第2話 空ろなココロ

軽い朝食を済ませ、家を出る。

「トアン!」

「あ……、ウィル!」


茶髪の少年が走ってきた。

「昨日お前んち干草小屋になんかおちたって……誰だ?」

チェリカがひょこっと顔を出す。

「あ、この子はチェリカ。……チェリカ、こいつはオレの親友のウィル」

「どもー」

「へー。……なんか変わったやつだな」

「そ、そう?」

ギクリとしてチェリカとかばうように前に出る。


落ちて来た。


現場を見たわけではないが、この子は落ちて来たのだ。

……あの、空の高みから。

よくよく考えたら怪しいぞ。ウィルも疑ってる。


「ね、今日オレたち森に行くんだけどさ、ウィルも来る?」

「ん、ああ」




「!」

村から森へ一歩踏み出した瞬間、チェリカが立ち止まった。

「どうしたの?」

「……ぁ」

困惑した笑みを返された。

「チェリカ?」

「……トアン……」


『チェリちゃん、いっこいっとくよ』

何?

『あいつは……ルノはなんも悪いことはしてねぇんだ』

……うん。

『でもな、下のヤツラも全部悪いわけじゃないんだ』

……。

『わかるか?』

……うん。わかる。そうやって判断したら、あいつらと同じだよね。

そうだよね? シアング。

「……チェリカ?」

「トアン……。森が、境界線になってる……」

「え?」

振り返らず彼女は言う。そのあとを追って、トアン達も森に踏み込む。

沢山の木々に囲まれていて森は暗い。

走っていく金髪と白い服を追いかける。


「トアンっ! あいつ足はやいな!」

「ウィルが遅いだけでしょ!」

「なぁ、やめようぜ! アイツきっと魔物かなんかだぞ! 奥に行った途端に食われちまうんだ!」

「違う! あの子はそんなんじゃ!」


不意に、視界が開ける。

「こんなとこあったんだ……」

「はぁ~疲れた……」

「トアン」

「……!?」

呼ばれて顔を上げると、チェリカがいた。

手には長い杖。その先端には綺麗な宝石がついていた。

彼女はそれをトアンの鼻先に突きつけると言った。


「ここ、どこ?」

「知るか!」

ウィルが噛み付くように言う。

トアンはチェリカの表情を見た。


悲しそうだ。


「チェリカ……? どうしたの?」

「トアンは思い出さない?」

「へ?」

「森に一歩踏みいれた瞬間……、村を出た瞬間に、忘れかけたものが思い出されたんだ」

「……それって……」

「あの村は」





アァアアアアア!


「!?」


妙な声がして、トアンたちは身を竦ませた。

「な、何?」

「トアン!あ、あれ!村から煙が!」

ウィルが焦った声を出した。

「!」

チェリカが何かを理解したように走っていく。……煙を上げる村の方へ。

「チェリカ! 待ってよ!」

「トアン! あ、あんなのほっとけ!」

「ほっとけないよ!チェリカは、」

出あったばかりの子。でも、彼女の胸のうちにあるものはわかった気がする。

自分自身を追い詰めている。

そして、

「行かなきゃ!」

トアンは走り出す。ウィルもやれやれといった感じで後を追う。



それは巨大な花のような生き物だった。

逃げ遅れた幼い少女をその蔓に絡ませ、自分のほうに近づける。

「リリィ!」

母親であろう、女性が駆け寄ろうとするが村人達に止められる。

「お母さん!」

少女が泣き叫ぶ。と、その少女に巻きついていた蔓が切れた。

数人の村人が受け止める。

「早く逃げて!」

はっとしたように人々は逃げていく。そのうち何人かが振り返ると、

少女が一人、その生き物と対峙していた。

「君は?」

チェリカはその生き物に話かけてみた。……返事はない。

「どこからきたの?」

返事は、ない。

その生き物はじっとコチラを窺っているようだった。


霞む。

記憶が曖昧になっていく……

……させない。

消えさせてたまるか。

……。

────。

──霞まない……。


いける、かな。



杖をしっかり握って感触を確かめる。

「ァアアアァァ……」

生き物が、狙いを定める。そして、

(来る!)

太く、長い蔓がまっすぐに飛んで来た。

「遅いよっ!」

跳んで、かわす。

と、そこに二発目、3発目が来る。

(バカじゃないってことかぁ……ま、いけるかな)

冷静に考えながらひらりひらりと身をかわす。

そして大きく後ろに跳んで、杖を掲げた。

(集中……集中!)

「赤き刃よ、紅蓮の牙よ! ……焼け、レング!」

杖の先の水晶が光り、そこから火の玉が出現した!火の玉は生き物の所まで飛んでいき、直撃した。

「ギャァアア!」


「終わった……」

ほっとため息を吐き出した、瞬間。生き物は最後の力を振り絞り、彼女めがけて蔓を振りおろす。


「……レング!」

彼女がそう叫ぶ。と、杖から火の玉が飛び出す。

後を追ってきたトアンとウィルが見た光景は、信じられないモノだった。


何しろ、魔法なんてモノ初めてみるのだから。


「トアン、アイツはやっぱり化け物だ」

「違うよ」

「あんなこと人間にできるもんか!」

「ウィル! あれ!」

不気味な化け物はまだ生きている。

蔓がゆっくりと振り上げられるがチェリカはそれに気づいていない。

「危ない!」


「?」

(トアンの声がする。……あぶない?)

ふっと上を見上げると、蔓が迫ってくるところだった。


杖を構える時間はな……


逃げることもできず固まっていると、走ってきたトアンに体ごと吹き飛ばされた。



「……」

「チェリカ、大丈夫?」

「あ、」

「痛くない?ごめんね」

「痛くないよ……」

トアンが全て負担してくれたようだ。右手で左肩をおさえて、笑っている。

「トアンは痛くない?」

「大丈夫」

「左肩打ったんだね」

「え、あ」

チェリカは耳のピアスをはずすと、トアンの肩に当てた。

ピアスから淡い光が発せられる。

「……?」

痛みがひいていく。

「トアン」

二人ともまだ地面に座り込んだままチェリカが口を開いた。

「左手……そろそろ離して?」

「あ、あああごめん!」

庇った時にまわした左手が、起き上がった今もそのままだった。


「お姉ちゃんすごい!」

「ありがとうございます、これでうちの子も助かりました」

「ねえちゃんすげえな~」

気づけば、村人にかこまれていたり。


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