第130話/狙いは誰?

第130話


 三時間は経っただろうか。俺達は店内で試着するだけでなく、店の外を歩いてみたり王女コンビの奢りで遅めの昼食を摂ったりもした(串焼)。


 店内で衣装合わせだけをしてレンタルを決めるお客は少ないらしい。そうやってコスプレ姿で普段の日常を過ごして決めるのが、この国の風習だと店員は言っていた。


 いかにコスプレが大好きな国かよく分かった気がする。俺が元いた世界では中々できないサービスだろうし、そのサービスがほぼ当たり前になっているのが驚きだった。元いた世界ではレンタル傘が全く返却されない、といった事例もあるわけだ。


 ただ、借りパクされない対策はしてあるようだ―――俺達は衣装を決めてから合コンに参加する旨を伝えると、店員は俺達の服や荷物を預かると言ってきた。

 そして合コンに参加した証明書を全員分きちんと持ってきたらレンタル料が無料になると説明してきた。


 というわけで俺のボロマントやキキのビキニアーマー、アリスのセーラー服、ナクコの腹掛けエプロン(?)などは店に預けなければならないシステムだった。

 もっとも、俺達にはそのシステムを拒む理由がない。なので全員コスプレ衣装に着替えたまま店を後にした。


 で、だ。

 肝心のレンタルした衣装についてなのだが……結構、好い線をいってると思う。


 まずは俺。俺はドラキュラのコスを選んだ。

 格好はタキシードなので執事と若干似ているが、紳士的で悪魔的な印象は異性にウケがいいと予想。ポイントは尖った耳と歯だ。


 続いてアリス。彼女はバニーガールコスを選んだ。

 アリスと言えば不思議の国、不思議の国と言えばウサギ。つまりバニー。

 そんな安直な思い付きらしいがバニーは男心を揺さぶるパワーが充分ある。

 悪くない選択だった。


 次にナクコ。彼女はゴキさんコス……ではなくカブト虫コスだった。

 彼女は目立ちたくないので地味なものを選んだようだ。

 しかしながらカブト虫コスという発想は魔族ならではか。

 あと立派な角は逆に目立ってしまう気がするのは俺だけだろうか。


 そして、キキなのだが―――。


「なぁ。どうしてお前はそのコスプレにしたんだ?」


 俺は隣を歩くキキに問いかける。

 意外というか単純に疑問だった。

 目立ちたがり屋な彼女のことだから、全裸に近い衣装を選ぶと予想できていたが。


 ―――モフモフとした付け耳と付け鼻、胸当てにパンツ、手袋、ロングブーツ……彼女が扮していたのは、だった。


「むしろあたしがあんたに訊きたいわ。どうして犬コス以外に選択肢があるわけ?」

「詳しく聞こうか」

「人間にとって犬は誠実なイメージでしょ。浮気はしません、裏切りませんって暗に伝えられるのよ」

「……、」

「あたしは愛玩動物で、ご主人様と愛し合う存在。そんな風に良好な主従関係が約束されているのも犬コスの利点よ。丁度、首輪もしているしね? 犬コスほど手堅いコスプレはないと睨んだわけ」

「……、」

「肌の露出は少なすぎず多すぎずがベストだけど、まぁ相手は男だしね。水着ほどではないけど気持ち多めにしてるわ。胸元とお腹を見せたら、さすがにあたしのスタイルの良さにも気づいてくれるでしょうよ」


 キキの結婚意識が高すぎてビビった。

 犬コスを選んだ理由も説得力がありすぎて怖かった。


「お、お前、変わりすぎだろ……? どんだけ本気なんだよ……?」


 彼女の精神年齢が十歳ぐらい上がってるんじゃないだろうか。

 やはり恐れるべきは魔族の首輪か。

 このまま付けさせておくのはマズい気がしてきたな……(汗)。


「キキ、その首輪外してもいいぞ。いや、外した方がいい。というか外せ」

「イヤよ。これはあんたがあたしにプレゼントしてくれたものじゃない」


 うん! その認識は危険信号だ! 

 プレゼントのつもりであげたんじゃないよ俺!


「それに、この首輪には幸せを招き寄せてくれそうな予感がするの。本物の開運グッズかもしれないから、合コンが終わるまでは外すわけにはいかないわ」

「そ、そうか。けど俺は外した方がいいと思うけどな……」

「あんたの気遣いも分からなくはないわ。だから責任はあたしが持つ。もちろん合コンが失敗したとしても、あたし一人の責任よ」


 三時間前と言ってることが違うんだがっ(衝撃)!?


(おいおいおい! 他人のせいにしないとか逆にキキの人間性を疑っちまうだろ。不気味だよ。不自然だよ。こりゃあ首輪付けさせるべきではなかったな……)


 そんな風に俺が激しい後悔に苛まれながら歩いていると。


「ところでツっきんとキキはどんな子をデートに誘うつもりなの?」

「あっ、それ気になりますね」


 先頭を歩いていたアリスとナクコが振り向いてくる。


「そうねぇ、あたしはどこかの王国の騎士でしょうね。あたしより強いことが条件だけど」

「合コンに王国の騎士が現れるとか激レアすぎないか?」

「かもしれないわね。見つけ次第その場で決闘を申し込んでみた方が良さげよね」

「絶対に止めてくれ! 強い男が好みなのは分かるが余所でやってくれ!」


 キキが剣の柄に軽く触れていた。

 ……というか合コンに持ってくるなよ。


「ツキシドさんはどんな方が好みですか? やっぱりドラゴン顔の子ですか?」

「どんな顔だ! 俺は普通に美少女を選ぶ! 外見も内面も美しい子がいい!」

「美少女にも色々あんじゃん。ツっきん、そこは具体的に言わないと」

「断る。具体的に言ってしまったら真逆な子が俺をデートに誘ってきそうだしな」

「……あー」


 アリスが苦笑いしている。

 どうやら著者の存在を思い出してくれたようだ。


 そう、この小説の著者が嫌がらせしてくる可能性がある。

 なので俺は好みの美少女を語るべきではない。この出会い系クエストで新しい美少女が登場しないわけがないんだし、尚更語るべきではないのだ(←じゃあ登場させません。by著者)。


 やがて見えてきたのは巨大屋敷だった。貴族でも住んでいそうな建物の前にはこれまた巨大な庭があり、俺達の視界一杯に広がっている。

 実はこの屋敷、王様の別宅であるらしい。


「あたしも二、三回しか泊まったことなくてさ。もったいないから、ってことで今はコスプレ合コンの開催場所に使わせてあげてるんだと思うお」

「ふぅん、太っ腹なお父様じゃない。……って、あら? もうあんなに待ち行列ができてるじゃない」


 まだ建物の中に入れてもらえないのだろう。

 庭には多くの合コン参加者達が並んでいた。

 当然だろうがコスプレしていない者は見当たらない。


「ど、どうしよおおお!? あんなに人が、人の群れがああああ!?」

「ははっ、落ち着けよ。談笑してるだけで別にお前を取って食おうってヤツらじゃないんだぞ―――」


 俺はナクコに笑うと、そのまま彼女と一緒に最後尾に並んだ。

 と、その直後だった。


「んなっ!? まさかあの子はっ!?」


 それは、生き別れの恋人と再会したかのような衝撃度だった。

 だがあちらは後ろの俺に全く気づいていないようで、友達らしき少女と仲良く笑みを交わし続けている。


 ―――その慈愛に充ちた小顔が、俺の恋心を突き動かしてくる。

 ―――そのふくよかな肉付きが、俺の性欲を激しくそそってくる。

 ―――その天使じみた声音が、俺の全神経を優しく撫でてくる。




「うんうん、そろそろ本命を見つけたいよね♪ 勇敢そうな男性がいいなぁー♪」




 コスプレ喫茶で働いていた、エロフコスの美少女。

 なんとあの彼女もこの合コンに参加しようとしていたのだっ!


「(決めた。今度こそ彼女をお持ち帰りする! お持ち帰りしなければならないぃぃっぃぃ!)」

「……は? あんた今ものすんごい気持ち悪いこと言わなかった……?」


 俺が小声で決意表明すると、どう聞き間違ったのかキキが身震いを起こしていた。

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