第181話/強敵前の階段にて

第181話


 庭園の最奥に階段があった。俺達はこの階段を登った先にイツモワールがいると推測し、身を引き締めた。


「ツキシド様。よろしければわたくしが見てきましょうか」

「いや。全員で行く。俺達が離れ離れになるのは止めた方がいい」

「承知いたしました。ではわたくしが先頭を」

「頼む」


 リーゼロッテの先導で階段を登っていく。踏み外さないように段差を見ていると、やけに真っ白なことに気づいた。


「……ずいぶんと綺麗な階段だな。定期的に掃除はしてるんだろうが、それにしたって使われている形跡がない。何か怪しくないか?」

「考えすぎですツキシド様。ハーピー族にこの階段は不要ですし、単に外からの来訪者がいないのでしょう」

「来訪者がいない、か」


 言われてみればそうなのかもしれない。

 こんな巨大な木の上まで徒歩で来る方がおかしい。


「けど、わざわざ階段が用意されているということは、俺達みたいな珍客をねぐらに迎え入れてもいいって主張してるようなものだよな」

「あんたは何が言いたいのよ?」

「イツモワールは案外話の分かるヤツなんじゃないか?」


 徒歩でしか来られない者達への配慮といっていい。

 階段があるのとないのは天と地の差に等しい。


「あんた、本気で言ってんの? さっきのハーピー族は攻撃的だったでしょーが」

「まぁな。認めるぞ、俺の希望的観測だってことは」


 キキからの指摘は客観性が高いものだったが、


「けど、何事も穏便に解決できたらいいだろ? 誰も傷つかずに済むんだし」

「はいはい、宝具もあっさりくれたりしないかなーなんて妄想しちゃってるんでしょ。甘々思考のリーダーね!」

「むっ」


 コイツに言われるとイラっときてしまう。というか俺は甘々思考じゃない。

 宝具の入手が簡単とも思えないし、むしろ妄想なんてできない。


(火ノ国に大雪を降らせ、風ノ国に暴風を起こしている疑いがある。こうも立て続けに事件が発覚してると考えると、イツモワールは無関係じゃないんだろう)


 つまりイツモワールは大悪党。

 だからきっと戦闘は避けられない。


「リーゼ。確認だ」

「はい、何でしょう」

「俺達の目的はイツモワールへの事情聴取だ。宝具……魔族の足輪の入手じゃないからな」

「ですが、」

「ああ。これはキキの言う甘々な思考だ。たとえ話の分かるヤツだとしても、俺達は……戦うハメになるはずだ」

「火ノ国と風ノ国を救うためですか?」

「そうだ。両国の非常事態はイツモワールを懲らしめないと解決しない。残念だが俺はそう確信している」


 俺は他の仲間達を見た。皆が神妙な面持ちでいた。やはり俺と同意見なのだろう。イツモワールは俺達が倒さなければならない強敵だ。


「でしたらわたくしは、戦闘態勢を整えておけばよいのですね?」

「そうだ。魔族の指輪を使う前提で整えておいてくれ」

「! よろしいのですか?」


 リーゼロッテの眉がぴくりと動いた。

 普段は無表情が多いのでどこか嬉しそうに見える反応だった。


「指輪の力を試しておきたいだろ? 魔王有力候補が相手なら使い時だ。がんがん使いまくれ」

「感謝いたします、ツキシド様。では戦闘の意志が固まり次第、わたくしに指示をお願いいたします」

「おうよ―――」


 階段が、終わる。

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