第164話/思いやりのない性格

第164話


 人間族に危機感を与える恐れがあるので、三頭のドラゴン族には火ノ国の本拠地に帰ってもらった。彼らは終始何か言いたそうにしていたが、リーゼロッテが『早く消えてください。あなた方の楽園を消されたくなければ』と発言した途端、なぜか死に物狂いで飛び去っていった。


(ううむ……リーゼロッテから何か脅迫されていたのかもしれないな……)


 そのリーゼロッテ本人にも不可解な言動が見られたのも含め、やはりこれらは伏線なのだろう。はぁ、回収する時が思いやられる……(←不正解。by著者)。


 そうして残った俺達で救助隊の活動を手伝いした。積極的なのはヒツマブシとキキで消極的なのはアリスとナクコだった。このあたりは性格が如実に表れていて何とも言い難い光景だった。


 リーゼロッテはゲートを出現させてくれた。このゲートは地ノ国の王都と繋がっており、負傷した騎士団の救急搬送に大活躍だった。

 ただしリーゼロッテは魔族で、しかもサキュバス。彼女の存在自体が人間族にとって脅威であると言っていい。そのため、人間族(とドラゴン族のハーフ)である俺がゲートに誘導する必要があった。


「このゲートは……そっちのサキュバスが用意したのか?」

「そうだ。俺の身内なんで安心して使ってくれていい」

「変わった身内だな……。ところで君、前に俺とどこかで会わなかったか?」

「! き、気のせいだ。他人の空似だ……」

「空似? いや、俺の記憶が正しければ、確かコスプレ合コ―――」

「だ、黙れリア充ヤロウ! お前なんかの記憶力より俺の記憶力の方が断然上だ! だから他人の空似で間違いないっ! 失血死したくなかったらさっさとゲートを潜れ潜ってください!」


 騎士団長が驚いた顔でゲートの中に消えていった。……ふぅ、救助隊の付き添いがなければ口論になっていたかもしれない(安堵)。


「ツキシド様……今の方は?」

「さ、さあな?」


 リーゼロッテが疑いの目を向けてくる。が、正直に答えるわけにはいかない。

 魔王有力候補が人間族の出会い系クエストを満喫するなんておかしな話だ。

 最悪、勇者としてクエストをこなしていたとバレる可能性だってある。


(くそぅ……リーゼロッテとはここで別れてぇー……)


 彼女はチート級の実力を持っている。だがそれだけに制御するのが難しそうだ。魔族の腕輪という著者の便利道具をもってしても誤魔化しが利かなくなるのではないだろうか……(不安)。


「ツキシド様」

「何だ?」

「負傷者の移送は完了したようです。そろそろゲートを閉じてもよろしいでしょうか?」


 見ればいつの間にか救助隊が帰り支度を始めていた。

 キキ達も大仕事を終えて談笑中だ。


「……いや、まだだ。救助隊の人達が残ってる。彼らにもゲートを使わせてやってくれ」

「なぜです?」

「彼らも疲れているからだ。お前、使わせないつもりだったのか?」

「はい。その予定でしたが?」

「マジか」


 やれやれだ。このぐらいの配慮もできないのは魔族だからか。

 もしくは彼女の思いやりのない性格が原因か。


「(はぁ。やっぱりリーゼロッテは傍に置きたくないな……)」

「はい? ツキシド様、お声が小さすぎて聞き取れません」

「き、気にするな。早く救助隊の人達もゲートで帰還させよう。時間も時間だ」


 夜の荒野だけにそろそろ肌寒くなってきた。できれば俺達も地ノ国の王城へ急行したいところだ。……熱い風呂も恋しいし、新たな王女とも初顔合わせがしたい。


 そんな希望を実現するため、俺がしばらく思案している内に、救助隊の最後の一人も俺達にお礼を言ってゲートへと入っていった。

 まさにその直後の出来事だった。




「ツキシド! リーゼロッテ! か、かかか、神がかった事態だッ!!」




 ホーリーなドラゴンが慌てた様子で戻ってきた。

 よほど時間が惜しかったのか、息まで切らしている。


「フリーム様? 本拠地に帰らなかったのですか?」

「か、帰ったぞ! ちゃんと帰った! そしたら―――」

「そうしたら?」

「ほ、本拠地が、ドラゴン族の本拠地が……訳が分からんことになってたのだッ!!」

「訳が分からない? フリーム様、詳細にお願いできますか」

「す、すまない! しかし何と説明したらいいのか……本拠地がああなっていたのは、完全に神がかっているとしかッ、」

「要領を得ませんね。ツキシド様、今すぐ本拠地に移動しましょう」

「え? お、おう……」


 リーゼロッテが別のゲートを出現させた。

 こちらは火ノ国の……ドラゴン族の本拠地へと繋がっているのだろうか。


 俺には嫌な予感がしていた。だがその一方で魔王ルート的に避けられない流れである気がしてならなかった。


 キキ達が困惑顔でこちらを見ている。

 彼女達を連れて行くなんて提案ができそうな空気ではない。


「ツキシド様、中へどうぞ」

「わ、分かった……」


 俺は諦めてゲートを潜る。それから数歩進むだけでドラゴン族の本拠地に到着した。本拠地がある場所は火山であったはずだが―――。


「……………………………………。は???」


 俺が立っていたのは、どこをどう見回しても猛吹雪の雪山の中だった―――。


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