第9章第2節:ライバル登場


   A


 2人が顔を赤くする中、結城が打ち合わせ室にイン。

「「け、結婚……」」

「マンガ家と編集者として再会した2人は、誕生日が一緒だった。運命的だよね~」

((確かに、そうかも))

「エッチするんだったら、お姉さんいなくなるよ?」

「「しませんよ!」」

「あははっ♪」

「と、ととととところで先輩! 今度は何の用ですか!?」

「星崎ちゃん、ちょっと落ち着いたら? 処女丸出しだよ?」

「処女丸出し!?」

「処女膜丸出しだよ?」

「丸出しなんてしてませんよ!」

「神田先生は童貞丸出しだよ?」

「僕の方に話が飛んできた!?」

「アソコ丸出しだよ?」

「丸出しじゃないですけど!?」

「被ってるの?」

「……う……」

「早いの?」

「…………う…………」

「あははっ♪ 星崎ちゃん。神田先生が被ってる上に早い人でも、嫌いにならないでね~」

「???」←理解していない

「やっぱり、童貞くんと処女ちゃんの方が、からかい甲斐あるな~」

「……それで、先輩は何をしに来たんですか? わざわざ、私たちをからかいに?」

「あははっ♪ それが、目的の9割なんだけど」

「「……」」

「神田先生。ライバルの登場って燃えちゃうんじゃない?」

「ライバルって、まさか……」

「〈パーフェクト〉の異名を持つ橘先生だよ~」


   B


 ドアを開けた結城が、外にいる〈パーフェクト〉を手招きする。

(名前は男の名前だったし、絵の雰囲気的にも男のマンガ家だとは思うけど。〈パーフェクト〉って言われるくらいなんだから、すごいイケメンなんだろうな。僕と違って、童貞じゃなくて被ってなくて早くないんだろうなあ……)

 神田がそう思っていると、打ち合わせ室に〈パーフェクト〉が入ってきた──。

「話は聞かせてもらったでやんす」

((語尾が「やんす」の人って実在するんだ……))

 神田の予想とは大きく異なり、お世辞にもイケメンとは呼べない男だった。背は低くて肥満体型。30歳くらいに見える。

「こちらが、〈パーフェクト〉こと橘先生で~す」

「小生が橘でやんす」

((一人称と語尾が合ってない……。どの辺が〈パーフェクト〉?))

「橘先生は、高校生の時に完全試合を達成してるんだよ~」

((それで〈パーフェクト〉……))

「小生のノビのあるフォーシームの前に、バッターは手が出せなかったのでやんす」

「あははっ♪ 小学生相手の草野球でね」

((大人げない))

「こう見えて、橘先生は2人より年下なんだよ~」

「「年下!?(5つくらい上だと思った!)」」

「小生、現役大学生でやんす」

「橘先生は童貞じゃないから、からかい甲斐がないんだよね~」

「「童貞じゃない……!?(意外!)」」

「聞いたでやんすよ、神田氏」

((神田氏?))

「神田氏は、『古事記』に詳しいそうでやんすね」

「ええ、まあ」

「小生が通う大学を卒業していたのでやんすね」

「神田先生の出身大学は、編集長が教えてくれたよ~」

「神田氏の修士論文、読ませてもらったでやんす」

「僕の論文を……ですか?」

「神田氏は小生の先輩でやんすから、敬語は不要でやんすよ」

「ですが、橘先生はすでにプロデビューされてるじゃないですか。僕は、まだデビュー前のド新人です」

「そうでやんすが、敬語は不要でやんす」

「そこまで言うなら……」

「神田氏の論文、実に興味深い論文だったでやんす。神田氏の名前で検索したら、すぐに見つかったでやんすよ」

「……大学の図書館に収蔵されてる論文か」

「図書館に修論があるの?」

「図書館用にも、1部提出したんだ。……読む人がいるとは思わなかったけどね」

「どんな論文書いたの?」

「『古事記』上巻の物語──古事記神話の構成についてがメインだった。6人の主人公を『イザナキ』『スサノオとオオクニヌシ』『ニニギとホオリとウカヤフキアエズ』の3グループに分けて……」

「神話の時代を『イザナキの時代』『スサノオとオオクニヌシの時代』『ニニギとホオリとウカヤフキアエズの時代』と3つに分けたのでやんすよね。さらに、それぞれの時代も3つに分けたのでやんす」

「あとは、各時代の第1部を比べると……とか」

「小生は神話に興味があるでやんす。神田氏、ご教授願いたいでやんす!」

「……僕はマンガ家であって、研究者じゃないんだけどな……」


   C


「神田先生。せっかくなんだから、橘先生に講義してあげたら~?」

「待ってください、先輩。私たち、神田くんの連載のことで打ち合わせ中なんですけど……」

「あははっ♪ わかってるよ~。わかってる上で、お願いしてるんだよ。神田先生、選択肢」


・星崎ちゃんの恥ずかしい秘密がバラされる

・星崎ちゃんの恥ずかしい秘密がバラバラにされる


「秘密がバラバラ……?(バラバラになったら、どうなるんだろ?)」

「私の恥ずかしい秘密って、まさか……!(大人なのに生えてないこと!? でも、ママも生えてないし……)」

「実は、星崎ちゃんは~」

「わー! 言っちゃダメです、先輩!」

「あははっ♪ 星崎ちゃん、選択肢」


・神田先生の恥ずかしい秘密がバラされる

・神田先生がバラバラになる


「僕がバラバラ!?」

「(2つめは選べるわけないじゃない!)『神田くんの秘密がバラされる』で……(神田くん、ごめんなさい! 私は先輩の選択肢を拒絶できない体質なの!)」

「僕の恥ずかしい秘密って、まさか……!(使う機会がないのに避妊具を買って着けてみたらブカブカだったこと!?)」

「見栄を張ってL──」

「なんで知ってるの!?」

「あははっ♪ どうする?」


・「脅しには屈しない!」

・「打ち合わせ? 何それ美味しいの?」


「「……『打ち合わせ? 何それ美味しいの?』」」

「あははっ♪ 神田先生の講義の始まりだね~。お姉さんは興味ないから、もう行くけど。バイバ~イ」

「……結城さんがいなくなるなら、講義の必要ないんじゃ……」

「ダメよ、神田くん。恥ずかしい秘密をバラされちゃうわ」

「そうなのか……」

「神田氏、よろしくでやんす」

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