第180話/VSハーピー族
第180話
リーゼロッテが不可能と言い切ったのだ、俺達は降伏しなければならない。世界魔王遺産を穢して死罪となるわけにはいかないのだから。
(俺には魔王討伐という使命があるんだ。逆に魔王から狙われてたまるかってんだ。ここは大人しく捕まっておくのが賢明!)
……などと本気で思いかけたが、
(いいや……いいや! 降伏なんてやっぱり論外! 俺達にとって脅威なのは歴代の魔王じゃなく目の前のハーピー族だ! こいつらが降伏した俺達を丁重に扱うはず
もない!)
まるで俺の中の天使と悪魔に囁かれている心地だった。
だが悩むほどのことではなかったので、
「リーゼ! 条件を変更だ! 目の前の敵を殲滅することだけに集中しろ!」
「……、よろしいのですか?」
その指示が意外だったのか、リーゼロッテは困惑気味に小首を傾げていた。
「わたくしの魔法は概ね広範囲攻撃です。こちらの頭ハーピーな方々を丸焼きチキンにした頃には、草花も被害を受けますが」
「構わない。いっそここら一帯を燃やし尽くす覚悟でいけ!」
「仰せのままに」
リーゼロッテの右手に火の球が出現した。
それは……先ほど、俺のせいで使用し損ねた魔法だった。
「アルティメット・ノヴァ―――」
リーゼが火の球を投擲した。火の球は急浮上し、ものの数秒でハーピー族の包囲網を突き抜けていった。俺達の遥か頭上で不吉な輝きが膨らんでいく。
「皆様、今すぐお伏せください。そろそろ爆発します」
「分かった! お前らできるだけ体勢を低くするんだ!」
慌てて地面に伏せる俺達。
これからの展開は容易に想像できた(緊迫)。
「ちょっとあんた! いつになったらあたしの爆炎剣は活躍できるのよ!?」
「く、くだらない質問してる場合か! いいからお前も頭を守れ頭を!」
キュイイイイイィィィン! と生理的に嫌な音が庭園全体に轟く。
これは爆発の兆候である気がしてならなかった。
キキの質問を一蹴し、俺がちらりと上空を見た時。
「「「させると思うのか!」」」
ハーピー族は逃げていなかった。
爆発に巻き込まれる危険を承知の上で、何やら羽をバサバサと動かしていた。
「!? アイツらは何をやって……?」
「も、もしかして球体に風を送っているのではないですかっ……!?」
「風を!?」
ナクコの予想通りだった。
ハーピー族は球体に吹き上げるような風を送っていた。
「……なるほど。彼女達総出であれば、あの球体を空の彼方まで吹き飛ばすことが可能かもしれませんね」
リーゼロッテが感心したように呟く。
その直後だった。
アルティメット・ノヴァが炸裂した。
「「「うああああああああああああああ!?」」」
どうしたらこれが服が三割破ける程度の威力なのだろう(絶対嘘)。
俺には暴風の下敷きにされている感覚だった。このまま押し潰されてしまうんじゃないかと思うくらいに恐怖のどん底だった。
そしてリーゼロッテには改めて魔王に匹敵するほどに強いのではないかと逆に不安になってきた。
やがて悪夢から目覚めたように「「「うう……」」」と声を漏らす俺達。
その声の数に俺は違和感を覚えた。
(あれ……。全員無事にしたって呻き声が多すぎじゃ―――)
よろよろと起き上がって気づく。
周辺には大勢のハーピー族が転がっていた。
白目を剥いて気絶している者もいれば、朦朧とした意識の者もいて様々だ。
「そうか……。コイツらも暴風に押し潰されただけで済んだんだな」
「そのようですね」
リーゼロッテは凛として俺の隣に立っていた。
まるでずっとそこに立っていたかのように。……実際はそうなのかもしれない。
「わたくしとしたことが少々ハーピー族を侮っておりました。咄嗟の行動で被爆回避を成し遂げるとは」
「そうだな……。……ん?」
「ぴゅ~ん」
のそのそと。ヒツマブシが倒れているハーピー族の元に歩き出していた。
「ぴゅ~ん」
「……そういえばお前、グリーヴァ戦の時も騎士団の人達助けてたよな。今回は敵なのに……優しいんだな」
「ぴゅぴゅ~ん」
「けど、」
俺はヒツマブシを抱き抱えた。
「すまんが我慢してくれ。俺達はお前を失いたくない。お前だって俺達を同罪にしたくなんてないだろ?」
「ぴゅ~ん」
「助けちゃダメなんだ。彼女達は……世界魔王遺産の上に倒れてる」
そう。ほぼ全てのハーピー族がこの庭園の草花の上に落下してしまっていたのだ。
「ありゃりゃ……。こんだけ大所帯で沈んでたら証拠隠滅なんてできないよねん。ハーピー族大ピンチじゃん」
「そうね。今の爆音で魔王関係者が調査に訪れてもおかしくないわ。証拠を隠したりあたし達に罪をなすりつけるのは難しいんじゃないかしら」
「うぅ……。ホッとしたいですけど複雑な気分ですぅ……」
王女コンビやナクコも勝利の喜びとは程遠い反応だったが、
「はあ。なぜ皆様がハーピー族の心配をしているのか謎ですが……。彼女達はそう易々と魔王様に殺されないかと」
「ああ。俺もリーゼと同意見だ」
結果的にリーゼの攻撃を防いだわけだし、ハーピー族は相当頭が回る魔族なんじゃないかと思う。
俺達が罠にハマった時も手際よく俺達を取り囲んできた。あの連携だって見事なものだった。
「心配しないで先を急ごう。イツモワールのねぐらはきっともうすぐそこだ」
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