2戦目

ラスク編:宣戦布告

「次こそは絶対に勝つ!」

 総評が終わって指揮官候補生の六人は訓練室の外に出る。全員荷物は教室に置いてきているので、訓練室から二年一組の教室までは一緒に歩くことになるのだが、リシュが我先にとラスクに捨て台詞を吐いてから教室へと駆けていった。

 ラスクはそのリシュの後姿を見ながらやれやれという風にため息をついた。

「次の相手はラスクではなく我というのにな」

 ラスクに次いで訓練室から出てきたドルフェンという金髪オールバックの男子生徒が、ラスクのため息の真意を見抜いていた。

「次の相手の事を把握できているのかね」

 総合模擬実戦はクラス内の指揮官候補生六人の総当たりを一つのタームとして数えている。つまり第一タームは五戦あり、必ず毎回違う指揮官候補生との戦いになる。すでに一戦目でリシュはラスクと戦っているので、次に戦うのは第二タームということになる。もちろんリシュはそういう意味も含めていたのだが、ラスクは少し自分に対する意識が強すぎると感じていた。

「奴に対してはアドバイスはしないのか?」

 ドルフェンはラスクと並んで歩きだしながら質問する。

「今の見たろ。俺が話しかけようとしたらあんな感じで逃げ出すんだよ」

「ふむ、ラスクとは馴れ合うつもりはないという意思があるのか」

「そうなんだよ。だからリシュは現状放置しかできない。まあちょっと煽るつもりだけどね」

「ほう?」

 ラスクの不敵な笑みを見てドルフェンもにやける。普段は相手の事を第一に考えている優しいラスクが、リシュに対してはそういう風に振る舞わないのを見て少し意外だったからだ。

「煽るとは具体的にどうするつもりだ?」

「二戦目はリシュの一戦目のメンバーで行く」

 リシュが上手く指揮できなかったメンバーを自分ならちゃんとまとめる事ができるという風に煽るつもりだとラスクは言う。ドルフェンはリシュの一戦目のメンバー、特にルーヴィッドをどのように扱うのかが気になって、二戦目が楽しみになる。少なくともドルフェンはあの三人でまともに戦う事はできないと思っていたからなおさらである。

「指揮官候補生主席の実力、見せてもらおうか」

「一年時の成績だったらの話でしょ。まあその名に恥じないように頑張るけどね」

 話が一段落したところでちょうど訓練室のある訓練棟の玄関に着いた所だった。教室のある校舎はその真向いに位置していて、そこには兵士候補生のクラスメイト達が集まっていた。その中で一際目立つメイド服を着た二人組の女子生徒がドルフェンに駆け寄る。一戦目でラスクが指揮していたショコラとココアの二人である

「ドルフェン様、お疲れ様です」

「お荷物はこちらになります」

「うむ、ご苦労。ではさらばだ、ラスクたちよ!」

 ドルフェンはココアから鞄を受け取って、そしてラスクと他のクラスメイト達に大きな声で別れの挨拶をしてその場から離れていった。それを見届けていると後ろからラスクの幼なじみである三人組が声をかける。

「お疲れさん」

 最初に声をかけたのは短髪黒髪でツンツンと尖った感じの髪型が特徴のカイという男子生徒である。続けて長髪を後ろで一本に縛っている灰色の髪色のシャーラという女子生徒と緑色の髪に水色のカチューシャが似合っているイチカという女子生徒もラスクをねぎらう。

「お疲れ」

「意外と早かったね、はい荷物」

「お、サンキュー、イチカ」

 教室まで行って戻ってくる手間が省けたとラスクはイチカに礼を言う。イチカは頬を少し赤らめながら大したことじゃないよと返した。

「それじゃ帰るか」

「ちょっと待って」

 ラスクが三人と一緒に帰ろうとすると、その前にミセシーが立ちはだかった。

「俺になんか用か?」

 ラスクはミセシーとはお互いに指揮官候補生という事でよく授業などでは話していたが、ラスクの幼なじみ三人と話している所は見たことがなかったので自分に用があると思った。しかしラスクのその予想は外れる事になる。

「いいえ、後ろの三人にお願いがあるの」

「?」

 そのミセシーの発言にはラスクだけではなくカイ、シャーラ、イチカの三人も首を傾げる。一体何の用なのかと誰かが聞きだすよりも先に、ミセシーが用件を伝える。

「来週の二戦目、私のメンバーになってもらえるかしら?」

 そのミセシーの発言を聞いて、三人はラスクに視線を移す。二戦目のミセシーの対戦相手がラスクだからだ。ラスクはこのタイミングでこの提案をしてきたミセシーの本意を探っていた。するとミセシーがラスクの目を見てはっきりと言った。

「次の相手が誰なのかも見ないでメンバーを選ぶなんて、随分と余裕があるみたいね?」

 ミセシーはさっきまでのラスクとドルフェンの会話を聞いていたのである。その上でミセシーはラスクを煽っているのである。

「そりゃ俺たちには拒否権はないから別に大丈夫だぜ」

 カイが率先してミセシーの要望に応える。シャーラとイチカも同意見だと首を縦に振る。

 総合模擬実戦におけるメンバー集めでは、兵士候補生には選択権も拒否権も与えられていない。指揮官候補生からチームに誘われた時点で、チームが決定するのである。だからカイ達はミセシーのスカウトを受け入れるしかないのである。

「私はこのメンバーで行くけど、あなたはもちろん変えても良いのよ?」

 ミセシーが笑顔でラスクに問いかける。まだラスクはルーヴィッド達を誘っていないのだから、ミセシーが選んだメンバーと相性の良いメンバーに変える事も可能である。しかしラスクはその宣戦布告を受け入れる事にした。

「甘く見るなよミセシー。あの三人は普通に戦えば強いんだぞ?」

「普通に戦えなかったからリシュは負けたんでしょ」

 ラスクとミセシーの二人は視線を逸らさずに言葉の戦いを始める。カイとシャーラは特に動じていなかったが、イチカはそのピリピリした空気に耐えられなくてオロオロしていた。

「でもあの三人を選ぶというなら私としてもありがたいわ。ルーヴィッドをどう指揮するか見せてもらうわ」

 それじゃ三人とも来週はよろしくねと言ってミセシーは校舎の中へ入っていった。教室に置いたままの荷物を取りにいくためである。ラスクはそれを目で追って、そして三人に声をかける。

「ってことは次は敵同士だな」

 その言葉にカイが最初に反応する。

「まさか親友だからって手を抜くとか言わないよな?」

「むしろ負けても良いって考えだったのが、負けられないって考えに変わったよ」

 カイとラスクはにやりと笑いあいながら一緒に歩き始める。それを追いかける形でシャーラとイチカも一緒に帰った。

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