第3小節:最近の主人公は、最初から理不尽に強い(4)

「っ、仲間がいたのか…」


 彼は、苦虫を噛み潰したような顔で吐き捨てるように呟く。するとれんなちゃんも鼻を鳴らした。


「仲間? あたしとこいつが、仲間に見えるのかよ?」


 違うのだろうか。私は少なくとも仲間だと思っていたので、少し寂しい。

 すると彼の手は、私の掌ではなく大剣の柄を握った。まずは、れんなちゃんを排除するつもりなのだろうか。しかし、対して後ろにいた少女の反応はもう少し違っていた。


「れんな…」


 彼女は、れんなちゃんを見るなり押し殺した声でそう呟いた。どうやら、彼女はれんなちゃんの事を知っているようだった。

それに対しれんなちゃんも、忌々しそうに彼女を睨み付ける。そして、驚愕の事実を口にした。


「…"姉貴"……いや、"あいら"」


 そう、鍵銃を携えた彼女―――あいらさんは、れんなちゃんの姉だった。彼女達もまた、私とみらいのように道を違える運命を背負った少女達だったのだ。

 とても、実の家族に向ける眼差しとは思えないような殺気に、2人の間の空気が張り詰める。その時、そこにやれやれ君が割って入った。


「あいら、俺も手を貸す」

「ヒカル…? どけ、これは私達姉妹の問題だ」

「いいや、あいらは俺の仲間だ。仲間の問題は、俺の問題だ」

「バカな…じゃああの子はどうする?」


 あいらさんが私を指さす。それに彼も、毅然とした態度で返す。


「あの子も助ける」

「無茶だ! 2人同時になど…!」

「できるさ。だって、俺達も2人いるから。2人分の想いがあれば…不可能はない!」

「ヒカル…」


 やれやれ君のの頼もしい言葉に、あいらさんは熱っぽい視線を彼に送る。ちょっと待て。この姉妹、まさか揃って彼の事を…?


「行こう、あいら。俺達が―――」


 だがその時、非情な一撃がやれやれ君の顔面に炸裂した。れんなちゃんのトンファが、彼の体を地面に叩きつけていた。


「ちょ、れんなちゃん!?」

「おい愚妹! こういうのはセリフが終わるまで待つのが悪者のルールだろう!?」


 しかし、れんなちゃんはまるで悪びれる様子もなく気だるそうに肩を回した。


「いや、だってあんたらの事情なんか興味ないし…」

「れ、れんなちゃん? 彼の事、好きだったはずじゃ…?」


 あまりの容赦のなさに私が恐る恐る尋ねると、れんなちゃんはそんな私に向かって顔をしかめた。


「はぁ? なんであたしが。ていうか、知らないしあんなヤツ」


 もしかして、れんなちゃんがやれやれ君に好意を抱いているというのは私の見込み違いだったのか。いや、違う。多分これは、気づいていないのだ。目の前にいる甲冑を纏った男が、やれやれ君だという事に。何故? どう見ても、服装以外やれやれ君のまんまなのに。


「ヒカル、大丈夫か?」

「あ、ああ…なんとか。しかし、なんて奴だ…」


 そして多分、やれやれ君も。あいらさんは、れんなちゃんを彼女だと認識できているのに。なんだ、恋は盲目とでも言いたいのか。

 と、立ち上がろうとするやれやれ君の頭を更に別の衝撃が襲った。背後から、ゆかりさんが私達の元へ駆け寄ってきたのだ。途中、床に這いつくばっている彼に気づかずに。


「ヒカルーッ!? お前ら、わざとか!?」


 しかし、ゆかりさんは激昂するあいらさんには脇目も振らず背を向け、そして私を腕の中に包み込んだ。


「ごめんなさい…早く来てあげられなくて」


 彼女の透き通るように白くか細い指が、彼につけられた背中の傷をなぞる。いつもの涼やかな表情は、影を潜めていた。

…不思議と、痛みが和らいでいく。


「こんなに傷だらけになって…」

「大丈夫ですよ。それに…少しは時間、稼げましたよね?」


 私は、ゆかりさんを安心させようと笑顔を繕った。彼女には、いつものように不敵で、冷静な表情でいてほしかった。


「もう、この子は…」


 ゆかりさんは、困惑と安堵の入り混じった曖昧な笑顔を浮かべた。初めて見る表情も、やっぱり綺麗だと思った。

 と、それを遮るように風を切る音がした。やれやれ君の後ろにいた、あいらさんから放たれた銃弾だった。ゆかりさんのヴァイオリンの盾が、それを弾く。


「お前か。その子の心に付け入り、闇に染めたのは。…人の心を惑わす悪魔め」


 彼女の静かな怒りが、冷たい銃口からでも伝わってくる。彼女もまた、道を踏み外した私に手を差し伸べようとしてくれているのだろう。だが私は、あえてその手を振り払うように立ち上がった。


「いいえ、惑わされてなんかいません。私は、自分の意思でこの人達の仲間になった

んです」


 はっきりと意志を込めて私は応えた。やれやれ君も彼女も、その言葉に必死で伸ばしていた手を叩き落とされたかのように愕然としていた。しかし、これに誰よりも驚いていたのはゆかりさんだった。


「…いいの? 多分、引き返すならこれが最後のチャンスだと思うけど」


 ゆかりさんもまた、私がみらいと世界を天秤にかけて揺れ動いている事に気づいていたのだろう。だから、例え自分がこうして割って入ったとしても、もしかしたら私が正義の味方側につくかもしれないと思っていたに違いない。

だけど、私は知っている。彼女の優しさを。


「ゆかりさんのせいですよ」

「?」


 目を丸くするゆかりさん。


「まぁ、でもそれで正解かもね」

「どうしてです?」

「だってセカイなんて、私達悪者より遥かに信用ならないもの」


 芝居がかった口調と身振りでゆかりさんが嘲笑する。と、ほぼ同時に乾いた音が響き渡る。見ると、少女の銃口が煙を上げていた。


「ふざけるな。そもそも、洗脳された人間が『違います』などと言うものか」


 彼女の銃口から煙が上がる。なるほど、彼女は私がゆかりさん達に洗脳されていると思っているらしい。


「じゃあ聞くけど、あなた達、自分達こそが絶対的に正しいと言える理由がある?」

「お前達がセカイの創りだす調和を壊そうとし、私達がそれを守る為選ばれた。それ

だけで、理由は十分だ!」


 再び放たれる銃弾。しかし、それを弾いたのはゆかりさんではなくれんなちゃんだった。


「変わらないな、姉貴。そういう独善的で思い込みの激しい所」

「黙れ!」


 あいらさんの叫びと共に、トンファと鍵銃が交錯する甲高い唸りが音楽室に木霊した。


 しかしそれとは対照的に、後ろで所在無げにしていたやれやれ君は冴えない表情で立ち尽くしていた。私の表明する意思に、信じられないとでも言いたげだった。


 「どうして…君は、罪から解放されたかったはずじゃないのか。それに、そいつらが本当に妹さんを助けてくれるかなんてわからないのに……君もそれくらいわかってるはずだろう!なのに何故!そうまでして悪者でいなければならないんだ!?」


 振り絞るような声が、広く冷たい音楽室に静かに木霊した。彼は、本気で私を暗闇から救い出そうとしているんだとわかった。正直に言うと、少しだけ嬉しかった。こんなにも、真正面から私に向き合ってくれているとは思っていなかったのだ。

 それでも、私は彼の気持ちを裏切った。


「ごめんなさい。でも私、思い出したんです。今あなたの手を取ってしまったら、私は自分の罪から逃げる事になってしまう。きっと、みらいなら…そんなの、絶対許してくれないだろうなって。それに、消えてしまったあなたの仲間ののぞみちゃんや、他の人たちを覚えている人がいなくなってしまったら…今度こそ本当に、彼女達はこの世界にいなかった事になってしまいますから」


 私は気づいたのだ。私が取るべき手は、彼のような暖かく、光に満ち溢れた天使の手ではなく。冷たく、闇の中で手招きする悪魔の手なのだと。それが、私の選んだ道だったと。もし、ここで光を手に取り、逃げてしまったら…多分、みらいは二度と私と口を利いてくれなくなるに違いない。


「そんなの間違ってる!その罪を償う為に、更に別の罪を背負うなんて!そんなもの、妹さんも望むはずがない!」


 わかっている。そして、私がみらいに近づこうとする度、多くの人の未来を消してしまうという事も。それでも―――


「それでも、決めたんです。世界がみらいを元に戻さない限り、私は世界にとっての悪者を演じ続ける。そして、私が消してしまった人を…望みを、全部この心に覚えておく。それが、私にできる唯一の償い。そして、私なりの正義です」


 ピースメーカーも、シャトランジも関係ない。私は、私だけがやれる事を全力でやりとおす。それだけだった。流石のやれやれ君も、どんな言葉をかけようと私が折れる事はないと悟ったのか、それ以上は口を開かなかった。


「『悪者を演じ続ける』、ね」


 代わりに、ゆかりさんが口を挟んできた。ちょっとまずかっただろうか。演じるとか、正義とか。つまりは、本心では悪者でいる気はないと告白してしまったようなものだった。


「あの、別に協力する気はないって事じゃなくてですね…」


 慌てて取り繕おうと思いつく限りの言い訳を並べる。そんな私の頭を、ゆかりさんが優しく撫でた。


「いいんじゃない、別に」

「…え?」

「キングも言っていたでしょう? "悪者"なら、少し自分勝手なくらいじゃないと、

ってね。というか、この程度で咎められるようなら、今頃ビショップやルークは解雇

されてるわね」


 そう言われて、私はれんなちゃんの方を見やった。彼女は、ゆかりさんに対し口を尖らせ何やらぶつくさ文句を垂れているようだったが、今日だけでも心当たりはあるようでそれ以上大きな声では言えないようだった。


「おやおや、心外ですね。キングへの忠誠心でいったら、僕が一番上でしょう?」


 と、どこからともなく声がした。黒いスーツを身に纏ったタクミさんが、いつの間にかれんなちゃんの隣に立っていた。


「あんたさ、緊急事態なんだからもう少し早く来れなかったワケ?」

「すみません、道が渋滞してまして」


 自分の事を棚において憎まれ口を叩くれんなちゃんをタクミさんは華麗に受け流す。でも、れんなちゃんもまたそれが当然といったように特に気にもかけずやれやれ君達の方に向き直った。無秩序から生まれる秩序。仲間ではないが、並び立つ者。多分、これが彼らのあるべき姿なんだろう。


「でも―――」


 私にはわからなかった。そうまでして、私を受け入れる理由が。きっとメリットなんかない。しかし、その疑問を口にしようとして、ゆかりさんの指がそれを遮った。


「決めたんでしょ、自分で。だったら、どうするの?」


 言われて、思い出す。迷ったり、悩んだりした時、どうしたらいいのか。ゆかりさんが教えてくれた事を。

 私は、弱気になって曲がっていた腰をピンと伸ばし、大きく息を吸った。


「振り向かずに、前を見る…」

「よくできました」


 ゆかりさんが微笑む。

 息を吐き終えた頃には、私の中にあった惑いや憂いは、完全に消えていた。


「……だ…」


 その時、ぽつりと誰かが何かを呟いた。はっきりとは聞き取れなかったが、それがやれやれ君の発したものだと気づき、その場にいる全員が彼に視線を集中させる。


「まだだッ!」


 と思ったら、今度は耳を劈く勢いで叫び、目にもとまらぬ速さで突撃してきた。その標的は、間違いなくゆかりさん。恐らく、彼女から私を取り戻すつもりだろう。そう、彼はまだ諦めていなかった。その巨大な刃を天に振り上げ、ゆかりさんに迫る。

ゆかりさんは、彼の想定外の機動力に呆然とし、まだ盾を構えられずにいる。


「ゆかりさん!」


 私が叫ぶ。その声に弾かれるように、ゆかりさんは盾を構える。甲高い唸りを上げて、刃と盾が交錯する。しかし、そこから攻撃に転じようと弓を構えたゆかりさんの動きがまたしても止まった。

 彼がいない。たった今まで、目の前にいたはずなのに。しかし、私には彼が何をしようとしているのかわかった。ほんの数分前にも味わった、この感覚。やはりそうだ。既に彼は、ゆかりさんの背後で飛車勅閃斬の態勢に入ろうとしていた。

 まずい―――!

 そう思った時、不意に私の手元に何かが投げられた。


「っ!?」

「少し遅れましたが、新人さんへ僕からの入社祝いです」


 それを投げたのは、タクミさんだった。

 私は慌てて手を伸ばしてそれをキャッチする。さわり心地は固く、鉄のようなひんやりとした冷たさがあった。形状は、銀の円柱が、三角形に折り曲げられていて。整然と並んでいた楽器の中にあって、あまり目立たない存在。


「"トライアングル"…? どうするんですか、こんなもの―――」


 言いかけた瞬間、その楽器が黒い閃光に包まれた。視界を覆う強烈な光に、私を含め、その場にいた多くのものが目を伏せる。


「ふむ、まぁそんなものでしょう」


 そして、そのタクミさんの言葉と共に徐々に視界が晴れると、それは楽器からひとつの武器へと変貌を遂げていた。


「それがあなたの武器ですよ。使い方は…まぁ、戦ってみればわかるでしょう」


 それは、まさにトライアングルをそのまま大型化したような形状だった。私は瞬時に理解する。彼は、物体の"役目"を変えたのだ。楽器という役目から、武器という役目へ。多分、ゆかりさんのヴァイオリン型の武器や彼らピースメーカーの武器のように、何かの形状の意匠が見られる武器は、皆同じ原理で造られたに違いない。しかし、戦えばわかると言われたそれの用途は、見た目からは一切想像がつかない。この三角形の鉄の塊が、一体どう役に立つのだろうか?

 いや、今は悩んでいる場合じゃない。私は受け取ったトライアングルを片手に、ゆかりさんの背後に飛び込んだ。


 案の定、そこにやれやれ君はいた。私の時と同じだ。最初の一撃で相手の意識を全面に引きつけておいて、持ち前の機動性で背後から仕留める。あれだけ熱い演説を私に披露してくれたやれやれ君にしては、姑息な技だと思う。

 しかし、彼の攻撃の法則がわかっても対処の術がなかった。まだ、この武器の使い方は何もわかっていないのだ。ブーメランみたいに投げつける? それとも、角で殴る? どちらにしても、あの巨大な剣にぶつかったら、細見なこの武器はすぐにも折れてしまいそうだ。


「飛車勅閃斬―――!」


 彼の死刑宣告が来た。もう悩んでいる暇はない。私は、無我夢中でその武器を彼に向かって突き出した。考えなどない。ただ、それくらいしか出来る事がなかった。

だが、結果としてそれは正しかった。金属が擦れあうような、甲高い音が響く。見る

と、あの重厚そうな大剣が私の武器によって押し返されていた。信じられないといっ

た顔で目を見開くやれやれ君。私自身も、何故彼の攻撃を防ぐ事が出来たのかわから

ず目を白黒させる。


「どうやら、音波が防壁を作る武器みたいですね」


 状況を把握できずにいる私達に対し、傍から観察していたタクミさんが解説を入れた。言われてみると、私と彼の間にはわずかに陽炎のような空気の揺らぎがある。これが彼の言う防壁、つまりは盾の役割を果たしたのだろう。

 攻撃を弾かれた彼の体が仰け反る。その隙をついて、ゆかりさんがヴァイオリンの弓を振るった。直撃。やれやれ君の体はあいらさんの側まで押し戻される。

形勢逆転。やれやれ君がいくら強力な力を持っていたとしても、ゆかりさんを含むこ

の人数差。どちらが有利か、火を見るより明らかだった。

 私は、自分の手に握られたその三角形の武器をまじまじと見つめた。


―――これで、やっと役に立てるんだ。

 ずっと欲しかった玩具を買ってもらった子供のような、久しく忘れていた高揚感が体を駆け巡る。今までゆかりさんには助けられっぱなしだった。ずっと守られてきた。だから、今度は私がゆかりさんを守る。きっと、私にこの盾が巡ってきたのは、そんな想いが通じたからだと思った。

 だがそんな事を思っていた矢先、れんなちゃんから思いもよらない言葉が出た。


「で、どうすんの? 一人増えたところで、アイツには敵わないと思うんですケド」

「え? これ、勝てる流れじゃないんですか?」


 戦力差4対2の、この圧倒的状況。しかも、戦闘に不慣れとはいえ私の能力は相手にとって未知数。普通に考えれば、勝てない方がおかしいはずだ。しかし、れんなちゃんだけでなく、タクミさんも、そしてゆかりさんまでもが、落胆した表情をしていた。


「いやいやとんでもない。敵である僕達が言うのもなんですが、彼の本気はあんなも

んじゃないですよ。彼のあの技、彼の中で一番弱い奴ですし」

「…マジですか」

「マジです」


 私、さっきその一番弱い技とやらで殺されかけたんですけど。

 そういえば、シンは『歯車が起動したのは久しぶりだ』と言っていた。私はその理由をようやく理解した。つまり、彼はそれだけ強大という事だった。


「まぁ、やれるだけやるしかないんじゃない?」


 半ば諦めたように、落胆した声で呟くゆかりさん。残りの2人も、しぶしぶといった様子でそれぞれ武器を構えてそれに応える。


「まぁ、いつもよりは勝率高くなってますよ。2%くらいはね」


 タクミさんが取り出したのは、管楽器の中でも最大といわれるチューバの意匠を持った大砲。お世辞にも屈強とはいえない体系を持つタクミさんがそれを構えるのはなんだかアンバランスに見えるが、それを差し引いても金色に輝く巨大な砲身は見るものを圧倒させる力があった。


「あーあ、これだから来たくなかったんだけどな」


 対して、れんなちゃんは細身のクラリネットを模した1対のトンファをけだるそうに振り回す。クラリネットとは言ったものの、武器としての役割が色濃く反映された為か本来にはない柄のようなものが生えている。


「…なに」


 それをまじまじ見つめていた私を、訝しげに睨むれんなちゃん。


「いや…意外に可愛いチョイスなんだな、と思って」


 彼女の荒々しい性格を鑑みて、私はてっきりエレキギター辺りを使うんじゃないかと勝手に思い込んでいたのでちょっと意外だった。そんな風に小さく笑みを漏らした私の額を、れんなちゃんが人差し指で小突く。


「トライアングルに言われたかないっての。いいから真面目にやんなって。気ぃ抜い

てたら死ぬかもよ」

「ご、ごめんなさい」


 窘めるように睨みつけるれんなちゃん。でも、その声はこれまでのような棘を含んだものではなく、むしろ私の身を案じる柔らかい声だった。


「僕のチューバは発射までにチャージをしないといけないので時間がかかります。な

ので…」

「わかってる。いつもの、"DF作戦"でしょ」


 そのゆかりさんの言葉と共に、私以外のその場にいる全ての人間が構えを取った。しかし、その"いつも"を知らない私はというと。


「で、でぃーえふさくせんって??」


 わけがわからずおろおろと狼狽えるしかない。しかし、そんな私には脇目も振らずゆかりさんとれんなちゃんは飛び出していく。そして、幾度かゆかりさんとやれやれ君の刃が交錯したところで、ようやくタクミさんが説明してくれた。


「D、F…出たとこ、ファイティング。つまり、策なしです」

「えええ…」



 最も、説明する必要もないような作戦だったが。

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