第36話

 与えられた三十分は大盛況のうちに終わった。


 各バンドの名誉の為かどのように俺達に決まったのかはわからないが、俺も聞くのは反則なような気がするので妹達からも聞かないようにしようと思う。


 ただ、ライブハウスにいた殆どの人が帰らずにいてくれたと言う事はきっとそう言うことなのだろう。


 すべてが終わって控室に戻ったら、律儀にも絢さんと真希さんが謝りに来ていた。


 むしろ謝るのはついでで、桜ちゃんと話がしたい様子だったけれど。


 一応ライブハウス側も被害は受けた形ではあったのだが、大した不利益にはなっていないし演出として面白かったからお咎めはなし。


 こちらとしても、ライブハウス側の警備不足だと言う事にして忘れてくれていいと言ったのだけれど、気が済まないらしくお詫びをするからと稜子と連絡先を交換していた。


 ただ二人とも桜ちゃんを気にするのと同じくらい、ユメの事も気にしていたようだったのだけれどどうしたのだろうか?


 最終的にユメは声をかけられることなく別れてしまった。


「桜ちゃんが前お金持ちだって言っていたのは、こう言うことだったんだね」


 控室に俺たち以外の姿が見えなくなった頃、綺歩が桜ちゃんに話しかける。


 桜ちゃんは不満そうな顔で頷いた。


「そうなんですが、あまり驚いていないみたいですね。残念です」


「何が残念なのかはわからないけれど、確かに改めて考えてみると桜ちゃんだったら納得なんだよね。


 私よりもベースが上手なんだから」


「あそこではぐらかさなかったら良かったです。絶対驚くと思って黙っていたのに。


 ユメ先輩やつつみんに至っては何も知らないみたいですしね」


「べ、別に知らなかったわけじゃ……」


「鼓ちゃん、そんな分かりやすい嘘をついても仕方ないよ。


 わからない者はわからない者同士蚊帳の外から見守っておこう?」


「そうですね」


 こうやって蚊帳の外同盟が結ばれている時にも話は進む。


「でも、どうして高校の部活に入ったの?」


「気まぐれだったと言ってしまえばそれだけなんですが、ネットのSAKURAはあくまでも顔は出さないネットの中だけの人物なんです。


 ですが桜には一つ夢があって、叶えるためにはどうしても表に出て行かないといけなかったんですよ。


 後は桜よりも上手いと思える人が集まっていたからです」


「その夢って言うのは叶ったの?」


「半分ってところでしょうか。でも、もうすぐきちんと叶いそうです」


「そっか、それなら良かった」


 笑顔を見せる綺歩に対して桜ちゃんが複雑そうな顔をしているのは、自分のペースに持っていくことができなかったからだろう。


 ボーっと桜ちゃん達の話を聞いていたら、何かにそでを引っ張られた。隣にいるのは鼓ちゃんなので、鼓ちゃんなのだろうけれど。


 何事かと思ってユメが首をかしげる。


「鼓ちゃんどうしたの?」


「遊馬先輩はどうしてこの部活に入ったんですか?」


 鼓ちゃんの声が小さめなのは綺歩に聞こえないように配慮してのことだろう。


 それは暗に「地声で歌うのが好きではなかったのに」と言っているようでもあった。


「どうする遊馬?」


『ユメの口から言ってくれていいよ。ユメも分かってはいるんだろ?』


「綺歩に頼まれたから……かな?」


「綺歩先輩美人ですから、断りにくいですよね」


「いや、むしろ美人だからこそ断ると思うんだよね。


 綺歩はどう見ても高嶺の花だし。わたしと言うか遊馬は目立つのは好きじゃないから」


「幼馴染だからですか?」


「綺歩とは中学くらいからほとんど話す事もなかったから、違うかな」


「じゃあ……」


「綺歩はもう忘れているだろうけど、昔ちょっと約束してね。ふと思い出したから入ろうって決めたんだよ」


「その約束が、あたしを先輩と会わせてくれたんですね」


 鼓ちゃんがちょっと大人びたような笑顔を見せる。


 いつもの雰囲気とは違うが、やっぱり鼓ちゃんは鼓ちゃんで、可愛さが募ったのかユメが鼓ちゃんの頭に手を載せた。


 撫でられている鼓ちゃんは気持ちよさそうに目を閉じていて、夢中になってしまっていたのか「ユメ先輩、つつみんに何しているんですか」と桜ちゃんに怒られた。


「何って、ちょっと撫でて……」


「ほら、そろそろ帰らないと置いて行かれますよ」


 気がつくと周りには誰もいなくて、急いで控室から出る。


 ライブハウスの外にはまだパラパラと人が居たけれど、あまり人がたむろ出来るほど広い道ではないので来ていた人は思い思いに帰ってしまったらしい。


 二年生組はすでに外に出ていて、ユメ達の姿を見つけて手を振って呼んでいた。


 行ってみたところ、三人以外にもよく見なれた顔と初めて見る顔がある。


「あ、ユメさん。お疲れ様でした。なんて言うか、もうすごかったです」と言ってきたのが藍。「ユメお姉ちゃんかっこよかったよ。特に一曲目とか」と言うのが優希。


 後二人いるが恐らく言っていた友達なのだろう。一人だと思っていたのだけれど違ったらしい。


 その二人がまるで有名人にでもあったかのように目を輝かせてそわそわしている。


「あ、あの。握手してくれませんか?」


「わ、わたしも」


「えっと、わたしなんかでいいの?」


 戸惑いながらもユメが出された手を握ると、二人は感激したように顔をほころばせる。


 あこがれにも似た眼差しにどうにも照れが出てしまうのか、はたまた嬉しいのか、あるいは両方かユメの頬が緩んでいく。


 二人はユメと握手をし終わった後、「ありがとうございました」と頭を下げてから、キャーキャー騒ぎながら今度は一年生の方へと駆けて行った。


「ユメちゃん今日はお疲れ様」


「綺歩も稜子もお疲れ様」


「あれ、ユメユメオレは?」


「一誠は疲れていないでしょ? 人の可愛い妹を見ているんだから」


「まあ、否定はできんな。遊馬に可愛い妹がいる話は聞いてはいたが実際に見て見ると、なるほどこれはユメユメの妹だ」


「何なのその話し方」


 ユメが白い目を一誠に向けてから、妹達を見る。


「二人とももう挨拶はし終わったみたいだね」


「綺歩ちゃんも稜子さんもいたから、一誠君も紹介して貰えたよ」


「優希、どうして一誠を一誠君って呼んでいるの?」


「一誠君がそう呼べって言ったから。


 嫌だったら一誠兄ちゃんらしいんだけど、兄ちゃんは遊馬兄ちゃんだけだし」


「ちょっと呼びにくいから一誠君かなって」


 藍までそう呼ぶのかと、ユメが溜息をつく。もちろん俺も心の中で溜息をついたが。


「優希と藍がいいならいいけど」


「そちらの子達が先輩の妹ですか?」


 いつの間にか真後ろに来ていた桜ちゃんの声に驚いてユメが「きゃ」っと声をあげる。


「いつの間に来ていたの? 桜ちゃん」


「今ですよ。さっきの子たちはもう帰っちゃいましたけど良かったんですかね?」


「まだ明るいから大丈夫だと思うけど、優希たちは良かったの?」


「あたし達もここで解散する予定だったから大丈夫だよ」


「それで、ユメさんそちらの人たちは……」


「桜ちゃんと鼓ちゃん。二人とも藍と優希の一つ上の高校一年生。


 で、こっちが優希と藍で遊馬とわたしの妹だよ」


 軽く紹介を済ませた後は、年が近いもの同士勝手に話が盛り上がっていく。


 この中だと鼓ちゃんが人見知りしがちだけれど、妹達が年下と言う事もあってか話し易そうにしていた。


 妹達の様子をユメが見ていると、不意に後ろから綺歩の声がする。


「せっかく優希ちゃんも藍ちゃんもいるしどこかで夕御飯でも食べながら、ちょっと予定立てない?」


「予定って何かしら」


「稜子も了承してくれたんだよね?」


「了承? ……ああ、海だかプールだかってやつね。


 アタシは構わないけれど、桜達はどうなのかしら?」


「桜がどうかしたんですか?」


 妹達と何やら楽しげに話していたはずの桜ちゃんが、自分の名前が出たからか聡くこちらに反応した。


「遊馬に言われていたんでしょ? 皆で海かプールに行こうみたいなことを。


 その予定を今からご飯でも食べながら決めないかって綺歩がね。だから桜がどうこうってわけじゃないわ」


「なんだ。その事ですか」


「露骨に残念な顔をするよね桜ちゃん」


 ユメの呆れ声にも桜ちゃんはめげず、一変して企むような顔を見せた。


「桜はいっこうに構いませんよ。今日はそもそも遅くなるから夕飯はいらないって言って来ましたし」


「私や優希も大丈夫です」


「今日は兄ちゃんとご飯食べて帰ってくるって言ってきたからね」


「いつの間にそんな事に……」


『藍がここにいるから今から連絡しても大丈夫だろうと思ってはいたけどな』


「だって家じゃ、お姉ちゃんとご飯食べられないでしょ?」


「そうだけどね」


 いつの間にか妹との会話になってきたところで、鼓ちゃんがおずおずと「あたしは連絡してみないと分からないです」と手をあげる。


「そしたら鼓待ちで後は全員大丈夫って事でいいのね?」


「何でオレに誰も触れてくれないんだ?」


「あら、御崎も来るつもりだったの?」


「むしろオレがいかないとでも思うのかい、稜子嬢さんよ」


「行かないって言ったら明日はアタシ家から出ない事にするわ。まだ死にたくないもの」


「それって何が降ってくる予定なの?」


 ユメが尋ね、稜子が「槍」と短く答える。


 不服そうな顔をしながら、稜子がもう一度一誠の方を向いた。


「で、今日はどうなの?」


「もちろん大丈……」


「鼓連絡は終わったかしら」


「あ、大丈夫です」


「それじゃ、行くわよ」と稜子が歩き出し皆その後を追っていたが、動かない一誠の背中が妙に寂しそうだったので、ユメがポンっと肩に手を置いた。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 高校生のお財布事情など知れたもの、特に今回は中学生もいるので行く場所はファミレス。


 男女比一対八、入った瞬間一誠に対して冷ややかな視線がそこかしこから送られていたが、席に座るなり稜子に「水はセルフサービスらしいから頼んだわよ」と言われて渋々立ち上がる一誠の姿を見て、憐みの視線に変わった。


「さすがに八人分はもてないでしょ?」とユメが一誠の後を追ったのは半分癖のようなもの。


 俺が表に出ていたら間違いなく一誠と二人でとなっていただろうし。


「一誠ってこういう雑用を文句言わずにやるよね」


「ユメユメだって遊馬時代文句言っていなかったと思うけどね」


「こういう事をわたしが言うのは本来ルール違反なんだけど、あの頃は足を引っ張っている自覚はあったから、雑用くらいはしないとって言う意識はあったんだよ」


「遊馬も律儀だわね」


 感心したように一誠は言うが、一誠の方が律儀なのではないだろうか?


 負い目も無く雑用をこなしているのだから。


「一誠はどうしてなの?」


「どうしてって事もないと思うけども、女の子に頼られるって悪い気はしないだろ?」


「いい笑顔で言われてもね。それでこそ一誠って感じもするけど」


 結局持って行ったコップの数は、一誠がお盆を使って六つでユメが二つ。


 一人一人にコップを渡して、それぞれにお礼を言われる。


 度々やっていたことではあるけれど、今負い目なく笑顔を向けられると一誠の気持ちが分からないでもない。


 中には申し訳なさそうにしている子もいなくはないが――鼓ちゃんとか、藍とか――そんな顔はしなくていいように思う。


 恐らく今後も一誠は言われずとも雑用に従事するのだろう。俺はたまにでいいのだが。




「そう言えば遊馬妹達も来るんだな」


 注文も終わって料理が運ばれてくるのを待つ間一誠がそう切り出した。


「そうですよ」


「それとも一誠君的には「あたし達に来てほしくないって言うの?」って言って欲しかった?」


「さすがゆっきゅん話が分かる」


「ゆっきゅん……ってあたしなの?」


「駄目だよ優希、一誠の呼び方を気にしたら負けなんだから」


「そうね。アタシを稜子嬢なんて呼ぶのは御崎くらいだものね」


 こうやって妹達に一誠の扱い方を教えたところで本題に入る。


 料理も揃ったので、合わせて夕飯にも入った。


 言いだしっぺと言う事もあり、話は綺歩が仕切る。


「とりあえず海に行くのかプールに行くのかを決めたいんだけど、皆はどっちがいいと思う?」


「綺歩はどっちがいいの?」


 ユメの返答に綺歩が大きな目でじっと見つめて返すので、ユメが首をかしげる。


「私がどうって言うよりも、遊君とユメちゃん二人とも楽しむためには海の方がいいと思うかな」


「どうして?」


「プールだと水着じゃないといけないでしょ?


 もしもプールで入れ替わるような事になったら大変だと思わない?」


「言われてみるとそうだよね……如何に遊馬が裏声出さないようにしても、驚いたり大きな声を出そうとしたりすれば思わずって事がないわけじゃないだろうし」


『それは困るな。主にユメが』


「そうだよね……」


「ユメ、一人で話しているのはいいんだけれど、アタシはユメも来ないと行かないって言ったわよね?」


『確かに言われたんだよな……』


「その手があったか……稜子嬢もやるねー」


「でも、今の流れだと水着を買うってイベントはなさそうですね」


 勝手な事を言う一誠と桜ちゃんは置いておいて、気は進まないが濡れてもいい服を着て海に行くと言うのが現実的なのだろう。


 ユメにもそう伝えると、それをユメが皆に伝える。


「海ですか……ちょっと恥ずかしいような……」


「つつみんは色々とちみっこいですからね」


「桜ちゃん、そんな事言わなくてもいいじゃない」


 デリカシーのない桜ちゃんの発言に対して、可愛らしく頬を膨らませる鼓ちゃんを藍や優希までもが微笑みながら見ている。


 はたして妹達が大人びているのか鼓ちゃんが子供っぽいのか。これは言わぬが仏と言う奴だろう。


「つつみんも良いとのことなのですが、一誠先輩もそれで良いですか?」


「オレは皆の水着が見られれば何処でも良かろうってな」


「相変わらずぶれないわね」


 一誠の言葉に稜子が感心している。いちいちツッコむ気力も無いのだろう。


「いつ行くかなんだけど、早めにいかないとだよね」


「クラゲが出る前ってことね。ちょうど明日明後日は部活休みだし、明後日の朝駅に集合って事でいいんじゃない?


 明日一日あったら準備もできるでしょ?」


「稜子も相変わらず行動が早いというかなんというか……優希と藍もそれで大丈夫?」


「大丈夫だよ、お姉ちゃん」


「受験勉強の息抜きって事で、今日もそうだったんですけど」


「二人とも優秀だもんね」


「そう言えば貴女達中三だったわね。行きたい学校とか決まっているの?」


「私はお兄ちゃんと同じ学校に入りたいです」


「あたしも」


「そしたら文化祭で波乱が起きそうだな」


「あー……そんなイベントあったね」


「あー……って何よユメ。アタシ達はそれはそれは面倒だったんだから。何だってあんなイベントがあるのかしら」


「確かにあれは恥ずかしかったけど、ユメちゃんには全然関係ないイベントだったもんね」


「二人ともあれがあったから有名になったんじゃなかったっけ?」


「あの先輩方、そのイベントって何ですか?」


「ただみん達も知らないんだっけか」


 桜ちゃん達はまだ文化祭経験した事が無いのか。


 北高文化祭。通称北高祭。部活動が活発なだけあってこの辺りでは最も大規模で行われ、学生だけなく一般の人も来る事が出来る。


 行われるのは金曜日から三日間。


 ただ、前日の木曜日は一日準備に使っていいし、終わった後二日間は振り替え休日なので実質ほぼ一週間休みみたいなもの。


 あくまで去年までは。部活にも入っていなかったし、クラスでの出しものもありはしたけれど、この学校だと運動部も含め部活動での参加が主になるのでクラスによってはない場合もある。


 許可さえあれば屋台なんかも出すことができ、バレー部が何故か毎年クレープを売っていたりするらしい。


 俺は去年特になにをするでもなく見て回っていただけなのだけれど、この北高祭二日目に一つ全学年にわたって行われるイベントがある。


「北高には美少女コンテストがあるんだよ」


「なんですかその如何にもなイベントは」


「自推他推で集められた女の子の写真を一日目に掲示して、投票してもらうの。


 二日目に上位四人を集めてステージで再投票。ミス北高を決めようって言うイベントなんだけど……」


「なるほど、去年その四人に綺歩先輩と稜子先輩が残ったんですね」


 ニヤニヤと楽しそうに桜ちゃんが二人を見る。反応に困ってする綺歩が苦笑が桜ちゃんの言葉を肯定していた。


「いやいや、さくらん。四人に残ったってだけじゃない」


「大方ミスに綺歩先輩、準に稜子先輩ってところでしょう。通りでこのバンドが人気なわけです」


「今年は去年の倍は人気になるだろうな」


「何と言っても桜がいますからね」


 桜ちゃんは確かに可愛いとは思うけれど、どうしてこんなに自信たっぷりなのだろうか。


「話もこの辺にして置いて、今日はそろそろお開きにするわよ」


 外を見るとだいぶ暗くなっていた。


 ファミレスを出てからはそれぞれ別れて帰る。


 ユメ達に関しては大所帯――ユメ、綺歩、藍、優希――だが、後は二人ずつ。


 一組は稜子と鼓ちゃん。もう一組は桜ちゃんと一誠。


 分かれる直前に桜ちゃんと一誠が企み顔をしていたのがとても気になった。


 家へと帰る道で、不意に藍がユメに声をかけた。


「一曲目って演出だったんですか?」


「あれは一応事故だよ」


「そうそう。ユメちゃん急に歌い出すんだもん後ろにいる私達皆冷や冷やしていたんだから」


「あれって事故だったんだ。お姉ちゃん全然動揺していないみたいだからてっきり演出だと思ってたんだけど」


「実際楽しかったから。綺歩達の伴奏に合わせるのもいいけど、わたしの歌だけ聞いて貰うのもたまにはいいかななんて思っちゃった」


「でも、次は何か合図くれないと駄目だよ」


 綺歩の諭すような言葉にユメが謝る。綺歩と別れて家に入ろうとしたところで、ユメがあることに気がついた。


「あれ? わたしこのまま家に入るわけにはいかないよね?」


「お母さんにはユメさんのことは言っていませんし」


「さすがに今の格好で兄ちゃんに戻るのはまずいよね」


 優希に言われてユメの視線が着ている服の方へと移る。


 見事なまでのセーラー服。こうやって上から見ても本当に膨らみかけだななんて思ってしまうけれど、この華奢な身体で胸だけ豊満って言うのもアンバランスなような気がするのでむしろ今くらいでいいのかもしれない。


 と、言うか今はそんな事を考えている場合ではなく如何に家に入るか。


「綺歩の家で着替えさせてもらえば良かったかも知れないけど、あんまり迷惑かけるわけにもいかないしね……」


「綺歩ちゃんはむしろ兄ちゃんに迷惑かけてほしいんじゃないかな?」


「ん? どうして?」


「とにかく、私と優希でお母さんの気を引くので、ユメさんはその間にお兄ちゃんの部屋に入っちゃってください」


「わかった。ありがとう藍」


「お姉ちゃんあたしは?」


「優希もありがとう、よろしくね?」


「それじゃあ、ちょっと待っててね」と言って藍と優希が家の中に入っていく。


 二人を見送ってユメが声を出した。


「家族に協力者がいるって楽だね」


『これならもっと早く二人に教えておけばよかったってか?』


「結果論だって分かってはいるんだけどね」


『まあ、俺も同じ気持ちだよ』


「だよね」


 ユメは笑ってからそっと家の中に入る。妹達が上手く母さんの気をひいてくれているからか見つかることなく俺の部屋まで行くことができた。


 それから着替えて俺に戻ったところでリビングまで降りて行った。

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