成陵御霊神社 3
いずみは今日まで入院ということだった。頭をぶつけたから念のため検査を行うようだが、特に異常がなければ、夕方には退院できるそうだ。
そして予告通り、四時間目の終わりにいずみから連絡があった。怪我以外には特に異常はなく、このまま退院出来るとのことだった。入院患者のベッドが足りていなく、健康な人間は早く追い出されるらしい。
恵子と奈津美は、授業終了後、すぐにいずみの入院している病院へ向かった。
「成陵中央総合病院」は、その名の通り、成陵市の中心部にある大きい病院だ。
恵子たちは、いずみから予め聞いていた部屋番号へ向かった。病室は四人部屋で、どのベッドも埋まっていた。
部屋に入ってすぐ左のベッドにいずみはいた。
「ひさしぶりー」ひょこっと顔を出しながら恵子は言った。
「ひさりぶりって一日ぶりじゃん。大げさな」
いずみは「よっ」とギプスをした腕を上げた。痛々しい。
「ごめんね。あたしのせいで……」
「わたしも――」
「ふたりとも、もういいって、そんな気にすんなよ」
「うん……」
ふたりはお互い見合わせた。
「そこ、座りな」
いずみは退院の準備をしていたらしく、小さな荷物がまとまっていた。
ベッド横には丸い椅子と折りたたまれたパイプ椅子が立てかけられている。
奈津美は丸い椅子へ、恵子はパイプ椅子を広げ、それぞれ座った。
「あ、奈津美、そこ。……もう少しこっちに来なよ」
「ん? どうして?」
「ちょうどそこに、老婆の霊が立ってたから」
「ひっ!」
奈津美は猫が驚いて縦飛びするかのように、ぴょんと椅子から上に飛び上がった。
「いるの? 今もいるの?」
ガクガクガクと、恵子の腕にしがみつく。
「あぁ、たぶんな。どうやら夜しか視えないらしい。恵子の持っているカメラと同じだな」
「だ、大丈夫かな? 襲ってきたりしないかな?」
「視えないフリでごまかせたから大丈夫だと思う」
「恵子ちゃんも昨日幽霊視たんだよね」
恵子は昨日の夜、学校の教室で、安藤宗太という幽霊を視たのだ。一連の出来事は、ここに来る前に奈津美に伝えている。
「うん。あたしも昨日、幽霊に会ったよ」
「マジ? つか、会ったってなに?」
「放課後、教室に一人でいたら、出てきた」
「襲われた?」
「ううん。少し話したら、成仏? ……しちゃった」
「なんだそれ。奈津美は昨日、幽霊視なかったのか?」
「うん。特に変わったことはなかったよ」
「奈津美、幽霊が視える時間帯に外にいなかったからじゃない? 昨日、日が暮れる前に帰ったでしょ」
恵子にしてもいずみにしても、それから鍾馗眼にしても、月が輝いている時間帯でないと幽霊は視えないようだ。
「良かったな、奈津美。もし外歩いていたらうじゃうじゃ幽霊に出くわしてかもな」
「わぎゃー」奈津美は耳を塞ぐ。
「とりあえず、だ」
いずみは一区切り置いて続けた。
「いつまでも幽霊が視えるのはごめんだ。兎我野になんとかしてもらおう」
「うん。あたしたちもそう思って、昼間に兎我野に話してきたよ」
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