第5話
エレクトリの旅はとても素晴らしいものだった。
ダイニングカーでの食事はとても美味しかった。聞くと一流のシェフが作っているらしい。
ドレスコードもあるような電車に学生服で乗り込んでいる僕たちは視線を集めていたが、そんなこと気にならないほど美味しかった。学生の正服は制服と相場は決まってるはずだし、テンションの高い僕らは視線など構わなかったのだ。
エレクトリには、いくつかの車両があった。
ダイニングカー、ラウンジカー、ゲストルームが主なものだろうか。
ダイニングカーは、食事を提供してくれる車両で、一日中一流のシェフが待機しているという。
ラウンジカーは、昼は社交場、夜はバーという風に大人が集まる場所。
ゲストルームは個々の部屋のことを言う。
僕たちの泊まる1号車は2つのゲストルームに区切られていた。他の車両が3〜6ぐらいのゲストルームに区切られていることを考えるとかなり贅沢な間取りだ。
食事が終わり、お腹も膨れた僕たちは、部屋に戻りゆっくりとくつろいでいた。
「幸雄。今どこの辺りか分かるか?」
いつの間にかに窓の外の雰囲気が変わっていた。先程まで街中を走り抜けていたエレクトリを今、取り囲んでいるのは草原だった。
「
幸雄の声に合わせたように、スピーカーから駅長の声がした。
「皆様、特急 エレクトリの旅はお楽しみ頂けていますでしょうか。もうすぐ、芝原駅を通過しましてその先、砂漠へ入ります。芝原駅を通過しますと、最終調節の為、C51車両基地で一時間の停車を致します。その後、砂漠へ入りますと、急な揺れがあることが予想されます。当車両は内部に揺れが伝わりにくいムーブレス構造を採用しておりますが、充分にご注意下さい。また、当車両はガイストの襲撃に備えまして万全の対策をとっております。ご安心下さい。それでは引き続き安全で快適な旅をお楽しみください。」
C51車両基地。
そこはガイストが
東京へ向かう電車はここで最終調節を行ってから、砂漠へと向かう。
小さな綻びさえ許されない土地に向かうのだ。念には念をいれた方が良い。
砂漠と居住地の間には、人工的な大きな川が流れていて砂地の拡大を防いでいる。
ガイストが居住地へ渡らないように、川に通された長く大きな橋には両端に巨大な扉が作られており、扉は電車が通る瞬間にしか開かない。
まるで扉に守られているようだった。
ここから先は人間の生きる世界でないと、冷たい鉄の扉は告げている。
「かー、エレクトリで砂漠を渡るなんて本当に夢みたいだ。ありえんよな。本当に夢なんじゃないかと思うわ。」
車掌さんの放送が終ると幸雄が呟いた。
「本当にな。しっかし普通の急行とは全く違うよな。普通のなんて、窓もほとんどないし、味気ない二段ベッドが並んでるだけでつまらないもんなあ。」
「ああ?急行はそこが良いんだろうが。」
またまた語りだした幸雄に、俺はこいつの前では電車の話題は禁物だなと今更ながら気がついた。
エレクトリが徐々にスピードを下げていく。
どうやらC51車両基地に到着したようだ。
1号車の側面の窓ガラスから見える車外では、青いユニフォームを着た整備士さん達が最終点検をしているようだった。
「おーい、賢一。見ろよ!あれが護送車両みたいだ!なかなか見れねえからこっち来て見ろよ!」
「え、あれが?」
貧弱じゃないか。
護送車両をみた一番最初の感想がこれだった。
オートバイ、4輪駆動車が何台も止まっている。確かに普通のオートバイとは違ってハーレイダビっなんとかをもっとゴツゴツさせて、ごちゃごちゃ装飾をつけたような頑丈そうな作りだったが、砂漠を越えるにはやわだと思う。4輪駆動車も同様だ。砂漠と襲いかかるガイストに耐えられるようには見えない。
唯一、3台ほど強そうな、エレクトリ1車両分ぐらいの大きさの装甲車のようなものが見えたが、オートバイや4輪駆動車を見たあとで、なんだか不安が残る。
大丈夫なのだろうか。
不安が胸を覆っていったが、隣でキラキラと目を輝かせる幸雄に僕は何も言えなかった。
一抹の不安を残していたが、出発の時間は迫っていった。
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