第9話 お久しぶりですっ!

翌日の放課後。俺は出来立てホヤホヤのポスターを片手に校舎からすんごく離れている人里離れた掲示板へと向かっていた。


うん!これじゃ誰も目に付かないね☆



違うんだこれは。誰のせいでもない。ただ校舎の掲示板という掲示板が埋まっていただけなんだ!


俺と桃も考えたよ?だったら廊下なりトイレの個室とかに貼ればいいじゃんっ!って。でもダメだった。先生に許可を取ろうとしたのがダメだった。ポスターはきちんと掲示板か各部ごとに指定されているところに貼れと言われた。


もちろん、新設したばかりの友人部に指定されている場所などなく、泣く泣く先生にどこかないかと聞いたところ校舎からすんごく離れている掲示板ならどこの部も貼ってないぞ!と言われ、今に至るわけだ。


今思ったけど、黙って廊下なりテキトーにそこらへんに貼っておけば良かったと思う。いやダメだな。バレた時の先生の制裁が怖い。


なにはともあれ貼る場所は確保できた。

あとはこれをオタク趣味の奴らが見てくれればいいんだけどな〜。


「見るどころか、まずこんなとこ誰も来ないよな」


掲示板に着き、さて貼るかと思ってあたりをざっと見渡すがやっぱりというか思ってたとおり誰もいない。


校舎からすんごく離れてるからな、こんなところに来るやつなんて滅多にいないだろう。まだ近くに校門とかなにか施設があれば誰か来るんだろうけど、そういった物は何もない。


木が何本か立ち並び、ベンチが数カ所あって、ここは多分、憩いの場として作られたとは思うんだけどいかんせん遠い。校門からむっさ遠い。癒す前に超疲れちまう。ここに憩いの場を作ろうとしたやつの気が知れん。


ちなみに、この場所は知ってる人が少ないらしいのだが智和はこの場所を知っていた。なんでかは悟れ。つか先生!この場所知っているやつが少ないんなら勧めないでくださいよ!


「まっ貼るか」


うだうだ言ってても仕方ない。貼ってあとは偶然たまたま見た同志たちを待つとしよう。


「あの〜」


「ん?」


声をかけられた。もしやっこれは!同志か!?

いやでも待て。まだ貼ってもないぞ?途中だぞ?

もしかして職質か?いやでもここ学校だしな。

一昨日いきなり職質されたのはビビったな。

中学校の前を往復してただけなのに。


俺は期待と不安を織り交ぜて振り向く。


「お久しぶりですっ……!」


「え、あ、うん。お久……」


はて?この方は誰だろう?俺はこんな茶髪三次元美少女を知らないぞ?


ん?茶髪三次元美少女?

あの時のか!


「しぶり!」


「一瞬、この人誰?って顔しましたよね?」


「そんなわけないじゃないか。ハッハッハ」


俺は巷では記憶力良すぎ男なんて異名で呼ばれてるんだからなっ!


つーか、なんでここに茶髪三次元美少女が?


「やっぱりこの学校の生徒だったんですね。会いたかったんですよずっと」


「ずっと?」


「はい。あの時、助けられたのが忘れられなくて、どうしてもお礼がしたくて……あの時、制服を着ていたので私と同じ学校の人だってのは分かっていたんですけど探し出せなくて。だからさっき後ろ姿を見てもしやと思った時は嬉しくて!」


頑張って声をかけたかいがありました!と優しく包み込むような笑顔で続ける茶髪三次元美少女。

あーそういや制服着てたなー。

もう、会うことなんてないと思ってたんだけどな。

……まだ勘違いのままか。


「あの時も俺言っけどさ」


「はい」


「君を助けたのは偶然だからさ。その、お礼とかほんといいから。逆に今までそんな想いにさせててごめんな」


今日まで、いや、今までずっとこの茶髪三次元美少女は俺なんかにお礼をしなくちゃいけないと思っていたんだろう。


お礼をしなくちゃ、つまりは義務を果たそうとしていたんだ。俺なんかのために。俺は茶髪三次元美少女にそんな想いをずっと心に残させた状態で今日まで過ごしていた。それは俺が悪い。


悪いどころじゃないかもしれないな。こんなに可愛い3次元の女の子が俺なんかをお礼をしなくちゃいけないという義務意識でずっと想っていたんだから。少なからず彼女の人生の数日を俺が無駄にさせてしまった。



「うっ……えぐ…えぅ……ごめん……!ほんとに……ごめんな……!」


「え!?あ、あのどうしてそこで泣くんですか!?」


「…俺のせいで、君の数日を無駄に……俺なんかを想って」


「ど、どどどうして私が貴方をす、想ってたことを知ってるんですか!?」


「当然だろ?」


気づいたのは今さっきだったけど。

もっと早く気づいてあげるべきだった。


「最近の男性は鈍感だよって友達から聞いてたけど、全然鋭いんですね」


ど、鈍感?す、鋭い?


「いや、遅い方だよ。もっと早く気付くべきだった」


「そ、それじゃその、返事は?」


返事?返事って、お礼はいらないってことか?


「ごめん。やっぱり俺なんかには」


あの時も偶然助けただけだしという前に茶髪三次元美少女が俺の言葉を遮った。


「そんなっ……。……俺なんか、俺なんかって言わないでください!私は!私はっ!あの時助けらた貴方に惚れたんですよ!?不良に絡まれているのに気づきながらも素通りしていく他の人達とは違って、あの時の貴方はなりふり構わず私を助けてくれたじゃありませんか!!それなのに俺なんかって……私の方こそ、私の方がっ……!貴方に見合いませんよ!」


涙目になって言葉を紡ぐ茶髪三次元美少女。

まさか、お礼なんか要らないと言おうとしただけでここまで必死になられるとは思わなかった。なんか、惚れたとか聞こえた気もしたけど、それは俺が夜な夜な二次元美少女たちに言われたいと思っているのが幻聴として叶ったんだろ。こんな可愛い茶髪三次元美少女が言うはずないじゃないか。夢を見すぎだぞ俺。べつに3次元の女の子にいわれたいとも思わないけど。


なりふり構わずか。

確かにあの時は桃から逃げるのに必死でなりふりなんか構ってらんなかったからな。


「まぁそのなんだ。とりあえず泣くなよ」


やっぱり2次元でも3次元でも、どうも女の子の悲しい顔とか涙を見るのは嫌だ。


「それとも待ってる彼女ひとが居るからですか?」


「え?」


「あの時言ったじゃないですか!?俺には待ってる彼女ひとが居るからって!そう言って走り去っていったじゃないですか!」


あぁ二次元美少女あいつらのことか。

確かにあの時は二次元美少女まってるやつらが居るって言って立ち去ったんだっけ。


「あぁそのとおりだ」


俺は二次元美少女あいつらが第一優先だ。

だから3次元の女の子には興味がない。

なのにそんな3次元の茶髪三次元美少女なんかにお礼をしてもらうのは悪い。


「私……2番目でもいいですよ……」


「え?」


「彼女そのひとの次でもいいんですよ?」


え?なに?二次元美少女たちに俺がお礼をしてもらったらその次ってこと?


たぶん君が俺にお礼をするチャンスは一生来ないと思うよ?


えーと、待て。そうなるとこの茶髪三次元美少女は一生俺にお礼をしなくちゃいけないと思っちゃう……それはダメだ!心苦しいけど簡単になんかお礼っぽいことさせて早く解放してあげよう!


「そうだな、じゃ頼むわ」


「ありがとうございます……!」


そんな満面の笑みで言わなくても。

そんなにお礼したかったのか?

いや、これでやっと解放されたー!って喜んでるのか。……今喜ばなくても、さすがに傷つく。


「あ、名前を教えてください!」


「瀬尾」


「したは?」


「陽向だけど」


「陽向さんですね!」


え?なに?名前を知ってどうするんだ?


「じゃあ、さっそく。何をして欲しいですか?何でもしますよ?」


「え?んー?そうだなー」


簡単なものにしたいけど、3次元の女の子が簡単にできてお礼っぽいことってなんだ?思いつかねーな。


「あ、な、何でもとは言いましたけどそのアレなことは……」


「あぁ分かってるって」


やっぱ、簡単に出来る範囲のをやりたいのか。

俺も鬼じゃねーからそんな鬼畜なのはさせる気さらさらないのに。そんなに信用ないのか俺?


「あっでも、どうしてもというのなら……が、頑張りますよ?……経験ないんでどうすればいいか分からないですけど」


この茶髪三次元美少女は俺がどんな鬼畜なお礼をさせたがってると思ってるんだ?


「あっじゃこれ貼って貰っていい?」


考えに考えたけど、たいしていい案は思いつかなかった。そこで俺は手に持っていたポスターを掲示板に貼ってもらうことにした。これなら簡単だし。お礼っぽいからいいだろう。


「え?これをですか?」


「うん。テキトーに頼むわ」


「いいですけど。こんなのでいいんですか?」


「うんいいよ。俺は助かるし」


「なら、いいんですけど」


ソサクサとポスターを貼る茶髪三次元美少女。

几帳面なのか何回も手直ししてようやく貼り終えた。

ズレのないいい貼り方だ。あとはこれを同志達が見てくれればいいだけ。


「ありがとな」


「いえ、これくらいは。他にはなにかする事がありますか?」


もうお礼はしてもらったし、そろそろ解放してあげよう。


「これだけで十分。ありがと」


「そ、そんな!これだけじゃ物足りないです!……もう彼女そのひとのところに戻るのですか?」


桃のことかな?

確かにそろそろ戻らないといけないかもな。


「うん。そのつもりだけど」


「そう、ですか。じゃ私は……あ、あの!彼女そのひとって陽向さんと同じ部に所属しているのですか?」


茶髪三次元美少女はさっき貼ったポスターを指さして聞いてくる。


「そうだけど?」


桃になんかあんのかな?


「陽向さんと同じ部に入ってもいいでしょうか!」


「……え?」

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