第10話/曲解からのオーバーキル
第10話
「!? あ、アリス!?」
アリスが枯葉のように落ちてくる。彼女の異変に気づくのが遅れてしまい、俺は慌てて彼女を受け止めようと走り出すが、
「鳥籠に居ろ。こっちに来い」
アリスパパが冷たく言い放った途端、アリスは本当に籠の中の鳥状態になった。まるで手品のように一瞬で。
しかも鳥籠のてっぺんの……吊るすための輪っかとでも言えばいいんだろうか。とにかくその輪っかにはロープが通されていて、鳥籠は下りロープの終点……アリスパパの元へと向かうようになっていた。
ちなみにロープの両端はどこにも縛られていない。
(ま、まさかアリスパパの発言がそのまま魔法として発現してるのか!? いや、ダジャレのつもりはないんだが、もうチートとかそういう次元の話じゃないだろ……。口にするだけで本当の無から本当の有を生み出せるんだ! こんなヤツを誰が倒せるんだ……!?)
「人間よ、もう何も考えるな。貴様の頭では到底我の力を見抜けん。大人しくしていろ」
アリスパパは俺を一瞥してそう言い、いよいよ鳥籠を掴みかける。
しかしその瞬間、
「サンボル!!」
「ぐおぉっ!?」
不意打ちしたのはアリスの雷撃だった。鳥籠がひしゃげるほどの凄まじい威力。
アリスパパはそれをもろに喰らった!
「き、貴様!? 腹に穴を開けてなお、まだこれほどの力が出せるか!?」
しかしアリスパパはノーダメとばかりに声を荒げていた。全身に防御魔法でも張っていたのだろうか。黒白の法衣が若干焦げたくらいだった。
「はぁ、はぁっ……!」
「…………。そうか。今のが全力で最後だったか」
アリスパパの判断で間違いなかった。せっかく鳥籠から脱出しアリスパパにも大きな隙ができていたのに。当のアリスは、その場で気息を整えることに必死そうだったからだ。
「はぁ、はぁっ……」
「醜いな。死を前にし、死を拒絶するその目は」
「はぁ、はぁ……っ!」
「甚だ不愉快だ。情けは元より別れの一言すらかける気が起きん。ただ後悔を抱いて……死ぬがいい」
アリスパパはロッドの先端に禍々しい光の塊を再現させた。
そうして今にもアリスが殺されようとした、まさにその時。
[死ぬのはお前だろ!! この早熟老害神……ッッ!!]
…………………………………………………………。
…………うん、うんうん? うんうん? うん?
(まぁ、な? とりあえずアリスパパだけには勘違いしないでもらいたいよな。俺、早熟老害神なんてこれっぽっちも言ってないから!)
恐る恐る顔を上げると、アリスパパが眉を歪めて俺を見下ろしている。
……ひぃ!?
「貴様、声に出しておきながら否定するとは……思考が読める我を嘲笑っているつもりか……?」
(そ、そんなわけないじゃないですかー! 俺、自慢になりますけど皆の長所を褒め合ってみる授業で『場の空気が読める』で全会一致だったんだ! だからそう! たとえ悲惨な結末になると分かっていても、この親子喧嘩は黙って見届けることに決めたんだ! たった今、そう決めたんです……ッ!!)
[嘲笑っている? はっ、これは心外だな。俺の宣戦布告がお前にはおふざけにしか見えなかったってことかよ?]
いいいいいいいい言ってないよ!?
「ほほう!? つまり貴様も死にたいとな!?」
「言ってないってのッ!!」
あれ、なぜか声が出せたぞ! けど良かった、さすがに今の質問は否定しとかないと! 俺が夢の中とはいえ死にたいわけがない!
「なっ!? き、貴様、ますます赦し難い!!」
「へ???」
「我は正真正銘の神ぞ!? その神に人間ごときが宣戦布告し、あまつさえ神を負かす気でいたなどと! 身の程知らずにも程があろう!!」
きょ、きょきょきょきょ曲解だー!
俺はただ死にたくないと伝えただけだ! 『死ぬのは……お前の方だぜ!』みたいな中二病的な意味は内包してない! だから誤解だ!
(って、しまった! そういえば一番最初に『死ぬのはお前だろ!!』って言わされてたじゃないかっ!? お、終わった……!)
俺は記憶力の高さだけが取り柄だったりする。しかしまさか、その唯一の取り柄のせいで絶望することになるとは思いもしなかった。生まれて初めて自分の記憶力の高さを呪いたくなった。
(ってかこの神様、どうして急に躍起になってるんだ!? 人間ごときの言葉をいちいち真に受けてるのおかしいだろ……!)
「よかろう!! ならば貴様ら、この妙な世界諸共消し去ってくれる!! 我が究極秘奥義、ビッグバン!!」
え? 何だこのテンポの速さ? 俺の思考ちゃんと読んでくれてたらまだ時間的猶予あったよな? なぁ本気でアリスパパがビッグバン放っちゃったみたいなんだけど? 視界が完全にゲームオーバーの真っ暗闇なのだが……!?
(う、嘘だろ? 俺、こんなラスボスみたいなヤツに無抵抗のままオーバーキルされたのか? 負けイベントにしたって容赦なさすぎだろ……? こんな理不尽すぎる死、夢の中でもナシだろ……!?)
[―――アリだ。そして俺はこれからもっと酷い仕打ちに遭うだろう。だが挫けるな。前へ進め。進み続ければきっと俺は……この始まりの場所に戻って来られるはずだ]
(は、始まりの場所? また俺は何を言わされて―――)
[大丈夫だ。俺になら絶対できる。この世界の内なる世界を制覇できる。ずっと望んでたはずだもんな?]
(――――――――――――――――)
[ラノベ主人公みたいに。死ぬほどなりたいって]
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