第104話/違う?

第104話


「あんた、元いた世界では何してたの?」

「無味乾燥とした高校生活してた」

「えっ、嘘でしょ? 本物の憑々谷子童みたいに問題児だったんじゃないの?」

「されてない。むしろ大人しいくらいだった。……本ばかり読んでたし」

「へえー。じゃあ自慢できることとかないの? 何か表彰されたり資格取ったり」

「ない。ないから掘り下げた質問をするな。特定班に俺のこと特定されたくないからな」

「大丈夫でしょ。っていうかそんな心配するより元いた世界に帰れるかの心配したらどうなのよ……?」


 荒野を歩き始めて二十分も経過すると、飽きがきたのかキキが俺に興味を示してきたのだった。


(はっきり言って、ウザい)


 キキの質問に答えれば答えるだけ自分が惨めになってくる。前の世界のトピアはほとんど質問してこなかっただけに、キキへの好感度は俺の中でだだ下がりだ。

 というか、一度たりとも上がった試しがなかったな(断言)。


「俺のことはいいんだ。それ言ったらお前だってそうだろ。前の……トピア達がいた世界に帰りたくないのか?」

「それが不思議とあんまりなのよねぇ」


 キキは首を捻り、


「この世界で丸一年、辛い目に遭ってきたはずなのに……。あたしってば故郷が恋しいなんて感じてなかったわ」

「……、」

「やっぱりあたし、そういう人物設定なのかしらね?」

「知らない。著者に訊いてくれ」


 先に行くぞとばかりに大股で一本道を進む。

 この道は萌ノ国へと繋がっているはずだ。俺だけでも辿り着ける。


「ちょ、ちょっと! もう少し歩くペース落としなさいよ! ねえってば!」


 キキが慌てたように追い縋ってきた。

 ぎゅっとマントの端を掴まれてしまい、俺は仕方なく立ち止まった。


「……何でだよ? 俺、そこまで歩くペース上げてないだろ。お前が遅いだけだろ」

「だ、だって……。結構寒くなってきてない?」

「寒く……? いやそりゃお前、ビキニアーマーなら寒くもなってくるだろ……」


 俺は体が冷えていない。歩きづらくなるほどの寒さも感じていない。だからキキのドエロい格好のせいだ。胸の谷間もお腹も太腿も背中も外気に晒している。冷えない方がおかしい。


「うぅ……。でも普段はもっと暑いのよ。今日は十度くらい低いと思うわ」

「そんな急に気温が下がるわけないだろ。実は熱でもあったりするんじゃないか?」


 身を縮ませているキキの額に触れてみる俺。

 彼女は俺の行動にじっとしていた。


「んー……。熱はないようだが冷たいな。体調が悪いのか?」

「いや、あたしのペースで歩けばたぶん問題ないわ。……歩いて体が温まってきたら平気よ」

「そうか。じゃあお前のペースでいい」


 わがままな発言とも取れたが、俺のペースに合わせて体調を崩されても困るわけで。気を回してやった。


「あ、ありがと……。珍しく優しいわね?」

「珍しくは余計だ。裏があるんじゃないかと警戒するな」


 キキが探るような険しい目つきになっていた。

 どうやら俺の好意が信じられないらしい。……こんな些細なことで疑ってくる仲間と魔王討伐まで辿り着けるのだろうか(反語)。


「ん? あの馬車は……?」


 内心ぐったりしたその時、歩いてきた道から一台の馬車がガラガラガラ……と差し迫ってきた。


「―――こんにちは」


 やがて俺達の前で馬車は停止し、操縦者が御者台の上から淑やかに挨拶してきた。


「「…………」」


 しかし俺達は挨拶を返すのも忘れてその人物に見入ってしまう。

 恐らくはその御者である人物が……俺達とさして歳の変わらない少女だったからだろう。


 紫がかった黒髪を折り曲げたバンダナで固定し、馬のたてがみとペアルックな具合にそよ風になびかせている。また、ドレスとも着物ともとれる梅柄の黒服……そのスカート部は、前と後ろで裾の長さがかなり異なっているようで、前は下着が見えそうなほど短いが、後ろはマキシスカート並に長い。

 手綱を握る小さな両手が、黒服の大きな袖口からちょこんと出ていた。


 着座の状態だと服の構造がはっきりしないが、少なくとも俺にはこの奇異な服を身なりとする少女が只者ではないことだけはすぐに分かった。


 無論、それは服だけで判断したのではない。

 俺達とさして歳の変わらない少女。

 そう、間違いなく少女であるはずなのに―――。




(……えっ、誰なんだ? 俺達や前の世界の登場人物とは……?)

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