第2章 成陵西高校の美術室

成陵西高校の美術室 1


「小嶋さぁーん、見てください! このおいしそうな牛カルビ弁当! ここ、セーリョーデパートで今日から始まった『全国うまいもの展』では――」

 テレビでは女子アナウンサーが地元デパートの催事について伝えている。

 恵子はなにやら考え事をしながら、ぼうっとテレビを見ていた。

「あんた、最近元気ないんじゃないの。昨日の夜も遅かったし、なんかあったの?」

 母の弘子がいつものように、弁当のおかずを作りながら話してきた。

 食欲はあり、フルーツシリアルを口に運びながら、

「んー。なんでもない」と恵子もまたいつものように適当な返事で応対する。

「何でもないわけないわよ。親に言えないって言うの?」

「言えないのー」

「何よそれ。やっぱり何かあるんじゃない」

「んー。大丈夫ー。もう行くー」墓穴を掘っておきながら、取り繕うのが面倒になって、疑う母を尻目に早めに学校に行くことにした。

 アウトドアプロダクツの黒のリュックサックの一番上には、二眼レフカメラが入っている。

 今日も梅雨らしく、しとしとと雨が降っており、ビニール傘を差してバス停へ向かった。


 恵子は学校へ着くなり、教室へ向かわず、職員室へ直行した。

「先生、昨日の話なんですが――」

「ん、やっぱり降りますか?」

 キャスター付きの椅子をくるりと恵子の方へ向きを変えて兎我野が話す。職員室で見る兎我野は、昨日の夜、踏切で見た時の兎我野とまったく異なり、さわやかな好青年の印象を受ける。

「いえ、降りはしません。ただ、いずみの成績じゃなくて、あたしの成績を条件にしてください。いずみは関係ないんです」

 昨日、家についてから、一晩考えたことを兎我野に伝えた。

「古道さんは世界史ですからねぇ。それにそれでは、なんの意味もありません」

「うぅ」恵子が嘆く。

「何にしても、協力してもらえるのなら、誰の成績も下げたりしませんので安心してください」

「でも――」食い下がりたくなかったが、良い反論材料もなく、押し黙ってしまった。

「さて。それでは今日の課題を今のうちに出しておきましょうか」

「課題?」

「ええ。協力するのですよね?」

 兎我野はにこにこと笑っている。恵子に拒否権はなかった。

「ま、まぁ……」

「そうですね、それでは、古道さんが聞いたことのある心霊スポットに行き、来世転送リブート、つまり幽霊を成仏させて来てください」

「心霊スポット、ですか」

「ええ。幽霊が出そうな心霊スポット」

 小さい頃から成陵市で育った恵子には、それなりに思い当たる噂がいくつかあった。この前の戸村塚踏切もその一つだ。

「まぁ、来世転送リブートにも難易度があります。まずは古道さんの知っている心霊スポットの内容を聞いて、来世転送リブートできるか、僕が判断します。それじゃ、僕は朝の職員会議がありますので。また昼休み、準備室に来てください。片瀬さんと高岡さんも伝えてください」

 兎我野は席を立つと、ほかの教師と一緒に職員室の隣にある会議室へと向かった。

 恵子は煮えきれない思いだったが、仕方なく教室に向かった。

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