第69話/強制イベ、スルーしてみた

第69話




「ふ、不純異性交遊は許さないわよ!?」



 …………うん。はいはい。はーい、はい。デジャヴではあるんだが、もうね、このハチャメチャっぷりに全く付いていける気がしない……。


 言わずもがな、新たに登場したのは奇姫だった。こんな夜遅くまで保安委員のパトロールだろうか。真っ白な制服が夜陰によく映えていた。


 彼女はキリリとした姿勢で四人に歩み寄ると、紅蓮の髪を一度ぶわっと炎が揺らめくように手で靡かせた。

 そして一言、


?」


 んで? じゃないだろ……。

 だからそのなぞなぞを超越したナゾ問いかけ、誰が反応できるんだよ……。


「あなた達は、保安委員のわたしを怒らせたいから、この学園の風紀を乱そうとしているのよね? そうなのよね?」

「「「…………………………」」」」

「何か言ったらどうなのよ!!」


 そりゃ全員ダンマリにもなるだろう。まずお前の登場決め台詞(?)の破壊力がハンパない。どうしたら不純異性交遊に見えたんだ。

 そしてお前の被害妄想が過ぎる。どうしてお前を怒らせる目的で風紀を乱したがるっていうんだ。自意識過剰なんじゃないか?


(…………。やば。ツッコミすぎて疲れた。さっさと他のコンビニ行こ。俺には関係ない。ゼーンゼン関係ないんだ)


 では皆さんお疲れ。お休みなさい。

 俺はこのイベント、参加しませんから。

 今ならバレない。バレないでイベント回避できるし。


「!? つ、憑々谷子童ッ!? あんたそんなトコで何してんのよ―――ッ!?」


 うわ見つかった! って、絶対に嘘だこれ! 

 ああもう色々と面倒だから逃げる! 逃げるが勝ちだ!


「ちょ、止まりなさい憑々谷子童! あんた分かってんでしょ、これは強制イベなのよ!?」

「ええい黙れ著者ッ! そんなことぶっちゃけるNPCに従ってたまるか!」


 そんな風に。

 奇姫に吐き捨てた時だった。




 ―――諦めロ。ツッコミ入れた時点でお前に逃げる資格ないワ。




「………………あ」


 しまった。著者にはその手があったんだ……。

 動けない。奇姫から逃げたくても、俺の体が動いてくれない……。




[―――ったく、厄日だな……。それで? 俺にどうしろってんだ、奇姫?]




 言ってすぐ、著者モードの俺は背後を振り返って駆け出した。

 途中まで追いかけてきていた奇姫を通り越し、熾兎と変人三兄弟のいるコンビニ脇まで猛移動した。……諦め方が狂っていやがるっ。


「どうしろっていうか……あんた、あたしがここに来るより前に見てたりする?」

[かもな]

「じゃあ知ってることだけでいいから教えなさいよ。この人達がしてた不純異性交遊のあらましをね」

[あらまし……いや、そもそも俺の妹はコイツらに一緒に特訓しようと誘われて、それを嫌がってただけだが?]

「! な、何ですってぇ? えぇー、じゃああたしの勘違いだったのねぇ。びっくりぃー」


 おいこら奇姫が完璧に棒読みじゃないか。何だこのコント。

 空前絶後のつまらなさと評されても不思議じゃないレベル。


「こ、こほん! わ、分かったわ。なら命令よ。あんたは妹さんを女子寮まで送り届けなさい。あたしはこのチビとデブとノッポを処理しとくから」


 ……処理て。

 一応、俺の友達って設定なのでは……。


[了解だ。コイツらは煮るなり焼くなり好きにすればいい。所詮は使い切りだしな]

「「「…………………………」」」」


 うん、だからって変人三兄弟の息の根を止めているのはどうかと思う。

 まぁNPCじゃなくても真顔でそんなこと友達に言われたら息止まるけど。


「ったく、あんたの妹さんが襲われてたってのに……いや何でもないわ。いいからさっさと行って。大会まで時間がないんだから」

[すまない]


 と著者モードの俺が言い返す前には。

 熾兎はつまらなさそうにそっぽを向き、無言で歩き出している。


[―――っと、そうだ。奇姫?]

「? 何よ?」

[その武闘大会だが。俺は、やれることだけのことはやるつもりだ]

「当たり前でしょ。ってか、優勝してもらわないと困るわ。絶対にね」

[なぜだ? お前が俺に大会をエントリーさせたのは、そもそも『俺が偽者かどうか』を探るためだっただろう?]


 そうだ。学籍番号の入力とか指紋認証とか。つまるところ俺本人じゃないと難しそうなことを要求していた。

 あの時の奇姫の目的は、俺に大会のエントリーをさせてみて、学園侵入者の変装を見破ることだった、はず。


「そうよ? それが何だっての?」

[いや、だったらよ……お前にとって俺が優勝する必要性はないよな?]


 ……あれ? 言われてみれば確かにその通りだな? 

 著者モードの俺と同じだ。疑問はただ一つ。

 どうして彼女が俺に大会優勝を指示したのか? だ。


『もう二度と心を開かない、絶対に容赦しない』―――。


 ああ、もちろん覚えている。

 彼女が俺に優勝を指示した理由は、以前トピアが言及していた。

 彼女が立てた『誓い』のせいだ。


(だけど……彼女にとってそれほど俺の優勝は大事なことか? 学園最強という噂を俺が大会で証明してみせたところで、彼女にはメリットなんて何もないだろ)


「……ふん。何か色々と考えてるみたいだけど。まだ教えるわけにはいかないわ。あんたに優勝を指示した本当の理由は、大会が始まってからじゃないと教えてあげられないのよ」

[? なぜだ?]

「とにかく今はまだ秘密じゃないと困るのよ……って、あんた!? 妹さんの姿が消えかかってるじゃない! 急いで追いかけなさいよ! 見失ったらタダじゃおかないわよ!?」

[あ、ああ。風呂覗きの件があるからな……。指示は守る、安心してくれ]


 著者モードの俺は奇姫に頷いてみせると、小さくなった熾兎の背を追い始めた。

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