第33話/ゲームからのオーバーキル
第33話
「―――しかし、ちゃんとトピアの言いつけを守ってるんだな? 偉いな」
トピアが調理のためにキッチンに。俺は昨日と同じ位置に座り、アリスはまたベッドの上でごろごろしていた。
「まーね。トピアが友達からゲーム借りてきたんだよ。これ」
と言い、アリスは携帯ゲーム機を俺に寄越してきた。知らないハードだとすぐに分かった。現行のゲーム機は横長ばかりだが、アリスが手にしていたのは明らかに縦長だったからだ。
「このゲーム機で暇潰ししてたのか?」
「そうそう」
「どんなゲームだ?」
「やってみるといいよー。あたしは休憩中だから貸したげるー」
縦に長い液晶画面。いったい何が映し出されるのかと興味を思った俺は、電源ボタンを見つけて押した。
どうやらスリープモードにしていたらしく、すぐに俺の目にタイトル画面が飛び込んできた。
『胸板でもできるッ!』
「……………………、胸板で何ができるんだ…………?」
素でツッコんだ後、俺は眩暈を覚えた。いや落ち着け俺。何を考えているんだ。
胸板だろ。胸板でできることと言ったらあれしかないだろ(常考)。
あれだよな。
あれだろ。
あれしかないだろ。
(あ、あれが思い浮かばない……だと!?)
「あれ? やらないの? 手が止まってるよ?」
「!……いやぁー、これってノベルゲームだろ? 進めたらお前に悪いと思ってな」
「別にいいよ。それ、胸板で失敗した前でセーブしてあるし」
胸板で失敗した前……ッ!?
(や、やばいぞ! 胸板の使い方が気になってしまったじゃないか! 生理的に怖くてたまらないのに!)
というかこれ貸したトピアの友達、頭おかしいだろ! タイトル名だけでキワモノって分かる! トピアに合うとでも思ったのか!?
「そ、そうか。セーブしてたら心配ないか。じゃあちょっと、ほんのちょっとだけ……やってみるか……」
ゲーム機を持つ手が震えているが、俺は覚悟を決めてボタンを押す!
『お前さ、この一か月で胸板が厚くなったよな』
『へへ……。やっぱり分かるかな?』
『あぁ、すごく綺麗な胸板だぜ……触ってみてもいいか?』
『えっ……いい、けど…………あっ』
『筋肉と脂肪のバランスが絶妙だ。やっぱこんな胸板、見たことがない』
『も、もう……いきなり激しく触らないでよ……』
『ああ? 何言ってんだお前。激しくて当然だろ』
『え?』
『お前が俺に許可出した時点で……お前の胸板は、俺のもんなんだよッ!』
『あんっ! つ、憑々谷君ッ!』
「うぎゃああああああああああああああああああああああああああああああ!?」
俺の自我は崩壊した。ゲーム画面では上半身裸の野郎二人が熱い抱擁を交わしているシーンに切り替わっている。
「ど、どったのいきなり!?」
「……はは、ははは。なぁアリス、どうして俺まだ生きてんの? 確かに俺今、ちゃんと死を受け入れたはずなんだけどな。おかしいよな?」
「まぁ断末魔に聞こえなくもなかったけど……」
「あぁ、これもラノベ主人公になったおかげか。なら著者には感謝しないとな。今のは完膚無きまでにオーバーキルだったぞ。少なくともBLが死ぬほど苦手な俺にとっては!」
「感謝? でもこれって著者が仕組んだことじゃないの? 君の名前で収録されてるし。それとも今、操られ中?」
そんなのどっちでもいい。俺はオーバーキルから生き延びることができた。
今はただその事実だけに喜びを感じていたいんだ。
「そうだよ、俺はなんて幸せ者なんだ! 神様に出会えて、ラノベ主人公になれて、これから好きな子の手料理が食べられて! これ以上何かを望むのは、愚かな行為に他ならない!」
「え!? トピアのこと好きになっちゃったの!?」
「ああ、好きになっただけだ! またアルパカパンツが見たいとか、トピアと付き合いたいとは微塵も思っていない!」
「えっと、ひとまず頭は大丈夫だよね?」
「大丈夫どころか冴え渡っている……ッ!」
その時、俺は指が力んでゲーム機のボタンを―――押してしまった。
『よしッ! じゃあいつもの胸板相撲を始めようぜ! 樋口っち!』
「ほぎゃああああああああああああああああああああああああああああああ!?」
俺は失神した。
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