第11話 京都同行
慈愛党本部の貴賓室では、教団副代表の北大路威宏の警護について話し合いが行われていた。
教団からは先ほど手合わせをした、佐久間誠二、池田友則に加えて、青年部の松本
警視庁警備部警護課のセキュリティポリス、通称SPは、日本の要人警護任務に専従する警察官であるが、すべて現役閣僚の警護に出動しており、まったく余剰人員がなかった。そのため、千葉県警の警備部から5名が選ばれて警護に当たることになった。
最後の1人は、かぐやである。
それは、北大路
最強の武術家であり、幼なじみで気心のしれたかぐやこそが、今度の任務にふさわしい、威宏はそう主張した。
かぐやは、表だった任務には抵抗があったが、他に選択の余地はなさそうだった。
「行っていただけますかな?」
教団代表、北大路公威の念を押す声に、かぐやはうなずいた。
「命令とあれば、まいります」
「中瀬一佐、よろしいですか?」
「一度狙われた以上、また襲われる危険性は高いと思われます。まして、ここを離れるわけですから・・・どうぞ、中園をお連れください」
「それはありがたい。最高の武術家が威宏を護ってくださる」
「いいえ」かぐやは否定した。「わたしなど、少しばかり修行したにすぎません。・・・わたしの師夫に比べれば、わたしなど全然たいしたことはありません」
伊波師夫は、東雲流奥義
わたしなど・・・突然、嵐のようにやってきては、またたく間に過ぎ去っていくわたしの流心・・・
お話にならない。
「それは、ご謙遜でしょう」
川本国交相が口を開いた。
「わたしは以前、千葉県の剣道連盟で会長の役に
教団代表が川本国交相の言葉を継いだ。
「わたしは、久しぶりに千葉周作の言葉を思い出しました」
千葉周作とは、江戸時代後期に活躍した剣術家であり、北辰一刀流の開祖として知られている。
「千葉周作は、こんな言葉を残しています。彼は免許皆伝、目録を渡す時、弟子に『剣には心妙剣と夢想剣がある』と伝えたそうです。心妙剣とは実妙剣ともいい、狙いがことごとくはずれぬ剣の達人の
「なるほど、2人の達人を破った、夢想の拳ですか・・・たしかに、そう言えますね」
川本国交相も感心しきりである。
かぐやは
「とても、とても、そんなレベルではありません。師夫の拳であれば、そういえますが・・・」
「ほぉ、それほどですか・・・」
「ご覧にならないと、わからないと思いますが・・・」
伊波師夫の至高の拳・・・かぐやの生き方を変えた拳である。
清新であり、
それは、
かぐやは、師夫の拳の
あの、
かぐやは、自分を見つめる視線に気がついて、我に返った。
北大路威宏であった。
「どうしたの?大丈夫?・・・疲れたのかな・・・」
「いいえ、何ともありません」
「よかった。僕の護衛が嫌なのかと思って・・・僕は、すごく嬉しいんだ。危険と言われても、こうして有紗とまた会えて、しかも一緒に京都に行ける。めちゃくちゃラッキーだよ」
じっとかぐやを見つめる威宏の目、それは、こどもの頃、いつも有紗を慕って、有紗から決して離れようとしなかった少年時代の目と同じだった。
ずっと封じ込めてきた過去の扉が、再び開いて、かぐやの胸の内に忘れていた甘酸っぱい想いが蘇ってきた。威宏は、初めて意識した異性だった。はっきりはしないが、それは初恋だったのかもしれない・・・
「任務ですから、精一杯務めます」
かぐやは甘酸っぱい想いを押し潰した。
威宏がどう思おうと勝手だが、危険な任務に私情をはさむことは論外だった。
その後、京都行きに関する細かい行程や護衛の配置、連絡体制などについての打ち合わせを行った。
かぐやは打ち合わせ後、横浜へ戻って身支度をすることにした。
ホテルに持ち込んでいない身の回りの品を借りているコンテナから調達するなど、やるべきことはたくさんあった。
前回の沖縄侵入とは任務の性質がまるで異なる。
ランエボを走らせながら、かぐやは頭の中で必要なものをリストアップしていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます