第6話 まったく中学生は……
「お前さ、最近放課後何してんの?」
昼飯を友達と食ってるっていいもんだな、と思いながら食べていると智和が聞いてきた。もしかしたら桃と部活を立ち上げようとしていることがバレているのかもしれない。いや、バレてもいいんだけど、問題なのは桃が俺なんかとつるんでるのを知られることだ。金髪碧眼、成績優秀で胸は慎ましかな桃がキモオタである俺とつるんでるのを知られたら印象が悪くなる。それは桃に申し訳ない。俺は若干、ヒヤヒヤしながら答える。
「特になんもしてないけど。なんで?」
無難に答える。そしてさり気なくどうして聞いたのかを聞く高等テク。いや高等テクでもなんでもないか。
「いや特になんもしてないんならいいんだ。ただな」
「ただ?」
神妙な面持ちになる智和。俺何言われるんだ?!
「すぐ早く教室から居なくなるもんだから、もしかして下校中の小学生でも観察しに行ってると思ってな」
「……なわけねーだろ」
「なんだ今の間は?つかその人差し指と中指を早く納めてくれ。お前がその構えをするとシャレにならん」
俺はしぶしぶ智和の両目に突き刺さって前頭葉でこんにちは出来るよう構えをとっていた人差し指と中指を納める。智和の目なら一つや二つくらい差しても平気だと思ったんだけどな。
「でなんだそれは?そんな噂が広まってるのか?」
こんな噂が広まっていたら俺は、キモオタで変態だと思われてしまうじゃないか!
「いやこれは俺の個人的意見だ」
「お前は俺をどう思ってるんだ?」
「変態ともだち」
「ルビふる漢字が違うぞおら」
「うん。今のは悪かったと思ってるから、その念入りに手入れしているコンパスをしまおうか」
またも俺はしぶしぶコンパスをしまう。
まったく、俺が唯一の友達である智和に危害を加えることがあるわけ無いだろ?
次の時間が数学だから手入れをしていただけなのに。つーかな智和。俺は3次元の小学生になんざ興味がねぇ。
そりゃ確かに、2次元の小学生には心がときめいたり、ウハウハしたり、ヒャッハーなったりするし、最近じゃ東京○種のあの子とか神様ド○ルズのあの子とかが可愛いすぎてあんな子達に「お兄ちゃん!」なんて呼ばれたら卒倒するけど!3次元の小学生はただの子供じゃないか。俺はな3次元なら中学生が好きなんだ。あの幼気が残っててこれから大人になろうとしつつある心と体!見ているだけでも最高じゃないか?いや見てるだけだからな俺は。だから、俺の心を読んで食べている手を止めてスマホを取り出して、1、1まで押したその手を早く離すんだ桃。
俺はただ、夕暮れ時に汗水を流して疲れている部活少女しか見てないから。あの白Tシャツがあせで湿っているのが……
『どうしたのしのちゃん!?』
『急に立ち上がって!』
「いえ、ちょっと周辺地域の警察にお話が」
いいだなんて思ってないからな。うん。
「ないですね」
『急に何よ〜』
『今のは面白過ぎるよしのちゃん〜!』
今の行動を笑いにできるとはすげぇな。どんな付き合い方してんだよ。
桃の愛称しの、なんだな。ピーちゃんかと思ってたのに。
つか、桃の心術把握の範囲どれくらいあんだよ。教室の隅から隅までは軽く読めますよぅてか?ハイスペックすぎんだろ!
「篠原さん面白いな」
さっきの桃の行動、智和も見てたのか。
「そうだな」
「篠原さんでも面白い行動すんだな。もっと高貴なイメージなのに」
「案外そういうキャラなのかもな」
ワンピ○スが好きすぎてイベントにも行く奴だしな。
「でさ、まじで放課後なんもしてないの?」
さっきの話を再び持ち出す智和。
そんなに俺のことを変態扱いしたいのかこいつは。
「まじでなんもねーけど?」
部活を立ち上げようとしていることは伏せておく。まぁ立ち上げれたら話せばいいだろう。いずれはバレルだろうし。唯一の友達である智和には。
「そうか。いや、これは俺の個人的な意見じゃなくてほんとに出回ってる噂なんだけどさ」
そして今度はわりと真剣な表情になる智和。これは俺も真剣に聞くしかないかもしれない。
「おう」
「D組の柏木とツルんでるんじゃないかって噂」
「か、かしわぎ?」
「その反応じゃつるむどころか存在自体を知らなそーだな」
柏木?柏木って誰?あれか秋葉のか?
「すまん。誰だそれ」
知らない奴のことに頭を使っても無駄だな。素直にここは聞こう。
「D組の柏木。まぁあれだ不良だな」
「え、なにそれ怖い」
「お前どの面下げて言ってんだ?」
いやキモ顔だけどさ!
普通に不良とか怖いじゃん!
そこ!桃テメー!何頷いてんだ!
「で、なんでそいつと俺がつるんでるって話になるんだよ」
キモオタと不良に接点なんて無いと思うんだけどな。
「お前も傍からみたら不良って言っても通じねーか。まぁとにかくそんな噂が流れててな。なんつったかな、あーあれだ。柏木が男と歩いてるのを見たって言う奴が居たんだよ」
情報通である智和が「どうだ?俺ってほかのクラスのことも知ってるんだぜ?」っていう顔で話す。イラッとするな。
「それがどうしたんだ?普通じゃんか高校生なんだし」
俺はイラッとした感情を出さないように努めて話す。
ていうか高校生が男と歩くなんて普通じゃね?
リア充な2次元主人公と3次元のやつら消し飛べ!
「そうなんだが、その男ってのも不良みたいでさ。それがお前じゃねーかってなったわけ」
「なんで俺が不良扱いされたうえに噂流されてんだよ」
「うん。陽向いっぺん本気で鏡を見てみるんだ」
まったく変な噂を流すなよ。俺は不良とかに関わりたくない一般人なんだからさ。
✩
放課後、俺は部室になる予定の空き教室で桃が来るのを待っていた。今日、俺らの担任を顧問にするべく説得(主に桃が)するのだが、なんでもその準備がいろいろとあるらしい。何をする気なんだが。
「お待たせしました」
「おう。でその人達は?」
「あっクロネコですよ。知りませんか?宅急便!」
「いや、知ってけどさ。なんでそのクロネコさん達がいるのかを聞いてんだよ」
「荷物を運んでもらう為です」
「な」
んの?と聞く前にクロネコさん達はあれよあれよと大なり小なりの荷物を次々と運び入れていく。
その荷物は本棚だったり机だったりと部室にあれば困らないやつばかりだった。
「ふふん。どうですか?」
どや顔がうざい。
けど、必要性があるものばかりなので1から買うよりは断然助かる。こういうのを見ると桃ってほんとにお嬢様なんだと思う。けど、
「まだ部室にもなってない部屋に勝手に物を持ち込んでいいのか?こういうのがバレたら面ど」
「陽向くんの大好きなアニメを見るための60インチのTVとBlue-rayレコーダも置こうと思ったのですが」
「さすが桃だな!桃がいてくれると助かるぜ!」
バレたらバレたらだ!
つか、ここを部室にするんだから少し早めに道具を用意しておいても大丈夫だろ!
「で、どうやって先生を説得するんだ?」
クロネコさん達が荷物を運び終わるまで、俺はどうやって先生を説得するのか聞いた。
「これで説得します」
そうやってすっと生徒手帳を出すかの如く、桃が取り出したものは……
「ワンピ○スの単行本じゃねぇかぁぁ!!」
え?なにこいつ?あの鬼の先生がワンピ○スの単行本で何とかなると思ってんの?桃じゃねーんだからあの先生がワンピ○スで落ちる訳がないだろ!
「ええ、そうですよ。これで説得してみせます!」
「いや、無理だろ!先生なんだぞ!?あの鬼の先生なんだぞ!?遅刻した生徒に「私がこうやって君を叱ってる間にどんどん時間が削られていくのだが、君はこの時間を返せるのか?無理だろ?いいか、君はただの遅刻だと思ってるかもしれないが、君の遅刻のせいで私いや、何人もの人間の時間が削られているんだ。それがどういうことか分かるか?」とかっていうことを精神がえぐられるまで言う先生だぞ!?でも最後に「でも君は今回で遅刻がどれだけやってはいけないことなのかを知ったんだ。一つ学ぶ事が出来た、それはいいことだ。今回はセーフにしてやるから次からは絶対遅刻するな」ってめちゃくちゃいい顔で言ってくれる先生だぞ!?」
「最後ちょっと好感上がってるじゃないですか」
「先生じゃなかったら俺は1回遅刻してることになったからな」
「陽向くんが言われた本人なんですね!?」
いや、ほんとあの人が担任じゃなかったら俺の3年間皆勤賞の夢が登校二日目で叶わない所だったからな。あの先生には感謝してるぜ全く。
「ていうか陽向くん、今も結構ギリギリに登校してるんですからもっと早く来ればいいじゃないですか?また先生に怒られちゃいますよ?」
「朝の日課はちゃんとやらないといけないからな」
「アニメを見てるだけじゃないですか」
呆れ顔で言う桃。
分かってないな。朝に嫁たちを見るからテンションが上がって今日も1日頑張りますかってなるんじゃねーか。
「つーかほんとにそれでなんとかなるのか?」
「ええ、なんとかなりますよ!私の推理というか予想が間違っていなければ」
「そうか」
ほぼほぼ桃に任せてしまってるし、今さら俺が言ってもしゃーねーな。でもあの先生がワンピ○スの単行本で落ちるとは思えない。
「では、クロネコさん達も居なくなったことですし今から先生を呼びに行きましょうか!」
いつのまにかせっせと荷物を運んでいたクロネコさん達は桃の言う通り居なくなっていた。いつ消えた?忍者みたいだ。
「え、つか、言いに行くんじゃなくてここに呼ぶのか?」
「ええ、そうですよ?」
「俺はてっきり言いに行くもんだと」
「もしものことがありますからね。これだけじゃ説得しきれないこともありますから、念のためにここでやりたいんですよ。じゃないと今日色々と運んだ意味が無いですし」
まぁそりゃワンピ○スの単行本じゃ説得は出来ないだろうけどさ。
つーかこの教室をみたら先生ブチ切れるんじゃないのか!?
✩
「で、なぜ私をここに呼び出したんだ。陽向、篠原」
「実はお話がありまして」
「話?その前にこの部屋の説明をしろ。ここは空き教室のはずだ。なのになぜここにはこんなにも物で溢れている?」
俺の予想通り先生はこの変わり果てた教室をみて血筋を額に浮かべながらMK5だ。懐かしいだろ?MK5。マジジレ五秒前の略語だ。
「あ、それは後ほど説明します」
そのMK5状態の先生が怖くないのか桃はたんたんと……違う。肩が小刻みに震えてる。怖いよな先生。あの眼光の前にいるんだ怖いはずがない。え?俺?桃の後ろにいて全身を震えさせてますがなにか?
「後だとぉ?まぁいいだろう。で話とはなんだ?」
「は、はい。実はご相談がありまして」
頑張れ桃!俺は心から応援しているぞ!
「相談?なんだ?」
「私たちの部活道の顧問になって頂けませんか?」
桃がそう言ったあと、一瞬の間が空いた。先生はほんの少し驚いた表情をしていた。
「ほぅ。顧問か……陽向が部活とはな。でその部活とやらはどんな部だ?」
意外だ、先生がしっかりと部活の内容まで聞いてきてくれるなんて!……でもこれがやっかいだな。
「はい。部活道名を「友人部」その名の通り友人を作るというのが活動目的です」
最初に考えたのは3次元の友達を作ろうという名前だったが語呂の悪さと長さとそのまんますぎる名前から俺が却下した。桃はどうしても3次元というワードが入れたかったらしいが俺は絶対に嫌だったので、考えに考えた末「友人部」という名前にした。桃が言った通り、友人を作るのが目的なんだが、アニメを語れる友達というのがベストアンサーだ。
「友人部か。なるほどな、部活道で友人を作るのも一つの手ではあるな」
おっこれはいいんじゃないか?なんかすんなりと先生が顧問になってくれそうな感じだ。
「で、ほんとうの目的はなんだ?」
すんなりなってくれると思ったがやはりそうはならないらしい。先生は和やかになりかけた場の雰囲気を一気に殺伐とさせた。
「ですから友達を……!」
「本当にただの友達を作るだけか?」
先生は気づいている。
「え?」
「学年で生徒からも先生達からも人気のある篠原とまったくの逆と言ってもいい陽向が作ろうとしている部活なんだ。普通の友達を作るだけではあるまい」
先生今のは遠回しに俺のことをディスってないですか?
「た、たしかに普通の友達を作る訳ではありません」
そして、桃は忍ばせていた例のアレを取り出した。
「私たちが、主に陽向くんが作ろうとしている友達は」
取り出した例のアレを桃は先生に向けて見せつた。
「なっ!?」
先生の顔が驚愕のモノに変わる。
「こういう趣味の友達を作るためですっ!」
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