リシュ編:初めての総評

「まずはリシュ、問題点を挙げてみろ」

 リシュやラスクたちの担任であるカナン先生が、総合模擬実戦一戦目で大敗北を喫したリシュに叱る様な語気で質問する。

 総合模擬実戦が終わった後、戦士組はその場で解散となるが、指揮官候補生達は訓練室の一室で総評を言い渡される事になっている。すでに勝利したラスクを含む三人の総評は終わっていて、負けた側の一人目としてリシュが呼ばれたところである。

 リシュは一番の問題点と思った部分を答える。

「はい、作戦が悪かったんだと思います」

「具体的には? どこの作戦がどう悪かったんだ?」

「え、ええと……」

 総合模擬実戦も初めてだから、この総評も当然初めてで、負けるとこんな風に質問攻めに遭うのかと驚きを覚えて、リシュは焦った。実際に最初の答えもパッと思いついた物を言ってしまうほどに焦っていた。だからその次の質問には答えられずに戸惑う。

 そもそもリシュとしては、自分に悪い点があるとは思っていなかったのである。自分の考えていた作戦よりも、ラスクの考えていた作戦の方が上手だったから負けたと考えていたのである。だから作戦が悪かったというよりも、そもそもの実力差があり過ぎたのが、リシュの考えている問題点だった。

「その、作戦自体が悪かったというか……ラスクの作戦が良かったというか……」

「何だ、相手がラスクだったのが悪いなんて言い出す気か?」

「い、いやそういうわけじゃなくて!」

 カナン先生のツッコミにリシュはドキリとした。本来の意図とは別の意味で取られてしまったからである。リシュは急いで本心を伝える。

「そもそも俺とラスクとの間の実力差があったから、負けたと思います」

「……ふむ」

 リシュの回答に少しだけカナン先生は考えた。一秒にも満たない間の沈黙だったが、リシュにはその沈黙の時間が異常に感じられた。

「じゃあその問題を解決するにはどうすれば良いんだ?」

 リシュは次に何を聞かれるのかと身構えていたが、そのカナン先生の質問には簡単に答えられると安心してすぐに答える。

「もっと勉強と訓練をすればいいと思います」

「本当に?」

「えっ?」

 それが全てだと思っていた回答に、さらに質問をされてリシュは戸惑う。実力に差があるから、それを詰めるために訓練する。自分の考えが間違っていない事を確認して、もう一度カナン先生に答える。

「ラスクの作戦よりももっと良い作戦を考えられるように、勉強すればいいと思います」

 そのリシュの回答に、カナン先生はそういうことじゃないんだよなという発言と共に長いため息をつく。ひどく落胆したような態度だと一目でわかるため息だった。

「一応聞くけど、それってどう勉強するんだ?」

「へっ?」

「『ラスクの作戦よりももっと良い作戦を考えられる勉強法』だよ。具体的な方法があるのか?」

「えーと、それは……」

 リシュはその答えが自分の中になくて再び焦る。とりあえず勉強すればいつかはラスクに追いつけると本当に考えていたからである。その質問に答えられずにオタオタしていると、カナン先生がその問答を打ち切った。

「もういい。来週の月曜日までにレポートに書いて提出。今回の模擬実戦で負けた原因とその解決法を書いてこい」

「は、はい……」

 リシュは結局答えを出せずに、カナン先生からレポートを提出するように言い渡された。リシュの初めての総評は散々な形で終わった。

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