第15話 ラスト

 駅にはあっという間に着いた。狭い街なのだ。駅前で振り返り、そして辺りを見回した。太一は、今日のこの風景をしっかりと記憶しようと努めていた。

 時刻表を確かめると、運良くちょうど上り電車が来る時刻だった。無人の午後のホームで10分くらい待ってから、太一は到着した2両編成の電車に乗り込んだ。車中に入り、誰も座っていない4人掛けのボックス席に倒れるように座った。とても疲労を感じていた。電車がゆっくりと動き出した時、頭に充てていたタオルに血がべっとりとついていることに太一は気付いた。隣のボックス席に座った家族が、明らかに訝しげな目で太一を見ていた。

 太一は別のことを考えていた。もう一度ここに来よう、それから、もう一度Kの妹に会おう、そう太一は考えていた。それは、太一にとって決心というより必然、当然のことだった。Kの妹の目が頭に残っていた。彼女の目は太一を見ていなかった。いや、彼女は何も見ていなかった。そう考えて、太一はつらくなった。

 Kの妹が抱えている心の傷は、今や爆発寸前になっているだろう。しかも、その傷は彼女とKがまだ子供の頃から、この地方に降る雪のように幾重にも積み重なってきたはずだった。そして、Kの事件によって、彼女はこれからの人生を殺人鬼の妹として生きて行くことになった。あの華奢な体が、独力でその重みに耐えられるとはとても思えなかった。

 彼女と話がしたい。彼女の話が聞きたかった。それから、しばらくして彼女が冷静になれたなら、太一のことも話したいと思う。Kの話が出来ないことはわかっている。でも、お兄さんの友達はこういう男だと、いつか彼女に知って欲しいと思う。それは、つらいことだけれど実行しなくてはならない。こうなってしまった以上、彼女の未来のためには。何度考えても、太一はそう確信できた。

 線路の両脇には、小さな家々が転々と、けれども細い帯になって何処までも続いていた。太一はしばらく、その人々の生活の証しを飽くことなく眺めていた。


 太一はまだ気付いていない。自分の抱えていた問題がもう全て解けていることを。

 太一はまだ気付いていない。これから先、少なくない女の子たちが君を本気で好きになることを。

 全ては、まだ始まったばかりだったから。


(完)

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ガールズ・オン・マイ・マインド まきりょうま @maki_ryoma

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