異変


不良品狩り:通称 べレッダ


不具合が起きている機械の人間、計画遂行する際に危険因子となりうる人間、不死の処理がされていない人間を連れていく大型の機械。センサーを使いそれらに該当する人物を見つけ、回収または処理する。連れていかれた人間がどうなるのかは不明。

計画が山場になり次第始動予定との事。


_ある研究者のメモ_





「ご馳走様でした...」

食事を終え、片付けを淡々と終わらせたフィンリ。

ソファーに寝転び、山の様に積まれた本の中から一冊を無作為に手に取り開く。

フィンリは、自身の身体を不死の体にする方法を探して家にある本を片っ端から読み漁る生活を送っていた。

けれど、図書館の様に棚を埋め尽くしていた大量の本を全て読んでも、そんな方法は記されていなかった。


フィンリはパソコンや携帯も持っておらず、世間の出来事や、世界の情報には疎かった。

否、世界の情報を知る事はできなかったと言ったほうがいいだろう。


この街で正常な人はもういないからだ。


今日目にしたサラリーマンや学生を再び見る事はもう無いだろう。

猫は死に姿を見せないと言われている様に、ふらりと何処かに消えていく。

恐らく、活動している人は消える人か、フィンリと同じのどちらかだ。

しかし、今まで見て来たのは前者で後者が現れることは無かった。


それもそのはず、外に出ればべレッダに捕まってしまう。



突然、フィンリは頭が割れる様な痛みを感じる。

ガラスで黒板を引っ掻く様な音が大音量で脳内へ鳴り響きフィンリは堪らず外へ出た。


「いっ.......ん?」


何かを蹴った感覚があった。

フィンリは、足元を見ると金属の塊が2つ転がっていて、1つには引き摺られた跡が伸びていた。

その跡を辿って目線を徐々に上に上げてゆく。


「!!」


オイルの独特の香り、そして元は人のように皮膚や筋肉が付いて居たであろう人型の機械屑。

所々、まだ皮膚や肉片が金属へこびりついている。

傍らにはぐにゃりと曲がった自転車が横たわっていて、タイヤがカラカラと回っていた。


「うっ..!?うあぁぁ...」


胃からせり上がるモノを吐き出す。

血の匂いに似ている鉄の香り、オイル、それからフィンリ自身の吐き出した胃液。

それらの混ざり合った香りは、さらに鼻の奥を刺激する。


そんな中、響いたのは誰かの叫び声のような音だった。


突然現れた戦車大の機械。口と思われる部分からはだらりと垂れた人の腕。

フィンリはその場にへたり込んでしまった。

呼吸は荒く成り、目からは涙が溢れる。


「不良品、不良品、処分、処分シマス」

機械音声で発せられた"処分"と言う言葉。

その僅かな言葉はフィンリの思考回路を停止させるには十分過ぎた。

「....ぃ...ぃゃ.」


機械の口が大きく開き、フィンリは目を硬く閉じる。

もう、自分は死ぬんだと思った矢先。


「おい!お前何してんだ?!速く逃げるぞ!!」


帽子を深く被った青年が、フィンリの手を引き路地裏へと走り出した。

が、力の入らないフィンリの脚は言う事を聞くはずもなく、彼女は転んでしまった。

痛覚はある筈だが、ハッキリしない意識ではそれさえも感じない。


極度の緊張と転んだ衝撃は、容赦無く朧げなフィンリの意識を奪っていった。


踏み出した足を急いで倒れたフィンリへ向け、意識が無いとわかった青年は彼女を背負うとべレッダを睨み路地裏に消えた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る