8.氷の女帝(2)

「な……っ!」


 しかし、それはアメーバでも何でもない。

 灰色の、硬質な質感の物体――土のアルターだ。地中から這い出た土のアルターによって拘束されているだけにすぎない。


「簡単な先読みですわ」


 彩乃を拘束したエルレシアは、そう言って講釈を始める。


「手数で圧倒的に劣る相手に突撃して来る場合、十中八九その者は強力な回復タイプかそれに類するオリジンの持ち主……ですので、あらかじめ回復など関係ないように、土のアルターを地中に潜行させて拘束する用意していたんですの」


 エルレシアの足元から草の緑色とは違う、アルターによる灰色の鉱物が盛り上がる。当然ながら、敵にバレないよう地中にアルターを潜行させるなんていう離れ業は高等技術なのだが、エルレシアは事もなげにそれをやってのけてみせる。


「いかなる回復能力の持ち主でも、こうしてしまえば動けません。尤も、貴女ほどの巫術師を拘束するにはアルターに巫素マナを供給し続けておかないといけませんが」


 アルターは発動した直後からその出力が弱まっていく。巫素マナを変換して起こした現象だから、それが消費されれば自然と現象自体の出力も弱まってしまうのだ。ただし、完全に消滅する前に巫素マナを後から継ぎ足せば話は変わる。たとえば土のアルターも、継続的に巫素マナを供給し続ければ強度を持続させられる訳だ。


 しかし、そんな強度が持続する土のアルターで拘束された彩乃はそれでも余裕を保っていた。


(やられたな……、まさか罠が拘束だったとは。だがエルレシア嬢の動きもこれで封じた。エルレシア嬢ならともかく可憐崎さんは二人を相手取るほどの白兵戦の技術はないだろう……。良香と才加が強襲すれば、一気にこちらの有利に傾く!!)


 元より彩乃が動けなくなるのは作戦上でも織り込み済み。その間に二人が志希に襲い掛かる。


「志希!」

「畏まりました、お嬢様」


 その直前。


 二人に照準を定められていた志希が、突如地面――より正確には地面から姿を見せた土のアルターに手を当てる。


 そして。


 地面に手を当てた志希と入れ替わるようにして、エルレシアはアルターから離れ、自由に躍り出る。


 つまりは、スイッチング。


「ば、馬鹿な……! 他者が発動したアルターの巫素マナ供給を引き継ぐだと!? そんなこと熟練のペアでもなければできないことだぞ……! 確か二人は昨日知り合ったばかりのはず……!?」


 拘束されたままの彩乃が、今度こそ本当に感情を露わにして驚愕する。


 とはいえ、彩乃も完全に拘束された訳ではない。アルターの出力でいえば彩乃の方が志希よりも上。ゆえに拘束はほどなく壊されてしまうだろう。だが、少なくともこの一瞬――彩乃は身動きが取れなくなる。


 そして、志希はともかくとしてエルレシアの単純な戦闘能力は、才加にひよっこの良香を足したところで到底及ばない。ロードした彩乃も加われるならともかく、そうでない以上彼女達の運命は決まったも同然だ。


「策を誤りましたわね、彩乃さん。――貴女の能力の強みなど、所詮このエルレシア=エインズワースの頭脳の前では有象無象と変わりありませんわッ!! 仲間が屠られていく様をそこで眺めていなさいッ!!」

「――ッ!!」


 エルレシアは雄叫びめいたセリフと同時に、思い切り右足で踏み込む。気品とは裏腹の豪快な踏み込みで加速したエルレシアは、そのまま才加と良香に肉薄した。


 有利を確信していた良香の背筋に、冷たいものが走る。


「こいつ、格闘戦までッ!?」

「あら、わたくしが安全地帯からお上品に魔法を使うだけの木偶だといつ言いました? 白兵戦は、大の得意でしてよ!」

「チィ!! 弱点ナシかよこのラスボス野郎!!」


 良香は咄嗟に才加の首根っこを掴むと、思い切り投げ飛ばしてエルレシアの攻撃範囲から遠ざける。


 一瞬の間があった。


 良香はすかさず自分自身も飛び退き、エルレシアの攻撃範囲から逃れる。エルレシアはその様を見て、僅かに目を細めていた。


「…………貴女………………」

「……へへ。どうしたガラスの靴の女王様、ヒールの調子でも悪いか?」

「――ほざきなさい、灰被り《シンデレラ》ッ!」


 両脇から槍のように伸長し追従する土のアルターを二本発動させつつ、エルレシアは良香目掛け駆けていく。いよいよ腹を括って立ち向かおうとした良香は、急速に自分の身体が浮く感覚をおぼえた。


「っ?」

「馬鹿、令嬢さん煽ってどうすんのよ! 馬鹿!!」

「才加!?」


 才加の風のアルターだった。一気に自分の拳とアルターの射程外まで飛びあがった良香と才加を、立ち止まったエルレシアは黙って見送らざるを得ない。


 と、才加は不意に自分のアルターに違和感をおぼえる。


(うぬ……? なんか飛びづらいわね……。あたしも緊張してんのかな…………)


 無理もない。エルレシア=エインズワースの力量は紛れもなくプロ級だった。おそらくアルターの出力だけでいえば彩乃すらも越えているだろう。その上、『巫素マナ供給の引き継ぎ』という離れ業をこの土壇場で成功させる度胸と実行力。間違いなく、一年――いや、全校を見ても最強格の一人だと言えた。


「で、どうする!? 彩乃は残機無限リスポーンがあるから大丈夫として……いや、待って? そう言えばアルターって大気中の巫素を使うから、ひょっとして土のアルターで密閉されちゃったらアルターが使えなくなって、いくら死ななくても永久に閉じ込められることになっちゃうんじゃない!?」

「な、なんだそれ、初耳だぞ! アルターっていつでも使えるんじゃないのか!?」

「使えたらこんなに慌ててないわよ! 彩乃が閉じ込められたらあたしら勝ち目なんかなくなるわよ!」


 空の上で必死にあーだこーだと喧々諤々の作戦会議を繰り広げる良香と彩乃だったが、一向に答えは出ない。


 今は飛行による三次元機動の恩恵でアルターはもちろん極凍領域コキュートスは制圧攻撃仕様にしないと当たらないが………………いつ撃ってくるかは、良香達にも分からない。そうなる前に、そして彩乃が完璧に閉じ込められる前に、良香達の方から打って出なくてはならない。


「…………いや、待てよ?」


 そこで、良香はふと疑問を抱いた。


 ここまでの様子からして……エルレシアは最初こそ自分達の足並みが揃うのを待っていた節があったが、それからは作戦会議の時間すら与えないくらい合理的に動いていたはずだ。その彼女が今になって足踏みをしているのなら、そこには同じように合理的な理由があるはず。


「そうだ…………エルレシアは最大威力の極凍領域コキュートスを撃たないんじゃねー。んだ!」

「なに、何の話!?」

「オリジンってのは基本的に燃費が悪い。燃費が良い能力だってあるけど、それは才加の自走風車テイルウィンドみたいに直接攻撃力に乏しいといった例外に限る。でも極凍領域コキュートスはそうじゃねー……。燃費が良い上にあれほどの威力が出るってことは、どこかで他のオリジンが安全装置に回している余力を削ってるってことになるんじゃねーか!?」

「つまり、どういうことよ!?」

「つまり、最大威力の極凍領域コキュートスは何かしらの防護壁を作っておかねーと自分もダメージを受けちまう諸刃の剣だったんだよ!」


 そう叫ぶと、エルレシアの表情が歪んだのを良香は確かに見た。


「ちょっと待って! だったら何であたし達の相手をしてたのよ!? さっさと彩乃にトドメを刺しちゃえば良かったんじゃないの!?」

「そんなことしたら抑えがなくなったオレ達が雪崩れ込んで来るからできなかったんだ! だから、あくまで彩乃を拘束して、『自分が二人を攻めている』って盤面を演出するしかなかった! 自信満々な風を装ってたが、この状況はエルレシアにとっては劣勢だったんだよ!」


 その答えを証明するかのように、エルレシアはくるりと踵を返し彩乃の方へ向かう。


「ああちょっと、どうしよう行っちゃうわよ! っつか、もしあんたの言う通りだったとして防護壁に何を使ってたのか分からないことにはどうしようもなくない!?」

「――快刀乱麻キルブラックだ! アレは何でも断つ伸縮自在の剣か何かに見えるけど、そうじゃない。アレ自体が『物質を切断する領域』みたいなモンなんだ!」


 快刀乱麻キルブラックが発動した後に必ず風圧とは違うそよ風が生まれていたのは、おそらく『切断する領域』によって押し出されていた空気が元に戻った為だろう。そしてつまり、それは『真空』を作ることに他ならない。魔法瓶を思い浮かべれば分かりやすいが、真空中では熱は極端に伝播しづらくなる。それは冷気でも同じことが言えるのだ。


「つまり、今エルレシアは志希を拘束係に回しているせいで最大威力が使えねー。いや、使えるのかもしれねーけど最大威力に耐える為にブーストやら火のアルターやらを使って燃費が通常のオリジン以下に下がっちまうんだ」


 先程『ペース配分』とエルレシアたち自身が漏らしていたことも、良香は覚えている。彼女はエルレシアたちの目的が全生徒の打倒とは知らないが、それを抜きにしたってサバイバル演習の最終目標が『七時間生き残ること』だということくらいは覚えている。


 推理の仕上げをするように、良香は駄目押しで宣言する。


「つまり現状では、お前は必殺の威力を持ったオリジンは使えねー!! 恐れるものはねーってことだ!!」


 そう言って、良香は身体を動かして才加の腕を振りほどき、そのまま飛び降りて彩乃を助けに向かってしまう。その背中に、才加は慌てて叫んだ。


「馬鹿待て待ちなさいアホ! そもそもオリジンが使えなくたって、令嬢さんはアルターだけでも最強なんだって!!」

「………………あっ」


 …………いかに頭の冴えを見せていたとしても、だからといって本来以上の賢さを見せられるわけではない。むしろ、もらったと確信した直後こそ、油断して本来では有り得ないようなをやらかしてしまうものだ。


 良香は、絶好の的となっていた。


「――――そういう愚かさはわたくし、嫌いではありませんが……少々迂闊すぎますわよ!」


 一陣の風めいて、エルレシアが空中の良香に飛びかかる。良香は寸でのところでエルレシアの蹴りを腕でガードし、そのまま吹っ飛ばされた。


 その後ろに回り込むように飛行し良香を受け止めた才加はぺしんとその頭頂部をひっぱたく。


「馬鹿! もう馬鹿ほんっっっと馬鹿! だから言ったでしょこの馬鹿!」

「うぐ……めんぼくない」


 しかし良香は腕をぷらぷらさせつつ、怪訝な表情を保ったままいう。


「でも、エルレシアはなんで今、ブーストでわざわざ蹴りを入れたんだ……? 火のアルターとかなら、威力は削れるけどブーストよりはダメージを与えられるのに。それに落ちてる真っ最中だったから狙いやすかっただろ」


 良香のその言葉に、才加の表情が変わる。


「…………そういえば、その前も妙だったわ。彩乃が捕まったとき、あんたを殴る前にあの令嬢さん、一回止まったもの。……まるでみたいに」


 それに、と才加は付け加え、


「さっきあんたを掴んで飛んだ時……普段よりも飛びづらかったわ。まるでアルターとして干渉した巫素マナをあんたに吸われてるみたいに」


 才加の台詞を聞いた良香の頭で様々な情報が、一つの形に組み上げられていく。


 絶好のタイミングで使われなかったアルター。


 飛行の際に感じた違和感。


 巫素マナが吸われているような感覚。


 そして――護衛騎兵ガードロイドとの戦闘時。小石を投擲した後、不自然に消え去っていた乱気流。


 そこから導き出される答えは。


「………………!」


 彩乃の言葉に反応した人間は、その場に二人いた。


 一人は、『自らの本領』に初めて気付いた良香。


 そしてもう一人は、気付かせまいとしていた事実に気付かれてしまったエルレシア。


「なるほどな……ありがとう才加。――――やっと分かったぜ、オレの唯一権能オリジン

「チィ……!」


 エルレシアの手から、パキパキという音が聞こえて来る。


(…………先程の蹴りが無効化されなかったところを見ると、おそらくブーストは無効化できないようですわね。とすると、おそらくは…………)


 これは――ある意味彼女の『奥の手』だ。手の先に微弱な冷気を帯びることで、打撃点に直接冷気を当てる……言葉にしてしまえば、森一つを丸ごと包み込み、機械のバッテリーや油すら変質させるほどの極寒地獄を生み出すことよりは地味に聞こえる技だ。


 だが、人体はほんの数度の温度低下でも致命的なダメージを受ける。低体温は免疫能力を低下させ、外からではなく内から肉体を蝕むのである。


 打撃の一撃一撃にそれが宿るとなれば、こと対人戦においては凶悪の一言だろう。


 ただ、先程良香が分析していたとおり極凍領域コキュートスは『冷却する空間』を展開、操作射出する能力。身近で扱えば、自らにも冷気が跳ね返る諸刃の剣。


 あまり長い間使っていれば、彼女自身の手も冷気のダメージを受けかねないのだった。だからこその『奥の手』だ。


「どうやらアルターは無効化できるようですが……だからといって、貴女がわたくしを上回ったと思うのはあまりにも早計ですわよ?」

「――ああ、そういえばアンタは知らねーんだったな」


 凄んでみせるエルレシアに、良香はもう恐れの感情を抱いていなかった。分かるのだ。今ある駒を一つ一つ確認して、今の自分には彼女を恐れる要素なんてないと。


「才加、!!」


 才加の方も、良香の考えは読めていたらしい。


 その言葉と同時に、詠唱を終えた才加は良香に向かって最大出力のアルターを叩き込む。そして、その追い風テイルウィンドを背に、少女は開花する。


「…………あの時は、足が竦んで動くことはできなかった」


 思い返すのは、初めて彩乃と出会ったあの日。


 あの日、良香は少しも彩乃の助けにはなれなかった。そのせいで彩乃に大怪我を負わせてしまった。残機無限リスポーンで元通りに戻ったが――――そんなことは、関係ないのだ。


「でも、今は違う。足が動く、戦える。威勢だけで動く蛮勇なんかじゃねー。自信を持って言える」


 あの日、アメーバに呑み込まれた彩乃に言いかけて、結局言えなかったあの言葉を。


 良香はグッと身を低くし、



「――――今、助けるぞ! 彩乃!」

「――――――ッッ!!!!」


 ――――その時、エルレシアが吹っ飛んだりしなかったのは彼女の咄嗟の判断能力の賜物だろう。


 彼女は自らが感じた悪寒に従い、思い切り横方向に飛び退きつつ自分の目の前に全力に近い極凍領域コキュートスを展開したのだ。


 それを目視した良香は、下手に突っ込めば凍りつかされると悟って彩乃の下へ直行する。結果としてエルレシアの腕は冷気で半ば凍りつくことになったが、そうしていなければ彼女は思い切り拳を食らって完全に戦闘不能に陥っていただろう。


「大丈夫か彩乃、今出すぞ!」


 そう言って良香が近づくと、待ち構えていたかのように志希が飛び退く。すると『外へ出ようと対抗していた』彩乃の土のアルターが、まるで外へと伸びるアイアンメイデンのように鋭い棘となって飛び出して来た。


「うお! おお、おぉ……?」


 尤も、アルターである以上良香に触れた段階で風船の空気が抜けるような音と共に吸い込まれてしまうのだが。


「お嬢様!」


 だが、それも込みでの志希の目晦ましだったらしい。その間に志希は右腕を半ば凍りつかせたエルレシアの下へと駆けつけていた。


「問題ありません。この程度の凍傷ならものの一〇秒で治せます……。…………それより、このまま戦うのは割に合いませんわ。我々の目的はあくまで『単独勝利』でしてよ。ここで消耗するのは賢い選択とは言えませんわ…………」


 エルレシアは志希にそう言って、良香を力の限りにらみつけ、歯を食いしばるようにして言う。


「――一旦、退きますわよ」


 ………………その言葉に、どれほどの屈辱があったのか。


 良香は何となく分かるような気がした。良香に敗北したから――というわけではない。たとえ相手がだれであろうと、彼女は自分が退けられるという事実を許せないのだろう。だからこそ、『単独勝利』などという途方もない目的を掲げているのだ。


「……………………お見事でした、と言って差し上げますわ。まさかわたくしを退けるとは。……貴女がたとはまた戦いたいです。またいずれお会いしましょう。……その時まで、どうか他の方々に負けるようなことはやめてくださいましね」


 そう言って、彼女は志希と共に良香達に背を向け、悠々と去って行く。良香達は、何もせずにその背中を見送ることにした。彩乃が戻って来たにしても、エルレシアたちが強敵であることに代わりはない。


 本気でやり合えば、メンバーの誰か、あるいは全員がリタイヤすることになっていただろう。去ってくれるならそれに越したことはない。


「………………すまなかったな」


 二人の後姿が見えなくなった頃だろうか、彩乃はそう言って二人に――特に良香に頭を下げた。


「私の浅慮のせいで、二人に迷惑をかけた。司令官ヅラしておいてこれではお話にもならない」


 表情を曇らせる彩乃だったが、良香と才加は互いに顔を見合わせて苦笑するだけだった。二人とも、あの彩乃の判断が浅慮だったとか、そんなことは一切思っていない。


「何言ってんのよ。あんな離れ業出来るなんて誰も思わないって。あんたは悪くないわ」

「そうだぜ。あの作戦、オレはお前がオレのこともちゃんと買ってくれてたって分かってるし。それに…………そこはすまんじゃなくて、オレに礼を言うとこだろ?」


 そう言われて、彩乃は一瞬虚を突かれた表情をしたが――やがてふっと小さく微笑むと、


「……ああ、そうだな。ありがとう」


 そんな優しい笑顔のままに、そう言った。


 その笑顔に良香は思わず見惚れてしまうが、ふと我に返ると照れくさそうに鼻を鳴らし、


「ふ、ふん、オレだってやるもんだろう――いてっ」


 言い終わらないうちに才加に脳天チョップを食らった。


「なーにを自慢げにしてんのよ馬鹿。あたしがアルター撃たなきゃ絶対ご令嬢さん抜けなかったでしょ」

「良いんだよ! オレの力で彩乃を助けられたんだから、細けーことは!」


 ぎゃーぎゃーと騒ぎ出した二人をよそに、彩乃はしみじみと呟く。


「しかし、まったく大した能力だよ…………アルターを吸収して、あのエルレシア嬢ですら反応するのが精いっぱいな速度で行動できるんだからな」

「そうそう、アレはとんでもなかったわー……もっと早くに気付いてれば、倒せてたかもしれないってくらいにね」

「そうか……?」


 二人に絶賛される良香だが、いまいちピンと来なかった。彼女の感覚としては、終始手玉にとられていたのをこのオリジンの能力でやっと一矢報えたという感じである。


「おそらく良香のオリジンの本質は強力な巫素マナ吸収能力と、それに応じて出力を上げるブーストだろう。常人も大気中の巫素マナを吸収する能力は持っているが、君の場合それが異常なレベルまで引き上げられているんだ。だから吸収した巫素マナに応じてブーストの出力が上がる」


 彩乃はいつかのような調子で講釈するように、


「ゆえに、大気中の巫素マナを四大属性の事象に変換するアルターは無効化されてしまう。現実そのものを巫素マナによって歪めるオリジンは不可能なようだがな。……そして最後の一幕を見るに、おそらくエルレシア嬢はそのことにも気付いていただろう。……もし最初から出し惜しみせず戦っていれば、対抗策を練られていたかもしれないな」


(どんだけ化け物なんだよ、エルレシア………………)


 退けてもなお、驚かされる魔物であった。また戦いたいなんて言われたが、良香としては絶対にNOである。


 そんな風に顔を青褪めさせる良香に彩乃は気持ちドヤ顔っぽい無表情で言う。


「差し詰め良香のオリジンは『剛腕無双』…………『常識外れの《EX》ブースト』と言ったところかな」

「将来は剛腕無双の討巫術師ミストレス――なーんて呼ばれるのかしらね? 良かったじゃない。なかなか『男らしい』通り名よ」

「ミストレスの時点で、男らしさゼロだよ!」

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