第4話 #4 魔術騎士
魔方陣から撃ち出されたビーム様の衝撃波に吹き飛ばされる愛理。
この試合初のダメージらしいダメージだったが、それはここまでのアドバンテージをひっくり返すほどの尋常ならざる威力だった。
(何が起きた!? 私は何をされた!?)
内蔵兵器か?
いや、そんな感じではなかった。
ならば、何だ?
(今は、どうでもいい……!)
しかし、愛理は答えの出ない疑問を捨てた。
体勢を立て直し、マリアを見据える。
と、彼女は、どこから取り出したのか、今度は二本の実体剣を左右の手に握っていた。そして、次の瞬間、それは楔形の刃を連結した鞭状の武器へと変形した。
それを、振るう。
未だ射撃戦の距離。にも拘らず、その蛇腹剣は自然式を無視し、無限に伸びる勢いで愛理に襲いかかってきたのだった。
まるで蛇か竜だ。
「なっ!?」
愛理は驚愕に目を見開きながらも、頭ではなく培った経験が体を動かしていた。わずかにタイミングをずらして襲いかかってくる竜を順にいなす。
ほっとしたのも束の間、悪寒を感じて真上を見上げれば、一度はやり過ごしたはずの二頭の竜が互いに絡み合いながら、我先にと急降下してくるところだった。
「ちいっ!」
飛び退く。
間一髪、直撃は免れた。
だが、竜が地表に激突した勢いは爆発にも似た衝撃を生み、愛理は吹き飛ばされてしまう。
転がるようにして着地し、素早く立ち上がる。
「落ち着け、愛理。一見デタラメな攻撃だが、理解できるものに置き換えるんだ」
愛理は自分に言い聞かせる。
確かに未知の攻撃ばかりだが、理不尽や不条理の類ではない。一撃めは内蔵型の光学兵器だと思えばいいし、先の攻撃も蛇腹剣での中距離格闘戦だと考えれば決して例のないものではない。
頭を切り替える。
選んだ武器はロングライフル。
脚部のホイールが展開し、回転をはじめる。
愛理は地上での高機動戦闘をしかけることにした。高い機動性を活かし、死角へ死角へと回り込むようにして動く。
対するマリアは、縫い止められたようにその場に立ち止まり、愛理を視界に捉えようとするだけで精一杯のようだった。
すぐに好機が巡ってきた。
マリアは一瞬だが完全に愛理の姿を見失い、愛理はマリアの死角をとっている。
「そこっ」
狙撃。
立て続けに三射、砲口が火を噴く。
だが、
「甘いですっ」
マリアが振り返ると同時に手を振るう。
どこからともなく飛び出したのはみっつの三角形。中は渦巻く黒い濃霧か深淵まで続く闇のよう。まるでピースの欠けたパズルだ。
それらはそれぞれ一発ずつロングライフルからの砲撃を飲み込むと、消滅した。
「は……?」
呆気にとられる愛理。
一拍。
不意に宙空に先ほどの三角形が再び現れると、飲み込んだものを吐き出すようにして砲撃が射出された。周囲の床へと着弾する。愛理の狙撃はまったく別の座標へと転写され、不発に終わったのだ。当然、マリアは無傷だ。
「ははっ」
愛理は思わず笑い出す。
「すごいな。何だそれ」
苛烈な攻撃に翻弄され、こちらからの反撃は無効化される始末。それでも愛理は子どものように無邪気に笑うのだった。
「何ですの、あれ……」
コントロールルームの茉莉花もまた、呆気にとられていた。
その問いに唯一答えられる火煉は無言。彼女もやはり衝撃に言葉をなくしていたのだ。
火煉はマリア――昴流と戦い、『巴御前』が魔術騎であることを身をもって知っていた。だが、それでもこれほどとは思わなかった。背筋が寒くなる思いだ。
「……鳥海」
代わりに口を開いたのは、後ろにいる南郷だった。
「あれは魔術か?」
「……はい」
火煉は南郷の正確な指摘に驚きつつも首肯した。
「魔術?」
茉莉花が再び火煉に説明を求める。
だが、彼女は緊張の面持ちで正面のスクリーンを見たままだった。
「なるほど。魔術か」
後ろの南郷がつぶやく。
「……やはり、そうか」
「すごいな、マリア。それが君の切り札というわけだ」
愛理は興奮を抑えられない調子で言う。
「だけど、私にはまだ『
ロングライフルを再び腰背部にマウントし、代わりに腕部のレーザーエッジを伸ばした。
ホイールを最大稼動させ、滑走。
「
飛行砲塔を射出した。
蒼き戦乙女が精霊を従え、突っ込む。
一方、受けて立つマリアは苦笑。
「かぶっちゃって悪いんだけど」
「
マリアが呼ぶと『巴御前』の両肩に妖艶な女性がふたり現れた。無論、人間ではない。半透明な体は氷、いや、流動的に揺らいでいるところを見るに、水でできているのだろう。
まさに水の乙女だ。
彼女たちは『巴御前』から飛び立つと、水の尾を引きながら渦巻きのように飛翔し、
さらにマリアは命令する。
「
次に現れたのは背中に羽根をつけた妖精のような少女だった。
彼女はくすくすと声もなく笑うと、まるで
途端、風が舞い上がる。
その中には密かに放たれていた
「マリアァッ!」
従えていた二体の精霊を失い、それでも戦乙女は突っ込んでいった。
二騎の
だが、愛理の打ち込みは、同じくレーザーエッジで弾かれてしまった。
再び距離が開く。
「言ったでしょう、ボクが勝つって」
「確かに。でも、私が勝つよ」
おそらく愛理の言葉は強がりだろう。魔術騎としての『巴御前』に手も足も出ていないのが現実だ。だが、強いと認めはしても、勝てないとは言わないに違いない。
「それは学園最強の座に拘泥しているからですか?」
昴流は愛理に問いかける。
「違う! こんなところで負けてなどいられないからだ」
愛理は語気を荒らげた。
「私はもっと上へ行く。六花と、火煉と、茉莉花をつれて、今度こそ
それは決意だった。
「火煉はもとから文句のない実力があったが、この一年でさらに腕を上げた。茉莉花はまだ去年はお飾りの部分があったが、《
「そして、指揮官は愛理先輩ですか?」
「そうだ」
愛理は力強くうなずいた。
「私がみんなをつれていく」
彼女は前に屋上で言っていた。上には上がいることくらい百も承知だと。外の大会で散々辛酸を舐めさせられたと。
悔しさのにじむその言葉から、昴流は愛理が現状に満足などしていないのではないかと思ったのだ。
それは確かに間違っていなかった。
そして、だからこそ愛理には学園最強の名が必要だったのだ。自分が皆を引きつれて優勝を目指すために。指揮官騎として
「おしゃべりが過ぎたようだ」
愛理が自嘲気味に発音する。
彼女はそうは言うが、昴流としては愛理の口から引き出したかったやり取りだ。
「決着をつけようか」
「ですね」
ならば、勝敗に拘る必要はない。
だが、昴流も
ふたりは互いにレーザーエッジを相手へと向けた。
ぴたり、と己が倒すべき敵を指し示す。
そして、
同時にスタートを切った。
まさしく馬上槍試合の騎士のように。馬をホイールに変え、槍ではなく光剣を手にして、一直線に向かっていく。互いに蓄積ダメージは危険域。次が最後の一撃だろうと確信していた。
激突。
交錯は一瞬。
「……」
「やはり、ダメだったか……」
どこか晴れやかな調子で愛理はつぶやく。
ダメージ超過でシールドを維持できず、騎体が強制解除されたのは彼女の『バルキリー』だった。
一瞬でも先に、例えガードされてもそれごと打ち砕く勢いで振るわれた愛理の渾身の一撃を昴流はかいくぐり、逆に最後の一撃を入れたのだった。
『勝者、久瀬マリアです』
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