ある廃墟の世界
神様は人間の信仰がなくなると存在しなくなるそうだ。
本当にそうなのか確かめる術などないが、これだけは言えるだろう。
今の世界は神様を信仰する事も、する者も、必要ないのだと。
_とある人文系本より_
本を閉じ、すっかりさめてしまったコーヒーと眠気を彼女、フィンリは体内へと流し込んだ。
「...暇」
フィンリは読み終えた本を棚へと戻して、ふと窓に視線を向ける。
外はもう明るくなっていた。
明るくとは言っても、空は廃棄ガスによって汚く霞んでいるのだが。
不死の身体を作る工場は役目を終えて300年経った今もなお、廃棄ガスを吐き出し続けているためだ。
そんな空の下ではサラリーマン、子どもを乗せた自転車を押す母親、学生が横切っていく。
「...いいなあ」
フィンリは眠気を抑える為にコーヒーを淹れ直した。
キッチンへ行き冷蔵していた食糧を調理して食事を摂る。
サラダにトーストという質素な食事が五、六人が使うであろう大きなテーブルに置かれた。
「いただきます」
その言葉は空気溶けてしまい意味の無いものとなる。
綺麗に盛り付けられたサラダを口に運ぶ。
吞み込むと同時にフィンリはフォークを置いた。
「...もうやだな、こんな生活...」
ラップを食べているかのように味がしない。
フィンリは機械の体になってから自身の味覚が機能していない事はわかっいた。食べたくない。
けれど、不完全な身体では食べなければ生きられない。
死にたくない、もう消えたいと考えるようになった。
食べなければ死ねるが、飢え苦しんで死ぬ勇気は無いし、自ら首をくくる勇気もない。
彼女は、そんな行き場の無い思いを消すかのようにドレッシングの塩気で萎れたサラダを口に運ぶ。
この食事と言う行為も、もうこの世界ではありえない事となってしまった。
彼女が知る限りでは、食べて生きる人間をここ最近見ていない。
食べなくても生きていけるのだ。
生きていく為に必要なもの。
食事、
睡眠、
仕事、
お金、
娯楽、
家族、
友達、
今や、全てが要らないモノとなってしまった。
医療、科学の進歩が飛躍的に進んだ世界、人は皆人類の夢である、不老不死望んだ。
そして政府は「不滅計画」及び「不滅計画遂行本部」を立ち上げた。
それから300年余り。
現在フィンリが見るのは、人が送る生活では無く、人が人形の様にあちこちに転がっているだけの廃墟の様な街。
不死の体を持っても今までと同じように生活するはずだった人類、そこに無い嘗ての活気。
人の鼓動、子供達の声。
何もかもが消え、そこに落ちていた。
彼女達が出会うまでは。
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