入ってきた。

「占い師のもとへ行って参りました。半刻ほどお待ちいただければ応対可能とのことにございます」

「にゃあ。では参るにゃ。半刻くらい先方にて待つにゃ」

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