第195話/読者=同志

第195話


 アリスの体調が良くなった後、俺はアリスバンドについて彼女から教えてもらった。


「そうか……この腕輪は、お前の世界と繋がってるゲートの役割があったのか」

「その腕輪は偽物だけどね。本物をなくされたらあたしが困るわけ。持てるものならあたしが持っていたいんだけどねー」


 しかしアリスには預けられない。彼女が本物の腕輪に触れると身体が天使サイズになってしまうらしい。ずいぶん彼女にとって都合の悪い設定だ。


「てことは、ミヨーネから本物のアリスバンドを取り返すのは、」

「必須イベントってことぉ! いっ、うぇーい!」

「…………。テンションがおかしいだろ」


 ミヨーネは最後の魔王有力候補。恐らく所持している宝具は三つ。俺より一つ多い。手強い相手となるのは明らかだ。


「まあまあ。ツっきんが盛り下がる気持ちは分かるよん。けど、ツっきんが腕輪なくしたのは身から出た錆みたいなもんじゃん?」

「どこがだよ」


 俺の手から離れたらアリスバンドの存在を忘れてしまうのだ。そんな俺が著者によってアリスバンドを手離されていた。すなわちミヨーネの手に渡ったのは著者のせいであって、俺は身から錆が出るような悪行は働いてない!


「さっき、俺の責任じゃないって言ったのはお前だろ……」

「さっすが覚えてるねぇ。まー冗談だよん。ツっきんは悪くない悪くない」

「当たり前だ。同志もきっと同意してくれてる」

「同志?」

「読者のことだ」


 実は以前から思っていたことだが、


「……この世界は小説の中だが、その実感はあまりに湧きにくい。著者が言ってるだけで物的証拠がないからな」

「ふむふむ」

「どうしても違和感が残るんだよ。読者を読者と呼ぶことに」


 例えばここがテレビの中だったら向こう側は視聴者と呼ぶ。しかしそれは撮影されている物的証拠があればこそだ。撮影の証拠がないのに見えない視聴者を視聴者と呼ぶのは些か気になる。読者という呼び名も同様で。


「神経質だねー?」

「かもな。だが小説の中じゃない可能性だってあるだろ? 実はテレビの中なのに読者と呼んでいるかもしれない」

「なる! そっか、証拠ないと使いづらい呼び名だったかもね」

「ああ。呼び名を変えた方がいいと思っていたわけだ」

「それで同志? 何で同志なの?」

「決まってる」


 読者と俺は同じ本物の人間だ。価値観もほぼ同じだと信じたい。

 読者には俺の言動に賛同したり応援してくれるような、志を同じくする『仲間』であって欲しい(切実)。


 だから今後は読者を同志と勝手に呼ばせてもらう。

 多くの読者に俺が主人公と認めてもらえるよう、期待と敬意をこめて!


「ふーん。じゃああたしもツっきんに便乗して読者のことアリスファンって呼ぼおっと!」

「それは普通にアウト。お前のファンなんているかどうかも怪しいからな」


 まるで読者全員が自分のファンだと言い切っているかのようだ。

 それは他キャラ推しのファンにとって不愉快極まりない。


「何でさ! 絶対いるし全員だし! 同志はオッケーでアリスファンはアウトなのも意味分かんないし!」

「…………はぁー」

「重い溜息! やめてよ、あたしがダメな子に見えてくるじゃーん!?」


 アリスが超うるさい。こいつはもっと謙虚な心を持つべきだと思う。そうすればアリスファンも増えるだろうに……(呆)。


「ツっきんがテンション低いからあたしがツっきんの分までテンションあげてます。あたしって気が利いててマジ俺の嫁だ――!」

「!? 自分で俺の嫁って宣言してるヤツ、初めて見た」


 予想を遥かに超えてダメすぎる子だった。俺にはアリスが不人気キャラで落ち着いたと直感できてしまった。


(フォローのつもりじゃないが、人気になりたいのに逆効果なことするのはこいつの性格によるものなんだけどな)


 そう考えると彼女が可哀想に見えてきた。

 原因は彼女自身ではなく彼女の性格にあったのだ(涙目)。


「アリス、そろそろ戻ろうか。あと……強く生きろよ」

「どして慈愛の眼差しぃぃ!?」

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