終焉
あの事件から5年が過ぎ、私は大学3年生になっていた。詩音の居ない高校生を埋めるかのように勉強に費やした。その甲斐あってか、県内トップの大学に進学が決まった。専攻は法律学部。云わずもなが、あの事件がきっかけでこの道に進んだ。当初、学校の先生や両親は反対した。何も自分で傷を抉らなくても良いのではと。唯一、賛成してくれたのは
「お前が進みたい道を選べ。後悔だけは絶対にするな」その言葉で道が固まった。大学に合格したことを伝えると、咲兄は自分の事の様に喜んでくれたのは記憶に新しい。呉乃さんとも時々、連絡を取っている。何だかんだであの人も私のことを心配してくれた1人だ。同じように合格の旨を伝えると、「不知火さん、そんなに頭良かったんですか。意外ですな」と言われた。何気に毒を吐くが嫌いではない。因みに蒼井さんとは、お付き合いしている。所々割愛するが、詩音との話が終わった後、私は戻ってきた蒼井さんに約束を破ったことのお詫びとして飲み物を奢ろうとしていた。当然だが、蒼井さんは受け取らない。しかしそれでは私の気が済まない。悶々としていると、蒼井さんから出された案は困った事があった些細な事でも知らせること、というお願いであった。そこで番号を交換し、そこから色々あり今に至るという。(付き合い始めたことを行言った時の呉乃さんの顔は一生忘れられないだろう。)あれから5年、16歳だった私も気付けば21歳である。時間が経つのはなんて早いのだろう。あれから詩音とは一度も会っていない。番号も変わってしまって連絡も取れない。詩音は未成年ということもあり少年院に入れられた。刑期は約3年、模範囚だったらもう少し早く出所しているだろう。2007年に少年法が大きく改正が行われ厳罰化されているが、風の噂によると3年程で出られると聞いた。詩音が此方に戻ってきてから2年。今も音沙汰はない。しかし私はずっと待ってやると言ったのだ、気長に待とうではないか。今日の講義が終り自宅に帰りポストを覗くと郵便物が何枚か入っていた。大体は公共料金の支払いだが、1枚だけ真っ白な封筒が入っていた。私宛で送り主は不明。だが不思議と怖くはなかった。私にとって白で思い浮かぶのは彼女しか居ないのだ。慌てて家の中に入り慎重に封を開けると1枚の写真が入っていた。写っているのは男の人と1歳ぐらいの女の子、そして幸せな顔で写っている詩音がいた。
「詩音、幸せそうに笑っている・・・」彼女は今度こそ自分の幸せを握りとったのだ。もう昔の彼女はそこに居ない。裏を見てみると、そこには住所と電話番号が書かれていた。ああ、高校生活は一緒に送れなかったけどまた親友として時間を共有出来る。私はドキドキしながら電話を掛ける。話したいことが沢山あるんだ、早く電話をとってくれ。すると聞きなれた、懐かしい声が耳元に届く。
「もしもし、如月です」私はあの頃の様に話しかける。
「久しぶり、詩音。元気にしてた?」
「久しぶり、尊。勿論元気よ」さあ、置いてきた物をもう一度取りに行こう。ささやかでキラキラ輝いていた16歳の思い出を。
完
面影を追う 蓮見蓮 @hasumiren
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