第274話/優しさと死活問題
第274話
「なっ!?」
しまった! そういう訳ありの設定だったのか!
さらっと衝撃的なこと告げられたけど冷静に対処しなければマズい!
「あ、ああ、冗談だよ冗談。すまん面白くない冗談だったよな!」
「ひょっとして魔法少女辞めたから学校行くようになったとでも思ったんですか……? わたし達、戸籍もないのに。行きたくても簡単じゃないのに……」
「すまん完全に俺が悪かった! 大変申し訳ございませんでした……!!」
器用に土下座してみせる俺。
……この世界の魔法少女達は俺の想像以上に過酷な運命を強いられているのかもしれない……(汗)。
「まったく……」
ゆりは心底ご立腹な様子だったが、
「……本当に。ツっきんはどうするんですか?」
「ど、どうするって……?」
「これからのことに決まってるじゃないですかー。館に戻ってきたのはまだ諦めてないからですよね? 地底都市、アガルタへの帰還を」
「お、おう……。諦めてるわけないじゃないかー」
話を合わせるだけで精一杯だった。
転移直後はこれだから厄介だ。
(アガルタ……確かアジアのどこかにあるっていう幻の地底都市だっけ……。地球空洞説で知った覚えがあるな)
なるほど俺の目的だけは分かった。アガルタを探し出せばハッピーエンド。
理由はさっぱりだが帰還できればハッピーエンドなのだ。
ただしゆり達……魔法少女にとってのハッピーエンドではないのだろうけども。
「……やっぱり諦めてないんですね。わたし達を説得するつもりなんですね。はぁ……」
ゆりは大きく溜息したが、
「わたしは別にいいですよー。条件さえ呑んでくれたら説得に応じます」
「……、条件?」
「わたしが不覚にもツっきんを館に入れてしまったこと―――何があってもみんなには伏せといてください」
「何があっても、か」
……ずいぶんと楽な条件だ。ゆりにとってはそれほど死活問題だったのか。
「なのでもし今みんなに見つかったら……わたしはツっきんが侵入したと説明します。それでも構わないなら、」
「構わない。お前の条件を呑もう」
条件に裏があるかもしれないと思ったものの、この条件を呑まなければ館を追い出されるだけだ。元々俺は断れる立場にない。
そしてそれはゆりも気づいていて条件を掲示したはず。
「お前、優しいな」
「え。」
「他の子と違って、お前は見棄てられなかったんだろ? 俺を」
「……」
うげぇ、という表情のゆり。彼女は苦笑いで必死に誤魔化そうとしている。
認めてしまえば他の魔法少女に対しての裏切り行為に等しいからだ。
「すまん。また面白くない冗談を言ってしまったな」
「……いえ。優しいと言われて冗談扱いにする方が面白くないですから」
だからか。苦笑いしているのは。認めたくても認めるわけにはいかなくて今のゆりは心苦しいと。
「それより、条件は呑んでもらったので部屋出てもいいですよ。あとは自己責任でお願いしますー。勉強の邪魔になるので早く出てってくださいー」
「……自己責任」
「はいそう自己責任ですー。みんなに見つかってもツっきんの責任ですー。早くしてくださいー」
ゆりが扉を開けたまま動かない。俺が部屋を出るまで待つ気らしい。
(……部屋を出たら速攻で閉められる。そしたら俺は一匹きりだ。とにかくまずは隠れ場所を探そう。説得の方法を考えるのは後回しだ)
案の定、部屋を出た途端に扉を閉められた。
優しさの欠片もない露骨な閉め方だった(乱暴)。
「うーん……優しくしたり冷たくしたり。乙女心ってのは大変だなぁ」
まぁ中学生くらいの年頃なら情緒不安定にもなりやすいものだ。
まだ見ぬ少女達も多感な時期で厄介だと覚悟しておこう……。
(さて。独り言はしばらくお預けだ)
今は廊下に俺だけだった。しかし長居してたらいずれ誰かに見つかってしまう。
考え事は止めて急ぐべきだ。幸い、毛先の長い絨毯が敷かれているので歩きやすい。
(……、階段)
廊下の突き当たりに階段があった。上に行くか下に行くか選べる。体力的にキツイのは上に向かう階段。だが俺は人気が少ないと踏んで上の階を選んだ。
(し、死ぬ……)
踊り場に到着。上の階まであともう半分。しかし俺は激しく後悔した。まだ思い通りに体が動かせない。
一段一段上がろうとするだけで肩が痛い。腕も痙攣しかかっていた。
(人間と骨格が違いすぎる……。ダメだ、一旦休憩しよう)
このまま階段で意識を失ったら本末転倒だ。
この体でできることの限界はある意味で知れている。急ぐべきだが無理は禁物だ。
(十分、いや五分だけでいい。誰も来くるな来ないでください……)
浅く呼吸しながら祈る俺。
だが俺には神様なんていないのかもしれない、
「―――ただいまぁ。今日もお手伝いありがとうね」
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