2 足跡

 おれはしばらくぼうっとしていた。ひどく疲れた。タイヤをつけられてしまったのでつけ直してもらいたい気分になった。( I'm so tired and will be retiredの直訳。合ってるか?)

 おれはよろよろと立ち上がり、帰路についた。なんかもう、やつのことなどどうでもいい。そんな気分に陥っていた。

 そこまでしてやつを追う必要はなかったように錯覚したわけだ。

 もちろんそれは間違いだ。

 だがそんなことにも気づかずにおれは帰路についた。

 駅前のゴミ箱の前を過ぎ、水を買った売店の前を過ぎ、一見さんお断り喫茶店に入る路地をやり過ごしたときに気づいた。

 やつが、列車に乗ったというのは確かだろうか。

 おれは駅前のゴミ箱に枝豆を捨ててあったことから、やつが駅に来たに違いないと類推した。

 駅に来たなら列車に乗ったに違いないと推測した。

 列車に乗るなら東行きに違いないと想像した。

 東行きの列車は到着が遅れていたからやつはまだ駅にいるに違いないと結論した。

 だが、やつは東行きのプラットフォームにいなかった。くまなく捜す前に妙なやつに邪魔されたが、いなかったように思う。

 うん、いなかった。

 ならやつはまだこのあたりにいるに違いない。

 違いない。

 おれは急遽帰るのをとりやめ、踵を返し、駅前に蟄居する場を求めた。

 一見さんお断り喫茶店には行けないので、騒がしくなさそうな紅茶のおいしい喫茶店にしよう。ちょうどそこに、紅茶専門と看板が出ている。

 おれは扉を開け、紅茶専門店に入った。

「こんにちは」

「こんにちは」

 カウンタのキッチン側には年配の眼鏡をかけた男がいて、新聞を拡げていた。

 五人か六人が座れそうなカウンタ席とテーブル席が三卓か四卓あり、二卓は埋まっていた。

 カウンタの向こう側でマスターと思われる年配の男は、好きなとこに座りなというしぐさを見せた。

 カウンタには誰もいなかったのでおれはカウンタ席についた。

 店内は静かで、考えごとをするにはもってこいだ。

 マスターは何もいわずに傍らのメニューを指差した。おれはメニューを拡げ、一番値段の安い紅茶を指差した。安いものを選んでもまあまあ値がはる。そういうところなんだろう。

 マスターは無言でうなずき、おれの紅茶を作りはじめた。

 まださきほどの出来事の疲れが抜けていないようだ。いや、さっきより疲れているようだ。

 聴覚が鈍くなっている。

 テーブル席の客が低い声の一定のリズムでなにかしゃべっていて、あああうえう、えおいあう、えおえお、おえい、おうおうあ、うあおおおえう、えおえおえお、おん。

 おあいあうあえ。

 うおんあおん。

 あおん。おあおん。おああおんおんおんおんおん・・・

 おおんおおん・・・・・

 おおおおん・・・・

 ・・・

「おまたせ」

 声をかけられて目を開けた。

 不覚にも目を閉じていたらしい。おれは時計を見た。見たところでどれだけの時間意識が飛んでたのかはわからない。

「これはサービスだ」

 声の主が氷水をくれた。

「ああ、ありがとう」

 おれはグラスの水に口をつけた。ほんのりとレモンの香りが漂った。


***

 

「だいぶ眠そうだね」

 おれは声の主のほうに向いた。カウンタの向こうで新聞を拡げ始めた年配の眼鏡をかけた男。だがおれは違和感を感じた。この店のマスターはこんな顔だったか。

 おれは軽く目を瞑り首を振った。他ならぬこのおれが、さっきちらとみただけの初対面の人の顔を覚えているわけがない。記憶と比較するだけ時間の無駄というものだ。

「ああ、そうみたいだ」

「冷めないうちに飲んでくれ」

「そうしよう」

 おれはティーカップを手に取った。おれは基本的に砂糖もミルクも入れない。この味なら値段通りと思った。紅茶専門の看板かかげるだけのことはある。

 おれはこの店に入った目的を忘れていた。紅茶を飲むのは副次的な目的だったにもかかわらず、第一義にすり替わっていることに気がつかず、ただぼうっとゆっくりと紅茶をすすった。

「ちょっと聞くけどな」

 マスターがおれのほうを見ずに言った。

「カエサルの養子ってだれだっけ」

 マスターの声が届く範囲にはおれしかいない。おれに向って言ったのだろうか。

「オクタヴィアヌスで合ってるか、兄さん」

 おれに向って言ったらしい。

「たぶん」

 マスターはうなずき、なるほどそうかと聞き取りにくい低い声で言ったあと、次のクイズを出した。

「じゃあバビロン捕囚のときのバビロン王は」

 マスターの声を聞きながらどうも眠気がとれないなとおれは思っていた。たぶんマスターはクロスワードパズルか何かを埋めているのだろう。

「ネブカドネツァルだよな」

 眠い。けど。寝ざる。

「じゃあオーストラリア大陸を探検したのって誰だ」

 オーストラリア。イギリス連邦。イギリス人。探検家。とくれば。

「リヴィングストンじゃないのか」

 おれは初めて答えてみた。

「リヴィングストン、リヴィングストン。なるほど」

 マスターは一度は納得したが、最終的には否定した。

「いや、違うだろう。リヴィングストンはアフリカ大陸のはずだ」

「じゃあわかんないな」

 おれは言った。頭がはっきりしない。頭の奥が痺れていて、意識を表層に出すことを拒んでいた。背後のテーブル席ではさっきおれを不覚にも眠りに追いやった声が相変わらず一定のリズムで続いており、さっきと同じく催眠効果を醸し出していた。加えてカウンタの向うではマスターが鉛筆でかつこつとテーブルを叩いており、背後の声とは妙にシンクロナイズしたリズムで、あええおういあえおえお、こつ、うああんおあんおあ、かつ、えんえんおいうう、こつ、うああんああんえおいあ、かつ、いいえいうあ。

「スタートだ」

 マスターがぼそりとつぶやいたところまではかろうじて覚えていた。


***


 やつがおれに話しかけていた。

「ああそうか、きみはそういうやつだったな。それでもいいけどね、少なくともここははっきりしておいてもらわないと」

 何をはっきりするのだ。

「だからさ、きみがどうしたいのかはどうでもいいんだよ。そうじゃなくて、ぼくにどうしてほしいのかをきいてるの」

 何も望んでいないが。

「まったく。きみは時間の使いかたが驚くほどへただな。まさかと思うけど、ぼくを逃していいと思っていないだろうな」

 そのまさかだったりしてな。

「言っておくけど、ぼくはきみに捕まる気はないんだが、それだけじゃつまらない。きみが追いかけてくるならそれなりのヒントを残すよ」

 お前の性格ならそう言うだろうな。

「ぼくがヒントを出したら、また何か文句言うんだろ。やっかいなやつだな」

 お互いさまだ。

「まさか。ぼくはきみほど他人に依存してないよ」

 おれもしてないつもりだが。

「相変わらず無自覚なうえに客観評価できないんだね。きみは誰にも頼れなかったらなにもできないじゃないか」

 そんなことない。

「格好だけの否定はやめなって。ひとりだけで何か達成したことはないだろ」

 ある。いや、ないかも。

「だいたいぼくを頼りたいからぼくを追っかけてるんじゃないの」

 そうじゃない。別の理由だ。

「じゃあなんでぼくを追いかけてるのさ」

 お前が逃げたからだ。

「詭弁だろそれは。逃げたつもりはないけど」

 逃げた。

「ぼくは逃げたんじゃないって。きみがぼくに逃げられた、という表現なら間違いなさそうだけど」

 それこそ詭弁じゃないのか。

「違うよ。きみとぼくは視点が違うんだ」

 どう違うんだ。

「いっしょだと思ってたのか」

 どう違うんだ。

「自明の理なんだけどね」

 どう違うんだ。

「説明するのも面倒だけどね。きみはぼくにきみの視点を伝えてないだろ。いっしょになりようがない」

 だが客観的視点に立てば。

「そんなものは古典力学にしか存在しない。絶対的な座標軸はアルベルト・アインシュタインに存在しないことを証明されてるじゃないか」

 アインシュタイン?

「一般相対論」

 それは量子世界の話だろ。

「同じだよ。哲学だもん」

 なぜ物理学が哲学なんだ。

「一緒だよ。自然科学は哲学の一派だし」

 じゃあニイチェもヴィトゲンシュタインも物理学者か。

「そうは言ってないよ。そもそもニイチェは哲学者ですらないかもしれないし。ゲーテが科学者なのは間違いないけどね。ってさっきからドイツ人ばっかだな」

 もっと光を。

「そうそう、ゲーテは光を研究してたから。その今際の言葉は雨戸を開けてくれって意味だったらしいけどね」

 コギト・エルゴ・スム。

「そうそう、パスカルなんて顕著じゃないか。物理学者転じて哲学者。フィロソフィとフィジックは語源が同じ」

 だがフィジカルとメンタルは。

「だからそういう言葉だけの反論はアンタイテーゼにもならないよ」

 アウフヘーベンできないてか。

「そうそう、わかってきたじゃない。そこまでわかれば目覚めのときも近い」

 目覚め?

「そう、きみはそろそろ起きなきゃ。じゃ、いくよ」

 どこに行くんだ。

「きみは意識の表層へ。ぼくは井戸の中へ。井戸の水を汲んでひと口飲んでぼくはせいいっぱいの笑顔を浮かべるんだ。それが最後のひと口だからね」

 お前に笑顔は似合わない。

「そうかな。ぼくがここで笑ったら、きみはぼくの笑顔を望んでいるってことだよね」

 おい、やめろ。

「アウフ・ヴィーダーゼェン」

 やめろ。お前の笑顔は見たくない。

「夢から醒めたまえ」

 やめろって。

 チェシャ・キャットのようににっこり笑った顔をのこしてやつはだんだん見えなくなった。


***


 起きた。

 しかしあと味が悪く、おれは瞼を閉ざしたまま身じろぎもしなかった。方言混じりのイントネーションの若い女の声が聞こえてきた。

「よぉ寝てるねぇ。マスター一服盛ったんじゃないの」

「ばか言え」

「でも好都合よ」

「そうでもないぞ。いつ起きるかわからん」

「じゃ、起こして帰すの」

「そういうわけにもいかんだろ」

「でもうちらこのあんちゃんのためにずっと待ってるわけにもいけないでしょ」

「私はかまわんがね」

「そりゃ、マスターはここにいればええけどね。うちにも予定ってもんがあってね」

「初耳だな」

「そりゃ今までマスターの予定に合わせてたんよ。マスターの予定には合わせられるけど、こんな得体のしれんあんちゃんには合わせられんよ」

「袖ふれあうも他生の縁ってことばもある」

「え。もしかしてマスター、このあんちゃん巻き込むつもりなん」

「一種の運命だな」

「ちょっと待ってよ。うち、いやや」

「そんな大仰なことじゃない。ちょっとお使いを頼むだけだ」

「そのお使いが大事なんやないん。あかんてそれ」

「なんでいかんのだ」

「だってあかんやん」

「理由になってないな」

「そりゃ、理屈やないもん。うち、この人知らんし」

「私も詳しくは知らんが、見た感じ信頼おけそうだぞ」

「そんな、外見で判断されてもねぇ。うち、顔すら見てないのよ。突っ伏して寝てるし」

「まあ、まだ時間はある。全員揃うまで待とうか」

「あんなやつ待たんでええやん」

「それはひどいな」

「だってあんな訳わからん」

 おれは目を開けて頭を少しあげた。マスターと目があった。

「モルゲン」

 マスターが言った。

「あ、やっと起きたん。おはようさん」

 おれは女のほうに顔を向けた。

 目がちかちかして焦点が合わない。

「起きたてほやほやのとこ悪いけど、ここ寝るとこと違うよ」

「ああ、申し訳ない」

「まだ昼すぎやし、寝てええ時間でもないし」

「悪かった」

「シエスタにはまだちょい早いわ」

 妙に絡むな。

「シエスタの習慣はない」

「じゃあ起きたら、何するん」

「何を」

「起きたら、顔洗ってきぃ。洗面所あっちやで」

「あ、ああ。わかった」

 言われるまま、おれはよろよろと立ち上がった。体よく追っ払われたのだろう。

 顔を洗いながら、さっきの目をつぶったままきいた会話を考えた。いったいおれは何をさせられるのだろうか。

 おれはわざとゆっくり時間をかけて顔を洗った。おそらく、マスターとあの姉ちゃんはおれの処遇を相談しているだろう。そのためにおれに顔を洗いに行かせたに違いないのだから。だからすぐに戻らないほうがいい。

 おれは席に戻る前に、マガジンラックから雑誌を適当に取り出した。雑誌と思ったのは間違いで、絵本だった。

 おれは絵本をぱらぱらと流し読みしてから席に戻った。


***

 

 おれが席に戻ると、娘はおれの席の隣に腰かけていた。

「ちょっと聞きたいんやけどな、兄ちゃん」

 おれはこの娘のほうを向いた。芯の強そうな、それでいてなかなか端正な顔立ちをした娘で、おそらくおれと同年輩か少し下。兄ちゃんの呼称は、年格好から言えば妥当に思う。

「手早く頼む」

「兄ちゃん少しお使いする時間あるか」

「頼まれごとは趣味じゃない」

「そうなん。でも誠心誠意頼んだら」

「同じだろうな」

「だけどな、兄ちゃんこの後暇やろ」

「貧乏暇なしだ」

「うっそやぁ。兄ちゃん暇そうやんか」

「なぜそう思う」

「こんな真昼間から喫茶店で寝てる」

「逆だ。寝る暇もないからここで仮眠をとった」

「仮眠ちゅうほどには寝てへんやろ」

 おれは時計を見た。寝てたのは二十分くらいか。

「おれにとっては十分だ。いや、二十分だ」

「ちょっとくらい時間作れるやろ」

「時間にもよるな。頼む人にもよる」

「十五分くらい。うちの頼み」

「可能だが、駄目だ」

「なんやねん、うちの頼みを聞けへんっちゅうの」

「おれはあんたを知らない」

「うち、あんたの生き別れた双子の妹やで」

「ばかも休み休み言え」

 自称双子の妹は苦笑いした。

「うちもあんたを知らんけど、頼もうって言うんやないの」

「内容と報酬によるな」

「そうやなあ、ここの代金ちゃらにしたるわ。それでええよなマスター」

「勝手に決めるな」

 マスターが口を挟んだが、継ぎ足した。

「だがまあ、それでいいなら好都合だ」

「決まりや」

「勝手に決めるな」

 おれはマスターと同じ言葉を発した。

「ここの代金だけじゃ動けんな」

「じゃ、兄ちゃんなにが欲しいん」

「おれは人探しをしている。協力してくれるか」

「あかんあかん。うちら暇やないねん。どこの誰だかわからん人を探してる時間ないんよ」

「探してくれとは言わないよ。情報をくれればいい」

「知ってる範囲だけでええんか」

「知ってる範囲だけでいい」

「ならええよ。困ったときはお互いさまやしね」

「そうだな。じゃ、そちらの頼みごとを聞こうか」

「お、乗り気やないの」

「気乗り薄なんだがね」

「じゃあマスター、頼むわ」

「なぜ私が。頼んでいるのはお前さんだろう」

「だってマスターの頼みやん」

「だが交渉したのはお前さんだ」

 結局折れたのはマスターだった。マスターは説明を始めた。

「立って、まっすぐという名の路地に行き、突当りの家にこの袋を置いてくるのだ。置く場所は、郵便受けと玄関の前を避けてほしい。門に扉はないから中に入れる。ぐるっと右回りに回るとテラスがある。その辺りがよいだろうと思うが、臨機応変だ。他人には見つからず家人には見つけやすい場所を選べ」

 マスターはそう言って紙の袋を渡した。

「中身はなんだ」

「知らないほうが身のためだ」


***


  おれは紙袋を眺めた。

「爆発したり毒ガス吐いたりしないだろうな」

「それはない」

「壊れものか」

「そうだな。あまり粗雑に扱わないほうがいいだろう」

 なぜこいつらが自分で行かないのか気になったので、聞いてみた。

「なぜおれに」

「そうだな。強いて言うなら、顔つきだな」

「顔つき?だれの?」

「兄さんのだよ。あんた自分でどう思ってるか知らないが、いい顔してるぞ」

 そう言われて悪い気はしない。

「ほな、行ってきい」

 自称おれの双子の妹、訛り娘の声に押されておれは紙袋を手に取り、立ち上がった。

「ちゃんと戻ってきて、首尾聞かせてやあ」

 おれは店の外に出た。

 小春日和の秋の陽射しがおれを斜めから包んだ。まだ昼の範疇だがこの時期の太陽はすぐに傾く。急ごう。

 しばらく歩いてからおれはあることに気づいた。

 手渡ししないのだ。生ものだと日影に置かなければならないだろう。

 マスターは、中身は知らないほうがいいとは言ったが、開けてはいけないとは言わなかった。

 おれは紙袋を開けた。

 中には小箱が入っていた。

 二つも禁を犯す気にはなれなかったので、おれは紙袋を閉じた。二重包装なら、大丈夫だ。きっと。

 おれはまっすぐという路地に出て突当りを目で追った。

 まっすぐ通りは、曲がっていた。

 看板に偽りありとはこのことだ。

 もしかしたら昔はまっすぐだったのかもしれない。

 まっすぐだった道の路傍に張り出し商売繁盛露天商、評判よくついに店舗を構えるが途端に売れ行き激減、手を変え品を変えたつきの道を模索するも一度離れた運気は戻らず、藁を掴む思いですがった占い師に場所が悪いと言われる。ではどこがよろしいかとの問に占い師は、まっすぐ通りの路傍がよろしい。商人はまっすぐ通りの露天商に戻った。たちまち運気は戻り上昇し、やはり店舗を構えようということになるが、前の轍は踏まぬとまっすぐ通りの家を買い取り軒先を開放して道に張り出し商売した。それが効を奏したか、三代かかっても使いきれないほどの財をなした。そのときの張り出し店舗のせいでまっすぐ通りは曲がっているんじゃよ。

 とくだらぬ昔話を作りながらまっすぐ通りを歩いていくと、別の通りに出た。

 突当たらないじゃないか。


***


 おれは道を間違えたかと思った。しかし、間違いではなかった。まっすぐ通りは曲がっていて、突き当たらないのだ。突き当たらない道にある突当りの家とはどこのことだ。

 ガキの使いだなあ。おれは思った。双子の妹に、兄ちゃんガキの使いやなあ、と言われるのが目に浮かぶ。

 こんなとき、おれはいつも逃げるという選択肢を取ってきた。今回もそうしよう。

 おれは戻らないことに決めた。

 やつを探す手がかりなど、あいつらからじゃなくても得られる。 そう信じる。

 とたんに手に持った紙袋を持て余した。どうしてくれようこの袋。どこかうまい具合に手放せればよいのだが。

 おれはもときた道を戻りながらうまく紙袋を隠せる場所を探した。まっすぐ通りが曲がっている場所にたどり着いたときに、ここならジャストフィットではないかと思いついた。

 そこは民家になっており、門扉はなかった。三歩ほど奥にメイルボックスが立っており、玄関がでんと構えていた。しばらく耳をすまし、おれはこの建物に活動的な住人がいないことを確認した。見つかって騒がれたらあとが面倒だ。おれはメイルボックスの右側に足を運んだ。

 建物の側面はテラスになっていて、小さなテーブルとそれに見合う木製の椅子が並んでいた。

 おれは右手にもった紙袋に視線をやった。椅子の色と似たライトブラウン。色はぴったりだな。

 おれは左端の椅子のうえに紙袋を置いた。

 大きさも、ぴったりだ。

 ここの住民が紙袋を見つけてどう思うか知らないが、もうおれの手は離れた。この場所を首尾よく離れて、おさらばだ。

 おれは音を立てないように家の敷地から脱出し、まっすぐ通りを戻った。途中誰かに見られている様子はなかった。つまり誰にも見られていないということだ。マスターとその一味には悪いが、おれを信用したあいつらが悪い。どこが悪いって、アタマが悪い。人を見る目がなかった。おれの責任ではない。だいたい見ず知らずの人の頼みを聞いてやらなきゃならない義理もないのだ。おれにとってあいつらの頼みを聞き遂げることがなんの得になるというのだ。やつの情報を持っていないか尋ねるつもりではあったが、はなからあいつらが何らかの情報を持っていることは期待していない。何か有力な手がかりがあればラッキーというだけで、空振りに終わる可能性のほうがずっと大きい。いや、確実に空振ると言い切ってもいいくらいだ。

 結論はひとつ。おれは紅茶の代金と引き換えに、時間を無駄にした。

 まっすぐ通りを抜けて戻る途中におれは紅茶専門喫茶店のそばを通ることに気づいた。

 しまった。

 おれは一本手前の路地を通ることにした。したつもりだった。

 しかし、おれの目の前には、紅茶専門、の看板があるのだった。

「あ、帰ってきた。おかえり兄ちゃん」


***


「ま、中にお入り」

 しまった。捕まった。

 促されるままおれは喫茶店の中に入らざるを得なくなった。

「すぐわかったか」

 マスターが声をかけた。

「どこに置いてきたん」

 双子の妹も声をかけた。

 おれは言葉に詰まった。

「まあ、飲んでくれ」

 マスターがグラスに入った水をくれた。おれはそいつを飲み干した。詰まっていた言葉が流れ出ようとして、思い止まった。何をどう説明しようか。どこまで正直に話そうか。おれが袋を持っていないからどこかに置いてきたのは分かってるだろうが、どこに置いてきたというのかが問題だろう。しかしこいつらもそんなに気になるなら自分で行けばよかったのだ。

 おれは正直に話すことに決めた。

「まっすぐ通りは、曲がっていて、突き当たらなかった。道が曲がるところに民家があったのでそこのテラスの椅子の上に置いてきた」

 おれは早口で言い切り、反応を待った。

「もう一回、言ってくれんか」

 マスターがそう言ったのでおれはもう一回同じ言葉を繰り返した。

「そうか、忘れてたぞ。あの道が開通してまっすぐ通りにつながったんだ」

「それだいぶ前の話やで。なんで忘れてんねん」

「そうなると計画を変更しなければならんな」

「また変更なん」

「まあよい、微調整だ。それより、本題に戻ろう」

 マスターはおれのほうに向き直った。

「兄さんが置いてきた家は、通りに面して玄関があったか」

「通りから三歩か四歩入ったところに玄関があった」

 おれは思い出しながら答えた。

「向って左側に、黄色い箱型の郵便受けがあったか」

「左側に郵便受けはあったが、緑色で、円筒型だったように思う」

 記憶違いかと訝りながらもおれは自分の記憶に正直に答えた。

「玄関に向って右側に回るとベランダがあったか」

「ベランダ、と言われるとそうだと答えるが、木製だから一般的にはウッドデッキというと思う」

 ここは自信あり。

「ベランダでもウッドデッキでもいいが、そこにはベゴニアの鉢植えがあったか」

「見なかったな。あったかもしれないし、なかったかもしれない。ただ、日陰になっていたから普通は鉢植えをそんなところに置かないんじゃないか。それから、おれにはベゴニアとその他の鉢植えの区別はつかない。もしあったとしても、ベゴニアかどうかはわからない」

 今度はサービスして、聞かれていないことも答えてやった。

「ウッドデッキにあったテーブルと椅子の色はなに色だった」

「ライトブラウン」

「椅子の上に置いてきたのか」

「そうだ」

 マスターは相好を崩した。

「完璧だ。私の見込みに狂いはなかった」

「おれはお使いを果たせたのか」

「そうだ。あの不確かな情報でよくやった」

「我ながらそう思うよ」

 おれは再度グラスに手を伸ばした。グラスの中身は空だった。

「もう一杯いるかね」

 おれは少し図に乗った。

「うまい紅茶を淹れてくれないか」


***


 マスターが紅茶の準備をしている間に双子の妹が寄ってきた。

「ところでさ、兄ちゃんて割と暇のあるひと?」

「暇があると言えばあるし、ないと言えばない」

「何も答えてへん答えやね。聞き直すわ。予定のあるひと?」

「予定は常に予定外の行動で一杯だ」

 あはは、と妹は笑った。

「今度はおれから質問だ。おれが届けた紙袋の中身はなんだ」

「紅茶。ダージリンとアールグレイ」

「届け先は」

「お得意さん」

「代金はもらわないのか」

「もうもらってる」

「あんたはこの店の店員なのか」

「違うよ」

「馴染みの客か」

「そういうわけでも、ないなぁ」

「マスターと仲がいいようだが」

「仲がよくても、客とは違うんよ」

「だが」

 妹は唇にひとさし指を当てた。

「大人の女にはいろいろあるのよ」

「そういう関係でもなさそうだ」

「ありゃ、わかるかしら」

「わかるもなにも、そう思わせようとすらしていない」

「そうやね。その通り」

 おれは一歩踏み込んだ。

「計画とはなんだ」

 妹は困ったような顔を見せた。

「知りたい?」

「だから聞いてる」

「知ったら、もう後戻りできんようになるわよ」

「どこに戻るというんだ」

「安穏な生活」

「そんなものにはついぞお目にかかったことがないな。おれの届けたものは計画と関係あるのか」

「さて、ね」

「おれに暇かと聞いたな。それも何か関係あるのか」

「内証話はそこまでだ」

 マスターが三杯のティーカップを載せたトレイを持って、立っていた。

「楽しそうな会話じゃないか」

「この兄ちゃん、計画を知りたいんやて」

「知ってどうする」

「知りたいだけだ」

「火傷するぞ」

 おれは逡巡した。子どもの頃大やけどを負ったことがあるのを思い出した。おれは首を振って嫌な思い出を振り払った。

「何の計画なんだ」

「知ってどうするというのだ」

「知りたいだけだ」

 おれは最前の科白を繰り返した。

「好奇心は猫をも殺す、という言葉を知ってるか」

「退屈は犬を殺す、という言葉を知ってるか」

 おれは言い返した。退屈が殺すのは犬じゃなかったような気もする。だが、まあ、なんでもよい。

「退屈なのか」

「そう言えなくもない」

「だから私たちの計画を知ろうとしているのか」

「そう言えなくもない」

「そして私たちの邪魔をしようというのか」

「そう言えなくも・・いや、邪魔はしない」

「邪魔しないなら知る必要もないだろう」

「そうでもないだろう」

「そうであってもなくても、私たちは邪魔されるかもしれないことを考慮しなくてはならなくなる」

「そうでもないのではないか」

「残念ながら、私はそんなに楽観的ではない」

 マスターは言い放った。


***


 だがおれはマスターがおれに何かの役割を振ろうとしているのを知っているわけだ。おれの役がさきほどのお使いで済んだのだとしても、あのお使いの意味を尋ねてもいいだろう。

「おれが運んだ物はなんだ」

「知らないほうが身のためだと言ったはずだが」

「なぜ、知らないほうが身のためなのだ」

「それも、知らないほうが身のためだ」

「紅茶を運ぶことが知らないほうが身のためなのか」

「兄さんが運んだのは紅茶だったのか」

「違うのか」

「違わんよ」

 双子の妹が口を挟んだ。

「違わないのか」

 おれは問いただすように言葉を発した。

 マスターは愉快そうに笑った。

「違わんな。兄さんが運んだのは紅茶だよ」

「なぜ隠そうとする」

「隠そうとはしてないがね」

「隠そうとしているだろう」

「そう見えるかね」

「では質問を変えよう。なぜ紅茶を運ぶことが知らないほうが身のためなのだ」

「さあ、なぜだろうな」

 マスターはまた笑った。

「言いたくない理由があるのか」

「そうだな。強いて理由をあげるのなら、面倒だからだ。理由を説明しても、兄さんの疑問は尽きないだろう。質問が質問を呼ぶが全てに回答したとしても理解はできない。理解するためには私たちと同じ立場に立たねばならないが、そうまでして知る必要があるのかね」

「人を使役して説明を欠くのは道義にもとるのではないか」

「使役したのではなく、お願いしたのだが。たとえそうであっても、説明が必要なのは使役した後ではなく、する前だ」

「人を使ったあとはもう知らないと?」

「世の中そういうものだろう」

 おれは少し考えた。マスターの言うことにも一理あるかもしれない。そう思った時点でもう説得されてしまっているのだが、思ってしまったものはもうどうしようもない。おれは説得されてしまった。

「マスターの言うことに納得したわけではないが、マスターの意向はわかった。では、約束を果たしてもらおう」

 おれは言い、やつの写真を出そうとして、あれ、どこにやったか。もしかして落としたか。どこだ。どこで落とした。紅茶を届けているときか。それともその前か。おれは写真を二つ折り財布に挟んでおいた。運び屋時代に財布は触ってない。最後に触ったのはいつだ。いや、待て、おれはいま、財布を持っているのか。上着の内ポケットにはない。子どもの頃に尻ポケットに財布を入れて落としたことがあるので、おれは絶対に尻ポケットに財布を入れない。無意識のうちにも尻ポケットに入れることはない。第一候補である上着の内ポケットにないなら、上着の外側のポケットか。

 ない。

 写真だけでなく、財布もない。

 おそらくおれはいつもの習慣どおり上着の内ポケットに財布を入れていただろう。運び屋をやってたときには上着のボタンははめていた。つまり外では落としていない。とするとここにあるのか。あるに違いない。あってくれ。

「すまない。黒い二つ折り財布を見なかったか」

 おれは一縷の望みにすがった。


***


「もしかしてこれのことかー」

 双子の妹がおれの心情とは正反対の妙に間延びした声でおれの背後から声をかけた。おれはそちらを向いた。

「そうだ。返してくれ」

 おれはちっちゃな冒険をして戻ってきたおれの財布を受け取った。

 やつの写真もちゃんと挟まっていた。

「今日、こいつを、見なかったか」

 おれは妹に向って質問した。よい答えが帰ってくるとは思えなかったが、儀式の一環だ。

「今日は見てない」

 やっぱり。いや、待て、今日はってなんだ。

「今日は?」

「そう。今日は見てない」

「昨日は?」

「昨日も見てない」

「いつ見た」

「見てない」

 脱力した。こいつというやつは。

「でも、知っとるよ」

 知ってる?

「何を知ってる?」

「何をって聞かれてもなあ」

「知合いか」

「知合い、知合いね、うーん、違うかも」

「こいつと逢ったことが、あるのか」

「あるかもわからんね」

「どういうことだ」

「兄ちゃん質問は頭使わなあかんで。黙っとったら周りのひとが気ぃ廻してなんでも教えてくれる思ったら大まちがいや」

「教えてください」

「うち丁寧に言い直せなんてゆうてへんで。兄ちゃんの聞きたいことがなんやっちゅうのをはっきりせえ、ゆうてんの」

 おれは少し考えた。考えても結論は出なかった。とりあえず手当たり次第に質問してみよう。

「あなたは、この、写真の、ひとを、知って、いますか」

 おれは、フレーズごとに区切って、ゆっくりと、はっきりと、言い聞かせるように、発音した。

 双子の妹は目を細めた。ちょっと苛立っている感じだ。

「あのな、兄ちゃん暇人なんやろうから気にならんかもしれんけど、そんな聞き方やったらえらい時間食うやろ」

 逆鱗に触れたらしい。龍の珠を手に入れるためにはどうすればよいのだろうか。龍の珠だけに、雷は覚悟しなければならないのか。

「もうええわ。知ってることならなんでも答えたるけど、質問はみっつだけや。じっくり練った質問してみい。十分だけ、待ったる」

 口八丁手八丁、八丁味噌なら手前味噌のおれにとってこういうミッションは苦手だ。苦手なことは避けてきたおれにとってこういうお題はホントウに苦手だ。

「みっつしか質問できないのか」

「それが、ひとつめ?」

「いや、撤回する」

 おれは考えた。苦手だとわかっているものに対して努力することは難しい。その難しさはおれの想像を超えて難しかった。いつものおれなら適当な質問から発展させて発散させて醱酵させたこたえを発行・発効・八紘一宇の手八丁口八丁味噌、てとこなのだがおそらくそうもいくまい。この自称双子の妹は思った以上に聡いのでおれの換言に惑わされないだろう。


***


 こういう場合は初心に帰るべし。みっつの質問はニーベルングのドワーフがヴォータンにしたことがあるという。かの者が命をかけた小人の質問とは、

一、天上に住まう種族は何か

二、地上に住まう種族は何か

三、地下に住まう種族は何か

というものであった。

 ・・・

 ・・・・・・

 なんてくだらない質問をしたのだ。事実、質問者はヴォータンにくだらない質問だと酷評されている。

 教訓。くだらない質問をすると、ばかにされる。さらに、命まで取られてしまうかもしれない。

 ラインの昔話に教訓を求めるほうが間違っているか。

 あと五分しかない。

 指環は、どうでもいい。たとえそれがラインの黄金で作ったものであっても、世界を統べる印であっても。

 おれが知りたいこととは、やつがどこにいるか、だ。たとえここにいる連中がやつと知り合いであってもそうでなくても、今はあまり関係がない。そうだな。

 しかしここの連中がやつの居場所を知らない場合、おそらくそうなのだろうが、その場合にはやつがどこにいるかを知ってそうな人物を紹介してもらう必要がある。それすら知らないなら、用はない。

 いや、違うような気がするな。

 こいつらはやつを知ってそうな気がする。あるいは、やつをかつて知っていたような気がする。ここはひとつ、やつを知っていることを基に組み立ててみよう。

一、やつがどこにいるか知る手だてがあるか、あるならそれは何か。

二、やつがどこにいたかを知る手だてはあるか、あるならそれは何か。

三、やつをいつどこでどういう経緯で知ったのか。

 こんなところか。

「時間やで。兄ちゃんの質問を聞こか」

 おれはひとつめの質問をぶつけた。

「複文の質問かあ。個人的には、反則だと思うんやけど、禁止せんかったうちが悪いんやね」

 妹は言い、言葉を紡いだ。

「いまどこにいるかを知る手だてはたぶんある。でも、たぶん、としか言えん。確実なことやないし、もしかしたら間違とるかもしれん」

「確実なことじゃない?」

「そ。でも世の中で確実なことは、否定文でしかあれへんやろ。初めて逢うたひとに聞かなあかんくらい八方塞がりなんやったら、じゅうぶん試す価値あると思うけどな」

「そうだな。答えの続きを聞こう」

「あんまひとに言ってええこととちゃうねん。この方法を取るって決めたら、教えたるよう努力したるわ。マスターとも相談せなあかんし」

 妹はマスターのほうを向いた。マスターは目を瞑って首を振っていた。

「あかんようやなあ。悪いんやけど、今言ったことは忘れてくれい」

「じゃあ、ひとつ目の質問の回答はなしか」

「いや、答えるで。知りまへんわかりまへん」


***


 おれはふたつめの質問をぶつけた。

「さっきとほとんどおんなじやん。そんなん、答えもおんなじや。知りまへんわかりまへん」

 しまった。ちょっと考えれば質問する前からわかりそうなもんだ。

 おれはみっつめの質問をぶつけた。

「かなり際どいなあ。話してええんかなあ。あかんやろなあ。ちゅうことは、また答えはおんなじや」

「なんでも答えるっていっただろ」

「答えとるやん」

「答えになってない」

「そりゃ違うで。質問には、ちゃあんと答えてます」

「だからそれは」

「求める答えと違うんなら、質問があかんかったんやろ」

 相手が答えられる内容の質問をしろということか。

「けどな、いま兄ちゃんが言うたみっつの質問を一気に解消する方法があるで」

「なんだそれは」

 妹はかすかな笑いを浮かべた。

「こっから先は、別料金」

「望みはなんだ。カネならない」

「では、躯で払うてもらおかー」

「どうすればいい。新薬実験体とかはお断りだ」

「断られてもた」

「あまり、からかわないでくれ。あんたらがおれに協力してくれないのなら、他をあたる」

「無理やろね」

「何が」

「他をあたっても、無理やろね」

「どういう意味だ」

 妹は答えず、意味ありげな表情をつくった。

「あんたらのほかに、やつを知っている人はいないのか。そう断言できるほど、やつの足取りは残っていないのか」

 相変わらず、答えはなかった。

「つまり、こう言うんだな、おれが追いかけているやつは、あんたらにしか手がかりを残しておらず、その手がかりを得るためにはおれの躯が必要で、どうすればいいのかは教えられない、と」

 おれは二人を順に睨んだ。

「こんな中途半端なヒントを与えられた場合、どうすればいい?あんたらの体に聞けばいいのか。荒事はあまり好きじゃないんだが」

 実は、好きじゃないだけではなく、得意でもない。だがこういうときだけは虚仮威しのでかい体がものを言う。いや、ものを言ってほしい。相手は女と老人だ。

「好きじゃないことも、ときにはしなければならないんだろうな」

「兄さん」

 これまで沈黙を保っていたマスターが口を開いた。

「あんたは、あんたが追っかけている人物が何者だか、知っているのか」

「知らなきゃ追いかけられないだろう」

「そうだ。だが、聞いているのはそういうことじゃない」

「どういうことだ」

「考えろ」

 おれは考えた。ある答えが浮かんだ。しかしおれはその答えを無視した。

「わからん」

「なら、問答の時間は終わりだ」

「そういうことなら、おれの答えも決まってくるな。知らない、と答えておこう」

「誘導尋問の答えだけを聞かされても、どうしようもないが、サービスだ。あんたがどうしてこいつを追いかけてるのかは知らないが、手をひいた方がいい」

「どういうことだ」

 さっきも発した科白だったが気にする暇もなくおれは言葉を返した。


***


「そのままの意味だ。あんたがひとりで扱うには大きすぎる、と私は思う」

「やつはそんなに大物なのか」

「だから私は先ほど聞いたのだ。あんたが追いかけているのが何者か知っているのか、と。その様子では、知らないようだな」

「ああ、知らないらしい」

 おれは認めることにした。

「あんたの後ろにいるのは誰だ」

 おれは後ろを振り返った。

「誰もいないぞ」

「そういう意味じゃない。鈍いふりもいい加減にしろ。あんたのクライアントは誰だ」

「答えようがないな」

「それは名を出せないという意味か」

「答えようがないという意味だ」

 マスターは肩をすくめた。

「あんたが誰かに使われているのなら、そう答えざるを得ないだろうが、依頼人ともども手を引いたほうがいい」

「おれに依頼した人物がいるとは知らなかったが、もしいたとしてもそんな答えじゃ納得しないだろう」

「自分の身が可愛ければ適当にでっちあげろ。そういうのは得意だろう」

「いるかいないかもわからない依頼人を引き合いに出すべきじゃなかった。言い直す。そんな答えじゃおれが納得しない」

「わかってないな。私はあんたを説得してるんじゃない。忠告してるんだ」

 おれは少し考えた。そして、言った。

「やつを追える人物あるいは組織は、存在しないというのか」

 マスターも少し考えた。そして、答えた。

「存在しないことはない。だが、非常に特殊だ。一般的には存在しないだろう」

「おれが知っている限りでは、やつは暴力的というわけでもない。危険だとは思えない」

「純粋な暴力という点で言えば、その通りだろうな」

「やつを追いかけているとどう危険なのだ」

 マスターは答えなかった。

「やつを追いかけていると誰が危険なのだ」

 マスターは答えなかった。

「やつを追いかけていると困るやつがいるのか」

 マスターはゆっくりと顔を上げ、おれのほうを向いた。そのとき、入口扉に取り付けられた鈴がからんからんと鳴った。

「お待たせ」

 入ってきたのは、おれと同じくらいの年格好の男だった。

「いやあ難儀した。マスターあんた無茶ばっか言うなあ。簡単に言ってくれたけど、かなり大変だったぜ。でも、まあ、見つけてきたよ。これが頼まれたものだ。で、これからどうするか決まったか」

 おれを見た。

「ええと、こちらのお方は?」

 マスターを見た。

「なんというか、まあ、部外者だ」

「ありゃ、それはそれは。でも、なんで部外者がここにいるの?」

「客だからな。金は払っていないが」

「マスター、あんた店開けたままだったのか」

「ああ、うっかりしていた。だがそのおかげで例のものは運んでもらったよ」

「そう。じゃあ、次のやつも?」

「この兄さん次第だが、今のところそういう依頼はしていない」

「どういう活動だか説明したの?」

 興味深々な会話をし始めたのでおれは妹に向かって尋ねた。

「活動って、なんだ」


***


「うちらの倶楽部活動というか会合というか、その活動のことなんだけど、兄ちゃん部外者やからなあ、あんま詳しく話せんのよ」

「詳しくなくていいが、何をしてるんだか教えてくれ」

「入会せな話されへん」

「聞かなきゃ入部できないだろう」

「聞いたら退会できんようになるよ」

「入会すればいいことがあるのか」

「うーん、特にないわ。たまに報酬が出る」

「悪いことは」

「特にないような気がする」

「幽霊部員は認められるのか」

「幽霊会員は今んとこ、おらん」

「部員は何人いる」

「入会せな教えられん」

「とりあえず話を聞きたい」

「だから話せんのやって」

「ならば、マスターに聞こう。マスター、どういう部活動なんだ。営利目的か非鋭利なのか」

 マスターはおれを見た。

「答えねば、ならんのか」

「答えてもらわねば、ならんな」

「なら、そいつに聞け。うまく説明してくれるだろう」

 マスターはそう言って、先ほど入ってきた男を見た。

「あっちゃあ、貧乏籤てのはこういうこったな。貧乏、暇なし、籤まで、貧乏、このままじゃバッターボックスに入ればビーンボールが来る。当る球ありゃ拾う珠あり、鰯のあタマもタマ拾いも新人から。タマにはこういうお役目もいいか。さて、何をお聞きになりたいのかな。遠慮なく聞きタマえ」

「いくつも聞きたいことはあるんだが、最初に聞きたいのはこれだ」

 おれはやつの写真を見せた。

「こいつを、知っているか」

「知ってるよ」

「どこにいるか、知っているか」

「しらない。どこにいたかは知ってる」

「どこにいた。それはいつのことだ」

「駅周辺で見かけた。さっきだ」

 予測どおりではある。

「どこに行ったか、予測がつくか」

「二、三候補はある」

「あんたはこいつと知合いなのか」

「そういうわけでもない」

 自称妹と同じ答えだ。

「どういうわけだ」

「かなり有名人だこいつ」

「そうなのか」

「そうなのだ」

「不聞にしておれは知らないのだが、どういう分野で有名なのだ」

「あんたはこいつと知合いなのか」

 さっきおれが発したのと全く同じ質問を返された。

「ああ。知ってる。よく」

 おれはちょっと戸惑いながらも答えた。

「もしかして、あんた、違う世界のひと?」

「あんたらの世界を知らないから、なんとも言えんな」

「そっか。それを説明すればいいんだな」

 おれに向ってではなく、マスターに向って言った。

「そうかもしれんし、そうじゃないかもしれん。私にもこの兄さんが何を聞きたいのかわからんのだ」

 マスターは物憂げに答えた。


***


「よし、兄さん、あ、そうだ、あんたのコショウを決めておこうか」

 コショウ?故障?胡椒?湖沼?

「我々の世界では本名で呼びあうことはめったにない。とはいえ個体を認識できる固有名詞がないと不便だからな」

 ああ呼称か。

「おれのことはラオって呼んでくれ。あの女はナミ、マスターはオモイカネ」

「そんな名で呼ばれたことはない」

 マスターは口を挟んだ。

「うん、冗談だ。あんたのことはとりあえずナギと呼ぶことにしよう」

「ナギ?」

「聞くところによると、あんたはナミの生き別れの双子の兄なんだって?だからナギ」

 いつの間に聞いた。誰から聞いた。ナミの兄だからナギ?

「じゃ、ナギ、おれたちが何をしてるかというと。あ、そうだ、その前に、あんたは入会希望者なのか」

 今までの人生で呼ばれたことがない呼称(故障にあらず)で呼ばれることは決定してしまったようだ。

「さあ。なんだかそういうことになりそうだ」

「主体性がないんだな。それもまたよし。主体性の強いやつは客観的になれないからな。あんたはどちらかというとオブザーバーのタイプだろう」

「自分をティピカルに分類しないことにしている」

「まあいいや。入会にあたってあんたがやらなきゃいけないことがいくつかある」

「その前に。どういう会合だか教えてくれ」

「まあ待て。部外者に対して情報を与えることは危険を伴うのだ。こっちの都合も考えてほしいものだな。少なくともあんたはおれたちの世界の人物を知っていたのだから、その筋の、つまりおれたちの敵との繋がりがないとは言い切れないだろう」

「おれはあんたの世界におけるやつの正体を知らない。それではいけないのか」

「あんたがそう言ってるだけだ。保証はない」

「そんなことを保証できるやつがいるものか」

「確実な保証はできないとしても蓋然性のある保証なら不可能ではない。とはいえ、おれもそんなものは求めていない。おれが言いたいのは、まず槐より始めよ、ということだ」

「どういうことだ」

 この質問を多用している気がするな。

 ラオは肩をすくめた。それから、マスターのほうをちらりと見て、また視線をおれのほうに戻した。

「マスターがいらついてた理由がわかったような気がするよ。いいか、おれはマスターほど優しくない。おれの言葉の意味がわからなければ問答は終わりだ。出口はわかるな」

 マスターほど優しくないと言っている割にはマスターと同じことを言う。 しょうがないのでおれは頭を振り絞って答えた。

「それは、将を射んと欲さばまず馬を射よ、と同義と取ってよいか」

 比喩には比喩で答えるべし。

 ラオは少しの間考えた。

「それは少し違うんじゃないか。だがまあ、合っている可能性もあるな。聞いてやる。話してみな」

 おれは話し始めた。


***


 おれが初めてやつと出会ったのはもうだいぶ前のことだ。おれがこの町に来る前だ。

 おれはあるストリートパフォーマーたちと知合いだった。

 そいつらは二人組でパフォーマンスを行っていた。一人はジャグラー、もう一人はパントマイマーで、相方とは互いに別のことをやっており、パフォーマンスの面では特に協力関係にはなかった。おそらく一人ひとりでもやっていけたかもしれない。観客の制御や集金はパフォーマンスをしていないほうが行っていて、そういう面ではパートナーだった。パフォーマンスの、ではなくビジネスの。

 また、そいつらは互いに互いの分野で師弟関係を結んでおり、空いた時間で相方の技を習得しようとしていた。そのせいもあったのか、互いの分野と技術に対する尊敬を欠かすことなく、割とうまくやっていたようだった。技術的にも悪くなく、人気もまずまずで、そういった面でもうまくいっていた。

 だが、うまくいかない面もあった。こういう場合に必ず出てくる話だ。

 おそらくもともとは二人ともどちらのパフォーマンスで稼いだかを問わず収入は山分けかそれに近い形でやっていたと思うのだが、だんだん日によって収入が偏り始めたのだ。最初のころは運のひとことで片付けていた二人も、そういうわけにはいかなくなってきた。また、観客のリクエストによってパフォーマーを入れ替えざるを得ない日も少なからずあった。そういう日はそうじゃない日に比べて歴然とした収入の違いがあった。

気づかないふりをしようと努力していた二人であったが、もう無視することは難しかった。もともと、人気商売なのだからそういった点には敏感なのだ。

 技術の面でどちらが高度であったかを判断する目をおれは持っていなかったから、二人の収入格差が正当なものであったかどうかはなんとも言えない。もしかしたら本当に運気が別れただけかもしれないし、流行り廃りの問題かもしれない。だがたとえ評価基準が確固としたものではなかったとしても、評価の違いがもたらす結果は非常に非情に強い。二人は話し合いの結果、自分の稼ぎは自分の懐へ、ということを決めようとした。そのときは双方にとっていいことだと思ったのだろう。収入が多くなるほうには自分の稼ぎだという意識があったし、そうじゃないほうにも矜恃はある。世の人は矜恃を金で買ったり金を払って矜恃を得たりしているからこのふたつのファクターの因果は強い。たぶん。

 そのように均衡が崩れかけていた二人だったが、表面上は今までどおりにみえたことだろう。

 さて、順風吹きよせているかに見えてその実マストが軋む音を立てていた二人を、ある事件が待ち構えていた。


***


 たまに、ごくたまにだが、彼らと活動場所を同じくする芸人がいた。そいつはマイムもジャグリングもやらなかった。そいつの商売道具はバイオリンで、まあまあの腕前を持っていた。普段は二人の町にはいなかったのかもしれない。滅多に見ることはなかったが、たまに見かけるときには二人と一緒にいることが多かった。ストリートパフォーマンスには音楽がつきものであるので、二人組がパフォーマンスを始めるとバイオリン弾きは演奏をやめて観客の一員になるのだった。逆もあった。二人してバイオリン弾きの演奏を見聞きするのだった。

 後で聞こえてきた話によると、音楽学校の生徒だったらしい。

 しかし、彼らのパフォーマンスが軌道に乗ってきたころには顔を見せなくなり、彼らが収入の配分を決めたころには会わなくなってもう何か月にもなっていて、二人にとっても、ああ、そんな人もいたなあというような存在になりはてていた。

 人は忘れられたころに再会する。パントマイムの準備をしていたパントマイマーの前に、突如、なんの前触れもなく、バイオリン弾きが現れた。非情に慌てているようだった。ジャグラーはたまたまその場にいなかった。バイオリン弾きはパントマイマーを見つけると走って近寄って来て、挨拶もせずに、これを預かっておいてくれ、一週間くらいだと思う、自分が引き取りに来るまでこれを持っていることを誰にも知られるな、自分に逢ったことも知られるな、相棒にも言わないほうがいい、これがなんであるかを知ろうとするな、一生にいちど限りのお願いだ、頼むから言われたとおりにしてくれ、というようなことを早口でまくし立ててパントマイマーの服のポケットに掌に収まるくらいの小箱をねじこんだ。パントマイマーが何か言おうとする前に、バイオリン弾きはまた走って去っていった。

パントマイマーは小箱を自分の鞄のなかに移した。そんなものをポケットに入れたままでは気になってまともなパフォーマンスができない。

 ジャグラーがやってきて、その日はいつもどおりに戻った。

 夜が来て、朝になった。次の日も、変わったことは起きなかった。その次の日も、そのまた次の日も、変わったことは起きなかった。そうこうして一週間が過ぎたが、変わったことは起きなかった。バイオリン弾きが小箱を引き取りにくるというイベントが起きねばならないはずだった。しかし、バイオリン弾きは顔を見せなかった。

 さらに一週間が過ぎ、そこからまた一週間が過ぎたが、依然としてバイオリン弾きは現れなかった。

 パントマイマーは、腰を上げた。相棒に、しばらくひとりでやってくれと告げた。


***


 パントマイマーはまず情報を集めた。バイオリン弾きは何者だったのか。演奏曲目から考えて、クラシカルな音楽が多かったから、同じように路上で演奏しているやつらのうちクラシカルを主な演奏曲目にしているやつを優先して片っ端から尋ねて回った。バイオリン弾きの写真も似顔絵も持っていなかったこともあり、捜索は難儀すると思っていたが、意外とすんなりと情報が集まった。かなり有名人であったらしい。しかし、みな一様に、バイオリン弾きをここしばらくみていないと言うのだった。バイオリン弾きの目撃情報が途絶えた時期はちょうどパントマイマーが小箱を受け取った時期に合致していた。パントマイマーが保管している小箱とバイオリン弾きの失踪には何らかの因果関係があるのは明らかだった。バイオリン弾きからはこれがなんであるかを知ろうとするなと言われていたので、パントマイマーはそれまで小箱を開けて中身を見ようとしたことはなかった。いよいよその時が来たのだ、とパントマイマーは思った。鞄の中から小箱を引っ張り出した。小箱は寄木細工で出来ており、白みがかった木片や黒い木片が散りばめられて、蝶番で蓋が空くように出来ていた。蝶番と留め具だけが金属製で、ちょっと不似合なように見えた。パントマイマーは静かに蓋を開けた。

 中には何も入っていなかった。

 パントマイマーは、急にバイオリン弾きを探すことがばからしくなった。

 二週間ものあいだ守ってきたものは、実は空っぽだった。空の箱を預けて行方をくらましたバイオリン弾きを探す義理もないだろうと思い直して、もといた場所に戻ることにした。パントマイマーはバイオリン弾きに担がれたのだと思ったのだ。

 そうして相方のいる場所に戻ったパントマイマーは、いつもどおりの生活に戻った。空箱は鞄の底に転がしたまま、パントマイマーは箱に対する興味を失っていった。

 ある日のこと、いつものようにパフォーマンスを終えた二人のところに、見なれぬ人物が近づいてきた。インバネスコートを羽織り頭にシルクハットを乗せ右手にステッキを携え口髭を蓄えた年齢不祥としかいいようのない人物だった。同様の格好をしている芸人はいくらか知合いだったが、そいつらとも異なる人種のようだった(同様の格好をした芸人仲間はすべてマジシャン、それもクラシックスタイルなマジシャンだ)。その人物は、バイオリン弾きを探していた。パントマイマーもバイオリン弾きを探していたことを嗅ぎつけたらしく、話を聞きたがっていた。パントマイマーはインバネスコートの男に、捜索が首尾よくいかなかったことを話した。そして、バイオリン弾きを捜索する理由を問うた。


***


「インバネスコートの男はバイオリン弾きに重大な用事があったらしい。その用事とは何か、聞かなかったそうだ」

 おれはそう言って、話を終えた。

 ラオはしばらく黙っていた。おれの話の中で矛盾点を見つけようとしているらしい。矛盾点はすぐ見つかるだろう。法廷で証言しているわけではないのだから。

「話が見えないんだが」

 咀嚼するように、ラオは言葉を放った。

「推察するに、そのパントマイマーというのがあんたで、あんたが追いかけてるやつってのがバイオリン弾きなのか」

「そうではないが、そう思ってもらって差し支えない」

「はっきりしないな。あんたの話したエピソードとあんたが追いかけてるやつはどう関係するんだ」

「推して知るべし」

「あんた、そういう仕事の人なのか」

 おれは少し迷ったが、ここは肯定しておくことにした。

「あんたが追いかけてるのはどっちだ。人か、物か」

「どちらも追っている。どちらかというと、人だ」

「で、あんたはあいつを追いかけてるわけだ」

「そうかもしれないな。おれに言えるのは、おれが見せた映りの悪い写真を見て、あんたらが知っているといったことだ」

「ああ、なるほど」

「あんたらを疑っているわけではないが、おれにもおれの立場がある」

「遭いにいくか」

「あえるのか」

 あっさりと、おれが欲していた言葉を発したので思わず聞き返した。

「こういうとき、何らかの助言をしてくれる知人がいる。よければ、紹介しよう」

「助かる。ありがとう」

 部外者の助言がどれだけのものかわからなかったが、ラオが尽力してくれるのはわかったので、おれは大人しく礼を言った。

「直截的な助言は期待しないほうがいいぞ。たぶん」

「それはおれに対しては、ということか。それとも、誰にでもそうなのか」

「誰にでもだ」

「占卜か」

「勧がいいな。占いではないらしいんだが、そんなようなものだ」

 おれは少し考えた。手相観、占星術、タロー、その他どれであっても占いは好きではない。

「お代は今回はいらない。失礼のないようにしてくれよ」

 ラオは付け足した。

「で、もとの話に戻るが。あんたはおれたちの手伝いをしてくれる気はあるのか」

「手伝いの内容にもよる。基本的には大いに手伝いたいと思っている」

 おれは答えた。

「はじめっからそう言えばいいんだ」

 ラオは小声で呟いた。そして、顔を上げ、マスターとナミに聞こえるような声で言った。

「よし。おれはあんたの手助けをしてくれる人を紹介する。あんたはおれたちの手伝いをする」

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