第129話/コスプレは異性基準で

129話


 仲間達とのスキンシップ()に時間を割いてしまったせいで、コスプレ衣装のレンタル屋に辿り着く頃には昼間となっていた。

 俺は店先で足を止めると、先に言っておきたいことがあったので仲間達に振り返る。


「……いいか? 合コンに参加する以上、衣装は真剣に選ぶんだぞ。特にキキ、お前は婚活が目的なんだ。そのへん分かってるよな?」

「当たり前よ。ってかあたし、普段から自分の損益に関わるものには超真剣よ?」


 む。そういえば前の世界でギャンブルしてたよな。

 そんで俺に恨めしくガチギレしてたよな。

 百万が水の泡になったのは自分の責任だってのに。


「……。上手くいかなくても他人のせいにするなよ?」

「それは場合によるわね。いいからもう店に入りましょうよ」

「あっ、おい。話はまだだぞ」


 キキが素っ気なく答え、我先にとレンタル屋へ突入していく。

 リーダーの俺の引き留めには応じてくれなかった。


「……あんにゃろう。自分が主役と言いたげな行動を……」

「間違ってはないんじゃない? このクエストはキキの婚活がメインじゃん」

「いいや間違っているぞアリス。このクエストは俺の恋愛がメインだ。なぜなら……新たな美少女との出会い、同志の読者はそれだけにしか興味ないんだからな!」


 俺は自信をもってアリスに告げる。

 俺も同志も男キャラの新登場はノーサンキューだ。

 というか俺達はキキの婚活成就をお祈りしていない。

 だってそうだろう。キキの結婚は誰得にもならないからだ。


「残酷だねぇ……」

「残酷だなぁ……」


 俺とアリスはしみじみと頷き合う。

 キキ……お前は誰からも結婚を望まれていない。なんて残酷なんだ。

 好きなアイドルに結婚して欲しくない、といったものでもないから可哀想すぎる。

 恨むなら魔族の首輪を恨んでくれ……。


 と、話に全くついていけない様子のナクコが、


「あ、あのぅ? わたし一度もコスプレしたことないんですけど……?」

「心配するな。俺もだよ。ただ合コンまで時間はたっぷりある。ゆっくり衣装を選んで確実に着こなしていこう」

「…………はい」

「そんじゃ、俺達も入店だっ!」


 依然合コンに乗り気ではないナクコ。

 だが俺は心を鬼にして彼女を店内に引き連れていった。


「……おぉ! これはすごい衣装の数だな」


 店内には至るところにコスプレ衣装が陳列されていた。

 どこを見回してもカラフルに彩られた衣装の壁が目に入る。

 さながら迷宮のような店内だった。


「こんなに衣装があったら一着に決めるのも苦労しそうだな。……よし、早速だが各自物色タイムだ」

「あいあい。ナクコりんはあたしと一緒に探すお」

「頼んだぞアリス」


 じゃあねー、とナクコと手を繋いでレディースのブースに消えるアリス。

 ナクコが不安げに俺を見ていたが、まぁアリスと親しくなるのも臆病克服の一環だ。


「さてと。俺もたまには服選びを楽しんでみるとするか」


 非リア充だった俺には服へのこだわりがない。だが今回を機に(恋愛という目的意識を持って)自分の身なりを真剣に考えていこうと思う。

 いい加減ボロマントを卒業したいので、購入検討も含めてだ。


「そうだな。俺はドラゴン族でもあるんだし、ドラゴンのコスプレもアリかもな」


 俺はまずドラゴンコスの衣装を探してみることに。

 昼間にしては客入りは上々のようで、そこかしこに私服姿の人々がいた。

 ワンポイントアイテムを装着し、立ち鏡でチェックしてみたりしている。


「おっ、この紅い翼はドラゴンだろう」


 見つけたのは確かにドラゴンコスの衣装。

 しかしすぐに致命的な欠点に気づいた。


「……ってこれ、ドラゴンの頭部が完全に着ぐるみだ……」


 いったいどこの誰が顔をすっぽりと隠してしまう衣装で合コンをするのか。

 会話していなくても息苦しくなりそうだ。

 さすがにこの衣装は却下。悪い意味で本格的すぎる。


「となると仮装ぐらいの衣装が無難なのかもな。あくまで外見は人間ベースにしとかないと相手も判断材料に困るだろう―――」


 などと独りごちて次の衣装を求めて店内を彷徨う。

 ただでさえ服選びの経験回数が少ないわけで、その発展型とも言えるこういった選別作業は慣れない。


 と、いつの間にかレディースのブースに踏み入れてしまったらしい。

 立ち鏡の前でポーズを決めている残念王女を発見した。


「あら、ツキシドじゃない。良さげなのあった?」


 ちらりと俺を見てくる彼女は今、頭の上にお花の髪飾りを被り、巨大なフキを肩からぶら下げていた。察するにアルラウネのアイテムだ。


「いや、まだ全然だ。どんなコスプレが俺に合うのか想像してる段階だ」

「想像するより実践しなさいよ。ほら、あたしみたいにアイテムだけでも着けてみればいいわ」


 言うや別のアイテムに手を出し、慣れたようにポーズを決めてみせるキキ。

 その積極性には感心できるのだが、


「これだけの衣装があって一つ一つ実践とはいかないだろ。俺は俺の想像力に頼って衣装を探す」

「あそう。ならせめてあんたに似合うかどうかは止めといたら? それよりも異性にウケるかどうかだとあたしは思うわよ?」

「ふむ、一理あるな」


 自分基準ではなく異性基準、ということか。

 キキにしてはナイスなアドバイスだな。


「じゃあ異性のお前に訊くが。ウケのいい男のコスプレ衣装って何がある?」

「まぁ執事コスとかはこの世界でも人気そうよね」

「そうか? 中世ヨーロッパ風の世界じゃ執事なんて腐るほどいるだろ? コスプレ対象ですらないんじゃないか?」

「他には……サムライコスとか」

「逆にサムライが存在してないだろ、この世界じゃ。……っておい、すでに難しそうな顔してるじゃないか。なぁもっと候補上げろよ、上げてくれよ。異性にウケがいいのとか、俺には選びようがないだろ……?」


 俺は焦るような心境でキキからの返事を待つ。

 すると程なくして彼女は俺に目を輝かせてきた。


「ああっ! ツキシド、この世界でも女子に一番ウケそうなのがあったわよ!」

「マジか!? ってか、えっ? その言い方だとどの世界でも一番ウケるのか? だとしたらそのコス一択じゃね? 俺の今日のコス、確定じゃね?」

「えぇ、合コンを成功させたいんだったら確定でしょうね。ズバリそれは―――」

「そ、それは?」

「美少年コスよ!!」

「すまんお前に期待した俺がバカだった」


 俺はそうキキに言い捨てて去っていく。。

 彼女が何か声をかけていたが、その引き留めには応じない。


「くそっ、何が美少年コスだよ! それこそ俺には無理なコスだろ!」

 

 そんなショタコン的ニーズが合コン参加者にあるわけないだろ! 

 そして俺が美少年じゃなくて悪かったな! ああ自分自身よく分かってるけどな!

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