第60話/胸から逃げる(逃げたい)
第60話
「……ふん。癒美が意気揚々と出て行ったかと思えば、そういうことだったのだな。そうかそうか……。ついに憑々谷が起きたか、そうか……」
腕を組んですたすたと入室してきたスカートスーツの女性教師は、口をあんぐりさせたまま動かない俺をニヤリと見下ろした。
そして彼女は「よしッ!」と、俺の下半身を覆っていた毛布を豪快に剥ぎ取るや、
「ならば早速ッ、わたしと子作り始めるぞッ!!」
「……、はい!?」
「おお、好い返事じゃないか憑々谷! それほど元気なら子種もバッチリだ! わたしもだぞ、今日からチャンスタイムだ!」
「え、ちょ、あっ!? いやあああああああああああああああああっ!?」
じたばたと暴れるも抵抗虚しく、先生が俺という馬にあれよあれよと騎乗を完了させた。
(な、何事ッ!? 一体いかなる事態だこれはぁぁぁ!?)
「おい。そんな活き活きとするな。気持ちは分かるが脱がしにくいだろうが」
「ぼにゃっ!?」
思いきりグーで殴られた。そしてがばりとスウェットを俺の顔にかかるまでずらされて、結果、上半身真っ裸にされた。
「うひぃー!? ひぶぅー!? ひゃぬっー!?」
「ほう、すでに鼻息まで上げるとはさすがの変態っぷりだな、憑々谷?」
先生は俺の両腕をベッドのシーツに押さえつけているようだった。
ちなみに俺の顔はスウェットに覆われているので声が自由に出せなかった。
「わたしの愛を感じるのか? 感じてるんだな? くくっ、正直でよろしい。ならばもっと心地よくしてやろう―――」
ムニュっとした感触が落ちてきた。
(へ? このムニュってまさか……まさかなのですか!?)
「どうだ? これがわたしの胸だぞ。ずっしりしているが柔らかいだろう? 早く手で触りたいか? ん?」
「ぶごぅー!?」
は、早く手で触りたいかだと!?
そんなわけあるか!
(あんたのはな、マジのマジで触りたくない! 某ノベルゲーに登場する樋口っち並にこちらから願い下げなんだよ!)
トピアと俺(とアリス)に何をしたか忘れられては困る!
これは大真面目な話だ!
「うっ! つ、憑々谷、そんなに頭をモゾモゾさせるなよ……。安心しろ、この胸はお前の所有物だ。お前から逃げたりなどしない」
というかむしろ(胸が)追いかけてきそうだよな!?
俺が全力で(胸から)逃げてるのにな!?
「あー分かった、お預けプレイはこれくらいにしといてやる―――」
と言い、大和先生が上体を起こした。
俺は胸の感触がなくなってすぐ、彼女にスウェットを半ばまで戻された。
またその時には。
俺の目の前に彼女の白い谷間がしっかりとご用意されていて。
「さぁ、好きなだけ触るといい」
「誰が触るか!!」
……あれ?
俺ってば今、男としてそれはもう不本意なことを言わされてるんですが。
だ、だがこの女のは触ってなるものか(断固)!
「だ、だいたいだなぁ!? 他人の家……しかも教え子の部屋でヤろうとか普通じゃないだろ!? マジキチなあんたは余裕でチェンジなんだよ!」
「ん? おかしなことを言う」
「何がおかしいんだよ!?」
「ここはわたしの部屋だぞ?」
「ギャップ萌えー! だがチェンジ!!」
俺は腕をクロスさせてバッテンを作ってみせた。どんな反応されるか戦々恐々だったが、俺の純血をこの暴力女から守るのは、最重要かつ喫緊の課題だった。
そんな反骨精神フルスロットルの俺に。
しかし大和先生は嫣然としてひとつ微笑むと、
「ずいぶんとご立派に拒否するじゃないか。それが恩人に対する態度なのか?」
「…………。は? オン……ジン?」
目を点にする俺。
オンジンと読む単語を思い浮かべるが、一つしかなかった。
恩人。だが絶対にありえない。
「あぁ。わたしはお前の大恩人なのだぞ? 本来はわたしに抱きつくくらいのことはするはずだが」
「いや何を言ってるんだ!? 俺がいつあんたに恩を受けた!? 受けたのは暴力だけだろッ!」
まるで怒りという炎に油が注がれたかのような心境だった。
咄嗟に俺はもう一発、先生の眉間にぶちかましてやろうかと拳を握り込んだが、
「先生、そこで何を?……憑々谷君が起きたんですか?」
「……は? と、トピア!?」
大和先生の背後、部屋の様子を覗いている新たな人影。
それは俺が見間違えるはずもなく、トピアその人だった……!
「はい。もちろんトピアはわたしですが。……せっかくのお楽しみを、お邪魔してしまいましたか?」
「いやいや、そんなわけないだろう!? お願いだ、助けてくれ! このままじゃあ、このままじゃあ……! この暴力女が俺の初めての相手になってしまう!!」
「くく、素晴らしいことじゃないか。大恩人に童貞を捧げて恩返し」
「あんたはもう黙ってろ! ヤらしく腰を振り出すんじゃない!」
ベッドが軋み始める中、俺は必死の思いでトピアに視線を送った。
決して俺にはその気はないのだと。先生を止めて欲しいのだと。彼女に強く訴えかけた。
―――だが。
なぜかトピアはその場に留まったまま、困ったように頬を掻くと、
「……えっと。まぁ、はい……。わたしは中々お似合いだと思いますよ……?」
「!? と、トピアたぁん!?」
どうしたんだトピア!? 俺を裏切るのか!?
はっ!? もしや先生に脅されてるのか!? だから俺を見棄てるのか!?
(えっ!? じゃあ俺は
何だこの究極的なバッドエンド!?
ひとまずトゥルーバッドエンドと名付けてもいいか!?
「ふ、ふふ……ふふふふ! ようやくだっ、ようやくわたしは愛すべき男と合体し、家族を作れるっ! 胸を張ってウェディングドレスに袖を通せるのだッ!」
すでに俺と結婚する気満々なのか!
このイカれた先生、いくらなんでもキャラ崩壊しすぎだ!
(そして気づいてしまった衝撃の事実! 胸を張らなかった時が―――一応ウェディングドレスに袖を通してみたことが、あるのかよっ!?)
や、やばいぞ! 大和先生が可愛くみえてきたんだがっ!
でもやっぱりイヤだああああああああああああああああああ(切実)!!
「はぁ、はぁ! た、ただいまー! 憑々谷君、コーラとメントス急いで買ってきたよー……って。え、ええええええええええええええ――――ッ!?」
……おうお帰りだぜ癒美!
ほんじゃま、コーラとメントス、今すぐ俺の口にぶち込んでくれ(狂乱)!!
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