第17話 犯人確保

 時は、葵とナナがアンと別れた瞬間に遡る。


「葵! 今更だけど電波塔にまだ犯人いるの!?」

「いる! これは絶対だ! だって全ての自動機械人形に指示を送れるように電波やら飛ばせるところはここしかねぇし、電波塔の前で戦った自動機械人形たちは全員ここに主がいるって言ってたんだからな!」


 葵とナナは電波塔へと入る為に広場を走る。そして電波塔に入った二人は、一度その場で足を止めた。


「後半部分は何言ってんのかよく分かんなかったけど、あたしに手伝って欲しいことって何よ?」

「一度に大量の電波を送る為の装置は地下にある。そしてあいつらの主、つまりこの事態を引き起こした犯人はこの上にいるんだ。つまりは分担作業だな」

「そんな凄そうな機械の止め方なんて知らないわよ、あたし」

「別に止めなくていい。壊しちまえ。今のお前は速く走れないだけで腕の筋力とかは『獣化』した状態なんだろ? だったら機械ぐらいは壊せるよな?」

「そういうことなら任せなさい。終わったらアンタに合流すればいいの?」

「いや、終わったらそのまま電波塔から離れて町の避難誘導とかに協力してくれ。俺の相手は自動機械人形でもないただの人間だ。俺だけで十分だし、合流する必要はない」

「いいの? あたしがいなくても」

「お前は正体がバレない程度に人助けでもしといてくれや。それで貸し借りゼロってことでどうよ?」

「乗り掛かった船だしそれでいいわ。アンタも一応気を付けなさい。人間ってのは下手したら自動機械人形よりも怖いんだから。あ、最後に一つ聞きたいんだけど、アンのアレ、一体なんなの?」

「知らん。アレを見たのは俺も初めてだ」

「ふぅん、そうなの。心当たりとかは?」

「まったくないって訳じゃねぇけど……」

「どんな?」


 葵が考えるのは前にアンを調べた時のこと。


(あんなのは今の科学力じゃどう頑張ったって無理だが、科学以外の技術を使えば……いけるか? だとすればあいつは、科学技術で作られたんじゃなく……魔法で……?)


 ナナは、少し考え込む葵の顔を覗き込む。


「ちょっと葵? 聞いてんの?」

「……ん? ああ、悪い悪い。ちょっと考え事をな。取り敢えず、アンについては俺も全然分からん。そのうちもっと詳しく調べてみる予定だけどな」

「そう。んじゃその時を楽しみにしてましょうかね。でも今は……お互いにこの事態を解決する為に頑張りましょう!」

「おう! それじゃ、また後でな!」


 そうして葵は階段を使って上に、ナナは反対側にある階段を使って地下に下りた。

 葵が上っている階段は少し老朽化しており、ところどころ壊れそうである。犯人がいるのは電波塔のコントロールルーム、つまり十階だ。

 そして葵はやっとコントロールルームに辿り着き、そのドアを勢いよく開けた。


「おいコラ犯人! 面を見に来てやったぞゴルァ!!」


 部屋に入った葵の目の前にいたのは、巨大なモニターを見つめながら椅子に座る不健康そうな男だった。首から下げているIDカードには目の前の男の写真がプリントされており、名前の欄には西野と書かれていた。


「キ、キサマ、一体何者だ! ど、どうしてここに!?」


 西野は立ち上がって葵をにらみつける。


「おいおい、やせ細って筋肉もないし今にも死にそうじゃねぇか。ちゃんと食べてんのかアンタ?」

「ほ、放っておいてくれ! お、俺は今、忙しいんだ! い、今やっと研究所にお、俺の子供たちが辿り着いたんだからな! こ、これで俺の子供たちは……!」


 西野は巨大モニターを見ながら言った。モニターに映っているのは神原市の地図と、いくつかの赤いや青、緑の点。赤い点は研究所に重なるように位置している。


「ああ、それか。残念ながらそのモニターの情報は正しくねぇぞ。それ、俺とアンがハッキングした時に入れたダミー映像だから。今そこいらで何が起きてるのかと言うと、アンタが放った自動機械人形は根こそぎ全滅した」

「な、何だと!? ば、馬鹿な! お、俺のハッキングが、や、破られる訳が……!」

「そういう過剰な自信がチェックを怠るっていう、つまんねぇミスを引き起こす。いくら俺とアンが痕跡を残さなかったからって、ちゃんとこまめに確かめとかないとダメだぜ?」

「お、俺をどうするつもりだ……?」


 言いつつ西野はポケットの中に手を入れる。


「言っとくけど銃とかナイフとかを使っても俺には勝てねぇぞ。俺はお前の自動機械人形を同時に十体相手にして無傷で勝てた人間だからな。人間一人じゃ話にならん」


 勿論、これはハッタリである。葵が自動機械人形に勝利できたのは、葵が自動機械人形の考え方や限界性能に精通している科学人形技師であり、自動機械人形の行動をある程度先読みできるからだ。

 人間相手の戦いにあまり慣れていない葵が銃を持った人間に勝てるかはほとんど運次第。西野に絶対に勝てる保証なんてどこにもないのだ。しかし葵のハッタリは西野に通用したようで、西野はそのまま両手をあげて投降した。


「……わ、分かった。お、俺の負けだ。どちらにせよ、俺の子供たちがやられたんじゃ俺が頑張って持ち堪えても意味がない。け、警察なり研究所なり、ど、どこへでも好きな所に連行してくれ。お、お前が望むのなら死んでやってもいい」

「それを決めるのはアンタの目的を聞いてからだ。内容次第ではこの俺がアンタの力になってやる」

「な、何を言ってるんだお前は?」

「俺をその辺の警察とかと一緒にすんじゃねぇ。俺がアンタを気に入れば、それがアンタを助ける理由になる。両手を下ろしていいから話してくれ、アンタの考えを」

「……わ、分かった。お、俺の目的は、俺が作った自動機械人形たちを世間に認めさせることだ。そ、その為に俺の自動機械人形と、ほ、他の自動機械人形を町中で戦わせた」

「質問だ。アンタ、リヴァーレの自動機械人形をどこで手に入れた?」

「リ、リヴァーレ? な、何のことだ?」


 西野は何のことか分からないようで、あまり焦った様子はない。


「分からないならいいや。でも、それなら他の自動機械人形はどこで手に入れた? 協力者がいるのか?」

「ふ、二人いるが、俺は片方の名前しか知らない。お、男の方は名前を名乗らなかったんだ。で、でも、俺は名前なんて知りたいと思わなかったし、それでいいと思った。も、もう片方の協力者は女。な、名前は睡蓮だ。そ、そいつが他の自動機械人形を用意した」

「……そっか。まぁ協力者についてはそれでいいよ。残りは自分で調べるから。俺が聞きたいのは、アンタが自動機械人形って存在をどう思ってるかだ。答えてくれるか?」

「自動機械人形を、ど、どう思っているかだと? そ、そんなものは決まっている! お、俺が作ったものは俺の子供だし、他の奴が作ったものはそいつらの子供だ!」


 西野の答えを聞いた葵は嬉しくなり、つい笑ってしまった。


「よし、気に入った! まぁ安心しろ。アンタは逮捕されるだろうが、罪が軽くようにできる限り協力する!」

「ほ、本当か!?」

「ああ。アンタの自動機械人形は中々優秀だったからな。ちょっとAIは弱いが、それを何とかできれば飛躍的に強く、素晴らしくなる。アンタの技術力は研究所の人間も認める筈だ。つーかそもそもこの俺が認めてんだから、他の奴も認めるだろうよ」

「ほ、本当にいいのか? お、俺はかつて、危険な人間だと言われて研究所を追い出されたんだぞ?」

「ほう。んじゃアンタは元々、研究所の研究員だったのか。確かにアンタの作る自動機械人形は兵器寄りだからなぁ。危険と思われんのも仕方ねぇ」

「な、なら……」

「だがしかし! それはアンタの作るAIが大したことねぇからだ。過剰火力をコントロールできるような高性能AIがあれば問題ない! だから大丈夫だ!」

「お、おお……!!」

「まぁ犯した罪は償わなきゃならねぇから最低でも数年は待つ必要があるが、それさえ過ぎればアンタの子供たちは世間に認められる。だから安心しろ」

「そ、そうか。……き、君に会うだけで、こうもとんとん拍子にことが進むなんて……お、俺は方法を間違えたのだろうか?」

「そうだろうな。もう少し早く俺と出会っていれば色々と変わってたんだろうが……まぁ過ぎたことだ。ともあれこれからよろしくな! ええと……西野さん、でいいのか」

「あ、ああ。俺は西野だ」

「よろしく西野さん! 俺は塔野葵。葵でいいぜ」


 葵たちはその場で握手を交わす。それは一つの友情が芽生えた瞬間であり、この事態が解決した証でもあったと言えよう。


「まぁそうと決まればさっさとここ出ようぜ。んでまずは西野さんを警察……いや研究所に連れてって、そっから……」


 葵が少し考えていると、葵の携帯が鳴る。


「ナナからか。……もしもし?」


 葵は西野に少し待っていてくれというジェスチャーをして、電話に出た。


『葵。地下の電波拡散装置はたった今完全に破壊したわ。一応連絡だけはしておこうと思ってね。あんた、電話に出たってことはまだ犯人に会ってないの? それともとっくに捕まえたの?』

「今一緒にいるよ。丁度こっちも解決したところでな。折角だし一度エントランスで落ち合おう」

『了解。また後でね』


 葵は電話を切ってポケットにしまう。


「西野さん、今からエントランスで俺の仲間と合流する。研究所に行くのはそれからだ」

「わ、分かった」


 そうして葵と西野は階段を使って下まで降りて行く。エントランスに着くと、そこには退屈そうにストレッチをしているナナの姿があった。


「よう、ナナ。待たせたな」

「やっと来たわね葵。隣にいるのが犯人? って犯人無傷じゃない! さっさとボコボコにしなきゃ!」

「待て待て! 何だ、いきなりボコボコにするとか! 獣かお前は!」

「半分はそうだけど」

「そういやそうだったな……。ってそういう話じゃなくて! この人は俺の同志だ! 敵意向けんな!」

「はぁ? 同志ぃ?」

「この人はなぁ、自動機械人形を作った奴の子供だと考える人なんだよ。数少ない機械を家族だと思うような人間だぞ? 機械は仲間、をモットーにしている俺の同志として相応しいだろうが!」

「……ああ、そういえばアンタって一種の変態だったわね」

「誰が変態だゴルァ!!」

「お、落ち着くんだ葵くん。これから研究所へむ、向かうんだろう?」

「そ、そうだな。それじゃナナ。俺はアンと合流するから先に研究所に戻ってくれ。西野さん連れて。西野さんが犯人だってことはバレないように頼むな」


 電波塔の外からはまだ戦闘音が聞こえて来る。おそらく、アンはまだクモ型の自動機械人形と戦っているのだろう。


「分かったわ。アンタもアンを連れて早く来なさいよ?」

「分かってるって。それじゃ西野さん、またあとで」

「き、気を付けるんだぞ、葵くん」


 ナナと西野はアンがクモ型と戦っているであろう電波塔の表口からではなく、反対側にある裏口を通って外に出た。裏口からならアンとクモ型の戦いに巻き込まれる危険性は少ないからだ。


「さて、俺はどうするかな……? このままアンのとこに行っても足手まといになるだろうし、かと言ってこのままここにいるのもなぁ」

「なら、少し僕と遊ばないかい?」


 突然、電波塔の表口から少年の声が聞こえて来る。表口に視線を向けると、ゆっくりとエントランスに入って来る鮮やかな黒髪を持つ少年の姿があった。

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