第151話/その輝きが羨ましい
第151話
穴を掘り始めてから潜り抜けるのに三十分とかからなかった。
「サンキュな、ヒツマブシ」
「ぴゅ~ん」
俺は功労者の体に付着した土を落としてやる。俺自身もマントの土を手早く落とし、ヒツマブシを抱き抱えた。
牢部屋からは出られた。お次はこの牢獄からの脱出だ。
「でも妙だな? てっきり見張りがいるものかと思ったんだが……いないな」
牢部屋に面した通路は無人だった。誰かに見られている気配も、誰かがいた気配もしない。洞窟の壁には等間隔に明かりが灯っているが、それだって消えない炎か何かのようで手心が感じられない。いくら何でも不用心だ。
「そうだ。近くにアリスとナクコが捕まってるかもしれない。念のため捜してみるか」
「ぴゅ~ん……」
「……? ヒツマブシ?」
どこか沈んだ鳴き声だった。これはもしや―――。
「お前、分かってるのか? 『この場所にあいつらはいない』って」
「ぴゅ~ん……」
「そうか。じゃあ、あいつらは今どこに……?」
疑問ばかりが生まれては残ってしまう。……悔しいが後回しにするしかなさそうだ。
とりあえずヒツマブシを抱えたまま、慎重に歩き始める。
「はぁ……ダンジョン級の牢獄だったりしないよな……」
「ぴゅ~ん」
それは大丈夫、とでも言いたげな鳴き方だった。
ヒツマブシが何をどこまで分かっているのか気になるが、やはり会話が成り立たない以上、信じるべきは自分自身だ。
……もっとも、自分を信じるだけで脱出できる程度の牢獄だったら苦労なんてしないわけだが。
「魔王城の時みたいにひたすら走り回ればいいってものじゃないよな。敵に出くわさないよう、忍び足で歩くか」
「ぴゅ~ん」
「……そういえば、仲間になったばかりでお前を巻き込んでしまったよな」
当事者の立場に立ってみた俺は、ヒツマブシに告げる。
「お前だけで逃げてくれてもいいんだぞ? お前なら土の中に潜れるしここから脱出できるだろ。無理して俺に付き合ってくれなくてもいいんだ。それこそ俺の仲間になったことを後悔してるんだったら……正直に行動して欲しい」
ヒツマブシは俺達で一方的に仲間にした。ヒツマブシが逃げたいのなら俺は引き留めない。本来、引き留める資格がないのだ。
「ぴゅ~ん」
「……、」
だがヒツマブシは逃げない。だらんとしたまま俺の胸から微動だにしない。逃げたければ暴れ出すはずなのに、だ。
依然穏やかではない状況だったが、俺はつい微笑んでしまった。
「ははは。お前、なかなかガッツあるんだな。人気投票があればきっとナンバーワン取れるぞ」
「ぴゅ~ん?」
「お前は今一番輝いてるんだ。……俺にはお前が羨ましいよ」
元いた世界からここまでやって来て、俺は未だ一度も輝けた自信がない。著者の思惑通りにさせらているだけの―――ラノベ主人公の『出来損ない』みたいなものだ。
無論、いつまでも不甲斐ない自分でいるつもりはない(本心)。
だからそう、誰かに助けられてばかりではいられない。
「行くぞヒツマブシ。これからどんな酷い目に遭うのか予想もつかないが、それでも俺達は腹を括って挑むしかなさそうだ」
「ぴゅ~ん」
「ま、戦闘力ゼロの俺達にできることって言えば全力逃走ぐらいなんだけどな! 全力逃走に挑むって、おかしいよな!」
「ぴゅ~ん!」
活きのいい鳴き声だった。そんな露骨に元気アピールされると、こちらも活力が湧いてくるものだ。
「いよっし! めちゃくちゃテンション上がってきた! 俺達ならこんな牢獄、ちょちょいのちょいで脱出できるだろ! そもそも不用心すぎて一生捕まる気がしねえっての! ふはは、はははははははは―――!!」
「やかましいぞツキシド! 大人しくこっちに来なッ!!」
……背後から現れたグール族に、ほんの一瞬で捕まりますた(完)。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。