第97話/魔族の腕輪
第97話
王様的にはよろしくないらしい。
「キキ、残念だがお前は勇者ではない」
「……は?」
火ノ国の王様―――奇姫の父親が、俺以外の来訪者を帰らせると、彼女にそう告げた。
「な、何でよ?」
奇姫は勇者の剣を一人で大事に抱え、
「あたしがこの剣を抜いたのは事実でしょ? 皆もあたしが勇者だって認めてくれたじゃない」
「ならばしっかりと聞け。―――その勇者の剣にはある特殊な魔力が宿っている」
「……、魔力?」
「そうだ。五大大魔族の一、ドラゴン族。その彼らが宝具とする魔族の腕輪を装備していなければ、その勇者の剣は絶対に台座から抜けない仕様なのだ」
仕様て。もう少しファンタジーな言葉を選んで欲しい……。
「ま、魔族の腕輪……ですって?」
「ああ。魔王有力候補であるドラゴン族……ツキシドが所持しているという宝具だ」
……俺じゃん。
まんま俺の名前出てるじゃん。やっぱり俺はドラゴン族なのか。
「え? じゃ、じゃあどうしてこの勇者の剣は抜けたの……?」
奇姫の理解が異様に遅かった。
さすがは残念王女、まだ気づけていないらしい。
俺が魔族の腕輪を装着していることに。
王様が俺に目を移し、質問を投げてきた。
「少年、君の名前は?」
「! えっと、憑々……いや、ツキシドだ。……に、人間族の」
「おお、幸か不幸か名前が一緒なのか。これは驚いた。しかし勇者らしい名前だ」
何でだよ! 偶然にしたってできすぎだろう!?
これはやはり魔族の腕輪が原因なのか!?
この腕輪のおかげで俺は勇者のツキシドでも魔族のツキシドでもいられるのか!?
都合よすぎだろ……!
「お、お父様? つまりどういう……?」
「まだ分からんのか。ツキシド君が装備している腕輪……それこそが魔族の腕輪なのだ」
「!! ななな何ですってぇ!?」
奇姫が俺の右手首、魔族の腕輪に両目を剥いた。
それから俺の右腕をむんずと捕まえると、
「つ、憑々谷子童ッ! 今から二人で話するわよ!? あんただってあたしがどうしてここで王女してるのか、気になってるんでしょう!?」
「いや。激しくどうでもいいんだが」
「はあ!?」
そりゃついさっきまでは気になっていたさ。だが奇姫の言動が俺の頭をおかしくさせるほど残念すぎて……別にいいやって思えるようになってきたのだ。
「だから俺はお前が勇者で構わない。勇者でも魔王でもない主人公が登場する作品は数多くあるし。……お前が世界平和を成し遂げるまで、俺はこの国で可愛い女子とイチャイチャする主人公しとくよ。そういうやる気のない主人公にも憧れあるし」
「あ、あんた、あたしが勇者だって持て囃されて、どんだけ不貞腐れてるのよ……?」
奇姫が呆れたように大きく息を吐いた。
とはいえ俺の右腕は一層強く握り込まれており、
「ええい、とにかくあたしの部屋に来てもらうわ! これは命令よ!」
「そうか。だが断る」
「だが断るをだが断るわッ!!」
どうやら強制イベであるらしい。
俺は何も悪くないにもかかわらず奇姫が半ギレだった。
この理不尽な運びに王様も苦笑いしかしてくれない。娘の暴挙を止めてくれない。
そんなわけで王の間から連れ出された俺。
彼女のドエロいビキニアーマー姿がよく見える状況だったが、彼女の私室に到着するまで、欠片ほども興奮しなかった。
「―――ったく。あたしってば被害者すぎるでしょ。前の世界でもこの世界でも、何んでこんなに泣きたくなるわけ?」
愚痴りつつ俺を私室に引き込んだ奇姫は、シャンデリア付きの真っ赤な天蓋ベッドに腰を落とし、まるで俺のせいであるかのように睨みつけてきた。
「……知らん。そして同情する気も起きない、ずいぶんと贅沢な部屋じゃないか」
天蓋ベッド含む大型家具もさることながら、細かな調度品も値が張りそうだった。テーブルに放置されたティーカップセットや暖炉の上の置き時計、化粧台に並べられたガラス容器など。
王女の風格を下支えするようなハイソな室内環境と言えた。
「確かに王女っぽい部屋だが……。お前には似合わないな」
「し、失礼ね! あたし本当に今、この国の王女なのよ!?」
「なら仕方なく訊いてやるが。お前がこの世界で王女やってる理由は?」
立ち話に等しい気軽さで問いかける俺。
しかして奇姫はつまらなさそうに、意味不な返答をしてきた。
「そ、それは……。前の世界で、あたしが最後にあんたを殴り倒したからよ……」
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