第56話/0時
第56話
「大和先生。わたしのこの姿を、充分見ましたよね?」
とだけ。
トピアは息を乱さず質問に質問を返した。
「? あぁ、だいぶ拝ませてもらったが……。お前は何が言いたい?」
大和先生が首を捻って答える。
己の質問を蔑ろにされたためか、やや苛立たしげな声だった。
「いえ別に。気にしないでください。―――次は接近戦でいかせてもらいますよ」
大型銃を消したトピアは、大剣を両手で握り直しながら力強く宣言した。
先ほどの質問は地中にでも埋めてしまえ、なんて訴えたそうに。
「……ほう、これは中々に思い切ってくれるじゃないか。だがまぁお前の判断は正しい。わたしに遠距離からの攻撃は通用せん。さっきわたしが『かかってこい』とお前に促していたのは、そういう意味だからな? ヒントだったのだぞ?」
「そもそも覚えていません。あなたの発言なんて」
「ふふっ、だろうな! お前の学園からの評価はこうだ。『異能力者としての実力は申し分ないが、目上の人間の話に耳を傾けないことがままある』。まさにその通りじゃないか」
「心外ですね。では毒にも薬にもならない話をよく聞けと? 勘弁してください」
……さすがはトピアだった。
先ほどの質問は相当不自然だったのに、先生を気取らせなかった。
『わたしのこの姿を、充分見ましたよね?』
あぁ、そうだ!
何を隠そう、あの質問こそが俺への最後の合図……ッ!
「(アリス! 準備しろ!)」
「(ばっちこーい!)」
トピアの勝利に貢献する時がきたのだ。
俺達にはこれくらいしか出来ないのだから、失敗はもっての外だ。
必ずややり遂げてみせる!
「さぁ、終わりにしますよ、先生?」
加速して大和先生に差し迫るトピア。
…………まだだ!
「それはこちらの台詞だ。わたしの手でこの戦いを終わらせてやろう!」
大和先生も大剣を携えて走り出す。
…………まだだ!
「わたしの正義が勝つのか。それともあなたの正義が勝つのか。結末は受け入れましょう。わたしがわたしらしくあるためにッ!!」
…………ここだッ!
「アリス今だ!!」
「あいあい! 出でよ、
瞬間、黒い人体標本が五体、低空飛行するトピアを傍で真似るように顕現した。
「何だ!?」
急な出来事に大和先生の足が止まりかけた。
とはいえ彼女のことだ、瞳に映った異能力の正体を混乱する頭で掴もうとしているはず。させてたまるか!
「アリス次だ!」
「あい! テンテーに、
「……ぐおッ!?」
真っピンクの煙が大和先生の視界を奪い尽くす。
咄嗟に彼女は煙を振り払いつつ前に出てくるが……。
バカめ! 時すでに遅しだ!
「んなっ!? トピアの分身だと……!?」
大成功だ!
今の大和先生には人体標本がトピアに見えている!
これでチェックメイトだ!
「くそ、一体何がどうなっている!? どうすれば……!?」
混乱の極みに達しているのだろう。先生は大剣が消失していることにも気づかず、怒濤のごとく急接近する
―――だったら自然、戦乙女が一人、いなくなっていることにも気づけない。
「安心してください。あなたを拘束するのが目的ですから」
トピアが
「……うが、はッ!?」
先生は白目を剥いて膝から崩れ落ちる。
それから倒れ伏したまま動かなくなった。
これは、つまり……?
「……おお!?」
トピアが俺達に微笑んでいた。
「助かりました。憑々谷君、アリス。おかげさまでわたし達の勝利です」
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
勝った! 大和先生に勝った! ひゃっほーい!
実感はまだ湧かないが俺の死は回避されたってことだ!
殺されずに済んだんだ(歓喜)!
「ふふっ、これ以上はないくらいの笑顔ですね? ですがまだまだ浮かれてはいられませんよ? 君は今週末の武闘大会で優勝すると決めたんですから」
「ああ! もちろんだ! こうしてお前が次に繋いでくれたんだ、俺だってお前にカッコいいとこひとつくらい見せて恩返ししてやりてえっての!」
「あははー、ツっきん面白ーい! 戦うフリするだけなのに、カッコつける気満々とかー!」
「ちょ、お前、そこはツッコむなよ!?」
「ヤだ! これがウザキャラの使命なのだー!」
「なっ!? 自分をウザキャラと認めただとぅ!?」
「ふふっ……。期待してますよ、憑々谷君?」
「ああやめろやめてくださいトピアさん! アリスに正論ふっかけられた時点で
勝利を手にして著しくテンションの高い俺達。
……だがそれは、束の間の幸せだった。
―――なぁお前サ? もしかしてこれで勝ったと本気で思ってるのかナ?
「……っ!?」
頭に流れ込んでくる文章という名の著者の声。
すると程なくして、
『きひひ、いひ……きひ……いひきひひ。……予定の時間だぁよ?』
「「「!?」」」
機械的な老婆らしき大音声が倉庫内に響き渡った。
薄気味悪い笑い方に悪寒が走ったのは言うまでもない。
そうして俺達が見たのは、今しがたの大音声の出所で―――。
「ふう……ようやく日付が変わったのか。どれ、
倒れ伏したまま大和先生が発した言葉。
まるでそれに呼応するかのように、トピアの絶叫が俺の耳をつんざいた。
「…………あ、あ!? ああああああああああああああああああああ!?」
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