成陵御霊神社 14
「さて。今日はここまでです」
兎我野の合図で練習を終わらせた。何度か練習を繰り返すうちにに香奈枝との息も合うようになり、だいぶスムーズに
しかし、意思がなく彷徨っているものに対しては、誰かが強制的に輪廻の世界に戻してあげる必要があるのだと感じた。
生まれ変われないばかりか、人間に危害を与えかねない。今日の鎧武者を視てそう感じた。
明日もまた練習するそうだ。
「もう遅いから、キミたちは帰りなさい」
時刻は二十一時過ぎ。まだそんなに遅くないが、教師の立場から見ると、指導するべき時間帯になっている。
「僕はこれから市内を見回ります。もしかしたら不審者を見つけられるかもしれません」
兎我野は車で恵子たちを成陵駅まで送ってくれた。三人はその場でそれぞれ帰路についた。
恵子は帰りに駅前の二十二時まで営業しているクチバシカメラへ寄った。
家に着くと部屋の前で兄の伸也が待ち構えていた。
「おまえ、こんな遅い時間までなにしてたんだ?」
「なにって、ストラップ買いに行ってただけだよ。ほら」
切れてしまった革製のストラップの替わりに買った商品を見せた。
兄はストラップをじっと見つめた。疑っている時の顔だ。
「あんま夜遅くに出歩くなよ」
「おにいちゃん心配しすぎだよ」
小さい時から父が単身赴任で家を空けていることが多く、兄は父親の代わりとして心配してくれているらしかった。
「最近物騒だからな」
「あ、ねぇねぇ。赤羽拓人って人知ってる?」
兄は信頼できる。いずみには止められていたが、自分の判断で兄に尋ねた。
「ああ。なんだ、おまえ、拓人のこと知ってるのか?」
「あ、ううん。あたしは知らない。んと、あたしの友だちが知り合いらしいんだけど、なんか倒れちゃったんだって? その拓人って人」
「そう、西成陵で家庭教師した帰りにぶっ倒れたらしい。意識がまだ戻ってないらしい」
SNSを見た時に家庭教師というタグがついていたのを思い出した。
「なんか、恨まれたりしてたのかな?」
「さあな。一般の講義でたまに一緒になるぐらいだからな。俺もあまり詳しいことは知らん。俺より三井の方が知ってると思う」
「三井って誰?」
「ほら、俺らが小学ん時によく三人で遊んだろ。三井光輝」
「あー、うーん……覚えてるような覚えてないような」
小学生の時、近所の児童館で三人で遊んでいた記憶が何となく残っていた。
「じゃあさ、その家庭教師してた家って知ってる?」
「いや。だから知らんて。そんなん訊いてどうすんの?」
兄が不満気味に訊いてきたので慌てて当たり障りのないように返答した。
「あ、いやいいんだ。もしその三井くんにも聞けるようだった聞いて欲しいなって思っただけ」
家庭教師について調べたら何か分かるかもしれない。不審がられる前に兄への質問はこの辺で止めておこう。
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