第7話 天使のスープ事件(思考編)

 ヒロトとユウキとミユの三人はがっくりと肩を落としながら、タクヤの家を出た。シュン兄は、泣き出してしまったタクヤをなぐさめるために、タクヤの家に残った。

 空は夕日で赤むらさき色に染まっている。もうすぐ夜だ。カラスの鳴き声が聞こえて、物悲ものがなしい気分がましていく。ヒロトたちはしばらくだまったまま、とぼとぼと歩いた。

 ユウキが先頭を歩き、その後ろにヒロトとミユが並んで歩いた。みんな元気がなくて、足取りが重い。ゆっくり、ゆっくりと、川沿いの道を歩き進んだ。

 遠目にいつもの公園が見えてきた。すると、ミユちゃんが立ち止まって、「あっ、そうだ!」と言った。

「どうしたの、ミユちゃん?」

 ヒロトはとなりにいるミユちゃんの顔を見た。

「ねえ、私ね、いいこと思いついちゃった!」

「なになに?」

 ミユちゃんが明るい声で言うので、ヒロトもつられて元気になった。

「あのね、タクヤ君のお兄ちゃんの話をね、トモノリ君に相談してみたらどうかしら?」

 ミユちゃんの提案ていあんを聞いて、ユウキもぱっと顔を上げて笑った。ミユちゃんの一言で、ヒロトとユウキのの目にキラキラとかがやきがよみがえった。そして、急に力がみなぎってきた。

「そうだ。そうだよ! トモノリなら、何か分かるかも知れないだろ!」

「うん、そうかも! 帰ったら話してみるよ!」

 チカなら、あのチカなら、何か分かるかも知れない。

 ヒロトもユウキと同感どうかんだった。

 トモノリという名前は、チカの本名だ。智恵ちえの「智」に年賀状ねんがじょうの「賀」でトモノリと読む。けど、ヒロトたち家族はみんなチカと呼んでいる。

 家族がみんなして、「トモノリ」ではなく、「チカ」と呼ぶのには理由がある。それは、お母さんの田舎いなかに伝わっていた風習ふうしゅうだ。

 なんでも、男の子を女の子のように育てると、健康に育つという言いつたえが、お母さんの住んでいた田舎にはあったそうなのだ。だから、生まれつき体が弱かったチカを元気に育てるために、男の子なのにわざと女っぽい名前にしたのだという。そうすることで、悪魔あくま死神しにがみの目からからかくして、見つからないようにしているのだそうだ。

 でも、一生ずっと女の名前だとかわいそうだから、大きく丈夫になったら男の名前に戻せるようにと、「智賀」と名づけ、いつもは「チカ」と、なんとなく女っぽい名前で呼んで、正式な書類には「トモノリ」という男の子らしい名前を登録してあるのだそうだ。

 その話をお母さんから聞かされたとき、ヒロトはみょう納得なっとくしたものだった。チカはやっぱり特別とくべつな存在なのだと感心した。

 まだ小学校に入る前からチカはかしこくて、いろんなところでするどかった。他の子どもたちとはぜんぜん違っていた。だから、悪い神様や悪魔たちがチカをねらうのに違いない。そのせいで体が弱いのは心配だけど、そんな特別な弟がヒロトのじまんだった。

 誰よりも頼りになるのはチカなんだ! 

 きっとチカなら大丈夫だ!

 チカなら何か良い考えを出してくれる!

 きっと今度の事件も解決かいけつしてくれるに違いない。

 ヒロトは心からそう思った。

「じゃあ、帰ったら弟に相談してみるよ!」

 ヒロトは元気な声でさけんだ。そして、ユウキとミユちゃんに向かって手をぶんぶん振りながら、家に向かってかけ出した。

 早くチカに話したい。

 チカはどんな推理をしてくれるだろう?

 早く、早く。チカの意見を聞きたい。

 ヒロトは心なしか、わくわくしていた。


 ヒロトが家に帰ると、玄関げんかんからお母さんが飛び出してきた。お母さんはあわてた様子で、ヒロトを見るなり、「チカのことをお願い! お母さんはちょっと薬屋さんに行ってくるから」と言って走っていった。

 ヒロトは急なできごとにびっくりして、口をぱっくり開けたままお母さんの後ろ姿を見送った。お母さんの姿が見えなくなると、ヒロトは首をかしげながら家の中に入った。まず最初に居間いまに行った。しかし、誰もいなかったので、次にチカの部屋に向かった。

 チカは部屋のベッドの上に横たわっていた。とろんとした目で天井を見上げながら、ぐったりとして、力無くしおれている。頭の下には氷枕こおりまくらがしかれている。ヒロトはただならぬ様子におどろいて、チカにかけ寄った。

「チカ、どうしたの! 大丈夫だいじょうぶ?」

「あっ、兄ちゃん。おかえり……」

 チカは息もえになりながらも、にこりとほほえんだ。チカのひたいからはぬるぬるしたあせが吹き出していた。口のはしには白いあわが浮かび、ふうふうと激しく息をしている。

「熱があるの?」

 ヒロトがたずねると、チカは苦しそうにうなずいた。ヒロトはチカのおでこに手を伸ばした。チカのおでこはホッカイロみたいに熱くなっていた。

 チカは苦しみに耐えて歯を食いしばりながら、ヒロトの顔を見た。

「ねえ、兄ちゃん」

「なに? どうした?」

「兄ちゃん、今日も何かあったでしょ!」

「うん、まあ」

「何があったの? 教えてよ」

「熱が下がってから話すよ」

「ううん、ダメだよ。急いでるって顔に書いてあるもん!」

 チカはかすれた声で、もう一度「教えてよ」と言った。

「分かったよ。でもその前に。ちょっと待ってて」

 ヒロトはチカの部屋を出て、階段をかけ下りた。台所に行き冷蔵庫れいぞうこから冷えた麦茶を取り出し、コップになみなみと注いだ。お茶をこぼさないように注意しながら階段を上がり、チカのベッドサイドにあるテーブルにコップを置いた。

「ほら、チカ。いっぱい汗をかいてるから、お茶を飲んどけよ!」

「うん。ありがと、兄ちゃん」

 チカはふらふらの上半身じょうはんしんを起こして、ちびちびと麦茶を飲んだ。「で、何があったの?」チカはコップを置くと、ヒロトの顔をじっと見つめた。


 ヒロトは今日あったできごとをチカに話した。タクヤからの相談と、シュン兄の話、リョウが高価な腕時計を大量に持っていたこと。そして、ヒロトたちだけでは推理すいりが行きづまっているということを話した。チカは熱でぼうっとした頭を集中させようとしているのか、冷たい麦茶をがぶがぶと飲んだ。

 お茶を飲んだおかげで少しだけ体が冷えたのか、ほんのちょっぴりだけど頭がスッキリした様子で、チカはヒロトを見た。

「ええと、まずは何をたしかめれば良いんだっけ?」

 ひとごとを言いながら、チカは目をギュッと閉じた。

 ぼうっとする頭を集中させているようだ。

「ねえ、その腕時計はそんなに高い物なの?」

「うん。そうらしいよ。一つが二万円くらいだって」

「全部でいくつあるの?」

「はっきりとは分からないけど、値段はだいたい五十万円分くらいにはなるって!」

 シュン兄の記憶きおくを頼りにタクヤの家のパソコンで時計一つ一つの値段を調べたところ、リョウが持っていた時計の金額は合計で五十万円以上だった。

「そっか。じゃあ、そのリョウ君って人は、どこかでその時計を盗んだんだね!」

「うん。それか、お金を盗んだのかも知れないけど」

「ううん、お金は盗んでないと思うな。きっと盗んだのは時計そのものだよ!」

「何でそんな事が分かるの?」

「だって、お金を持ってるんだったら、友達にプレゼントするのは時計じゃなくてもいいはずでしょ。時計が欲しい子には時計を、ゲーム機が欲しい子にはゲームをって、あげる物を変えられるでしょ。それに、いくら大金を盗んだとしても一度に五十万円も、それも友達へのプレゼントに使うのは変じゃないかな?」

 チカはかすれた声をしぼり出しながら、ていねいに説明をしてくれた。

 ヒロトはそれを聞いてハッとした。

 たしかにそうだ。大金を手に入れたら、時計を買う以外にも、いくらでも使い道があるはずだ!

 これで、タクヤの兄のリョウが盗んだのは時計という事ははっきりした。

「それじゃあさ、チカは、何でタクヤのお兄さんがいなくなったんだと思う?」

 ヒロトの問いに、チカは首をひねりながら、麦茶をぐびぐび飲んだ。

「うーん。たぶん、何かで怖くなったんだと思う」

「怖くなるようなことって何だろう? 何があったんだろう? もしかして、盗んでるところを、おまわりさんか誰かに見られたのかな?」

「その可能性もあると思うけど。それだったら、タクヤ君にメールをするヒマも無いんじゃないかな。それに、もし逃げ切れたのなら、一度は家に帰って来てもいいはずだし」

「じゃあ、何があったんだろう?」

 考えてみても分からないので、ヒロトはチカを見た。

 チカは人差し指を立てた。

「きっと、何か怖いものを見つけちゃったんだよ」

「何かって、何だ?」

「たとえばさ、道で百円を拾ったら、兄ちゃんはどうする?」

「お巡りさんとか、先生にとどけるよ」

「でも、きっと、そのまま使っちゃう人もいるよね」

「まあ、そのくらいなら、使っちゃう人もいるだろうな」

「じゃあ、道で一おく円くらいを拾ったらどうするかな?」

「それは、さすがにみんな、お巡りさんに届けるんじゃないか!」

「どうして?」

「だって、何かの事件じけんまれそうで怖いもん」

「だよね。それと同じだよ」

「どう同じなんだ?」

「あんまりすごい大金を拾ったら、普通の人は怖くてそのまま盗めなくなるでしょ」

「そうだな」

「それと同じで、きっとリョウ君は、時計を盗んでいるときに、そういうすごい物を見つけちゃったんだよ」

「すごい物って何だ?」

「わからない。時計よりもすごい宝物とか、札束さつたばとか、かも知れないし、犯罪はんざいに使われた凶器きょうきとか、見るからに危険そうな物かも知れない。けど、それを見つけちゃったから、リョウ君は帰ってこられなくなってるんだと思う」

 チカはそこまで言ってから、「だから、きっとリョウ君は今も危険きけんなんだよ。早く助けてあげなくちゃ」と、険しい顔をした。

「助けるって、どうすれば良いんだよ?」

 ヒロトがたずねると、チカは困ったようにまゆ毛を曲げた。

「それは、まだ、分からない! 情報が足りないんだもん。だからさ、兄ちゃん。今からもう一回だけタクヤ君の家に言って、調べてきてしいことがあるんだけど。いいかな?」

 チカに頼まれて、ヒロトはすぐに了解した。今はチカを信じるしかない。チカが言うことだったら、きっと正しいんだ!


 近ごろ、町で起こっているという、宝石やブランド品が大量に盗まれるという事件。それが、リョウ君がいなくなったこの事件に関係しているかも知れない。

 チカはそんな気がして、ベッドを起き上がり、パソコンの前に行った。

 たとえば、リョウ君が、その泥棒組織どろぼうそしきの一員だったらどうだろう?

 大量に盗んだものの一部を、リョウ君は分け前としてもらっていたのかも知れない。

 でも、そんな悪の組織が、ただの高校生に何十万円分もの時計をあげるだろうか?

 いろいろ気になることがあって、調べ物をしようとした。しかし、熱があるせいで、体が思うように動かなかった。パソコンのマウスを持つのも重たく感じる。キーボードがゆがんで見えて、思うように入力できない。パソコンの前に座っている数分の間に、熱が上がっていっているのが、自分でも分かった。

 どうしよう。調べなきゃいけないのに。

 フラフラして思うように動けない。

 頭もぼうっとして、考えがまとまらない。

 そんなことをしていると、部屋のドアがバンッと開いた。

「こらっ、チカ、寝てないとダメじゃない!」

 薬を買いに行っていたお母さんが戻ってきていた。

「でも、ちょっと調べ物が」

「熱が下がってからにしなさい!」

 お母さんはパソコンデスクの前に座っているチカを抱きかかえて、ベッドの上に戻した。

「ほら、この薬を飲んで、大人しくしてなさい!」

「うん、分かった」

「飲み物は、このスポーツドリンクでいいわね?」

 お母さんはコップにスポーツドリンクを注いでくれた。

 チカはベッドに座ったじょうたいで、薬とスポーツドリンクを飲んだ。

「今日はパソコンなんてしないで、ちゃんと寝てなさいよ!」

 お母さんはもう一度そう注意してから、部屋を出て行った。

 チカはお母さんがいなくなったすきに、もう一度パソコンに向かおうとベッドを立った。けれど、さっきまでよりも熱が上がっているせいで、そんな元気は出なかった。

 しかたなくベッドに戻り、横になり、頭の中だけで、リョウ君がいなくなった事件を整理せいりした。

 リョウ君に何が起こったのだろう?

 リョウ君は今どこにいるのだろう?

 チカはうとうとしながらも、その二つを一生懸命に考えた。


 ヒロトが家を出ようとしたとき、買い物に行っていたお母さんが帰ってきた。

「あら、ヒロト! どこかへ行くの? もう暗くなってきたわよ!」

 お母さんはヒロトを呼び止めた。

「友達の家。すぐに帰るから、行ってきます!」

「何しに行くのよ?」

「ごめん、ちょっと忘れ物をしたから、取りに行ってくる!」

 ヒロトは早口で説明すると、「明日にしたらどうなの?」と言いかけたお母さんから逃げるようにかけ出した。

 道がうす暗くなってきたので、ヒロトは明るい大通りに出た。それから、歩道ほどうを走りぬけて、タクヤの家を目指した。夕焼け空ははだんだんと暗い色になっていき、今はこん色をしている。まだ少し明るいが、月がかんでいるのがうっすらと見える。

 急がないと、夜になっちゃう!

 ヒロトは全速力で走って、タクヤの家に向かった。

 ヒロトはマンションのエレベータに乗り、最上階のボタンを押した。三十秒ほどでエレベータはタクヤの家のある階に着いた。カーンと音がして、ドアが開いた。

 開いたドアの向こうには、シュン兄が立っていた。

「あれっ、ヒロト君! どうしたんだ?」

「あ、シュン兄さん。僕、ちょっと探し物があって!」

 ヒロトは事情じじょうを説明した。シュン兄はそれを聞くと、エレベータに乗るのをめてヒロトについて来た。

 ヒロトはタクヤの家のインターホンを押した。シュン兄を送り出したところだったため、すぐにタクヤが出てきた。タクヤはずっと泣いていたようで、目の下を赤くはらしていた。

「シュンさん、何か忘れ物ですか? あれっ、ヒロト! どうしたんだ?」

 タクヤはおどろきの声を上げた。

 ひとしきり泣いた後なので、タクヤの声はしわがれていた。

「タクヤくん。ちょっとさ、調べたいことがあるんだ。お兄さんの部屋を見せてもらっても良いかな?」

 ヒロトが首をかしげると、タクヤは不思議ふしぎそうな顔をしながら何度かうなずいた。

 ヒロトはタクヤに案内されてリョウの部屋に行った。タクヤの兄の部屋だけあって、ちょっと不良ふりょうっぽい部屋だった。かべには英語の書かれたポスターがられていて、悪魔みたいな怖い顔をした男と、水着姿の女の人が手をつなぎながら、ギロリとした目で部屋を見下ろしている。小さな本だなにはマンガ本と雑誌ざっしがぎっしりつまっていて、すみっこに少しだけ参考さんこう書がはさまれている。

 勉強机は鉄製の白っぽい机で、メタルカラーのスタンドライトがそえられている。勉強机の下にはサイコロ型の小さなイスがあり、その向こう側にはベッドが置かれていた。ベッドの枕元にも雑誌が転がっている。その雑誌はファッションブランドの雑誌で、表紙には問題の時計の写真も載っている。

 どこをどう調べれば良いんだろう?

 ヒロトは部屋を見渡しながら考え込んでしまった。

「シュン兄さん。携帯電話けいたいでんわって、持ってますか?」

「え、ああ、そりゃあ、あるけど。それがどうした?」

「ちょっとだけ貸してもらえますか?」

 ヒロトはシュン兄から携帯電話を借りた。平べったいスマートフォンだった。使い方をシュン兄に教わりながら、ヒロトは家に電話をした。電話は四コールでつながり、お母さんが出た。

「ヒロトなの? どうしたのよ?」

「お母さん、ちょっとでいいからチカに代わって!」

「ダメよ! チカは今、すごい熱で起き上がれないわよ」

「お願い! 大切な用事なんだ」

 ヒロトが何度も頼んでも、お母さんはチカに代わってはくれなかった。

 ヒロトがあきらめかけたとき、お母さんが高い声を出した。「あっ、チカ! 起きてきたの? 電話? お兄ちゃんからよ! でも寝てなさい。えっ、話すの? 大丈夫なの? そう。じゃあ、少しだけよ。早くベッドに戻るのよ!」。電話の向こうからお母さんの声が聞こえてきた。どうやら、チカが電話に気づいて自分から出てきてくれたようだ。

「兄ちゃん、どうしたの?」

 チカのか細い声が聞こえた。電話口にチカのあら吐息といきが当たってゴーゴーという音が聞こえる。


 ヒロトはチカに部屋の様子を説明して、どこを調べれば良いのかをたずねた。チカはしばらく考え込んだ。部屋の様子を思い浮かべているのかもしれない。一分くらいの間、チカの息の音だけがゴーゴーと聞こえた。

「じゃあね、勉強机の引き出しと、ベッドの上と、それから小さいイスを調べてよ!」

 チカに指示された順番で、ヒロトはリョウの部屋を調べた。勉強机の引き出しには、文房具ぶんぼうぐとマンガ本、小さな人形、かん電池、それからたくさんの書類がつまっていた。ベッドの枕の下にはあの腕時計が三個ほど転がっていた。

 最後に、ヒロトは小さいサイコロ型のイスを調べた。持ち上げると予想していたよりもずっと軽くて、軽く振ってみると中からガラガラという音がした。

「もしかして、これって!」

 ヒロトはイスの座る面に手をかけて、上に引っ張った。すると、その部分がするりと取れた。イスの中は空洞くうどうになっていた。つまり、このイスは座るところを取ると、中身が箱のようになっていたのだ。

 箱の中には、問題の時計がさらに五本と、赤くサビたような汚れのついた懐中電灯かいちゅうでんとうが入っていた。汚れは手のような形をしていた。

「何か見つかった?」

 電話の向こうから、チカの声がする。ヒロトは見つけたものを説明した。

「じゃあさ、そのイスの中にあったものを持って帰ってきて」

「うん、分かった」

「それと、リョウ君の友達っていうお兄さんはそこにいるの?」

「うん、いるけど」

「じゃあ、たのんでほしいことがあるんだ」

「何をたのめばいいの?」

「あのね……」


「ねえ、タクヤくん。このイスの中の時計と懐中電灯をりてもいいかな?」

「えっ、何でそんなもんがいるんだよ?」

「いいからさ、貸してやれって!」

 戸惑っているタクヤをシュン兄が説得した。ヒロトはタクヤにスーパーのレジ袋をもらって、その中に時計と懐中電灯を入れた。

ヒロトはさらに参考になりそうな雑誌を数冊借りて、シュン兄と一緒にタクヤの家を出た。シュン兄はマンションの一階まで下りると、駐輪場からバイクを押してきた。

 シュン兄はヘルメットを手に持ったまま、バイクにまたがらずに、ヒロトのとなりに立った。

「もう暗くなったからさ、送ってやるよ!」

 シュン兄は優しく笑った。ヒロトはこっくりとうなずいた。

 ヒロトとシュン兄は二人で並んで歩いた。シュン兄はバイクを押しているので、歩くスピードはそれほど速くなかった。けれど、それでもヒロトは小走りしないと遅れてしまうくらいだった。

「ねえ、シュン兄さん。リョウさんのことでちょっと調べて欲しいことがあるんだけど!」

「調べて欲しいこと? 良いぜ。何だよ?」

 ヒロトはチカに言われていた通りに説明をした。チカの予想よそうが正しければ、シュン兄ならリョウを見つけ出せるはずだった。

 ヒロトが説明すると、シュン兄は「分かった」と言ってうなずいた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます