第2話 野良猫スープ事件(解決編)
1
ヒロトたちは空き地まで
「本当に、あの
「たぶん、作ってないと思う」
あらためて聞かれると、だんだんと自信がなくなってきて、ヒロトはうつむいてしまった。
店の外に置かれたずんどう鍋に猫が入っていたのはたまたまという
ヒロトが下を向いたままいると、ユウキが顔をのぞきこんできた。
「あの店にはいないとして、じゃあミャオはどこに行ったんだ?」
「そう、どこにいるの?」
ミユちゃんにも見つめられて、ヒロトは
「ねえヒロくん、分かってるなら教えて。ご飯も食べれてないはずだし、ぬれてこごえてるかも知れないから、早くむかえに行ってあげないと」
ユウキとミユちゃんがそろってヒロトにつめ寄った。
ヒロトは後ずさりながら、首を横に
「そんなの、僕だって分からないよ!」
ヒロトが大声で言うと、ミユちゃんは
「そうだよね。ごめんね、ヒロくん。ずっと雨が続いてるから、ミャオが心配だったの」
ずっと雨?
ずっと雨、雨、雨。
何かが引っかかっる。
「ずっと雨。それで、帰って来ない。どうして?」
ヒロトがぶつぶつとつぶやきながら考えていると、ユウキが首を
「雨がどうしたんだよ?」
しかし、ユウキに聞かれているのにも
ヒロトが
「雨で深くなった池とか川とかで、おぼれたりしてないと良いけど」
ミユは自分で言っておきながら、はっとして、泣きそうな顔をした。
「そうか、それだ!」
「えっ、ミャオがおぼれたの?」
「ううん、違うよ。ミャオが帰ってこない
ミユちゃんの独りごとを聞いて、昨日の
雨が降って閉ざされた
ヒロトは空き地を飛び出した。
歩いてきた道を
「おい、ヒロト。どこに行くんだよ?」
ヒロトが先に先にと進むので、ユウキがヒロトを呼び止めた。ヒロトは、「ちょとね。探してみたい場所があるんだ!」とだけ言って、
2
ヒロトは息を切らしながら目的地に向かった。行き先を知らないユウキとミユにとっては、来た道とおんなじ道を引き返してるように感じられたらしく、二人はとまどったように顔を見合わせながら、
ヒロトは池の前の公園に差しかかると、すべり台の横で立ち止まり、
しかし、ミユはスカートをはいているので、上手く植え込みをとびこせなかった。
ヒロトはミユちゃんが
「ごめんね、ちょっと走りすぎたよ」
「ヒロ君もゆう君も足が速いんだね!」
「まあな、俺は
「もうすぐ
「うん、私は
しげみをぬけた先にある池は、
ヒロトたちは池の前のベンチを通り過ぎて、さらに四百メートルくらい走った。いっぱい走ったので、そこまで着いた時にはヒロトもユウキもシャツが
ヒロトはボートレンタルの料金所の辺りに立って、ユウキとミユに
「なあに、ボート乗り場に何かあるの? もしかして、ここにミャオがいるの?」
ミユちゃんは
「うん! もしかしたらだけど、いるんじゃないかな!」
「いるってどこにだよ? どこにもいないぞ!」
ユウキがもどかしそうにしながら、辺りを見回した。
「ほら、あそこの小屋があるでしょ。あの中だよ!」
「ええと、あの小屋よね」
ヒロトに言われてミユちゃんは小屋の方を見た。
「うん。あの小屋っていつもは空いてるでしょ?」
「ええ、よく
「ここのおじさんに聞いたんだけどさ。あの小屋には雨の日だけボートを入れてあるんだって。だから、雨の日はシャッターが閉まってるらしいんだ!」
小屋のシャッターは今日も下ろされていた。
「雨の日に閉まってるって事は、じゃあ!」
「そう、このシャッターは四日前からずっと閉まっていた事になるんだよ!」
ミャオがいなくなったのが四日前で、ここのシャッターが閉ざされたのも四日前。だから、もしかしたら、ミャオはこの小屋に閉じ込められているのかも知れない。それが、ヒロトの考えだった。
3
ヒロトは小屋のシャッターの前に立って、「ミャオー、いるかー?」と大きな声で
ミユちゃんは
ミユちゃんの苦しそうなさけび声にた耐え切れなくなって、ユウキは大声でミャオを
ヒロトはシャッターがさびて
ユウキはミャオを呼びながら、シャッターを持ち上げようとしていた。
ミユちゃんはかすれた声で「ミャオ、ミャオ」とさけび続けている。
三人がシャッターの方向にだけ
「コラッ。お前たちは何をしているんだ!」
「何をしているんだ。イタズラしおって」
おじさんは雷のような大声で怒鳴った。
さっきまでシャッターをがんがんやっていたユウキは、おじさんの
「ごめんなさい、おじさん。でも、ミャオが。ミャオが」
ヒロトも
「おい、どうした。何だミャオって? 泣いていても分からんぞ」
おじさんは少し落ち着いた声になって、ヒロトにたずねた。
「ミャオは、ミャオはね。ミユちゃんの、家の、猫、なんだ」
ヒロトは泣いてしゃくりあげながら、それでも
おじさんはヒロトの説明を聞くと、すっと怒るのを止めて、優しい目をした。
「君たちはその女の子のためにミャオという猫を探していたのか! それで、この小屋の中にいると思って、猫を呼んでいたんだね?」
おじさんにたずねられて、ヒロトとユウキは泣きながらうなずいた。
「そうか、そうか。でも、シャッターを叩いてはいかんな。こわれたら
おじさんにそう言われて、ユウキは「ごめんなさい」と謝った。
「分かってくれれば
おじさんは料金所に駆けて行き、すぐにカギを持って戻ってきた。
おじさんはシャッターのカギを開けて、シャッターを持ち上げた。
「さあ、中にミャオちゃんがいないか見ておいで。おじさんも一緒に探してみよう」
おじさんはにっこりほほえんだ。
四人で小屋の中に入ってミャオを探した。まずは
つぎに、ボートの中を探した。ボートは全部で七
手こぎボートの
おじさんはミャオを探すのをあきらめて、
「ごめんよ、君たち。どうも、ここにはミャオちゃんはいないようだ」
それからもしばらく探してみたが、ミャオは見つからなかった。三人は
「ごめん、ミユちゃん。ミャオが見つからなくて」
「ううん、ヒロ君のせいじゃないよ」
「明日、また探そうぜ!」
ユウキが
4
ヒロトはユウキとミユちゃんにさよならを言って、自転車にまたがった。ミャオが見つからないまま帰ることになって、落ち込んでいた。がっかりしながらこぐ自転車のペダルはひどく重たかった。
ユウキもがっくりと
ミユちゃんはしょんぼりうつむきながらトボトボと、自転車を
ヒロトは家に帰って、自転車を止め直すと、
キッチンの方からはお母さんが晩ご飯を作る音が聞こえてきている。ぐつぐつという鍋の音、とんとんとまな板と
ヒロトが居間に入ると、チカがヒロトの方を
「あっ、兄ちゃん! お帰り」
チカは
「兄ちゃん、どうしたの? 元気ないけど」
チカは
ヒロトは一日の
「そっか、見つからなかったんだ、ミャオ。それは
「でも、明日も見つからないかも知れないし。それに……」
ヒロトは言いかけて、あわてて口を閉じた。
「それに、何なの? 何か他にも困ったことがあったの?」
チカは
「それにさ、ミャオは本当にスープにされちゃってるのかも知れないだろ」
口に出したことで、ヒロトはもっと怖くなってしまった。頭からすぅっと血の気が引いていくのが分かった。
青ざめたヒロトを見て、チカはもう一度、ぐいっと首をかしげた。
「どうして、スープにされてると思うの?」
「だって、ミャオが見つからなかったから……」
「でも、天使の食卓にいたのは元気な野良猫だけだったんだよね?」
たしかにチカの言うとおりだ。店の外にいた猫は無事だった。しかし、もしかすると、店の中にはスープの材料の猫がたくさん
「コージはさ、
お店の中では猫たちが皮をはがされて、
「なーんだ。そんな事が心配だったんだ! それならきっと大丈夫だよ!」
「えっ、どうして?」
チカの
「猫のスープって考えたら怖いけど、ちょっと落ち着いて考えてみてよ。もしも、スープを作るなら毛とか皮は要らないゴミになるでしょ?」
「うん、そうだと思う。料理に毛が混じってたら食べられないからね」
「なら、毛のついた猫をわざわざ天井から吊るして取っておくのって、おかしくない?」
「ちょっと待って、どうして毛のついた猫だって分かったの?」
「だって、兄ちゃんの友達は猫を見たんでしょ?」
「うん、そう言ってた」
「毛をはがされた猫を見ても、それが猫だって分かるかな?」
「たしかに、分からないかも」
「でさ、お店の中に毛のついた猫を吊るすって変だと思うんだよね」
「どうして?」
「そんなことしたら、毛が落ちて、料理に入っちゃうもん。もし猫の
5
チカは
「でも、じゃあ、お店の中に
「それはね、きっとアレじゃないかな。あっ、ちょうどもうすぐやるから見ててよ!」
チカは新聞のテレビ
テレビは夕方のニュースが終わる所だった。「本日のニュース」、「ようやくの
「なに? このテレビが何かあるの?」
あせるヒロトをよそに、チカはにこにこしながら、「まあまあ、ちょっと見ててよ、兄ちゃん」と言った。
待っていたのは五分くらいの時間だったが、ヒロトはそれがすごく長く感じた。そして、ようやくチカが見せたがっているテレビ番組が始まった。
「良く見ててね。たぶん出るはずだから」
「これが何だって言うんだよ?」
番組はやっぱり通販番組だった。あんまりじれったくて、ヒロトはチカの顔を見た。チカは
らくらくショッピングが始まった。始めに
「お次の商品は、ただいま人気ふっとう中の商品、どうぶつモップです!」
スーツ
「
女の人が言うと、男の人が大きくうなずいた。
「そうでしょう、そうでしょう。だったら、これがおススメ! ごらんください。かわいい動物と一緒なら、面倒なお掃除も楽しいふれあいの時間に変わります!」
テレビ画面の中で男の人が取り出したのは動物の形をしたモップだった。毛の生えた変なカエル、小さなライオンやトラ、それから小型犬や本物そっくりの三毛猫、いろんな種類のモップが飛び出してきた。
チカはテレビ画面を指差した。
「兄ちゃんの友達が見たのってこれじゃない?」
「えっ、このモップのこと?」
「うん、そう。結構リアルだし。トラとか猫とかのやつ、サイズは本物の猫くらいだから、これを見間違えたんじゃないかな?」
「そっか、モップなら!」
「毛の付いた部分は使った後に、洗って干しておくでしょ!」
それだったら、天井からぶら下がっていた説明もつく。ヒロトは目をパチクリさせながらチカの顔を見た。チカはえっへんと
6
ヒロトは今度こそ
すごい。チカはきっと天才だ。
「あっ、それとね、明日もミャオを探すんでしょ?」
「うん、そうだけど」
「だったら、探してみて
「探して欲しい所?」
「うん、そう」
チカはそこまで言って、
「ところでさ、その前に
「なに? 何でも聞いてよ」
ヒロトはチカに
「ミャオってかしこい猫なんだよね?」
「うん、そうだって。
「じゃあ、車にひかれちゃったとか、そういうのはありえないよね?」
「うん、そう思う」
ヒロトに確認すると、チカは
「えっと、じゃあ
「うん、おねがい」
「まず、兄ちゃんたちが探したボートの小屋って考えだけど、雨が
「でも、ボート小屋にはミャオはいなかったんだ」
「それはそうだよ!」
「どうしてさ?」
「シャッターが
チカに言われてヒロトは
せまい小屋のすみに猫がいたとして、そこに七
小屋にいた猫はおどろくに違いない。そして、ぎゃあぎゃあ鳴きながら、ボート小屋を逃げ出して行くだろう。
「もしも、小屋の中から上手く出られなかったとしても、猫の鳴き声を聞けばボートのおじさんも気づいたはずでしょ?」
「なるほど、たしかに……」
「だからさ、ミャオは
「別のところって、いったいどこなんだよ?」
「あのね、それはね……」
それから、チカはヒロトに考えを話した。
誰かに
7
今日は土曜日で学校が休みなので、朝からミャオを探す事になっている。もうすぐ、ユウキとミユちゃんも来るはずだ。
一週間も
しばらくすると、ユウキとミユちゃんが公園にやって来た。
「おっす、今日は早いな、ヒロト!」
「おはよう、ヒロ君、ゆう君」
三人はお
「やっぱりミャオは帰って来てないの?」
ヒロトが聞くと、ミユちゃんは悲しそうにうなずいた。
「じゃあさ、今日はとなり町を探してみようよ!」
ヒロトはさっそく、そう
「どうして、となり町なんだ?」
ユウキにたずねられて、ヒロトは昨日の夜にチカと話したことを
「ミャオはかしこいから
「ああ、そうだな。猫はあまり泳げないらしいからな」
「でも、となり町は自然が多いし、猫が遊びに行く
「そうかもな。いつもは川も浅いし、
「それでさ、もし雨が
「なるほど、その可能性はあるかもな」
ヒロトの話を聞いて、ユウキとミユちゃんはうなずいた。
「とにかく、早くとなり町を探してみようぜ!」
「すごいね、ヒロ君! なんだか、ミャオが見つかりそうな気がしてきたわ!」
「ホントに、すげえよ、ヒロト!」
ヒロトの話を聞いて
「ううん。すごいのは僕じゃないんだ。弟がとなり町にいそうだって言ってて」
ヒロトは二人にほめられたので、あわてて首を
「そっか、弟くん、頭良いんだね! すごいね!」
チカの事をミユちゃんにほめられて、ヒロトはうれしくなった。
三人は自転車を公園に置いたまま、歩いてとなり町を目指した。川を渡るための橋にはせまい
「たしかに、ミャオじゃ、この橋は渡れないね」
ミユちゃんは車に気をつけて、橋の手すりに体を
「でも、となり町は自然が多いから動物が遊べる場所が多くて、猫もいっぱいいるし、犬の
「そうなんだ! 弟くんは
三人はどうにか橋を渡り切って、川の
「さあ、となり町とは行っても、どこを探そうか?」
「それも、弟が言ってたんだ。きっとミャオは家に帰れなくて困って、
8
ヒロトたちは飛び石の
「ミャオー、ミャオー!」
ユウキが草を引きむしりながら、
「おーい、ミャオー!」
ヒロトは橋の下に入り、
「ミャオー、ミャオー、どこにいるの? ミャオー!」
ミユちゃんは
探し始めてから三十分ほど過ぎたころ、ミユちゃんが
「ミャオー、きゃー、ミャオー!」
ミャオは河原に置かれた石づくりのベンチの下にかくれていた。
石のベンチは足元がくりぬかれていて、そこに高さが四十センチくらいのすき間がある。その下は日も当たらないので草が生えておらず、ベンチの周辺には三十センチ以上の草が生えているので、ベンチの下は小さな部屋のようになっている。猫が入り込んで雨つゆをさけるのにはちょうど良さそうな場所だ。しかも、まわりの草によってかくされているので、
ミャオはいなくなってから
ミユちゃんはミャオを
「へへっ。良かったな、ミャオが見つかって!」
「うん、本当に良かったよ!」
ヒロトはユウキと目を合わせて、にこにこと
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