第4話:その手の感触は

 颯は思う。この出会いの夜は一生忘れられないだろうと。


 ユキは思う。この異世界は素晴らしい場所だと、そしてしばらく颯と共に生きようと。



 二人がそれぞれ共に過ごした初めての夜を思い出しながら、朝が来た。




 昨日はロクに食事もとらず、ひたすらスロット遊戯をしていたのだ。目覚めた瞬間から、空腹感と共に大切な事を忘れていた事実に颯は頭を抱える。


「だぁぁ、結果は!? 競馬の結果はどうなった!?」


 ベッドの頭もとに投げ捨てていたスマホを手に取るべく、手を伸ばすとベットとは違う、温かく柔らかな平面に触れる。わさわさ、と手を滑らすと全ての指先が順に異物と接触していく。その正体がわからず、颯は二度、三度と指で感触を確かめた。そして、四度目で違和感を目視する決意を決め、目線を恐る恐る滑らせた。


「おはよう、朝から大胆だな颯は」

「ああ、おう」


 素っ気ない挨拶だった。颯とユキは、一糸まとわぬ姿で隣同士で一夜を過ごしたのである。颯としては、色々と言い訳をしたいところなのだが、そんな色々頭の中で言い訳を考えている颯とは違い、ユキは気分が爽快であった。


 ユキは異世界へやってきて、最初こそ環境の違い、人々の奇異な視線や無視に不安な感情を抱いていたが今はいつもの自分を取り戻していた。颯の指南もあり、この世界で生きる最低限の術も得た。


 まずはスロットセンモンテンという遺跡である。あの場所では、このお金を使えば錬金術のごとくお金が増えるのだ。更に、水をジドウハンバイキという魔道具を使えば得ることが出来る。他にも、露店がありそこで食料の調達も出来るという。


 そして宿の場所もいくつか把握したのだ、颯がいなくともすでにユキ一人でこの異世界で生きて行くことが可能なのである。だが、ユキは宿から出ていこうとした颯を引き留めた。決して寂しかった訳ではない。今もこう、胸を何度も触られて悪い気がしないユキがここには居た。


「そろそろ手を退けてくれないかな? さすがに私も欲情してしまうぞ?」

「ご、ごめんっ!」


 ユキの体に視線が釘付けになっていた颯は、謝ると同時にベットから跳ね起き、脱ぎ散らかしていた服を着始めた。ユキはその姿を仕返しとばかりにマジマジと観察した。身長は私よりも拳一つ分くらい大きく、ざっと170cm程か。ユキの居た世界の人々とこの世界の人々は背丈は似た感じである。だが、大きな違いがあるとすれば……。


「華奢な体だな……」


 筋肉がついてなさすぎる、これがユキの颯の裸体を観察した感想である。

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