第6話


遂に発車の時間がやってきた。

なんとなく、不安を残している僕に、幸雄は屈託くったくなく笑いかける。


「いよいよだな。」


エレクトリがゆっくりと動き出す。

車輪のきしむ音、ざわざわとした乗客の高揚感こうようかんが合わさって、聞こえてくる。


エレクトリはどんどんとスピードを増していった。


手を振っている整備士さんたちの顔が、重機が、形を無くしていく。

みんな、線になっていく。


先頭車両の方から歓声が聞こえた。

あっと、思った時には黒色の大きな鉄の扉が瞬く間に目の前を通りすぎていった。




砂漠だ。



黄色い大地はどこまでも広がり、所々に人工的な物体が突き出ている。

太陽は常に変わらないはずなのに、砂漠に出た瞬間から、光が増したように感じた。


「皆様、当車両は砂漠へと入りました。道中、急な揺れが予想されますのでご注意下さい。」


心なしか車掌さんの声が引き締まった気がした。


「賢一、砂漠ってこんなんなんだな。おれ、初めて生でみたわ。」


ぽかーんと口を開けた幸雄が呟いた。


「俺もだ。」


僕の口も開いていた。幸雄の顔をみて僕は口を閉じた。



そこから、特に何事もなく、エレクトリは砂漠を進んでいった。


時々、ちらちらと護送車両が見えたが、あまり視界に入らないように隊列を組んでいるのだろうか。ほとんど見ることはなかった。




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