第30話/異世界転移者最強説
第30話
「大会に……出るんですか?」
トピアが意外そうな顔をする。そりゃそうだろう。死か退学か。どちらも可能性の話にすぎないが、それでも常識的には退学を選ぶ。
だがしつこく言おう、これはラノベだ。俺はラノベ主人公だ。
ラノベ主人公は肝心なところで常識を覆すから魅力があるのだ。
そしてそれは大抵、成功を収めているもの。それはなぜか。
わざわざ非常識を採用して大失敗したら、もうアホすぎてキャラ崩壊しかねないからだ。
「ああ。俺はラノベ主人公だからな」
「どういう屁理屈ですか」
「屁り……お前、ラノベ主人公の主人公補正を過小評価してるのか?」
「はあ。思うんですけどそのラノベって本のジャンル、主人公は皆同じ特徴を持っていたりするんですか?」
「そんなわけない。色々だ」
説明が必要そうだったので、俺はラノベ主人公について語ることにした。
「あるヤツは家庭的で料理が上手かったり。あるヤツは最強から最弱に成り下がっていたり。あるヤツは恋に鈍感なものだから気づけばハーレム作っていたり。あるヤツは基本無気力なくせに美少女の前じゃカッコつけて、恋愛フラグ立てていたりするんだよ」
「はあ。とりあえず、料理ができる男性は好みですが」
よし。今からグルメなラノベにしていこう。
料理の知識は皆無でも好きな子のためなら頑張れそうだ。
「ただその……様々な個性の主人公が存在するにもかかわらず、なぜ君はそれほど自信が持てるのですか? 君が『困難を突破できる主人公』とは限らないですよね? いえ、突破できるようには思えません」
「さらっと酷いこと言うなよ言わないでください……」
俺は辛うじて苦笑した。
「まぁ、ラノベをよく知らないヤツからすればそうかもしれない。ラノベの数だけラノベ主人公がいるんだしな。……でもな、あまり言いたくはないが、だいぶ前からラノベ主人公ってのはテンプレ化してしまっているんだよ」
「そ、そうなんですか?」
「俺がさっき言った特徴のヤツらで二割近くいってるんじゃないかな」
「……それ、面白いんですか?」
「超面白いぞ。マンネリ感は否めないがな」
というか、そのマンネリ感も含めてラノベの魅力だ。
ラノベ万歳! 主人公万歳! ヒロイン万歳!
「とにかくだ。逆の発想なんだよ。それっぽく振る舞えばそれらしいラノベ主人公になっていくはずだ。土壇場で覚醒して敵を倒しまくるラノベ主人公に、俺はなれる!」
「敵というのは異能警察ですか?」
「俺の命を狙うなら敵だろう」
「ダメです。約束したじゃないですか。異能警察には逆らわないでくださいと」
「じゃあ黙って殺されろって言いたいのか?」
俺は口を尖らせた。
「勝てないと分かってても抵抗くらいはするだろ。異能警察が直接俺に敵対行動を取るんだったら、我慢なんてできない」
「ですが、」
「だが本当に初戦負けるだけで俺の敵がいなくなるんだったら、そうする。それは約束する」
「……となると、やはり大和先生ですか」
トピアが腕を組んで考え込んだ。
「すでに監視部では、わたしの方針に合わせることで体制が整えられつつあります」
「そうなのか」
「はい……君が初戦に負けたなら警戒レベルを現状維持。勝ってしまったら警戒レベルを引き上げ、直ちに君の身柄を拘束します。騒ぎにならないよう、改めて学園には許可を取ります」
「学園は以前から警察に協力してるんだな?」
「当然です。君は一国を滅ぼしかねないほどの異能力者、らしいですから」
「らしいですから……か」
まるでトピア個人の見解はクリアにしたような言いぶりだった。
昨日は俺が危険人物で間違いないとか言っていた。
「いずれにしても、君には一刻も早く異能力者なってもらわなくては困ります。先生一人だけならわたしにも対応できますが、増援まで相手にすることはできません」
「増援?……先生が呼ぶってのか?」
「ないとは言い切れないでしょう。わたし以外の異能警察の人間は君が最強との見方をしていますから。大和先生もその限りではありません」
そこで俺は思いついた。
「そうだ。いっそ先生を味方にしてしまうのはどうだ? お前みたいに信じてくれるかもしれない」
「ダメです」
しかしトピアは即答してきた。
「今日の昼休み、先生と職員室でお話ししてましたよね? もし君がその手を思いついて先生に打ち明けようとしたら無理矢理にでも君を止めてました。わたし、職員室から少し離れた所で様子見してたんですよ」
「どうしてダメなんだよ?」
「異能力者最強と思しき人間が、プラスして『自分は異世界から来た』と自白し始めるんですよ? むしろ警戒を強めると思いませんか?」
俺はハッとした。
「そうか! 俺の最強説は異世界から来たのが理由になってしまうのか!?」
「ええ。かえって事態が悪化してしまうでしょう」
俺は一国を滅ぼしかねないほどの異能力者。
その理由として異世界から来たというのは全く違和感がない。ほぼ同列の衝撃的事実として扱われるだろう。
「真偽を確かめるため、君は二十四時間監視された環境で何か月も取り調べを受けることなりますね。ちなみにわたしは……たぶんクビでしょう」
続けてハッとした。
しまった、トピアの立場を考えていなかった。
それに被害が及ぶのは彼女だけじゃない。……神様のアイツもだ!
「そう遠くない内にあの子……アリスも調査の対象になることでしょう。いったい彼女は何者なのか。それをこの世界に問い詰めたところで、手掛かりなど掴めるはずがありません。つまりあの子も君と同じように―――」
「もういい。安心しろ。俺の事情はお前以外には言わない」
俺はこの話題を切り上げることにした。
トピアの言うように悪い方向にしか事が運ばないからだ(確信)。
「分かっていただけたようで感謝します、憑々谷く―――」
「……?」
なぜかトピアの口が固まった。
何かに気づいた様子だったので、熾兎や奇姫が登場するのでは、と警戒したが、
「すみません。今更になりますけど、君の本当の名前は?」
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