第4章/絶体絶命のなかで

第36話/序列はポイント制

第36話


 疲れすぎてろくに異能力の発現特訓ができず、一夜が開けて。

 十月十日、土曜日の早朝。


「全身が筋肉痛だから休むべきだろ? ああ、俺はよく頑張った。よく走った。よくぞ逃げ切った。俺の体も水着少女達も、皆お疲れ様と言ってあげたい」


 俺はベッドに寝転がったまま自問自答をしていた。


「休んでもトピアは怒らないよな? ああ、放課後の特訓さえ出ればきっと許してくれる。超回復のためだ、仕方ない」


 二週間も自宅に引きこもっていた人間が、その翌日には美少女の尻を追っかけ回し、さらにその翌日には水着少女の群れから必死に離脱したのだ。

 いいかげん体が悲鳴を上げてもおかしくなかったのだ。


「だいたいな、俺を殺すと宣言した先生ヤツに会うとか正気じゃない。ドMかよ、俺は健全なSだちくしょう!」

「はあ? さっきから何を喚き散らしてんのタワシのくせに」


 俺は跳び上がるように起き上がる。部屋の隅に制服姿の熾兎が立っていた。

 どうやら今回も異能力で壁を擦り抜けて来たらしい。


「あんた、筋肉痛だからって授業サボる気?」

「お前には関係ないだろ」


 妹なのにそんな言葉が胸を突いて出てきた。


「関係ないって……」


 なぜか物悲しそうな表情を作る熾兎。

 だがすぐさま俺を睨み付けると、


「だったらさ。せめてあたしの前から消えてよ。もう目障りなのよ」

「は? お前が勝手に俺の部屋に入ってきてるんだろ?」

「意味違うから。って言ってんの」


 ……学園を辞めろ、か。ド直球じゃないか。


「なあ」

「何よ」


 ……俺は憑々谷子童の過去を知らない。だからどうしてこれほど妹に嫌われているのか、探りを入れたくなった。


「俺、お前に何か悪いことしたか?」


 あえてこちらもド直球で。

 すると熾兎は露骨に眉根を寄せた。俺は畏怖するも続ける。


「い、いや。前にお前が言ってたように、授業サボったり遅刻したり、女子を困らせたり泣かせたり、それでお前に迷惑かけてるのは納得できる。だけどまだ他に理由があって俺に退学を迫ってるんじゃないのか?」

「当たり前よ」

「じゃあそれは―――」

「それは何だ? って抜かすの?」

「……お、おう」


 超怖い。朝の男の生理現象が解除されるレベル。


 と、熾兎がボソリと呟く。


「(………………ひよったからでしょーが)」

「え? 何だって?」

「…………」


 俺は反射的に訊き返した。いや本当に聞こえなかったのだ。そういや最近耳かきしてないなーと、どうでもいいことを思い出しつつ、熾兎の返事を待つと。


「はっ! ってかあんたは来週の武闘大会でチェックメイトだったわ。ずっと序列最下位の無能を学園が放置しとくはずないし!」

「え? 知ってたのか?」

「当たり前よ。あんたを辞めさせるためにどんだけ調べたと思ってんの」

「……にしては、俺を朝起こしにくるよな。遅刻しまくっても退学になるだろ?」


 我ながら適格な指摘だ。結局コイツもツンデレなのだろうか。


「いやなんないから。最悪でも留年。そんであたしがあんたを起こすのは、あたしが先生に怒られて謝ったりしたくないから。そんな単純なことも分からないの?」


 …………ぐ、ぐぬぬ!


「ま、いいんだけどね。どうせもうあんたは退学なんだし。

「……………………………………………………は?」


 あんぐり口を開ける俺。

 熾兎は嘲笑したまま続けた。


「評定会議ってのが大会後に実施されんのよ。大会の結果を踏まえて生徒達に評価ポイント振り分けんのね」

「ぽ、ポイント……?」

「うんそう。大会に出るだけで五ポイント、勝ち進むたびに二ポイント。一位の生徒には更に十ポイントが貰える。で、その累計ポイントによって序列が更新されてく仕組みなんだけど、」

「……、」

「ただ、次の大会は一年に一度の無差別戦で、その直後の評定会議による序列は……なの。つまり除外された生徒は、退学処分」


 な……んだと? 退学処分?


「言うまでもないけど、累計ポイントがマイナスされるのは大会不参加の場合ね。これが超厳しくて一回につきマイナス十ポイント。タワシは全ての大会、計三回の不参加だからマイナス三十ポイント♪」

「じゃ、じゃあ一位は? 優勝でいくらポイント貰えるんだ!?」


 冷や汗を掻き始める俺に、熾兎は残酷な笑みを湛えて告げてくる。




「んー。参加者はだいたい五百人くらいだから、優勝して三十三ポイントくらい♪」




 ―――絶句した。

 二位以下だとマイナスのままじゃないか!?


「あんたにとって何が最悪って、次のは学年別のトーナメント戦じゃないってことよ。学年別だったらトピア先輩みたいな強い上級生と戦わずに済むし、優勝しやすいでしょ?」

「そ、それは……」

「あっ! でもダメか! 無差別より参加者減るから対戦回数も減るんだった。ってことは、うん! 学年別トーナメントで三十ポイント以上ゲットは無理! いやー、あたしってば対戦回数のことすっかり抜けてたわぁ♪」


 てへ、と舌を出す熾兎。可愛いがわざとらしい仕草だった。


「ごめんごめん、でもおかげで前向きになれたんじゃないの? だってあんたは次の大会が無差別だったからこそ、辛うじてまだ退学にならずに済む可能性が残ってたんだよ? これってヤバくない? 運命みたいなの感じるよねー♪」


 アハハー、と嬉しそうにはしゃぐ熾兎を、俺は見ていられなかった。

 絶望だ。もしコイツの言うことが本当だったら―――。




(もう俺にはバッドエンドしか道がない……ッ!?)

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