第7話:颯とユキ
颯は今更ながら考えていた。このユキという異世界の女の子は、この世界で頼れる人、場所、知識、本当に何も無いのだという事実の中、唯一自分だけがこの世界と彼女をつなぐ存在だという事に。お金も、ギャンブルで得た数万円が彼女の全財産で、この先どうやって生きて行くのかという事を。そして、そんな彼女とどう接していけば良いのかと。
「なぁ、ユキはこの世界に何しに来たんだ?」
何気ない一言だったが、ユキは顔を伏せて言葉を濁らす。しかし、意を決したのか目の前にあるオレンジジュースをストローでチューっと飲み干すとゆっくりと話し出す。
「私の居た世界にはな、魔物がいて、力で支配を求める魔王という存在が数多く居るんだ。こう見えても私は魔法使いとしては優秀でな? それこそ魔王になれるくらいには、凄いんだ私は。だけどそんな魔力を持つ私は人々から隔離されたんだよ、あの世界から」
「隔離?」
「ええ、隔離よ。魔法の研究棟という名の監獄から、私は一切外へ出ることは叶わなかったわ。人々は恐れたの、私という存在を。閉じ込めるだけでは満足できなかったのかしらね? 気が付いたら私はこの世界に来ていたわ。それが私がこの世界に飛ばされた理由よ」
颯は何故強い彼女が、こんなにも良い女が人々から拒絶されていたのか想像がつかなかった。それゆえに、颯はたどりついた答えを口に出す。
「そっか、なら俺について来いよ? 明日にでも新居、ってもワンルームだけど拠点も出来てるし、一晩一緒に過ごした中だ。それに、さ」
颯はおもう。これまで何人か女性と付き合ってきたが、どうしてもギャンブラーである自分と馬が合う相手が居なかったのだ。辞めなよ、興味がない、私にお金を使って、その他もろもろ。颯は結局、これまで付き合った女性とはことごとく長続きがしなかったのである。
だが、ユキは違うと。ギャンブルどころか、この世界の知識が皆無な彼女だが、どんな事でも進んで知識を得ようとするユキの理解力に惹かれるのだ。スロットに限定していえば、彼女は既に素人から毎日ホールへ通ってる人レベルまでたった一日で育ったのである。彼女の居た世界にもギャンブルくらいはあったであろう、それなのに一切嫌がるそぶりを見せず、純粋に楽しんでくれている彼女の姿が颯にとって、輝いて見えたのだ。
だからこそ愛おしく、こんな場所で手放してはいけないと颯はおもった。
「俺ってギャンブルの事しか考えてないような奴だけどさ、それでも良ければ一緒に……」
「クズだな」
一瞬顔を強張らせた颯は、期待が砕かれると同時にやっぱりこうなるよな、と頭を軽くかきながら謝ろうとした。けども、続くユキの言葉がそれを許さなかった。
「だが、それで良い。颯は物知りだし、共にいて悪い気はしない。何より……」
何より、私と一晩過ごした男だろう? とは胸中で呟くにとどまる。
「ともかく、私も颯と巡り合えてよかったと思っている。これが運命という奴だな、悪くない」
「……えっと、その……」
「ついて来い、というのは口説かれたという事であってるよな? 一々確認させて、違うとか女に恥はかかすなよ颯?」
一瞬の間をあけて、颯はユキの瞳と向き合う。
「ああ、俺はお前と!」
「お待たせしました、ハンバーグセットでございます」
店員が絶妙なタイミングでハンバーグセットをテーブル席へと運んでくる。ユキの希望で再度、夕食にハンバーグを食べに同じ店へと戻ってきていたのだ。
そして二人は同時に、叫んでいた。
「「ハンバァァァァァグ!!!」」
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