第12話 白い雪は白夜に眠る
「どうした?」
テュテュリスが怪訝そうな顔をしてリクに近寄る。
「あ、あれ!」
彼が指さす先をみた。
──白い雪原に、倒れている黒い影。
その周りに散る、赤い……
「リク!馬車をとめい!トアン手伝え!シアング!ルノを起こせ!
テュテュリスは指示を出すと、まだ動く馬車から飛び降りた。
「しっかりせい、どうした?」
「テュテュリス!…え?」
ようやく止まった馬車からトアンは降りると、テュテュリスに駆け寄る。
──倒れていたのは、真っ黒で大きな犬とそれを支えようとしていた白髪の少年だった。
赤茶色の大きな瞳をぱちくりさせて少年は見返す。
「誰…?」
「オレトアン。こっちはテュテュリス。…随分血がでてるけど、痛くない?」
「…痛く、ない…。これはぼくの傷じゃない。こいつのだ」
黒い犬を降ろすと少年は言う。
「お願い、こいつを助けて…ぼく、『あの人』にこいつを連れて逃げろって!こいつを助けろって言われたんだ!」
「落ち着け…大丈夫じゃ。ルノ!早くこっちにこい!少年、その犬見せて見ろ」
「うん」
馬車酔いが覚めないルノはシアングに手伝ってもらい馬車を降りた。
「…私は今魔法は使えないぞ?」
「そのピアス。貸すのじゃ」
「…?」
訳がわからない、といった顔をしながらルノはピアスを外すとテュテュリスに渡した。テュテュリスはそれを犬の体に近づける。
ピアスから柔らかな光があふれだし、犬の傷を癒やしていく。
「…ありがとう」
「礼は良い。お主、名前は?」
「ぼく…名前ない。でも『主』はぼくをシラユキって呼ぶよ」
「名前がない…?」
「うん。ぼく、記憶喪失だから…。記憶喪失っていうのもなんかおかしいけど」
「何故じゃ?」
「ぼく、人間でしょ?なのに背中に翼があったとか、空を飛んだとかたまに思い出すんだ。本当だよ?」
「前世の記憶が…?普通前世の記憶は残らぬものじゃが…。前世のお主は何かをやる為に転生を望んだが転生する際記憶を封印された…のか?…わからぬ…」
テュテュリスの言葉をじっと聞いていたシラユキだが、突然立ち上がった。
「どうした?」
「大変!『あの人』が死んじゃう!」
「あの人?」
「ぼくにこの犬を連れて逃げるよう言った人!」
シラユキは森をにらむと走り出す。
「待ってよシラユキ!」
「『あの人』は死なせたくない!…それじゃ意味がないんだ!『私』は『あの人』を助ける為に戻って…?」
ぴたりと足をとめるシラユキ。
「『私』…?ぼくじゃなくて…?」
「シラユキ!乗るのじゃ!」
「え?」
「馬車の方が早い!シアングその犬も中に!」
「わかった!」
シアングはひょいと犬を担ぐともう片方のあいた手でルノを担ぐ。
「おい離せッ!」
「お前一人だったら時間かかるだろッつーに」
「なんだと!」
「二人とも早くのらんかーッ!」
足の傷からの出血は止まらない。もう、逃げ場もない。
毒でも入ったのかな。
…あっけない最後だ。
このまま一人で、優しい記憶に埋もれながら…
「こいつにさわるな!」
目を閉じようとした瞬間、声が聞こえた。
閉じかけた目をあけると、手を広げ自分をかばうようにする小さな妖精が見えた。
「死ぬな!オレはまだお前に償ってない!」
「……にげ…」
「逃げるもんか!せっかく体が別々になったんだ!お前を守るんだ!」
「…シ…フォ…」
「だから死ぬなよ!?ツムギ!」
「あっちじゃ!」
テュテュリスの指す方向を頼りに馬車を走らせる。
テュテュリスは気配を探るのが得意なようで、自信たっぷりに方向を示した。
「…む?」
「どうかしましたか?!」
ガタガタ揺れる馬車を必死に操るリクが叫ぶ。
「魔物がいる!それに襲われていたか!」
「じゃ、オレらがやってくる」
シアングが爪を構えて不敵に笑った。
「なートアン?」
「え?!オレ?」
「お前以外にトアンいねぇだろ?」
「…オレ?」
「オレ先いくわな」
馬車の後ろを開けると、シアングは飛び出した。
「シアング!」
慌ててルノが顔を出す。
「お前は待ってろ!」
「ふざけるな!」
「ふざけてねーって!いいからおとなしくしてろ!」
シアングはそういうと服を翻し走っていく。
雪が降り出した森の中は見通しが悪くなってきた。
後を追おうとルノが身を乗り出すがその薄い肩をトアンが掴む。
「離せ!」
「だめだよルノさん!危ないよ!」
「しかし…ッ」
「オレが行くから。大丈夫。シラユキ君を見てて」
「………。」
ルノの不安そうな顔に笑いかけると、トアンは飛び出した。
この妖精は一向に引かない。大蛇の魔物を睨みつけたまま、動かない。
いや、彼はもともと妖精ではないのだが。
そうだ。
あの子は逃げられたかな。
真っ暗だ。
あの子はよく似ていた。
ビャクヤに。
でもあの子は人間で、ビャクヤは魔族。
ビャクヤ。…白夜。
随分言葉が訛ってしまったけど、私がつけた白夜という名前の意味は変わらない。
懐かしいな。
できれば戻りたい。あのころに。みんなともう一度だけ…。
でも、
あれから14年もたってしまった。
私はずっと17歳のままだけど、…。
今年で29歳になるのか。私の弟は。
まるで走馬灯じゃないか。
私はこんなところで死ぬわけには行かないのに。
『あんたはまだ死にたくないか?』
…え?
『どうなんだ?』
死にたく、ない…
ふいに暗闇が晴れた。
私の前には、茶髪の髪の男の子が一人。
君は?君は誰?
『オレは「誕生の守護神」を守る者。木の精霊ウィルだ』
シアングは走りながら考えごとをしていた。
(ちょっと言い過ぎたか?…でも今のルノは戦えねぇし…。…?!)
「シャーッ!!!」
突然腕に鋭い痛みが走った。
「…てッ!相当オレの力も落ちたもんだぜ!」
第二撃をかわし身構える。
と、視界の端に何かをとらえた。
(人じゃねぇか!んでこんなとこに?!……あいつがシラユキの言ってたヤツか?)
その一瞬の隙を狙い、大蛇は体勢を整えるとシアングの右手にかみついた。
「いっ…!」
黄色く太い牙がしっかりくい込み、みるみるうちに腕が紫色に変色し腫れ上がる。
(毒か!ちくしょう…頭がクラクラする……)
「なにやってんだよ色黒!」
「ぁあ?!」
突然響いた声にギョッとして振り返る。
「バカ野郎!戦闘中によそ見すんな!」
ひらりと現れたのは小さな妖精。
こげ茶色の髪に小さな宝石の様な緑の瞳。
「なんだよお前?」
「…俺はシフォン。ほらくるぞ!緩みすぎだぞお前!」
シアングは顔をしかめた。
(なんだよこいつ…やかましい。でもオレ確かに緩んでんな。怪我してもルノがいると思うから………!いかんいかん集中しねーと)
「おい色黒!くるぞ!」
「わーってる!」
手にした爪を左手に持ち帰ると大蛇の懐に飛び込んだ。
「どうしてくれんだよ!しばらく料理ができねぇじゃねぇかー!」
数分後、そこには倒れた大蛇と息を切らしたシアングがいた。
「は、…。いてぇ…」
「色黒、こいつを運ぶのを手伝ってくれ」
シフォンが心配そうに木を背にしている少年に寄り添う。
「色黒って…いうんじゃねぇ…ちょい、待ってくれ…」
ふらつく足で歩き出し、少年の下へ寄った。
「…お~い大丈夫か?……ん?お前…どっかで…」
茶色の髪に辛そうな深緑の瞳。まだ幼さの残る顔にある影のある雰囲気。
「お前ひょっとして…ツムギ?」
「…」
少年は答えない。
「おい、大丈」「危ない!」
突然叫び声がした。慌てて振り向くと、いつの間にか起き上がった大蛇が、今まさにシアングに襲い掛かるところだった。
だが。
「アァアアア!」
大蛇の頭に、剣が刺さる。
雪を舞い上げて、大蛇が倒れた。今度は永遠に。
「…トアン」
「間に合った!よかった…。オレの走りもなかなかだなぁ」
トアンはブイサインを送ると顔を青ざめた。
「その腕…大丈夫?」
「あぁ、まーな。トアンサンキュ。」
かなりいてぇけど、と言ってシアングは笑う。
「あ、そだ!こいつ頼むわ」
「え?…うわ!すごい怪我!」
トアンは少年の正面に座ると足の傷に驚いた。
「驚いてないでなんとかしやがれ!」
「いたた!な、なんだコレ?」
今度は髪の毛をひっぱるシフォンに驚く。
「トアン、こいつの顔みてみ」
シアングはあきれながら少年を指した。
「あ!ツムギさん!?」
「みたいだ。事情はよくわかんねぇが、その妖精はツムギの…連れ?」
「オレぁシフォンだ!そんで連れなんかじゃねぇ!」
もともとは一身同体じゃあ!小さな妖精はそう激怒する。
その時、ガタガタという音をたてて馬車がきた。
「大丈夫かー?」
身を乗り出すテュテュリスの息は白い。
戦闘中の興奮で熱くなっていた体が冷えてきて、ここは相当寒いんだとトアンはやっと思い出した。
「とりあえず中へ。そやつらもな。幌を閉めれば暖かいからのう」
トアンはツムギの手を肩にかけて立ち上がると、馬車の中へ入った。
「酷い怪我をしたな」
「たいしたことねーよ」
「たいしたことないわけない!肌が変色してるだろう!」
「すぐ治るって」
シアングとルノ、二人の怒鳴り合いは終わらない。
「…どうして」
「ん?」
「どうして私を頼らない?私はそんなに足手まといかッ!」
「今のお前は魔法が使えねぇから危ないじゃねーか!!オレはお前に怪我してほしくねぇんだよ!」
「だからってお前は怪我をしてもいいというのか?!そんなの勝手だ!私はひ弱な女じゃない!男なんだ!」
止めた方がいいのかとトアンが口を開きかけるとテュテュリスが制した。
「こればっかりは当人同士で解決するしかない。シアングの過保護がルノのプライドを傷つけたようじゃな」
舌が焼けるほど熱いインスタントコーヒーを飲みながらテュテュリスは言った。
「トアン、お主も気をつけい。ルノはあんな姿じゃから…他の者よりかなり男ということに敏感なのじゃ」
「うん。ところでかなり熱いねこのコーヒー…」
「……わかったわかったオレが悪かった」
にらみ合いの末、シアングが折れた。
「…」
「ただしょーがねぇだろ?つい過保護に扱っちまうのは」
「何故だ?簡単じゃないか。単にお前が私を放っておけばいいだけの話だろう?」
「ほっとけるか」
「それが過保護だ!」
ルノは立ち上がると後ろを向いた。
「何故そうなんだ…いつもいつも…」
「ルノ?」
「お前は、自分のことは気にしないで…ッ」
「…。」
「私はッ…」
「悪かったよ…でもやっぱり、オレはルノになるたけ怪我してほしくねぇんだ。わかるよな?」
シアングがルノを強く後ろから抱きしめる。
「…ッ!しかしッ!」
「ん?」
「その、お前と同じ痛みを私は背負いたいんだ!…互いに半分ならあまり辛くないだろう?」
「ルノ…」
「そこ、そろそろ二人きりの世界はやめんか」
テュテュリスが呆れ果てた声を出す。
その声にルノはハッとするとシアングを突き飛ばした。
「って…!こっちは怪我人だぞ!」
「知るかッ!」
怒鳴った後ルノは安心したような笑みを一瞬浮かべた。
ほんの、一瞬だけ。
ぴくりとも動かないツムギの側にぴったり寄り添っているのはシフォン。息をしているか確かめたり、心臓の音を聞いたりしている。
それを、シラユキはじっと見ていた。気付いたシフォンがシラユキを見──…
「お前」
「…え?」
「 ?」
シラユキの耳には、何も聞こえない。
まるで霞がかかったように。
「…?わからない…今、なんて?」
「だから、 か?」
また。
「聞こえない、わからないよ!何言ったの?!」
「…お前の、名前」
「名前?ぼくはシラユキ。シラユキだよ」
「…」
「何で黙ってるの?!」
「…。歳は?」
「歳?14歳だけど」
「14!?…合うな。ピッタリだ」
「何が?!」
「…やっぱり」
『白夜』
目の前の人は優しく微笑むと言った。
『白夜?』
『うん。君の名前。…嫌?』
『どういう意味なんだ?』
『君の背中の蝙蝠の羽は真っ白だ。蝙蝠といえば夜でしょ?それで白いから、白夜』
誰?
ここどこ?
この背中の羽根…ぼくのなの?
『私の名か…。気に入った。お前の名前は?』
また、口が勝手に動いた。
ぼく、何でこんなに偉そうなの?
何で「私」って言ってるの?
『…私の名前?』
茶色の長い髪がさらさらとこぼれた。綺麗だなぁ…。
『私はね、…紬っていうんだよ、白夜』
『つむ、ぎ?』
…え?
『うん』
『意味は?』
『…。内緒かなぁ』
『えぇ!?』
…ぼくは…
………誰…?
「おい、どした?」
「…『私』は…。………。ぼく、わからない……」
シラユキは立ち上がるとふらふらと馬車の後ろに向かう。
「あぶねーぞ?!」
「…ぼくは…」
スッ
「な」
馬車の中にいた一同は思わず止まった。
シラユキは振り返り様朝露のように、
消えてしまった。
「シラユキは人間じゃろう?ハエ」
「俺ぁハエじゃねぇ!シフォンだ!…消えちまうなんて…あいつ…」
テュテュリスがツムギの側に座り込む。
「ツムギ…久しぶりじゃの」
答えはかえってこない。
「テュテュリス、ツムギさんのこと知ってたの?」
トアンが身を乗り出す。
「…。わしの、大切な親友じゃ」
「そうだったんだ。…世界は以外に狭いなぁ」
ふう、トアンはため息をついた。
「今日はいろんなことがあったなぁ…チェリカは見つからないし…」
「ツムギがおきりゃあわかる。風に聞くことができるからな」
「そうなの?シ…シ…」
「シフォンだ!」
波の音を聞きながら、チェリカは背伸びをした。
「ふぁー…。眠くなってきた…」
「起きたか?」
話しかけられて後ろに振り向くと、視線が水色の瞳とぶつかった。
「…アクエリアス」
「アクエでいいって」
人魚の少年は笑う。
チェリカは空から落ちてきたところをアクエ…アクエリアス・マリウスに助けられたらしいが、納得しきれない。
なぜなら、みんながいないから。
アクエはただ一人チェリカしか見ていないというが…
ここ、海賊船エラトステネスは、すっかり変わっていた。
明るかった船内の雰囲気は暗いものになり、船員達に覇気がない。
その理由は、船長であるルーガが病にかかり、主導権をアクエが握ったことらしい。
その時から、アクエは人が変わったように冷たくなり、それが船全体の雰囲気に影を落としているのだ。
「どこいくの?この船」
「…見ろ。雪に覆われた大地がみえるだろ」
なるほど。遠くに見える。
「あそこに何かあるの?」
「焔城がある」
「ほむらじょー?」
「あぁ……もういいだろ。聞かないでくれ」
アクエはついと視線を逸らすと去っていってしまった。
「…やな予感がするなぁ…」
チェリカはその幼い顔に似合わない、神妙な顔つきを一瞬だけすると、後ろを向く。
そこには、竪琴を持った青年が立っていた。
「君、誰?」
「ああ驚かしてすまないねレディ」
ホロロン。
青年が奏でると竪琴は切ない音で鳴く。
「ボクと相棒は船に乗りたかったんだがお金がなくてね。こっそり忍び込んだのがこの船で、見つかって働かされているのさ」
「吟遊詩人さんなの?」
「まあねぇ」
「…私チェリカ」
「ボクはタルチルク。タチュールと呼んでくれたまえ」
握手をして、チェリカはにこりと笑う。
「よろしくタル…タチュール」
「こちらこそ、小さなレディ」
「さっき相棒って言ってたけど、どこにいるの?」
「ああ、タンならトランペット持ってそのへんうろうろしてると思うよ」
「タン?」
「本名タンシ。相棒の呼び名さ」
ホロン。
まるで雨粒がころげ落ちる様な音。
「会ってみたいな…」
「?…ちょ、どうしたんだい?!」
タルチルク…タチュールは慌ててハンカチを取り出した。
何故ならチェリカの瞳から涙がぽろぽろとこぼれていたからだ。
「あれ…?」
「ほら、コレでその涙を拭きたまえ」
渡された花柄のハンカチで涙を拭いても、それでも涙は止まらなかった。
「…何か悩みでもあるのかい?ボクでよければ話しておくれ?」
「私、皆に会いたい…!やっと会えたのに!やっとッ…。この船の人も、前はもっと、優しかった!」
「前にもこの船に?」
「…ん」
「……この船は…なにやら不吉な影がある…。会いたい誰かには必ず会えるよ。……そう、必ず」
「そろそろ帰った方がいい」
ウィルは小さなロウソクを持つと暗い道の先を指した。
「ありがとう。久しぶりに笑えたよ」
ツムギは立ち上がる。
「ところでここは…?まったく傷は痛まないし」
(シフォンの声も聞こえない)
「スイの城だ。城ん中でも特殊な場所だけど」
「スイ…」
歩き出した瞬間、何かにつまずいた。
「わッ…」
「危ねぇ!…ったく。…送る。立て」
がりがりと頭を掻いてから、ウィルは手を出した。
「なんか…お前見てると心配になるぜ」
「そう?」
ツムギは決まり悪そうに笑うと、歩きだした。
「…」
ハッとして目を開けると、懐かしい天井が目に入った。
(ここは…まさか)
「ツムギ!起きたか!」
がばりと、誰かが身を乗り出してきた。
「…え?」
「わしじゃ!…忘れたのか?」
「忘れるわけないよ。…テュテュリス」
上体を起こし、柔らかく微笑むとテュテュリスも笑った。
「ほんと…ッお主は心配をかけてッ」
「…ごめんなさい…」
「今いくつだ!いつまでたっても子供なんじゃから!」
「…うん」
「ウィル!ウィルーッ!」
呼ばれて振り向くと、少年が走ってきた。白い髪が薄桃色に染まり、ちょこりと結んだ髪がちらりと揺れる。
「なんだよシラユキ。どうした?」
めんどくさそうに、二段ベッドの上から顔を出したウィルにシラユキは言う。
「あ!上はぼくが寝るって言ったでしょーッ」
「うるせーな」
「だいたい君は精霊でしょ?!」
「オレは寝たい時に寝るんだ!つか何のようだ?」
「あ。そうだ。」
くるりと一回りするとシラユキは言った。
「ぼくのこと知ってる人に会ったよ!」
「お前の…?」
「うん。あとぼくもその人をきっと知ってる!う~!うれしいなっ!」
ウィルはシラユキが笑うのを見て自分も笑った。
「よかったじゃねーか」
「うん!」
「よく笑うなぁお前。そんだけか?」
「うん?……あ!」
笑顔が一気に凍り付いた。
そして、今にも泣きそうな顔になる。
「大変なんだよウィルー!」
「な、いきなりなんだよ?」
その泣きそうな顔に嫌な予感を覚えた。
「スイ様がッ!スイ様が倒れたんだ!」
「なんだってぇ!?お前言うの遅っ!」
「うぃ…」
ウィルはベッドの上から飛び降りるとスイのいる場所へ走った。
シンプルな王座の横に灰色の髪が散り、いいとは言えない顔色がさらに悪くなっている。
「スイ!」
「スイ様!」
二人がスイをのぞき込むと、ゆっくりと赤い目は開かれた。
「ッ……ウィ…ル、シ、ラ…ユキ…」
「大丈夫かスイ?!」
「…月千一夜が……。回収…しなければ…」
「げっせんいちや?」
「スイ様ぁッ!」
「…回収、しなければ…」
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