第8話 大神官の教え

「いててて!」

最初に着地したシアングの上にトアンが降り、その上にチェリカが降りた。

ちなみに一番上はシアングの悲鳴だ。


「すごい魔法だなぁ…塔があんな遠いよ」

「チェリちゃん…降りる気ねぇの?…軽いけどさ」

「あ、ごめん」



小高い丘の上にそびえ立つ巨大な神殿…神殿というよりは教会だ。


「行ってみよ?」

「うん」



ドンドンと扉をたたく。

「こんにちわー!」

「誰かいませんかー?」

「お、開くぞ?二人ともさがりな」


「…あのう…」

顔を出したのは気の弱そうな男だ。

「あ、オレたちヴァリンさんに会いたいんですけど」

「大神官様に? …話は聞いてます。どうぞ」


どういう意味かな?と顔をするトアンにチェリカは笑って見せた。

よくわからないけど、なんとかなるよという意味で。

神殿に入る前、何気なくトアンは空を見上げた。


(今日は…満月だっけ)


それなのに。

空気が重い気がした。



夕日がステンドグラスに光る。


「ヴァリンってどんな人なんだろーね」

「さぁーなぁ…」

「さあお入りください」

青年がドアを開く。


「待っていました」



そこには、女性がいた。

「大神官…様ですか?」

「ようこそ夢幻道士トアン。空の子チェリカ。雷鳴のシアング」

優しく笑うとヴァリンはトアン達に席をすすめた。


「女の人だったんだね」

「チェ、チェリカ!」

「ん?」

「だめだよ敬語使わなきゃ!」

「よいのですよ。ふふ」

「…どうしてオレらのこと知ってんだ?」

「雨が降りそうですね…私はトアンと同じ夢幻道士だからです」

「へ?」

彼女は紫の瞳を光らせた。


「あの…オレ、なにがなんだか」

「時間がありません。今夜中にあの子を助けないと…」

「あの子?」

「…トアン。私たち夢幻道士の力は夢や幻を使いその名をかけ無限にあります。私の能力は『予知夢』。あなた方のことも夢で知っておりました…あなたの力はまだ決まっていないようですが誰かの思いが伝わってくることはあったでしょう?」

「…。」

「何があっても、その力を歪めないでください」

「…あなたの他にも夢幻道士はいるんですか?」

「はい。瞳が純な紫の者です」

「…」

「混乱しているのですね…わかります。が、先ほども言いましたように時間がないのです」

切羽詰まった声でヴァリンは言うと立ち上がった。


「あの…」

「いいですか、よくお聞きください…恐らくあなた方の探している者達は、今夜ここの側を通ります」

「!?」

「なんであんたがそんなことを?」

「私の予知夢は確実です…といいますか実は」

ヴァリンは申し訳なさそうにうなだれた。

「その者達に…夢幻道士が関わっているようです。しかもかなりの凄腕の…。夢幻道士という者は誰か別の夢幻の力が近づくと察知できるんです」


「君が悪い訳じゃないよ…そんな顔しないで」


チェリカが笑った。

その顔はいつもの笑顔で、

その声は震えていた。

相変わらずチェリカは敬語を一切使わない。

ヴァリンが二十代半ばの女性にもかかわらず。


トアンがぼーっと考えているとシアングに軽く叩かれた。

「シアング?」

「お前自分のこといろいろ聞いたのに何ぼーっとしてんだよ」

「…よくわかんないんだよ。とりあえずわかったのは、オレが夢幻道士ってやつで、チェリカ達の敵がオレと同じ夢幻道士で…」


「トアンにとっても、彼等は敵」


振り向けば、彼女が居た。


「…じゃだめかな」

「チェリカ…だってオレは君たちの敵と同じっ…」

「関係ないよ、トアンはトアン」

笑ってから、不安そうに言う。

「生まれがああだからとかで…自分を責めないで欲しい…」


その言葉は、トアンと チェリカ自身と、きっとその兄を指してあるんだろう。


「私はトアンに感謝してる…ありがとう」

「お礼を言うのはオレだよ!君がいなかったらオレはあの村からでなかった。それに仲間だと思ってる。お兄さん助けに行くんだよね!がんばろう!」

「君が………でよかった」

「え?」

「なんでもないよ!」


二人のやりとりに笑いながらシアングは一人の少年のことを考えた。

この一ヶ月、長かったな。随分待たせた。

栄養をとるだけしか意味のねぇ飯しか食ったことしかねぇあいつに、うまいもん食わしてやろうと思ってオレは料理始めたんだっけな。

うまいシチュー食わせてやる約束したんだ。


約束は果たさねぇと。





「トアン。一度上にいったら夢幻の空間です…うまくいけばその力を逆に使えるかもしれません」

ヴァリンの藍色の髪が風で広がった。彼女の後ろには巨大な魔鳥がいた。

「魔物!?」

「…あんた本当に神官か?」

「私は魔物を嫌いません。それぞれの命には意味があるのです」

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