成陵御霊神社 15


「気象庁は昨日、九州北部での梅雨明けを発表しました。平年より七日遅く――」

「お。そろそろ夏だねー。夏休みは近いよ」

「その前に期末テストがあるでしょ。しっかり勉強しなさいよ」

 卵焼きの香ばしいにおいとともにキッチンから母親の弘子がいつものように話す。

「それでは、今日の占いカウントダウン!」

 天気予報に続き、番組終了間近の占いコーナーが軽快なリズムとともに始まった。

 白いブラウスの胸元にはオレンジ色のリボン、紺地に緑のラインが入ったチェックのスカート。それからアウトドアプロダクツのリュックサック。

 黒地に星柄のリュックサックを持ち、出かける準備をしてテレビの前に立つ。

「そして今日最も運勢が悪いのは――、ごめんなさ~い、魚座のあなた」

「うわ、さいあく」

「今日は何をやってもブルーな一日。そればかりか周りの人にも迷惑かけちゃうかも!? 言動には気をつけて! でも大丈夫。そんな魚座の方のラッキーアイテムは、カメラ」

 リュックサックの中には、鍾馗眼こと、二眼レフカメラが入っていた。昨日の練習時に切れた革のストラップはもうついていない。

 その代わりに、昨日買った青の水玉のストラップついていた。レトロなカメラに新しいストラップ。まるでそれは古い殻を突き破る決心のようなものさえ感じる。

 このカメラがラッキーアイテムになるのだろうか。

「今日も元気に行ってらっしゃーい」

 八時になり、別の情報番組が始まった。

「突っ立ってないで、早く行きなさい。ほら、お弁当」

 母親がいつものように弁当を手渡してきた。巾着袋に包まれた弁当箱は温かい。

「ありがと。行ってきまーす」

 なんだか、嫌な胸騒ぎがした。いつも通りだけど、どこか違う、この先に暗い闇があるような、そんな気持ちに恵子はなった。

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