第8章/不仲兄妹の真実

第68話/変人三兄弟

第68話


 アリスの居候はトピアと一日交代とする決め事だったが、結局は彼女に世話をさせてしまった(というか地獄の特訓!)ので、今晩は俺の寮部屋での居候になった。


「では憑々谷君、アリスをお願いしますね。お休みなさい」

「おう! 明日も宜しくな!」

「バイバイキ~ン!」


 学園の男子寮前でトピアと別れ、自分の寮部屋に入った。

 最初に確認したのは、この三日間ずっと部屋に放置していたスマホだ。


「ん。メールも電話もナシか……」


 複雑な気持ちになる。連絡があったらあったで申し訳ないのだが、一件もきてないってのもどうなのだろう(悲報)。


 続いて冷蔵庫を開き、所蔵品を見てみる。


「あれ。何もないじゃーん」

「だな……。俺、中途半端に腹減ってきてるんだよな」


 大和先生のオムライスは食べた心地がほとんどしなかったからだ。

 これはある意味、先生の愛のパワーの勝利だ……。


「どーすんの? 買い物、いっとく?」

「そうだな。まだ寝るには早いし。というか、しばらくは眠れる気がしない」


 ということで到着から数分しない内に財布だけ持って男子寮を発った。

 アリスは「お菓子買ってー! 買ってちょんまげー!」とうるさかったので、自宅待機命令を下してやった(常考)。


 とぼとぼと学園の敷地を歩きながら、ある物思いに耽る。


(…………うーん。トピアが言ってたこと、あながち間違ってないのかもな……)


 自分は著者から卒業している、という斬新な着想。

 あの時の俺は信じたいと前向きにとらえるだけだったが―――。


 しかしだ。これが案外、ありえるんじゃないだろうか。

 強制イベント同然のヘタな巡り合わせや、俺自身が俺の意志とは勝手に行動させられた経験。つまるところ著者の仕業としか言いようがないそれらは、わけで。


 そう。気づいていただろうか。実は彼女も見かけだけなら……本物の人間である俺と、平等の仕打ちを受けていた。


(そりゃゲームのNPCがゲームマスターから主人公と同じ扱い受けてたら、そのNPCも別視点の主人公なんじゃないかって疑うのが道理だろ。それと同じだ。……あぁ、同じではあるんだが―――)


 ただ、残念ながら。

 彼女は元からこの小説の中の住民だ。

 その事実だけは揺らぎようがない。


 なぜなら彼女は、著者の仕業や著者の存在に無自覚だからだ。

 俺のように元いた世界からここにやって来ていたなら、そんなことにはならない。


(とはいえ、今の彼女が『著者の支配下にある』と一〇〇パーセント断じるのは難しい。本物の人間に近づいてる可能性もゼロじゃない)


 そもそも著者は以前このように言っていた。

 この小説では『僕以外の誰かが遠隔で文章を打ち込んでるみたい』な怪奇現象が起きていると。


 無論それは俺のせいだろう。俺が自分の意志で勝手に行動するから、それが文章として打ち込まれているのだ。だから著者の言う『僕以外の誰か』というのは、実際はこの小説の中にいる俺のことなんだと思う(←たぶん正解。by著者)。


(その怪奇現象自体がもう現実的にありえないわけだよな。だったら尚更、トピアが自分の意志で動き出すことも、ありえなくはないんじゃないか……?)


 どうなんだろう。ちょっとした興味本位で確かめてみたいが、何か方法があるだろうか。さっぱり思いつかない。こればかりは著者じゃないと分からないか……うーん。


 そんな風に物思いに耽っていると、視界の先に学園のコンビニが見えてきた。


「お。まだやってたか―――」


 幸いにも営業中だった。俺はラッキーと喜びかけたものの、店先を見やれば生徒が六、七人たむろしていた。ジュースを飲んだりスマホを弄ったりと、いかにも愉快そうな雰囲気だ。


「ちっ、リア充達め……。談笑するなとは言わんが、場所を選べってんだ……」


 おかげでコンビニの出入口は封鎖されている有様だった。彼らに近づく気すらしなかった俺は、不本意ながら学園を出て他のコンビニを探すことに。


「…………ん?」


 コンビニの前を通りすぎてすぐ、その気配に気づいた。

 あれは―――。




「熾兎ちゃ~ん? もう大会が近いんだからさぁ~? 今から俺らと朝まで特訓しね~?」

「んだよそんだよぅ。熾兎ちんだって時間惜しいんだろぅ。丁度いいんだろぅ?」

「ウサウサのそのちっぱい、ワイらに借りさせてくれーや? 激しく揉んでやっからよぉ……。んあ、ちゃうか。特訓で揉まれるのはワイらか。ギャハハハハ!」




 やや暗がりな、コンビニの建物脇で。

 チビにデブにノッポの男子生徒達が、熾兎を壁際に追い込み取り囲んでいたのだ。


 男子生徒達は皆私服であり、下卑た発言の内容とは裏腹、これから特訓しようという印象はない。それに対して熾兎は赤のジャージ姿だったが、手にコンビニ袋を提げているので女子寮に戻ろうとしていたのだろう。彼らの誘いに乗る気はなさそうだ。


「おいおい……。ベタな展開すぎるだろ……」


 オチが読めてしまう。まさかだが『妹が大ピーンチ!?』と認識する読者はいないだろう。いたらちょっとビビる。これはどう見ても逆で『男の子達が大ピーンチ!!』だ。変人三兄弟が熾兎に返り討ちにされるオチだ。


「はあ? いきなり何? あんた達、誰よ?」

「決まってるじゃんかぁ~。キミの兄ちゃんのお友達さぁ~」

「あー……。言われてみればそんな感じするわね……?」


 どんな感じだ(遺憾)!


(いやはや、このイベントは全力でスルーだ! 相変わらず妹からの扱いがこんなんだしな! むしろ彼らの救済になる予感もするし!)


 ここまで付き合ってくれた物好きの読者なら、この俺の考え、察してくれるだろう……!?




「ふ、不純異性交遊は許さないわよ!?」

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